BMW M4 Coupe (2016/1) 前編 その1

  

フェラーリ等の超高価格&高性能車は別格として、一般人からすればもう少し現実的な価格と性能クラスで、マニアの憧れの一つにBMW M3があるのは御存知と思うが、そのM3も時と共に大型・ハイパワー・高級化してきた。先ずはその変遷を簡単に追ってみると初代M3 は1985年に発売されれ、当時の価格は1989年モデルでは758万円であり、これは1988年にフルモデルチェンジされてS13 となったシルビア K’s (1.8L ターボ、175ps 226N-m) の187万円と比べれば何と4倍! それでスペックを見ればパワーは多少劣るが近いものがあるし、トルクに関してはほぼ同じ。そしてサイズ的にもシルビアは 全長 4,470 x 全幅 1,690 x 全高 1,290o とM3 (E30) に対して125o 長く10o 広く75o 低いから、殆ど同じクラスであり、しかも 75o も低いシルビアはスポーティーで、それなのに価格は M3 の4分の1だからスペック表を見て比較することしか出来ない普通の日本人のクルマ好きという連中からしたらば、M3なんてボッタクリのブランド商法に騙されるのはクルマを知らない金持ちだ、という例の論法が成り立つわけだ。

ところで、この1980年代の後半という時代は正に日本がバブル期に向かって躍進している時であり、普通に働けば200万円くらいのクルマは買えた時代だった。それでは 初代M3 が発売された1986年のヒットソングはといえば「恋におちて〜 Fall In Love〜 小林明子」がその代表で、この曲はテレビドラマ「金曜日の妻たちへIII 恋におちて」の主題歌であり、当時の世相を反映してかドラマの中で主人公たちは普通のサラリーマンなのにどう考えても1億円以上と思える高級分譲地に住むとか非現実的なのだが、そういう生活に対する庶民の憧れを上手く使ったことも大ヒットの原因だったのだろう。

それでその主題歌だが年配の読者なら聞いた瞬間に懐かしさで一杯になるかと、最近凝っているボーカロイドとDTMで作ったカバーを右下に貼り付けておいた。


写真1
初代 M3 (E30 1985-1990)。


E30 としてはM3 は別格であり、主流はもう少し現実的なモデルでこれは当時の高級輸入車としては大いに売れて都心では結構見かけたこともあり、”六本木カローラ” などという陰口をたたかれたものだった。

そして2代目が E36 で、ベースとなるセダンも大いなる成功を収めたが、M3自体も6気筒化されて更にハイパワーとなった。ただし本来レーシングモデルがルーツだった E30 M3 に比べると少し高級でストリート志向となった感もあった。この E36 M3 が発売された1993年という年はバブル経済崩壊の時期で、その後の失われた20年といわれる低迷期と見事に重なったのだが、それでもベースのE36 セダンnは順調に販売台数を伸ばしていった。その E36 のフラッグシップが M3 であり、6気筒 3.0L 286ps エンジンの搭載により性能的には先代の E30 M3 を大きく上回っていた。この3.0L エンジンは自然吸気としては可成りの高回転&大出力であり、これこそがMモデルの魅力だった。

この1993年という年のヒットソングといえば ZARD の「負けないで」が思い浮かぶ。この曲は今でも応援ソングの定番として各種のスポーツイベントでも使われている。これも同じくボーカロイドとDTMよるカバーを下に貼り付けておく。


写真2
2代目 M3 (E36 1993-1998)。


3代目 M3 は E46 で、このベースとなるサルーンは1998年に発売され、今に続く3シリーズの黄金時代の幕開けとなったものであり、特に2001年の MC では今まで6気筒 2.0L だった 320i が同じく6気筒でも2.2L に拡大されたことで従来の低回転域でのトルク不足を補って充分な性能を得た事と、BMWのシルキーシックスが400万円代の前半で手に入るということで、この手のクルマとしては大いなる売上が達成された。

この E46 にはクーペも設定されていたが、これをベースとした M3 が発売されたのは2000年だった。E46 M3 のエンジンは E36 用の 3.0Lを 3.2L に拡大し最高出力も 286 → 343ps と増強されたが、その発生回転数は 7,000 → 7,400rpm へと高回転化され、よりマニアックな特性になるなど、歴代 M3 の中でも最大人気となったが、それだけに当初は品不足で当時は正にマニア垂涎の名車という感があった。

そして4代目となる E92 でこのモデルはエンジンがV8 4.0L と更に拡大されたが、先代より大きくなったとはいえ3シリーズのボディにV8 というのもやり過ぎというか、軽快なミドルサイズスポーツの筈の M3 としてはあまり似つかわしくないモデルと感じたものだった。


写真3
3代目 M3 (E46 2000-2006)。


写真4
4代目 M3 (E92 2007-2014)。

そして今回の主役である5代目 M3 はエンジンがターボ化された事もあるが、V8 4.0L から直6 3.0L へとダウンサイジングされ、M3 には似つかわしくなかったV8 エンジンは1代で終了となった。それに伴い、初代から少しずつ増えてきた車両重量も、今回の5代目では減少となったのも喜ばしいことだ。ただし、サイズとしては4代目よりも確実に大型化しているのもまた事実で、もう本来の M3 の取り回しの良さを望むのはチョイと無理そうな気もするが、まあその結論は試乗してからにしよう。

ということで歴代 M3 のスペックを一覧表にしてみた。

歴代 M3 の変遷を見た時にエンジンやボディサイズは前述のとおりだが、価格についてはどうだろうか。表を見れば判るように2代目は初代より多少価格が下がり、3代目は多少の上昇だがそれでも大きは変化はなかった。ところが V8 となった4代目はほとんど一千万円のという具合にワンランク上に価格となってしまった。M3 の場合、米国では異様に安く販売されている事もあり日本での割高感が多い車種だが、それにしても3シリーズに一千万円というのは違和感がある。

まあこのM3 (M4) の価格問題を論じるとまた長くなってしまうので今回はこれまでとして、それでは本題に入りエクステリアから眺めることにする。なお写真撮影に使用した展示車も試乗車も何れもDCT方式の2ペダルミッションのモデルで価格は1,126万円という、もう少しでポルシェ911が買えるという恐ろしいものだ。

エクステリアはBMWらしさという面ではキープコンセプトで、全幅は1,870o もあるが割りと締まって見えることもあり、それ程肥大しているとかデブになっちまった、という気はしない。というか、M4 というのは歴代 M3 クーペ同様にベースは4シリーズクーペであり、その4シリーズクーペは3シリーズセダンの2ドア版だから、結局は M4 だって基本は3シリーズセダンということになる。

なっいっ? オマエ、M4様と320i が同じだというのかぁ! 何て下品なM4 (M3) オーナーは居ないだろうが、まあそういうことになる。ただしこれも歴代M3 から同様だが、一見並のクーペ、今回の場合は420i クーペとボディを共有しているかに見えるが、スペックを見れば M4 と420i ではそれぞれ全幅は1,870o と1,825o 、トレッドはフロント1,579oと1,550o、リア1,603o と1,575o と大きく異なっている。全幅のみの違いならばオーバーフェンダーが出っ張っている事も考えれられるが、トレッドもフロントとリアでそれぞれ29o と28o 広いから、これは基本的には同じシャーシーとはいえ足回りのジオメトリーからして大きく変更しているという事だ。まあそんなこともあるから、M4 の価格は 420i の倍以上なのであり、決してボッタクリなんて‥‥いや実は両方共ボッタクリ‥‥何て事も絶対に言う気はないが‥‥。

なお当然ながらボディの外板も同じようでも全く異なるプレス形状のパーツが多々あり、特にフェンダーは全くの別部品となっているから、一見 420ï と同じようでも何となくモッコリと迫力がある。


写真11
エクステリアはBMWらしさという面ではキープコンセプトで、全幅は1,870o もあるが割りと締まって見えることもあり、それ程肥大しているとかデブになっちまった、という気はしない。


写真12
この角度から見ると大きく張り出したリアフェンダーが異様な迫力を感じさせるが、普通の人には判っかんねぇだろうなぁ。

写真13
サイドビューも一見すると 420i M Sport と大きく変わらないが、何となく迫力が違うのは実はフェンダーなどは別部品となっているためだ。


写真14
フロントビューは何時ものようにベースとなるモデルと同じに見えるが、よ〜く見ればエアインテイクは全く違う形をしている。


写真15
リアでは4本出しのマフラーが只者ではない気配を感じさせる。

今回の前編も既に結構長くなってしまったこともあり、以降はその2に続く。

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