スカイライン 350GT/250GT (2006/12/17) 後編

    
 

350GTの試乗車にはオプションの4輪アクティブステア(4WAS、13.85万円)が装着されていた。このオプションは350GTのみに設定されていて、 250GTには設定がない。この4WASの効果は十分で、軽い操舵力とクイックな挙動が感じられる。この感覚を本家BMW5シリーズ(E60)のアクティブステアリングと比較すると、初期の5シリーズのように危険な程クイックではないが、国産車として異例に軽くて反応も良い。 違和感も少ないが、本家BMWはその後毎年の改良により、現在では十分な手ごたえをも手に入れている点から比べれば、スカイラインも今後は更に改良する余地はある。スカイラインがBMWと異なるのは4輪ステアを採用している点にある。 この効果は絶大で、コーナーリング特性はニュートラルなことで有名なBMWサルーンと比較しても十分に対抗できそうなくらいだ。ただし、よ〜く神経を集中してみると多少の違和感はある。 これは慣れれば問題ないだろうが、4WSという言わばゲテモノ的なフィーリングの違いが無いといえばウソになるから、これは世間での評価を待つしかないだろう。 4WSの驚異は2車線の国道で急激なレーンチェンジをしたときだった。何やらクルマが真横に移動するような不思議な感覚を味わえる。当然ながらサルーンとして異例に安定しているが、これまた独特な感覚でもある。 このように多少の違和感はあるが、350GTを買うなら折角の4WASを選択するのは必須と感じる。値段も約14万円だから付けない手は無いし、 BMW5シリーズのように標準装着(ただし、日本仕様の場合)にしてもいいくらいだ。そうすれば標準車の価格が上がるから、ある面ステータスも上がるし、リセールだって有利になる。 日本では幾らオプションをつけても売却の際にはベース価格で決まってしまう。BMWがMスポーツというパッケージオプションを付けたモデルを一つのグレードとしているのは、 やはりバリエーションとして確立することで、中古車市場で「Mスポならプラス50万円」等の相場が形成されるからだろう。ベース価格を低く抑えて必要なオプションのみ選択できるのは、一見良心的なようだが日本の中古車業者とユーザーの成熟度が足りない現状では有りがた迷惑に成りかねない。
ここまで出来が良いということは、乗り心地だって当然に悪い筈はなく、欧州車的にしなやかで安定した乗り味を堪能できる。ただし、現在のBMWサルーンはポリシーとして全車にランフラットタイヤ(RFT)を装着するというハンディを背負っているにもかかわらず、 スカイラインと同等以上の乗り心地を実現している点は考慮するべきだ。もしも、スカイラインがRFTを採用しても、この程度の乗り味を維持できたのだろうか。
ブレーキ性能については、最近の国産車はこの1〜2年で大きく進歩していて、効きとフィーリング自体は欧州車に近いところまで追いついたのは間違いない。 その中でも350GTのブレーキは非常に剛性感があって、それこそBMW3シリーズのようだった。しかも3シリーズのなかでも、アルミキャリパーを採用したことで多少ストロークが長めになった最近の6気筒ではなく、 鋳鉄キャリパーを採用している先代のE46や現行なら320iのような剛性感がある。実は、350GTのキャリパーはドイツのテーベス社製の鋳鉄タイプで、これは何を隠そう現行BMW320iの採用しているキャリパーと同一メーカー製だ 。 実はこのテーベス製のキャリパーは日本ではマツダが既にアクセラ等で採用している。フォードグループのグローバルな部品調達政策により、世界中のメーカーから最適な部品を調達する流れの一環で、 特に世界戦略車のアクセラに採用することで、プラットフォームを共有する他車(フォードフォーカスやボルボV40/50等)との共通化とコストダウンを図るのだろう。

 


250GTのVQ25HRエンジン。 V6 2.5ℓ 225ps/6800rpm 26.8kg-m/4800rpm。普通に走る分には250GTでも動力性能に不満はでない。

 


350GTのVQ35HRエンジン。 V6 3.5ℓ 315ps/6800rpm 36.5kg-m/4800rpm。 ブレーキブースター(車両RH)とバッテリー(LH)は完全にプラスチックケース内に収納されている。。

 

次は250GTについて、主に350GTとの違いについて記してみよう。
ゆっくりと走り出した瞬間に十分なトルクを感じながら駐車場内を走行し、出入り口で一旦停車した後にクルマの切れ目を待って表通りに合流する。ここからハーフスロットルで加速をすると、 この程度の極普通の運転では2.5ℓエンジンの発生するトルクは充分で特に不満は感じない。スカイラインの場合は4気筒モデルを持たないが、Dセグメントの欧州車の場合は6気筒2.5というのは中間モデルとなるから、動力性能に不満が出ないのは当然といえば当然でもある。 10分程走った後に、今度は思い切ってスロットルペダルを床まで踏んでみると、ATのキックダウンのレスポンスは決して良くは無いが、それでも先代V35の250に装着されていた時代遅れの4ATに比べれば全く別のクルマに感じる。この事実は、動力性能というのはエンジンも大切だが駆動系、 とりわけトランスミッションの性能が大切であることの証明みたいなもので、特にATの場合にはシフトスケジュールを含めた制御ロジックの優秀さが決定的となる。全開時の2.5ℓエンジンは決して静かでもないし官能的な音質でもないが、特に不満の無いレベルで順当に回転が上がっていく。
250の5ATのセレクターパターンは350と同様で、最近の欧州車の標準でもあるP→R→N→DでDから右でS、こそから前後することでMTモードとなり、押してアップ、引いてダウンというのもオーソドックスだ。 MTモードで50km/h程度で走行中にレバーを手前に引いてみると、多少のタイムラグの後にシフトダウンが実行された。これではと、ステアリングホイール付近のパドルスイッチを捜したが・・・・・・無い。実は250にはパドルスイッチはオプションでも付けられない。 実際にパドルを使ったMT操作なんていうのは、恐らくクルマを買って1ヶ月程度は面白がってやっても、やがては飽きてしまい、2度と触らなくなるというのが普通ではあるが。

250GTは先日試乗した350GTに比べて4WASが装着されていないので、オーソドックスなパワーステアリングであることと、エンジン排気量の小さい 250GTのほうが車両重量が軽いことから操舵性はむしろ好ましいともいえる。 フーガも中速以下のニュートラルな特性に感心したものだったが、新型スカイラインもこの路線だから当然に素直でアンダーが少ない。特に交差点の左折などの低速域での急な直角旋廻をしてみれば、実に呆気なく曲がってしまう。 今回は時間も無く、いつもと違うコースを走ったために、コーナーらしきものは2箇所くらいしかなかったが、一般道のチョット強めのカーブでの50〜60km/h程度のコーナーリングなら実に素直に曲がってくれる。スカイラインに限らず、コーナーリングの素直さでは意外とエンジン排気量の小さいベースグレードが勝っている例は多いから驚くことでもないが、 それなら3シリーズのようにベースグレードにMTでも用意してもらいたいものだが。

ブレーキは350GTがフロントにドイツテーベス製のキュリパーを採用しているのに対して、250GTは国産のキャリパーが使用されている。またリアキャリパーはどちらも国産だが、350は250とに対してピストンが1サイズ大きい。 と、スペック上ではかなり差があるが、実際に街中を走った程度では250のブレーキも十分な性能を持っているから心配することはない。

今回のスカイラインは実に完成された内容だった。特に上級の350GTは先代とはうって変った静かでスムースなエンジンや、4WASというハイテクを使っているのは多少反則っぽいとはいえ、BMW的なクイックでニュートラルな操舵性に加えて、しなやかなで安定した乗り心地など、久々に世界で勝負を出来そうな国産車が出現したことは間違いない。 ただし、価格的には欲しいオプションを満載すると結構な値段となってしまうのが痛い。そんなことから、250GTでも普通に使う分には大きな不満はないし、価格を考えれば本体 にナビを付けても314万円のベースグレードは圧倒的に買い得なのは間違いない。


250と350TypePは7.5J×17ホイールと225/55R17タイヤを装着する。


350TypeSおよびSPはフロントが7.5J×18ホイールと225/50R18タイヤを、リアは8.5J×18ホイールと245/45R18タイヤを装着する。

今回のスカイラインの結果が非常に良かった事から、記憶がまだ新しい状態で比較用にと思い、BMW335iサルーンに試乗した。 いくら輸入車は割高とはいっても、車両価格670万円もするクルマと比較するのは反則ではないかとの声もあるが、このクラスでは相変わらずトップ街道をひた走る3シリーズの最新にして最上級のグレードという、 正に世界チャンピオンに挑戦する心意気で試乗してみた。詳細な試乗記は別項を参照願うとして、新開発のツインターボエンジンは数値的にはスカイラインの新VQエンジンと同等に見えるが、 乗ってみればアイドリングから意識的に聞かせるエンジン音が4000rpm回転過ぎてからのマニアがウットリするようなサウンドと共に、回転が上がれば上がるほ どに凄まじい加速感と、一気にレッドゾーンまで駆け上がる様は、 アレほど出来の良さに感心したスカイラインが一瞬で色あせる程の違いがある。おそらく、ニッサンの開発陣は330i辺りで比較して、スカイラインだって価格を考えれば十分なところまで追いついたと思ったに違いない。 しかし、皮肉にもスカイライン発表と同時期に国内でも走り始めた335iは、他社を更に大きく引き離していた。
まあ、335iについては別格だから参考程度にするとしても、V36が出来が良いだけに惜しい部分を指摘すれば、それは運転していて楽しくない事に尽きる。 ニッサンの広報資料では最初のページに「運転する楽しさと気持ち良さを、思う存分に感じてください」と書いてあるが、350GTは妙に洗練されていて面白味に欠けて、 気持ち良い運転とは違うのではないかと思う。このフィーリングがスカイラインのターゲットユーザーを分析した結果、彼らが気持ち良いスポーツフィーリングと感じるのだという結果になったのなら、それは正解なのだろうが、 メルセデスやBMWのオーナーがコストパフォーマンスを考えて国産車に乗り換える場合の定番の地位をスカイラインが目指すのなら、もっと味付けが必要なのではないか。 成績優秀でスポーツも万能なのに何故か女生徒にモテないどころか話題にも上らない。こんな新型スカイラインも、すこしはタバコを吸ったり、バイクの無免許で捕まったりなのに、 人気抜群のライバルを見習ったら如何だろう。
もう一つ、国産車の問題点として挙げるならば、欧州車は発売時点から毎年の改良でモデル末期には別のクルマのように洗練されている場合が多いのに対して、 国産車はあまり大きな改良をせずに4年後のモデルチェンジまで引っ張ってしまい、気が付いたら大きく引き離されていたという事態が多い。今現在でも十分に出来の良いスカイラインだからこそ、 今後の改良を地道に進めてもらいたいものだ。

もしも、あなたが今までに欧州車を所有どころか試乗した事さえなくて、更に今度の買い換え予算が総額400万円ならば、スカイライン350GT TypeS(348.6万円)かTypeP(359.1万円)は大いに勧められる。それどころか、購入した後は運転する度に、なんて良いクルマなんだろうと満足感に浸れることは間違いない。 ところが予算総額が500万円となると話しは変わってくる。ライバルはBMW320iハイラインやMスポーツなどで、誰もが一度は乗ってみたい人気の欧州プレミアムブランドだ。 ところがエンジンは2ℓ4気筒だから、性能的には大した事は無く350GTの圧勝だ。しかし、内装はハイラインならばレザーシート、それもBMW独特の深いシボのある厚い革を使ったり、座面にはワザとシワを付けてある例のやつだ。 この予算ならスカイラインだって320iに負けないだけの内装を持っているし、動力性能では圧倒的に勝っている。 しかし、一流ホテルに乗り付けた時の従業員の態度は320i程には丁寧ではないのを感じるだろうし、郊外の新興私立小学校の受験説明会に乗り付けるのならスカイラインはイマイチだ。隣に停まったAクラスのプチセレブ気取りの嫌味な保護者から優越感に浸った視線を感じるだろう。 こんな場合は、どちらが良いかと相談されても答えようがない。好きなほうに選べば良いとしか言いようがないのだ。

この新型スカイライン(V36)の出足は好調で、今注文したら納車は春になってしまうかも知れない。そんな、スカイラインを発売前から予約して早々に納車されたユーザーもいるようだ。 以下は、このようなユーザー例を想像したもので、あくまでもフィクションだが、あながち間違ってもいないと思うが・・・・。

Aさんは機械メーカーに勤務する56歳の会社員だ。万博や高度成長で未来への希望を持つとともに、学園紛争やベトナム戦争など騒然とした世の中でもあった1970年に東北地方のとある工業高校を卒業して、関東地方の中堅機械メーカーに就職した。 最初に配属されたのは製造現場で、毎日油にまみれた現場作業は辛かったが、ジッと堪えてきたかいもあり入社10年で班長、20年で係長に昇格し、 会社も日本の経済成長とともに成長して、今では東証一部に上場する立派な企業になっている。そして勤続30年にして管理職となった。東証一部上場企業の管理職というのは、一流大学出でなければなれないと思っていたポストに自分がつくとは、30年前の入社時には考えもしたかったAさんであったが、 これも地道に頑張った成果だと満足だった。その後も我武者羅に働いたが時代は徐々に移り変わり、若手の重視やパソコンの導入、加えて会社自体の戦略が世界をターゲットにするグローバル化など、 Aさんにとっては実に住みにくい世界になってきた事も事実だ。
東証一部上場企業といったところで、現社長は先代の長男だし、主要なポストの殆どは経営陣の血縁や友人など、言ってみれば北朝鮮並の体制だから、実力主義の目標成果制度なんていっても、元々良い評価をもらえる事になっているエリート候補( もしくは縁故関係者)は何をやってもプラス評価、 それに比べて既に賞味期限切れの烙印を押されたAさんは、幾ら頑張っても、例え成果を出したとしてもコレマタ何だかんだとイチャモンを付けられて、結局はマイナス評価で報酬は毎年減額される。 クソーッ、若いうちは会社の為に夜中まで働いて今の繁栄をもたらしたのに・・・なんて腹も立つが、それでも一日の仕事が終って、一目散に向かう従業員駐車場には、 Aさんの自慢でも有り、心の支えのスカイライン350GT TypeSPがある。フルオプションで総額5百数十万にも達した価格に、「そんなに出すなら、自分だったらベンツかビーエムを買うよなぁ 」なんていう外野の声に耳を貸すこともない。クルマに乗り込んでエンジンをかけた瞬間にAさんの一日の疲れや不満は一気に消え去って、 それから家までの道のりはストレス解消の極みだから、自宅に着いた時には元気いっぱいのオトウサンになっている。Aさんにとって350GTは、生活の必需品であり、健康維持の道具でもある。


※この話はあくまでフィクションです。実際の企業や個人とは関係がありません。

クルマというのは、単なる工業製品や移動手段だけではない、何かがある。あなたにとってAさんのスカイラインに相当するのは何だろうか?