BMW  335i (2006/11/25)後編 ⇒前編

 







 

  
     

早速走り出してみると、以前のターボ車のように低速トルクがまるで無いということはないが、走り出した瞬間に大トルクを感じることもない。 一般道の流れにしたがって普通に走っていても充分な余裕を感じるが、一度スロットルを床まで踏むと、4000rpmを過ぎたあたりからの凄まじい加速は流石にターボならではで、 しかもその時の音は同じBMWの6気筒ならば最後の1000rpmで聞こえる、あの官能的なメカ音と排気音が混じったサウンドを4000rpmから聞くことができる。 それでも、排気音は決して爆裂音だったり辺りに気を配るほどではない。これがポルシェとは異なる点で、BMWのポリシーなのだろう。 あくまでも、ジェントルに、しかし官能的にというチューニングは他社が真似の出来ない点だ。スカイライン350GTも、性能的にはかなり良い線まで進歩したが、このような官能部分では、 まだまだ太刀打ちできないし、このフィーリングこそがBMWを選ぶ最大の理由でもある。
 
BMWサルーンに共通な6ATは335iの場合はMTモードのシフト操作をステアリングコラムから生えるパドルスイッチで行うことが出来る。 このスイッチは上部を引くとアップに、下部を引くとダウンになり、左右どちらも同じ動作をする。この手のパドルは各社それぞれの方式があるが、 メジャーに成りつつあるは右でアップ、左でダウンという方式で、BMWでもM3やM5に搭載されているSMGでは、この方式を採用しているのに、なぜ335iは異なる方式を採用したのだろうか? このように操作方法には多少疑問はあるが動作事体はタイムラグも少なく、トルコンATとしては最良といわれるポルシェのティプトロニックに勝るとも劣らない。 シフトダウンの性能を確認するために4速での巡航から、行き成りダウンスイッチを2回引いて、2段落としをやってみたら、一瞬で回転を合わせて何も無かったかのように繋がった。 先日スカイライン350GTで同じ事をした際に、短いタイムラグで見事に繋いだのに感心したが、335iは更に迅速だった。 日本車がフルチェンジして乗ってみれば成る程、今度こそ欧州のトップレベルに追いついたかと思いきや、その時アチラの新型は更に進歩していたという何時ものパターン ではあるが、 何とも悲しい現実には違いない。
 


左が335iの3ℓツインターボ、305ps/5800rpmのN54B30Aエンジン。
右が330iの3ℓバルブトロニック、258ps/5800rpmのN52B30Aエンジン。
 

335iには標準でアクティブステアリングが装着されている。最初に5シリーズに採用された時には、その極端にクイックな特性から、 一般のドライバーには危険では無いのかとさえ思う程だったが、その後は毎年徐々にマイルドになると共に不自然さが減少してきた。 今回の335iは、何も言われなけてば気づかない程自然なフィーリングになっていて、交差点での左折等の極低速でのフルステア時に非常に軽くてクイックなこと から、何となくそれと気づくくらいだ。 そしてコーナーリングは今更言うまでも無くBMWサルーン共通のニュートラルな特性で、オンザレールなコーナーリング感覚は現行市販車の中でも郡を抜いている。 このニュートラルという点ではポルシェ(ボクスター/ケイマン、カレラ)も敵わないのは間違いなく、この辺がBMWファンからすると他車には移れない最大の理由でもある。 ニュースカイラインも相当のレベルの操舵感を持ってはいるが、こうして335iに乗ってみれば、やはり本家のフィーリングには敵わない。何が違うのかと言えば、ステアリングを握る手にくるフィードバック、 すなわち自分が今ドライブしているんだ、という充実感が違う。そうは言っても335iはアクティブステアリングだから、実際にはハイテクが介在しているのだか、それなのに、このフィーリングが出せるのは経験というかノウハウの違いだろう。 ただし、ワクワクする操舵感となると、どうも先代のE46の方が上だったような気がする。先代E46は発売時点では更に前の先々代E36に比べて大きくなったといわれたが、 それでも現行のE90に比べれば十分に小さいから、車の挙動もクイックだった。加えて今回の335iのようにアクティブステアリングというハイテクが介在しているのに対して、E46は完成され尽くした油圧式のパワステだったから、 ステアリングには路面の状態が手に取るように伝わってきたのだが・・・。

現行BMW3シリーズのフロントブレーキは、4気筒の320iが先代E46から引き継いだ鋳鉄キャリパーで、これは新型スカイラインが採用したものと同系だ。 そして6気筒の323i、325i、330iはアルミボディの軽量キャリパーを装着する。今回の335iには新型と思われる形状のアルミキャリパーが装着されている。 これは形状的には7シリーズに端を発して、その後は5シリーズに使用されたタイプを少し小さくしたようなものだ。なお、これらのアルミキャリパーはシリンダーのあるボディのみがアルミで、 ブレーキトルクを支えるサポート部分は何れも鋳鉄製だ。実際の効き味は330iなどの軽量型アルミキャリパーが多少ストロークが長めだったのに対して、新型は4気筒用の鋳鉄ボディ並みの短いストロークだった。

クルマが減速するのはタイヤと路面の摩擦であって、ブレーキはそのタイヤを止めるだけだ。それに、減速というのはクルマの持っている慣性エネルギーを取り去るのだから、そのクルマのボディがシッカリしていなければ、 タイヤと路面の関係も不安定になってしまい、結果的に安定して減速が得られない事になる。そういう面では、先日乗ったニュースカイライン350GTは335iに勝るとも劣らない安定性を見せた。 このクラス(Dセグメント)の4ドアサルーンでは最高の制動安定性だと思う。
 


リアは8.5J×17ホイールと255/40R17ランフラットタイヤが装着される。
 


フロントには8J×17ホイールと225/45R17ランフラットタイヤとリアより幅が狭い。
 

 


写真は330iのフロントキャリパーで、アルミボディの小型軽量タイプ。
 

 


335iのフロントキャリパーはアルミボディながら5シリーズに似たサポート形状をしている。

 

単独で絶対評価をすれば、結構良い線いっている新型スカイラインを見て、それならとばかりに比較用として試乗した今回のBMW335iの結果は、 やはり長い経験とDセグメントサルーンの世界のトップに君臨する3シリーズの、しかも最新にして最強のモデルだから、そう簡単には王座を渡すことはなかった。 何より最大の違いは、カタログ仕様にはない感覚的な部分で、スカイラインはマダマダ修行が足りない。いや、それが国産車の良さだからBMWとは別の良さを理解できないだけだ、 という人もいるかも知れないが、実際に一度でもBMWやメルセデスのオーナーになると、なかなか国産車には戻ってこないし、国産車に全く興味すらなくなるのも事実だ。 更に、最近BMWはベースグレードの320iとはいえ、3日間ほど貸し出すモニターキャンペーンを行っているようで、今まで欧州車と言うものを知らなかったユーザーが、 このモニターに当選して実際に乗ってみたら、全く知らなかった世界に驚いて、いつかは手に入れようと決心したという複数の実例を知っている。

さて、今回の本題である335iだが、もうお判りのように330iよりも更に進化しているのは紛れもない事実だが、その代償は車両価格が約700という、 Dセグメントセダンとしては恐ろしい高価格となったことで、これはもう少しで530iすら買えてしまう。恐らく335iの販売割合は3シリーズのなかでは少数派で終るだろう。3シリーズのウィークデーの主なドライバーである中産階級の主婦にとっては、ツインターボの強力な加速やアクティブステアリングのクイックな操舵感なんて如何でもいいのだ。 いや、一部上場企業の上級管理職や執行役員の熟年紳士から見ても、323iの性能で十分だろう。はたまた、クルマ命の走り屋にとっては、700万円も出すのなら程度の良い中古(アプルーブドカー)でE46のM3を狙うだろうし、 リアシートなんか要らないと割り切れれば、ポルシェケイマンだってターゲットになる。これがクーペとなれば話しは別で、本当に余裕のある人が、お洒落で小柄な日常の足として乗り回すのには実に良い選択となる。 そうなれば、今回のセダンは何が何でも4ドアセダンでしかも5シリーズの大きさでは困るというユーザー向けの隙間商品ということになってしまう。輸入元の弁によれば、高価なオプションを満載しているので、 決して高くはないそうだが、それなら余計な物は要らないから、もっと走り屋仕様にして、ついでにLHDでも良いからMTを導入でもしてくれれば話はまた別なのだが・・・・・。
「そんなら、オマエ、MTの335iを余計なオプション取っ払って600万円なら買うのか?」と聞かれれば、う〜ん、考えちゃうよね。 確かに走りは良いけれど、現行3シリーズ(E90)の全幅1815mmという数値は、日本の峠道などで本気で楽しもうとするには幅が広すぎる。 運転する楽しさを追及するのなら、ズバリ130iが適している。これなら買い得な価格設定だから、場合によってはスカイライン350GTのフルオプションよりも実売価格が安い可能性もある。

スカイラインに端を発した今回のスポーツセダン選びの結論は、なんと予想外にも130iとなってしまった。
いや、しかし、これは一部のクルマおたく向けの結論だから、正しい市民は決して本気にしないこと!

と、いうわけで、総額500万円級スポーツセダン探しの旅は、マダマダ続く。

注記:本文は2006年11月現在の内容です。