BMW X-5 3.0si (2007/8/3) 前編


1995年、BMWは英国のローバー社を買収したが、5年後の2000年には結局は建て直しに失敗して大赤字の末に同社を売却してしまった。 95年の買収により、ローバーのオフロード車部門であるランドローバー、そのラインナップ中で高級4WD車として世界的に定評のあるレンジローバー の当時の次期モデルもBMWにより開発が進められた。ところが、BMWがローバーの経営から手を引いたことにより、その後ランドローバー社の権利を取得したフォードが開発を引き継 ぐことになった。この3代目(現行)レンジローバーは2002年に発売されたが、発売時のエンジンはBMW製だったのは、こんな経緯からだ。その後の2006年には、 BMW製から、同じフォードの傘下であるジャガー製のエンジンに変更されている。

さて、ランドローバー社を傘下に治めた当時のBMWは、このような高級オフロード車(最近はSUVと呼ぶのが一般的なようだ)についてはレンジローバーに任せようと思っていたようだが、結局ローバーグループの経営から手を引いたことで、折角開発したレンジローバーのノウハウを無駄にする事はない・・・・と、思ったかどうかは判らないが、BMWは自ら高級SUVの市場に参入すべく、新たにラインナップされたのがX-5だった。初代のX-5(E53)は日本では2000年にデビューした(写真1および2)。最初は直6-3ℓとV8-4.4ℓの2本立てで、翌年にV8-4.6ℓが追加された。その後は何度かの改良を重ねて、今回7年が経過してところで、いよいよ2代目の登場となった。
 


写真1
初代X-5(2000-2006)

 


写真2
初代の後ろ姿。新型と比べると・・・・。
 

 


写真3
よく見れば先代に比べて現代的なスタイルになっている。幅が65mm広がったことで、先代よりも安定しているように見える。
 

 


写真4
先代と比べて見るとテールレンズの形状などは殆ど変わっていない。実際には全く新しい金型を使っているのにキープコンセプトに徹している。

 

新型の外観は基本的には先代と変わらず、誰が見てもBMWだし、その大きさからしてX−3ではないから、これはもうX−5以外には有り得ないとうことで、少し詳しいユーザーなら直ぐにX-5と判るところも、他のBMWと同様で、こういうところが国産車とは一線を画している。

今回デビューした新型は、先代に比べて幅が65mm、長さが195mm、高さが25mm大きくなっている。中でも全幅が1935mmというのは日本で使うには流石に大きすぎるから、ユーザーによっては、この幅だけで購入対象から外れ てしまう。ところが、ポルシェカイエンと比べれば、各寸法は殆ど同じ、すなわちこれらの高級大型SUVは、主な消費地である米国の、そのまた富裕層向けだから、日本で使うのに無理があるのはしかたがないかもしれない。

新型X-5の最大の注目点といえば、オプションとはいえサードシートが装着できる点にある。これにより乗車定員は7名となるから、これはもしや、あの悪名高いミニバンの購入を当然のことと思っている女房・子供たちを説得して、6シリーズのクーペと までは言わないものの、立派にBMWしているX−5に乗れるチャンスかもしれない。 そこで早速サードシートを見てみれば、寸法はセカンドシートと比べて、はっきりと小さいのが判るから、これは子供か小柄な大人専用と割り切ったほうが良いだろう。レッグスペースも前後にスライド可能なセカンドシートを一杯に前に出しても、身長180cm級だと膝がぶつかってしまう。 このサードシートは表皮もセカンドシートと同じ、立派なレザーを使用しているが、何となくもったいない気がする。どうせ普段は畳んだままで、年に1〜2回しか出番がないのだし、 それに、どうせ座るのはガキなのだから、ビニールのフェイクレザーで十分とも思うのだが・・・・・。子供用とはいっても安全面では立派な3点式シートベルト やヘッドレスト(写真10)を装備しているから、将来を担うセレブのお坊ちゃま、お嬢様を乗せても、なんの心配も無い。
 


写真5
リアシートを前に倒せば、結構広いスペースが出現する。しかも、床もフラットだから、ライトバン代わりとしても使用でき、平日は自営業のオーナーが配達車として使うのもアリだ (税務署も説得しやすい)。
 

 


写真6
サードシートのみ畳めは、一般的なSUVとしてのスペースは十部に確保できる。

 


写真7
セカンドシートは前後とリクライニングが可能。ただし、その形状からして3名の長距離乗車は厳しそうだ。

 


写真8
十分なサイズのシートは決して硬くはないが、体をしっかりとサポートする。標準で装着されているレザーシートは、BMW独特の雰囲気を醸し出している。

 


写真9
サーシートに乗り込むには、セカンドシートのバックレストをレバーを解除して倒す。
 

 


写真10
サードシートのスペースは子供用と割り切ったほうがよい。それでも、立派なヘッドレストや3点式シートベルトを備えているのは、流石にBMWだけのことはある。しかも、シート表皮もフロントやセカンドシートと同じレザーが使用されている。

 

新型X-5のラインナップは3.0si(753万円)と4.8i(963万円)の2グレードで、レザーシートやウォールナットトリムなどの内装やiDriveによるナビを初めとする情報機器、アクティブステアリングにリアのエアサス、バイキセノン・ヘッドライト等等・・・・・。およそ考えれれる高級装備は標準で装着されている。唯一選択したくなるオプションはサードシート(31万円)くらいだろう。

今回の試乗車はサードシート付きの3.0siだから、価格は784万円。これに取得税や諸経費を含めれば、軽く850万円程度にはなるから、中々手を出しにくい価格でもあるが、530i(759万円)を検討中のユーザーならば、X-5も検討に加える余地は十分にあるだろう。


写真11
お馴染み直6、3ℓエンジンは272ps/6650rpmの最高出力と315Nm/2750rpmの最大トルクを
発生する。

ドアを開けた瞬間に目に入る景色は、そのまんま5シリーズという感じで、サルーンに比べて高い室内に乗り込むのも、決してよじ登るという程には高くないが、シートからの外の眺めは、やはりサルーンとは大いに異なる。 5シリーズの内装は、現行のE60に代った当初は何やら安っぽさが目立ったが、最近の5シリーズは十分満足に値する高級感を手にしている。その5シリーズにそっくりの雰囲気を持つX-5の内装は、ムクのウォールナットを磨き上げたウッドトリムや、 深いシボと分厚い革を使ったシート、豊富にレザーを使った内張りなど、BMW独特の高級感に満ち溢れている。この雰囲気は国産車では全く敵わない世界であるのは、今更言うまでもない。これは同じ高級SUVでもあるポルシェカイエンが 、如何にもポルシェという内装を持っているのをみても、この手のメーカーの頑ななポリシーを感じるたびに、国産車も何とかならないのかと嘆くことになる。

ドライバーズシートに座ってみると、硬めの座面にも関わらず、体の出っ張った部分は何故かシートが凹んで、それこそ体全体をサポートする。まるで、自分の体に合わせてシートを作ったように、実に良くフィットする。しかもシートのサイズはたっぷりとしているし、標準装着のシート形状はコンフォートタイプというのだろうか、背もたれも左右のサボートはスポーツシートのようにピッチリしてはいないが、それがまたSUVであるX−5の特性に合っている。

新型X-5のATセレクターは、同じく新型5シリーズと同一の方式で、7シリーズのように全て電気的なコントロールだが、コンソール上の、従来のシフトレバー と同じ位置で操作するために7シリーズ程の違和感は無い 。とはいえ、初めてのドライバーは出発前に多少のレクチャーがないと辛い。操作感は軽くストロークも短く、操作するとカチッと言う電磁式プランジャーのような音がしてフィーリングをアップしている。 こういう演出においては、BMWは実に上手くマニア心を掴んでいる。 この新しいセレクターは従来のように、機械的にレバーを移動させるのではなく、レバーを押したり引いたりすることで、ポジションが移動するスイッチ式になっている。セレクターレバー自体にポジションが表示されていて、現在のポジションが(Pの場合 は緑色で)表示される(写真17) 。この表示方式はM5を彷彿させるから、約3年を経て徐々に一般のグレードに採用が拡大されているのだる。
セレクターをP位置から移動するには、フートブレーキを踏んで、レバー右側面にある解除ボタン(実は電気式のスイッチ)を押しながら、レバーを手前に引く。すると、電磁式のアクチェータらしき”カチッ”という音と共にセレクターの”D”位置が点灯する。そこで、パーキングレバーを解除しようと思って、センターコンソールのレバーを探すが、無い!それではと、足元の足踏式レバーを探しても、やはり無い。実は新型のパーキングブレーキはAT セレクターレバーの手前のコンソール上にあるスイッチ (写真18下)で操作するのだ。このように文章で書くと判り辛いが、実際に操作 してみれば・・・・・やはり、判らない!まあ、これは慣れの問題だから、オーナーとなって1週間もすれば全く自然に操作できるだろう。 それに、あと2年もすれば多くの国産車が、この方式ををパクり・・・いや、採用するのではないか。メルセデスに始まったジグザクゲートや、その後MTのシフトレバーを想像させるレザーブーツに根元を覆われたBMWのティプトロ方式など、欧州車に始まった新方式はことごとく国産車が追従して (パクって)いるようだ。
 


写真14
雰囲気はまるで5シリーズそのもののインテリア。この独特の高級感は国産SUVでは味わえない。
言い換えれば、5シリーズオーナーからすれば違和感は全くないから、背の高い5シリーズと思って
乗り代えるなら、全く躊躇することはない。
 


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