BMW X-5 3.0si (2007/8/3) 後編


何やら、走り出すまでの操作で疲れてしまったが、気を取り直して公道上に出てみる。 エンジンはおなじみのバルブトロニック、直6 3リッターで、これは130iを始めとして530iでもお馴染みだから、これまたBMWファンに何の心配もいらないエンジンだが、流石に重量が2100kgと530iの1650kgに比べて450kgも重いために、530i程のトルク感や加速性能はない。感覚的には525iとほぼ同等な加速感だったので後日調べてみたら、525iは1620kgに218ps で7.6kg/ps、X-5 3.0siは2100kgに272kgで7.7kg/psだから、なるほど同等な訳だ。馬力当たりの重量なんてい うのは、単なるスペックオタクの数値で意味が無いと思われている場合もあるようだが、今回のように同じ系統のエンジン同士ならば、特性も似通っているから結構参考になる。これが、全く性格の異なる同士の比較となると、体感とは大いに異なることが多い。例えば、国産マニアの誇りでもあり、脳内オーナーの定番でもあるスカイラインGT−R、特に初代のR32のようにターボチャージャーにより過給されていて、しかも低回転側でのトルクが細い特性の場合は、同じ馬力当たり重量だからといって低速からトルクがムンムンのV8自然吸気エンジンなどと比べると、「何じゃコレぁ」ということになる。

話を戻して、市街地の流れに従って50km/h程度で走行していると、回転計の針は1200rpm程度を指している。ここで、前が空いて少し加速をしようとアクセルを少し踏むと、6ATは直ぐにシフトダウンを行う。しかも、 意識していなければ気づかない程に僅かなショックと、回転針がスッと1600rpm程度に上がるので、それと判る程度で、ドライバーにとっては何の負担も無く、極自然に有効はトルクを提供してスムースに加速する。このATの制御こそはBMWの利点の一つで、BMWオーナーなんて単なるブランド趣味と騒いでいる、耳年増の脳内オーナーが何を言おうと、これを知っている本物のオーナーは全く気にしない理由でもある。それでは、今度はフルスロットルを踏んでみると、極短いタイムラグの間に回転計の針は3000rpmくらいまで上昇して、下のギアに綺麗に繋がる。その後はBMW独特の排気音を轟かせながら、グイグイと加速していく。しかも、そのスムースなことは、やはりBMWで、そのまま一気に6500rpmくらいまで文字通りシルキーシック スと呼ぶに相応しいフィーリングで吹け上がる。BMWを日常の足にすることから離れて1年が経つが、久しぶりにシルキーシックスを味わうと、ああ売るんじゅやなかった、と後悔する場面でもある。

さて、今度はATをSDモードにしてみよう。これはいわゆるスポーツモードで、新型のセレクターでもDレンジから左に押す操作方法自体は従来のメカ式と変わらない。このモードでは、常に1段低いギアが選択されるが、実際に走っていると、恐らく電子制御のスロットルの特性自体も変わるのだろと想像できるくらいに、アクセルレスポンスが良くなる。とにかく、右足に少しでも力を込めると、クルマはグイッと加速する。言い換えればギクシャクした動作になるということだ。それでは、右足を静かに、極少ないストロークで踏んだらと思って実行してみたが、やはりガバっとなる。実は以前、発売された直後の525i(E60)に試乗して、SDモードを試した時も、同じようにギクシャクした運転になってしまい、その時は自分自身が、この車のスロットルペダルに慣れていないので、操作が荒くなっているのだと思っていたが、今回は目一杯右足に精神を集中して、これ以上は考えられないくらいに丁寧にスロットルを開けたのだが、エンジンが勝手に過激な動きをしている。そう、これはBMWの考えるスポーティーな味付けだったのだ。悪く言えば、”インチキ”でもあるが、それが実に的を得ているのも事実だし、踏み続ければ例のシルキーシックスを味わえるからこそ、ただのマヤカシでは無いと納得できるのも、これまたBMWの底力でもある。う〜ん、やっぱり奥が深い!
 


写真15
今更いうまでもない、BMWに共通するメーター。
回転計の下にある瞬間燃費計は意地でも止めないぞという執念さえ感じる。

 


写真16
全車にバックモニターが装備されているから、巨体のわりに車庫入れは楽だ。センタークラスターの雰囲気も、5シリーズと変わらない。
 

 


写真17
5シリーズのMCと共に採用された新型のATセレクターは、従来のメカ式から電気式となった。ポジションの表示も電気式となっている。上の写真はPレンジの場合で、Pがグリーン に点灯している。
 

 


写真18
セレクターをP位置に入れるにはレバー頭部のPボタンを押す(写真上)。パーキングブレーキはレバーの手前にあるスイッチを引くことで、ONとなる(写真下半分)

 


写真19
ダッシュボートの右端にあるライトスイッチも他のBMWと同様だから、BMW車のオーナーには違和感は全くない。エアコンの噴出し口はダブルで、方向も別々に 調整できる。
 

 


写真20
シート以外の内装にもレザーが多用されている。この雰囲気は国産車には無いものがる。

 

X-5は全てのモデルにアクティブステアリングが標準装備されるのは、5シリーズ(E60)と同様で、これがまた独特の操舵感を提供する。アクティブステアリングも最近の5シリーズは初期型に比べて、随分とマイルドになったし、オプションで装備さ れていた3シリーズ(335i)の場合は操舵力も適度に重く、随分と自然なフィーリングになったものだと感じたのだが、このX-5は違う。まるで初期の5シリーズのように、一般的な市街地の速度域では極端に軽く、しかも 異常にクイックだ。実は、この特性も決して悪くはないし、最近のモデルがマイルドになったことが少し惜しいとも思っているから、これはこれで、なかなか楽しい。

この極端に軽くクイックなステアリングでワインディングロードを走れば、車重2.1トンの重量級4WDとは信じがたいくらいの挙動を示すのは想像していたとおりだった。これは既に先代X-5で、背の高いSUVがコーナーリングで横Gを感じるという奇妙な体験をしているから、新型なら当然それ以上だろうとの想像もあったのが理由でもある。 それで、結果はといえば、実は先代に比べるとコーナーリングの安定性では一歩を譲るという思いがけない結果だった。確かに安定していて、SUVとしては抜群なのだが、コーナーリング中のタイヤの踏ん張り感がイマイチで、ある程度以上からは、もうこれ以上速度を上げるとヤバイいぞ、というメッセージが感覚的に伝わってきた。 理由は恐らく、今回からX-5にも採用が拡大されたランフラットタイヤ(RFT)にありそうだ。それにしてもBMWのRFT採用における頑ななポリシーは一体なぜなのだろうか。RFTの採用によって、E46で完成の域に達していたフィーリングを、むしろ後退させてしまったのは、全く残念でしかたがない。 しかし、実際にはE46の中古車市場は値崩れしまくりで、新型E90は人気抜群だから、BMWの方針は商売としては正解だった事には間違いない。要するに多くのBMWユーザーはRFTによるフィーリング感の低下なんて如何でも良くて、それよりも、より立派な外観や内装を求めているのだろう。 しかし、中にはRFTを好まないユーザーもいるわけだから、ここはRFTのレスオプションを設定してもらいたいものだ。

乗り心地についても、決して悪くはないし、BMW独特のフラット感も健在だ。ただし、これまたRFTの硬いサイドウォールによる細かい突き上げがあるのは、最近の他のBMWと同様で、人によってはこれを嫌う傾向があるのも事実だ。だからといって、RFTが嫌で5シリーズではなくメルセデスEクラスを選んだという話も聞かないから、不満ではあるが我慢できる範囲だという事だろうか。
最近はコンパクトクラスでさえ1700mmの5ナンバー枠をはみ出している場合が多いから、国産車の車幅も国際的になった、とはいってもX-5の1935mmという全幅は、やはり不安があるだろう。結論を言うと、SUVという高い運転席のメリットもあり、慣れれば特には苦にはならない(写真21)。 1900超えとはいわないまでも、ニッサンムラーノだって1870mmもあるのだから、狭い路地は無理としても、郊外の新興地域での使用ならば問題ないだろう。


写真21
高い運転席からの視界の良さも手伝い、全幅1935mmという寸法にしては、運転し易い。
 

 

 

 

ブレーキのフィーリングもBMWに共通した、極めて軽い踏力で、ブレーキペダルにチョっと足を乗せただけで、グッと減速する。慣れれば本当に爪先だけでコントロールできるから、モデル体形のスマートなお嬢さんでも、 いとも簡単に重量2.1トンの巨体を急停止させることが出来る。だだし、意地の悪い見方をすれば、これはカックンブレーキでもある。ポルシェカイエンが、911などと同じように重くてガッチガチのブレーキを持つのとは正反対だ。

さて、カイエンの話がでたところで、X-5とカイエンはどちらが良いのかという質問がでそうだが、実をいうと現段階では結論はでない。なぜなら、試乗したのはV8のカイエンSで、しかもPASMを始めとして、走りに関した最新鋭のオプションを満載していたために、車両価格も一千万円の大台を 軽く突破しているようなクルマだったから、直6で7百万円台のX-5 3.0siとは比較できない。それでも、300万円の差は如何なのかを知りたいということになれば、比較する意味も出てくるから、簡単に結果をまとめてみよう。まず、動力性能については、カイエンSのV8 4.8ℓ 385psは伊達ではない。カイエンSの試乗記では、もう少しトルクが欲しいと思ったのは、同じポルシェのカレラと比べたからで、 SUVとして世間の常識からみれば、カイエンSはとんでもない高性能だ。ただし、X-5も以前乗った先代のV8版は、カイエンSに勝るとも劣らないトルク感だったから、最新のX-5 4.8isと比べれば良い勝負かもしれない。
それでは、コーナリング特性はといえば、既に述べたようにPASMを始めとして、電子装備満載のエアサスまで備えたカイエンSは、本当にこれが2.4トンもある大型のSUVなのかと驚く程にレベルが高い。これこそスポーツカー並という表現がピッタリで、 多くの自動車評論家がスポーツカー並と絶賛するマツダCX-7の操舵性とは次元が違う。

と、いうことで、カイエンSがX-5 3.0siより300万円高いのは、当然といえば当然で、これは至極真っ当な結果でもあった。それにしても、BMWもポルシェも、たとえSUVを作ろうとも自社のポリシーは貫くという姿勢は、頭が下がる。一部の愛好家向けに特化したポルシェと、世間一般の普通の中産階級(といっても、X-5ともなれば上に近い中ではあるが)をターゲットにしたBMWという区分けは、SUVでも変わらないようだ。それでは、良いものを求めやすい価格で供給するVWはといえば、基本的にカイエンと多くを共有するにも関わらず、価格的には500万円代 の中程というトゥアレグがある。これは是非とも試乗しなくてはならなそうだ。


写真23
3.0siの標準は
フロント/リア共に8.5J×18ホイールに225/55R18ランフラットタイヤを装着する。


写真24
こちらは4.8isで、標準サイズは3.0siと同じでホイールのデザインが異なる。写真の4.8siはオプションの9J×19ホイールに255/50R19ランフラットタイヤを装着していた。

 

独特の高級感に溢れたインテリアにアクティブステアリングによる異常にクイックなステアリング特性。どこまでもウルトラスムースな正にシルキーシックスそのもののエンジン、 そして軽く踏んだだけで、この巨体を強烈に減速させるブレーキ。X-5 3.0siは正に現代のBMWの特徴そのもの。言い換えれば背の高い5シリーズだった。そして、今回のフルチェンジでの最大の改良点はサードシートが装着できることだろう。夫婦と子供が二人の4人家族。普段はセダンで十分だが、偶の連休で実家に行った時、それとも2世帯住宅に同居している両親か、何れにしても親子3代で外食に行く場合には6人乗りが必要となる。そして、このために普段は不要なシートをそなえたミニバンを、運動性能の悪さを嘆きながら所有する例は多い。しかし、X-5にサードシートを付ければ、この悩みは解決する。

いや、それは甘い!ですか?
なになに、小学生の子供の入る野球チームでは、親が応援に行く際に誰かがミニバンを出して、それに大人7人が乗って行く”クルマ出し当番”には、X-5のサードシートでは狭くて使えない、ですか?ご心配は無用です。普通、X-5を買うような家庭では、私立小学校に入学する場合が多いので、近所の少年野球チームに入ることはないでしょう から。 あるとしても、そういうチームは会員で資金を出し合って、ニッサンシビリアンなどのマイクロバスを買ってしまった例を聞いたことがある。勿論、それを運転するためには、会員の中でクルマおたくのお父さんが、わざわざ大型免許を取得するとか。

さて、530iをファミリーカーとして所有のあなた。奥さんの両親と一緒に家族そろってのレストランでの外食が出来ないと、親子三代の6人からの厳しい非難に会っている現状から、今度は泣く泣くミニバンに取り替えるしか無いかな?なんて、半分諦めている、あなた。この際、X-5への買い 代えを検討しては如何ですか?