米国オールドメディアのEV批判は一周遅れの感覚だった


ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙が「アメリカのEV市場は惨敗した。米自動車産業をも道連れにするのか?」という記事を掲載したが、この記事は欧州ですらEVシフト一択から離脱しようとしいる現状に対して、周回遅れともいえる内容だ。

NYTの記事が前提としている「世界(特に欧州)が一心不乱にEVシフトへ突き進んでおり、アメリカだけが取り残されている」という構図自体が、現在のリアルな市場動向から見ると「周回遅れのナラティブ(語り口)」に映るのは非常に妥当な見方だ。

なぜこの記事の主張が現在の現実に追いついていない(周回遅れに見える)のか、主な理由を整理する。

🔷欧州自身が「EV一択」から「マルチパスウェイ(多角路線)」へ方向転換している

NYTの記事は「欧州=EV先進地帯」として描いているが、実際の欧州は「EV一択」の限界に直面し、現実路線への軌道修正を余儀なくされている

• 2035年目標の形骸化と再評価: EUは「2035年に内燃機関(ガソリン・ディーゼル車)の新車販売を実質禁止」とする方針を掲げていたが、ドイツなどの強い反発により、合成燃料(e-fuel)を使用するエンジン車の容認へ方針を転換した。さらに、目標自体の見直しを求める声が欧州域内の自動車メーカーや政治家から相次いでいる。

• ハイブリッド(HEV・PHEV)への先祖返り: ドイツなどの補助金打ち切りに伴いBEV(純電気自動車)の販売が急減速した結果、VWやステランティスといった欧州メガメーカー自身が、当初削減するはずだったハイブリッド車やPHEVの生産投資を再拡大している。

🔷「中国の脅威」の正体がBEV一択ではない

記事は「中国がEV市場を支配している」と強調するが、現在中国で爆発的に売れ行きを伸ばし、欧州や新興国へ攻め込んでいるのは純粋なBEV(電気自動車)だけではない。

• PHEVやEREV(レンジエクステンダー)の急成長: BYDなどの中国勢が急速にシェアを伸ばしている最大の原動力は、エンジンで発電して走る「レンジエクステンダー付きEV(駆動用モーターのみで走行し、発電専用の小型エンジンを搭載して航続距離を延長する電気自動車の)」や「格安PHEV」だ。

• つまり、市場を制しつつあるのは「バッテリーだけで走る車」ではなく、「エンジンの強みと電気の強みを組み合わせた現実的な電動車」であり、中国市場自体が「BEV一択」から脱却している

🔷リベラル系メディア特有の「理念的ナラティブの慣性」

NYTのような米リベラル系メディアには、政治的なストーリー構築において特有の「偏り」が生じやすい構造がある。

• 「脱炭素=BEV」という固定観念: リベラル陣営にとって、EVは単なる移動手段ではなく「気候変動対策の象徴」であり、そのため、「ハイブリッド車(HEV)は過渡期の妥協に過ぎず、BEVへの完全移行こそが正義」というフレームワークから抜け出しにくい傾向がある。

• 「トランプ政権・石油産業への批判」という文脈: アメリカ国内の政治的文脈において、ガソリン車や大型SUVに依存するビッグ3(フォード、GM)や政策を「時代遅れ」「環境破壊的」と批判したいがために、海外のEVシフトを実態以上に「成功した未来の姿」として過剰に持ち上げてしまう側面がある。

結論

NYTの記事は、「中国が蓄積した巨大なバッテリー供給網やコスト競争力に対して、欧米メーカーが無防備である」というリスクの指摘としては一理はある。

しかし、「世界はBEV一択に向かって走っているのに、アメリカだけがガソリン車に逃げ込んでいる」という前提そのものが、すでに過去(2021〜2023年頃)の幻想になりつつある。実際には、欧州も中国も「エンジンと電気のハイブリッド領域」を含めた現実的な生き残りをかけて戦っており、日本のトヨタなどが主張してきた「マルチパスウェイ(全方位外交)」に世界全体が擦り合わさってきているのが現在のリアルな構図といえる。