結論から言うと、性能に問題がないどころか、最先端の超高積層メモリ(特に3D NANDフラッシュメモリ)においては、むしろモリブデンのほうが性能を高められるとして、次世代の「本命材料」として大本命視されているのだった。
単なる「タングステンの代用品(妥協案)」ではなく、「技術の進化トレンドと経済安全保障のニーズが完璧に一致した」という背景がある。
🔷モリブデン化による「性能面」のメリット
半導体が細線化・高積層化(3D化)するなかで、従来のタングステン(W)からモリブデン(Mo)に切り替えることで、以下のような性能向上が見込める。
• 電気抵抗の低減(配線のスリム化): メモリの階層が100層、200層、300層と高くなるにつれ、配線は極限まで細くなる。タングステンは極端に細くなると電気抵抗が急上昇する性質があるが、モリブデンは細くなっても抵抗が上がりにくいため、メモリの処理速度(電流の流れやすさ)を維持・向上できる。
• 膜厚の薄膜化(さらなる高積層化): モリブデンはタングステンよりも薄い膜で同等の性能を発揮できるため、メモリ全体の厚みを抑えられる。これにより、さらに多くの層を積み重ねる(大容量化する)ことが可能になる。
🔷なぜこれまで使われなかったのか?(現在の課題)
性能面で優れているなら最初から使えばよかったわけだが、これまで採用されてこなかったのには理由がある。
• 製造プロセスの難しさ: モリブデンを均一に薄く蒸着させたり、余分な部分をきれいに削り取ったりする(エッチング)技術は、タングステンに比べて非常に難度が高いとされてきた。
• 製造装置やガスの新規開発が必要: これまで世界中の半導体工場はタングステン(六フッ化タングステンガスなど)を前提に最適化されていた。これをモリブデン用のガス(五塩化モリブデンなど)や、それに対応する新しい製造装置(ALD装置など)に置き換える必要があり、巨額の設備投資と技術開発が必要だった。
結論
現在、韓国のサムスン電子やSKハイニックス、あるいは米国のマイクロンなどのメモリ大手は、3D NANDの「300層超え」といった超最先端世代から、本格的にモリブデン配線への移行を進めている。
つまり、「中国の規制によるリスク(地政学リスク)」が背中を押し、開発に莫大なコストがかかる「モリブデン次世代プロセス」への移行を一気に加速させたというのが実態だ。性能劣化の心配はなく、むしろメモリのさらなる高性能化・大容量化の切り札となっている。
しかしモリブデンにおいても中国の生産量が多いという問題がある。
モリブデンは、タングステン同様に中国が世界最大の生産国(世界シェアの約4割)だ。それじゃあ意味ないじゃないか、といえば、決定的に違う事情がある。それは、南北アメリカ大陸(チリ、ペルー、米国、メキシコ)に強力な代替サプライチェーンがすでに確立されているという点だ。
モリブデンの世界シェアを見ると

半導体戦略におけるモリブデンの最大の強み
タングステンは世界供給の約8割を中国が一極支配しているため、中国が輸出を止めると市場全体が麻痺する。
一方でモリブデンは、「環太平洋の銅鉱床(チリ、ペルー、米国)」が巨大な供給源として機能している。世界のモリブデン生産の6割以上は、実は「銅を掘るついでに採れる副産物」だった。
そのため、経済安全保障(デカップリング)の観点からも、日米韓の半導体連合にとっては「中国以外の国(特に米国や南米)から安定して代替調達しやすい材料」という決定的な安心感があり、これが次世代メモリへの採用を後押しする大きな理由になっている。