スカイライン 350GT/250GT (2006/12/17) 前編

    
     11月20日、東銀座の日産本社ギャラリーにて。
 

11月20日に発表された新型スカイラインV36は初代から数えて12代目となる。スカイラインは先代V35から大きくコンセプトを変えたが、これにより古くからのスカイラインファンからの、V35はスカイラインではないという批判を結構耳にする。 それはある面では納得できる点で、実際に先々代までのスカイラインの型式はRで始まったのだから、R34の次はR35となることろがV35となった訳で、 この型式を見てもV35以降のスカイラインはコンセプトが違うのは間違いない。そして、今回のV36も先代の正常進化だから、当然R34以前のファンから見れば、 嘆かわしい事に変わりはない。古くからのスカイラインファンからはソッポを向かれ、中級以下のハイオーナーセダンはミニバンの押され、高級スポーツセダンはBMWを始めとする輸入車が伸びるなか、 スカイラインの国内販売は何ともパッとしなかった。郊外の住宅地を走れば、V35とすれ違うことは滅多に無いのに、BMW3シリーズとは頻繁に遭遇する。 そんなV35も米国ではインフィニティG35として、結構な成功を納めていた。



まずは下の表をご覧いただこう。

車種名        2005年    2004年     2003年
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LEXUS IS     15.8千台    10.0千台    13.6千台
LEXUS ES     67.6千台    75.9千台    65.8千台
INFINITY G    68.7千台    71.2千台    64.7千台
MERCEDES BENZ C  60.7千台    69.3千台    66.0千台
BMW 3er      107.0千台   106.5千台   111.9千台
AUDI A4      48.9千台    47.2千台    51.0千台
VOLVO 40series  24.2千台    25.5千台
VOLVO 50series   5.7千台    2.5千台
JAGUAR X-TYPE   10.4千台    21.5千台   
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インフィニティG、すなわちスカイラインV35はレクサスの大黒柱でもあるES(ウィンダム)と同等の販売台数を維持している。 よく言われる、米国でのレクサスはベンツ・ビーエム以上の評価を得ていて、それを知らずに日本で異常に高い値付けの欧州車をありがたがるのは、 ブランド志向でクルマを知らない成金ユーザーだという例の話だが、FFカムリに豪華装備のESがBMWの真っ向ライバルに成るわけが無い。 ところが、この実績を見れば、ベンツ・ビーエムに代表されるドイツ製プレミアムセダンに対して、低価格と信頼性で真っ向勝負しているのは、 インフィニティGであった事が判る。

車種名     2005年1月  2月   3月 ・・・ 9月   10月  11月   12月
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LEXUS IS      453   428   439    468  2,563  4,447  4,518
LEXUS ES     4,487  4,583  5,706   5,060  4,507  4,637  6,770
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INFINITY G    4,783  5,984  7,228   5,472  4,708  4,986  6,221
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BMW 3er      7,033  7,181  7,555   8,693  10,719  10,273  10,592
MERCEDES BENZ C  3,548  4,020  4,901   5,050  4,625  4,858  9,805
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しかし、2005年の年間販売台数で比較したのでは、レクサスのISは旧型のアルテッツァだから、何やら作為的だと言うレクサス擁護派の声が聞こえる。 あれっ、去年まではレクサスISは欧米では以前からメルセデスCクラスやBMW3シリーズより人気がある、なんて本気で言ってたのに。 と、言う話は、まあ置いておいて、ISが新型となった05年末のデーターをみれば、ISもモデルチェンジと共に大きく販売台数を伸ばしている。 それでも、インフィニティGには何とか追いついたという程度で、米国の高級車ブランドでは天下のトヨタがニッサンに敵わないという事実に変わりは無い。

それにしても殆ど売れていなかったレクサスISを、あたかも欧米では人気も実力もBMW3シリーズ以上という世論を作ったトヨタに比べて、 実際には米国でBMW3シリーズに対して60〜70%の販売実績のあったインフィニティGの事実を国内で広めようとしなった日産の販売戦略は、もう少しなんとかならないのだろうか。 それとも、国内では昔からのスカイラインファンの事を考えて、あえて戦略的にインフィニティの事実を隠したのだろうか?


初代スカイライン(1957)
プリンス自動車により発売されたスカイラインは当時としては国産最先端のスポーツサルーンだった。

     

速報版で紹介した350GTは typeSP(380.1万円)に4輪アクティブステア(4WAS、13.85万円)、ナビゲーションシステム(41.895万円)、BOSEサラウンドシステム(12.075万円)その他のオプション満載で車両 価格は約450万円、 総額では500万円という結構な価格だったが、今回は更に250GTも加えて両車を比較しながら説明する。この250Gはベースグレード(279.8万円)にナビゲーションシステム(29.82万円)が付いた程度で、 外には目立ったオプションは装着されていなかったから、価格は約314万円となり、350GTの試乗車に比べて約140万円も安いから、ある面現実的な選択となるだろう。

V36のスタイルに関して多くの人たちが指摘しているのが、写真写りの悪さで、正式発表前に各種メディアで公開された写真を見て小さなフーガ、もしくは大きなシルフィー と誰もが感じたようだ。 ところが、実際に現車を見てみれば、写真に比べてはるかに見栄えが良い。正面から見ると低くワイドな雰囲気は先代V35のクーペに近い雰囲気だから、背の高いフーガとは全くイメージが異なる。 欲を言えばフロントビューが何となくノメっとしていてナマズっぽいのが多少気にかかるが、それも一瞬だった。これに比べてリアビューはもっと良い。 複雑な曲線で相当に凝ったデザインで独特の雰囲気がある。ところが真横から見ると、決して悪くはないのだが個性が感じられず、最近の4ドアサルーンの主流ではあるが、 もう少しスカイラインとしてのアイデンティティがあっても良かったように思う。

写真で見るとフーガに似ているが、実際には低くて幅広く、先代のクーペと似ている。それにしても新型は写真写りが悪い。


フロント以上に出来が良いのがリアデザインだ。リアの現物を見ると実に上手いラインを使っている。

ドアを開けて開口部を良く見ると、国産車としては剛性を考えてピラーの根元も太く、これを見てもスカイラインが良心的に設計されている事がわかる。しかし、ライバルの欧州プレミアムカーと比べてどうなのかという点について、ここで検証してみよう。


左:スカイライン 右:BMW3シリーズ

左の写真はフロントドアを開けたときのBピラー付け根の比較だが、左のスカイラインも十分な面積を取っているが、右のBMWは更にRを大きくとり、サイドフレームとの接合面積が大きい。
その下はリアの比較だが、こちらは更に差が歴然としている。BMWのCピラーに繋がるボディーフレームは下端で大きく傾斜していて、実際の開口部はドアの面積に比べて実際には小さい。
このような違いは随所で見られ、成る程BMWというのは伊達に高価な訳ではないと、ある面納得できるし、その独特の乗り味も、このような徹底した設計思想があってこそ実現できるのだろう。

 

上:スカイライン 下:BMW3シリーズ

内装については、速報版の時は夜間の試乗だったことと、その前に見たのは日産ギャラリーでの発表会で何れも夜間だったことから、それ程気が付かなかったが、その後晴天の屋外で見たインテリアは、 やはり日産といういか、フーガーでも感じる何となく安っぽい質感を感じてしまった。とりわけ、標準のファブリックシートは座面の布の質感がイマイチで、更にサイドの合成皮革が如何にも合成ですという質感なのは何とかしたい。 そしてレザーシートの質感も、座面には細かい通気穴が空いているが、革自体が決して高級そうには見えない。もっとも、国産車のレザーシートで満足できる質感なんてお目にかかった事が無い が・・・。 レクサスご自慢のセミアニリンシートにしたって、スタンダードなレザーと比べて個人的には感動がなかった。実は半年ほど前に、自宅のソファーを買い換えたくて大手の家具センターに行ってみた。 そこの営業マンに聞いた話では、牛革というのは本来厚くて表面のシボも深いのだが、これをなめして引っ張ることで薄くて表面の平らな革になるとのことだった。 そして、その営業マンの勧めはシボの深い厚い革を使ったもので、耐久性がマルで違うとのことだった。そういう目で見れば、BMWのレザーシートが正にそれで、そこの家具センターにあった一番高価なソファーの革の雰囲気はBMWのシートに似ていた。 勿論シボの少ない、薄いなめし革で高級なものもあるから一概には言えないし、ジャガーXJのシートはシボが見えないくらいになめしてあった。 こんな事を書くと、ヤッパリ B_Otaku は欧州車、取り分けBMW絶賛人間だと言われそうだが、まあ下の写真を見て欲しい。 スカイラインのレザーシート座面は小さな穴が開いていていて、いかにも通気性が良さそうに見えるが実際の効果は怪しいし、何より革の表面が光っていて安っぽく、 しかも滑りやすい。それに比べて右側のBMWは成る程、家具屋の営業マンの言っていたお勧めソファーの表皮にソックリだし、滑ることも無い。 まあ、この辺は感覚の問題だから、国産のシートが最高と思う人は、それで満足していれば幸せの極致だから意義は唱えないが・・・・。


スカイラインのレザーシートの質感は国産車としては決して悪くは無いが、欧州のライバルに比べればマダマダ。

 


こちらはBMW3シリーズのレザーシート。質感の違いを比べて欲しい。それでも左のスカイラインのレザーの方が良いというなら意義は唱えないが・・・・。

 


リアの前後スペースはDセグメントとして見れば標準的だが、大人が長時間乗るには少し狭い。

 


ドアを開けた時の眺めは決して悪くは無いが、グレードによってはシート表皮の安っぽさが目立つ事もある。写真のモデルはウッドトリムを使っているが、 アルミトリムの方がキャラクターに合っている。

 

シートの質感の話はこの位にして早速乗り込んでシートに座ると、低いフロントデザインの割には着座位置が高く感じられる。先代V35ではゲーム機のように安っぽいセンタークラスターで非難轟々だったが、新型V36では大いに改善された。夜間照明に浮かび上がるオーディオやエアコンの操作スイッチ類もセンスが良く、先代の欠点は見事に改善されていた。正面の計器板はファインビジョンメーターと呼ばれる光学式だが、これは個人的には日本車丸だしで安っぽく、オヤジ車の典型に思えてしまう。 新型は内装の質感もアップしてセンスも良く、しかもアルミのトリムはスポーティで、今回のテーマである運転する気持ちよさを表現しているのだが、これを安っぽいメーターが台無しにしてくれている。
と、速報版で書いたところ、そうは思わないというメールもあった。それゃ、皆が皆同じ考えの訳は無いので当たり前だが、一般的に光学式のメーターを嫌うのは輸入車オーナー、すなわちベンツ・ビーエム 等のオーナーに多い。 それに対して国産車を乗り継いできたオーナーには賛成派が多いが、これはメーターに限らず全ての部分の趣味の問題だから、何度も言ってきたように国産で満足できるのなら黙って国産車を買えば 良いわけで、 それを他人が買った欧州車に対してナンダカンダとケチを付けるからおかしな事になるのだ。街のスーパーならマグロの作が1本500円なのに、高級を謳っているスーパーは2000円以上もして、これはボッタクリだから買う奴はバカだし、 こんな値段を許すのは正義に反すると言っているようなものだ。ところで、街のスーパーのバチマグロと高級スーパーのクロマグロやミナミマグロとでは味はマルで違 うと思うのだが?食べた事が無いのか、食べても違いが判らないのか? しかしながら、このマグロの例えは妙にクルマにも当てはまるから奇妙だ。

と、またまた反感を買うような発言をしてしまった。ところで、B_Otaku の家の食卓に上がるのは・・・・勿論、バチマグロ、いやキハダマグロだったりして。


先代に比べれば質感は大きくアップした。特にゲーム機のような質感だった先代のセンタークラスターは、大幅に改善された。写真は350GT。

余計な事を言っていると、いつまで経っても試乗記が始まらないので、そろそろ走り出すことにしよう。先ずは350GT TypeSPから。既にエンジンは掛かっていたが、アイドリングが静かで振動も感じられないのは流石に最近の日本車で、スポーティというよりも高級車という雰囲気だ。 ブレーキペダルに右足を載せて、さて、パーキングブレーキのリリースレバーは何処かとダッシュボードを見渡しても見当たらず、もしやと思い左端のペダルを踏んだ らばメーター内の警告が消灯した。 やはりプッシュ/プッシュ式だったのか。スカイラインというからには、足踏み式ならレバーでリリースかセンターコンソール上のハンドレバーにして欲しい。
350GTのミッションは5ATのみで、他社では今や常識となった6速以上のATやスカイラインの北米モデルであるインフィニティG35に設定されている6MTは設定がない。 ATが他社に遅れてしまったのはトロイダルCVTに賭けていたからで、これが上手くいっていれば苦労はなかったのだが、現状は結構なハンディを背負ってしまったようだ。 北米で設定されているMTが国内向けにないのは、やはり生産台数を考えてのことだろう。一見簡単そうなMT設定だが、国内向けならRHD(右ハン)に対応しなければならない。国産車だろうが、輸入車だろうが、何処で設計してもRHDに3つのベダルを配置するのは結構大変なのだろう。 例によって商用掲示板のLHD論争で、輸入RHD車のMTのペダル配置が寄っていてケシカランという意見が多いが、スカイラインだって国内向けにMTを設定するには、ペダル配置の問題を解決しなければならず、 その為には、場合によってはタイヤハウスのプレスに海外向けとは別部品が必要になったりするだろうから、殆ど売れそうにない国内MTを設定することは 難しいかもしれないが、来年のクーペが発売される時点では多少希望が持てる。

ATのセレクトレバーをDに入れて早速走り出すと、第一印象は実にスムースになった新VQエンジンに感心する。以前のVQ3.5ℓは強力な低速トルクは感じられるものの、振動は多いし高回転側はガサツでスムースという言葉には程遠い特性だったが、今度の新型は大いに進歩したようだ。試乗車は数時間前にナンバーを付けただけあって、 オドメーターは僅かに100kmを示していたが、そんなマッサラな状態でもチョッと踏み込めば簡単に6000rpm程度まで吹け上がるし、その時も実にスムースだ。 ところが、この出来の良さはスポーティという面では逆に物足りないのも事実だ。何しろ面白みが無いし、高回転域まで回しても速いことは速いのだけれども、ワクワクするものが全くない。 音も静かなのは良いのだが、フルスロットル時はもう少し迫力のある排気音を聞かせるなどのチューニングをして貰いたいものだ。 ニッサンの分析ではスカイラインの購入層は、これ程までに大人しい特性を好むという事なのだろうか?
350GTのATはセレクターを右に倒せばSモードになり、その後セレクターを前(+)後(−)させるかステアリングコラムから生えたパドルスイッチを操作することでマニアルモードとな り、パドルスイッチは右が+、左が−という現在の主流となる操作方法だ。このモードの変速はトルコン式のATとしてはバドルを操作してからのタイムラグは十分満足できる程に短い。 材質にマグネシュウムを使う程に拘ったパドルスイッチのフィーリングは、メカ接点がカチッと作動するのが手に取るように判るBMW M5並み・・・・・ではなく、 導電ゴムを使った電卓のような、グニャっという感じで何とも残念だった。目に見えるレバー本体にはマグネシュウムを使ったのに接点は電卓並みという思想が、完全に拘り切ってない証拠だ。 このマニアルモードのシフトダウンを試すために4速80km/hから一気に左パドルを2回作動させてみると、一瞬のタイムラグと共に上手く回転数を合わせてのシフトダウンを行った。 これも確かに立派な性能だが、欲を言えばBMW M5のSMGV(ただし、モードによって)のように一瞬のブリッピングをするような演出も欲しい。これがアルファロメオの156GTAになると、もっと派手なブリッピングをして、 実際の性能よりもフィーリング命という感じになる。


ファインビジョンメーターと呼ばれる光学式のメーターは、オヤジセダン丸出しだ。ここは一つ欧州車的な計測器 的な精密感のあるメカメカしい奴が欲しい。 。


ATのセレクトレバーは250、350ともP-R-N-D、そしてDから右に倒してSとなり、この位置から前後させるとマニアルモードとなるティプトロニック同等パターン。


350GTにはステアリングコラムにパドルシフトが付く。右がアップ、左がダウンのオーソドックスなタイプで、例えばBMW M5のDSGとも同じ。250GTにはオプションでも装着できない。

 


夜間照明は中々センスが良い。アナログ時計が雰囲気を盛り上げるが、この手の時計はやたらと誤差が多いのが心配になる。

 

 

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