米国の立場からすれば、UAEによる非ドル決済(人民元やルーブル)への動きは、ドル覇権に対する直接的な挑戦と映る。そのため、米国がこれを黙って「許す」可能性は極めて低く、今後、猛烈な外交的・経済的圧力が予想される。
1.なぜ米国にとって「ドル決済」が譲れないのか
石油のドル決済システム(ペトロダラー)は、米国の世界的な影響力を支える根幹となる。
• ドルの需要維持:世界中の国が石油を買うためにドルを保有し続ける必要がある。
• 制裁の武器化:ドル決済ネットワーク(SWIFTなど)を介することで、米国は敵対国(現在のイランやロシア)を国際金融から排除できる。UAEがルーブルや人民元での決済を定着させると、この「経済制裁」という武器が無効化されてしまう。
2.UAEに対する米国の圧力手段
米国は、UAEがドル以外の通貨にシフトするのを阻止するために、以下のようなカードを切る可能性がある。
• 軍事・安全保障の再考:UAEにとって最大の懸念はイランなどの脅威からの安全保障であり、米国は最新鋭戦闘機(F-35)の供与や、防衛協定の条件を「ドル決済の維持」と結びつける可能性がある。
• 金融セクターへの警告:UAEの銀行が人民元やルーブルの決済を代行する場合、その銀行をドルの決済網から遮断するという「二次的制裁」を示唆することで、民間金融機関にブレーキをかけさせることが考えられる。
3.UAEの「したたかさ」と現状の変化
しかし、これまでの冷戦期と異なるのは、UAE側にも「ドル一本足打法」のリスクを回避したい強い動機がある点だ。
• ロシア・中国との経済的結びつき:UAEにとって中国は最大の貿易相手国であり、ロシアからの資金流入も無視できない。実利を重んじるUAEは、米国の顔色を窺いつつも、決済通貨の「多様化」を既成事実化しようとしている。
• ドルの武器化への反発:米国がロシアのドル資産を凍結したのを見て、産油国は「自分たちもいつドルの使用を禁じられるかわからない」という不信感を抱いている。
展望:許容か、対立か
米国が表立って「許す」ことはないが、UAEが完全にドルを捨てるわけではなく、「一部の取引での限定的な使用」という形であれば、米国も決定的な対立(関係破綻)を避けるために、黙認せざるを得ない局面が出てくるかもしれない。
結局のところ、米国がこの戦争を通じて石油決済をドルに再統一しようとする狙いと、UAEが目指す「多極化」は真っ向から衝突する。これは単なる通貨の問題ではなく、「米国主導の秩序に戻るか、それとも中国やロシアを含む多極的な新秩序へ移行するか」という、戦後の世界秩序を決定づける高度な政治闘争になるだろう。