Stuxnetがイランの核施設の遠心分離機を物理的に破壊した技術的仕組み


Stuxnet(スタックスネット)がイランの核施設の遠心分離機を物理的に破壊した具体的な技術的仕組みは、非常に複雑であり、「物理的な攻撃」と「デジタルな隠蔽工作」が高度に組み合わさったものだった。

Stuxnetが標的としたのは、遠心分離機の動作を制御するプログラマブルロジックコントローラ(PLC)、特にシーメンス製の特定のモデルだった。

以下に、その技術的なメカニズムを3つの主要な段階に分けて説明する。

1.物理的な攻撃フェーズ(遠心分離機の暴走と停止)

Stuxnetは、ウラン濃縮に使用される遠心分離機のモーターの回転速度を制御する周波数変換ドライブ(インバータ)の出力周波数を操作し、物理的な損傷を引き起こした。攻撃は複数のフェーズで行われたと考えられている。

a. 回転速度の極端な操作(バージョン1.xなど)

Stuxnetは、何ヶ月にもわたって、遠心分離機の回転速度を通常ではありえない値に変化させるサイクルを繰り返した。検索結果に基づくと、以下のような操作が行われた。

Stuxnetは、この極端な高速回転と低速回転のサイクルを、オペレーターに気づかれないように数週間、あるいは数ヶ月の長いスパンで行った。

b. 内部圧力と振動の操作(別のバージョン、あるいはフェーズ2)

もう一つの攻撃方法は、遠心分離機の内部に供給される六フッ化ウラン(UF6)ガスの圧力を操作するこだった。

① 圧力の操作:Stuxnetは、ガス供給や排気のバルブを操作して、遠心分離機の内部圧力を変化させた。

共振振動の誘導:圧力の操作により、遠心分離機のローターを特定の共振周波数で振動させた。物体はそれぞれの共振周波数で振動すると、非常に大きな揺れを発生さる。

③ 物理的破壊:この激しい共振振動を意図的に引き起こし、継続させることで、遠心分離機の金属製ローターを金属疲労させ、最終的に破壊させた。

2.デジタルな隠蔽工作フェーズ(オペレーターへの偽データの表示)

Stuxnetの最も狡猾な点は、物理的な攻撃を行っている間、それを人間のオペレーターや中央監視システム(SCADA)から完全に隠蔽したことだ。

a. 監視データの盗聴と記録
Stuxnetは、PLC(機械や設備の動きを自動でコントロールするための産業用コンピュータ、Programmable Logic Controller)内に侵入すると、攻撃を開始する前にまず、そのシステムが正常に動作しているときの各種センサーデータ(回転速度、圧力、温度など)を盗聴し、内部に記録した。

b. マン・イン・ザ・ミドル(MITM)攻撃
物理的な攻撃(回転速度や圧力の操作)を開始すると同時に、StuxnetはSCADAシステムに対して「マン・イン・ザ・ミドル(MITM)攻撃(通信を行う2者の間に第三者がこっそり割り込み、やり取りされるデータを盗み見たり、別の内容に書き換えたりするサイバー攻撃)」を実行した。

• 現実のPLC:Stuxnetにより、遠心分離機を暴走させ、圧力や回転速度が異常な状態になっている。

• オペレーターの監視画面:StuxnetがPLCからSCADAシステムへ送信されるデータを横取りし、代わりに事前に記録しておいた「正常な動作データ」を送信し続けた。

これにより、オペレーターは監視画面を見ても「すべて緑色の正常動作」と表示されており、現実には遠心分離機が物理的に破壊されつつあることに全く気づくことができなかった。異常に気づくのは、遠心分離機が実際に物理的に破損し、現場で異音がしたり、ガスが漏れたりしてからだった。

3.標的の特定と攻撃の実行

Stuxnetは、感染したコンピューターが標的であるイランのナタンズ核施設のものであるかどうかを厳密に特定した上で、攻撃を実行するように設計されていた。

① システム構成の確認: PLCに接続されたシステムの構成情報を確認する。
◦ 特定の周波数変換ドライブ(インバータ)が使用されているか。
◦ 特定のモデルのPLC(シーメンス製S7-315やS7-417)が使用されているか。
◦ 多数(数千台規模)の遠心分離機が配列(カスケード)を組んで接続されているか。

② 攻撃の開始:これらの条件がすべて満たされた場合にのみ、Stuxnetは「標的に到達した」と判断し、内部に秘められた攻撃プログラム(PLCへのコード埋め込み)を起動させた。

まとめ
Stuxnetは、インターネットから隔離された施設にUSBメモリ経由で侵入し、標的のシステム構成を厳密に特定した上で、PLCの動作コードを直接書き換え、遠心分離機の周波数や圧力を操作して物理的に破壊した。さらに、その間監視データを偽造することで、異常の発覚を遅らせるという、デジタルと物理の世界が高度に融合した、世界で初めてのサイバー兵器だった。