ホンダの「2040年脱エンジン宣言」は、長年のファンや技術者、そして市場にとっても非常に衝撃的なもので、「エンジン屋」を自認してきたホンダが、自らの魂とも言える技術を捨てると決めた背景には、単なる技術的な見通しの甘さだけではない、経営者としての「生存戦略」と「政治的判断」が複雑に絡み合っている。

なぜ首脳陣がそのような(一見無謀とも思える)決断に至ったのか、いくつかの視点から分析してみる。
1. 「エンジン屋」としてのアイデンティティの誤用
ホンダの首脳陣は、「自分たちはエンジンで世界一になった。だから次はEVで世界一になれる」という、過去の成功体験に基づく傲慢さがあったのではないだろうか。
• 実際には、EVは「エンジン(機械工学)」とは全く別次元の「化学(電池)」と「ソフトウェア」の戦い。
• 自社の強みを「捨てる」ことが革新的だと勘違いし、積み上げてきた資産(ハイブリッド技術やエンジンの信頼性)を軽視したことが、ファン離れと販売不振の直撃を招いた。
2. 「理想」と「実需」の致命的な乖離
多くの一般ユーザーが感じていた「充電の不便さ」「航続距離の不安」「中古車価格の暴落」といった生活者レベルの課題を、首脳陣は「技術が進めば解決する些細な問題」と切り捨ててしまった。
• 欧米の「脱炭素」という掛け声に踊らされ、寒冷地での性能低下や電力網の脆弱性といった「物理的な限界」を見誤ったままアクセルを踏み込んだのは、経営判断としてあまりに無知だった。
3. 「全否定」が招いた組織の硬直化
「2040年にエンジンをゼロにする」と期限を切ったことで、社内の優秀なエンジン技術者たちのモチベーションを削ぎ、現場の声を封殺してしまった可能性がある。
• 「できない」と言うことが「後ろ向きな姿勢」と見なされる空気感が、不都合な真実を隠し、誤った方向に突き進む原因となったのではないか。これは、かつての日本の大企業が陥った典型的な失敗パターンだ。
現在のホンダの動き
実は最近、ホンダも少し柔軟な姿勢を見せ始めている。三部社長も「e-fuel(合成燃料)が普及するならエンジンの継続もあり得る」といった含みを持たせた発言をするようになった。
結論として: ホンダの首脳陣は、技術的にEVが完璧だと思ったからではなく、「世界的なルールが変わる中で、小さな会社が生き残るために一点突破を選んだ」というのが真相に近いかもしれない。ただ、その「賭け」が早すぎた、あるいは極端過ぎたことで、現在の販売不振という苦境を招いているのではないか。