BMW M2 Coupe 特別編 [M2 Coupe vs 718 Boxster 後編 その1] 特別編へようこそ。 前編でも御注意申し上げたように、このコーナーは言いたい放題の毒舌が好みの読者以外はお勧めいたしません。 ここからは実際に試乗した結果を比較する。最初にドライバーズシートに座った印象は、今更言うには及ばないが乗用車的で極自然な視界が広がる M2 に対して、可成り低い位置に座って見える視界は非日常の世界と言ってもオーバーではない 718 と対象的だ。こんな低い視線で街行く人々を見上げると、例えば極端なミニの JK (女子高生) を見上げると‥‥なんて想像しているキミっ‥‥いや流石に丸見えという訳にはいかないので念のため。 エンジンの始動は M2 では BMW に共通の押釦スイッチだから兄貴分の M4 とも全く同じだ。そして 718 もこれまた兄貴分の 911 と同じでポルシェ独特の方式として、先ずはインテリジェントキーをダッシュボード上のスロットに差し込む‥‥と思ったらスロットには既にキーみたいなのがついている? 実は今回試乗したクルマにはオプションのキーレススターター (正式名称はわからない) が付いていて、電子キーは所持したままで既にキースロットの位置にはつまみがついているので、これを捻ればエンジンは始動する。 エンジンが掛かった瞬間に劇的な感動を覚えるのは 718 の方で、スイッチを捻ると短いクランキングの後にエンジンは爆発的に目覚め、アイドリング中はブルブルを車体を揺らす振動と共に背中の後ろからボロボロという排気音が聞こえている。この振動による緊張感は 997 カレラSを彷彿させるが振動自体もノイズというかエンジンサウンドも 997 のような如何にも精密そうなメカ音と6気筒の格調高い振動に比べれは安っぽさを感じるが、まあクルマ好きなら胸がトキメクのは確かだ。 これに比べると M2 のエンジンを始動しても特別な感動は無い。M モデルと言えば少し前までは自然吸気のハイチューンエンジンの如何にも高性能そうなアイドリング音やチョイとアクセルを煽るとヴォンと吹け上がる「6連スロットルは伊達じゃあない」というレスポンスを感じだが、M2 はチョッとスポーティーなサルーン程度の感覚だ。そりゃまあ、今のMモデルは量産モデルのエンジンを基本に主にターボの過給圧を上げてハイパワーにしたものだから、以前のレーシングエンジンの系譜のものとは全く違う訳で、人間で言えば所詮は庶民の出の成金‥‥と言っちゃあマズイかな。しかし、こんな事を書くと一部のファンからは量産エンジンを基本としても組み立ては M 社のマイスターが担当しているのだから全く違うものだ、とかの反論が出そうだ。 AT セレクターは M2 では一般の BMW 各モデルのものとは形状もパターンも異なる M モデル専用の電子式で、 M4 等と共通のもので右に押すとDレンジとなる。そして 718 は 911 とも共通の最近のポルシェの主流となっているもので、M2 とは異なりメカ式だから奥側のPレンジからガチャガチャと手前に引いてDに入れる。 M2 のパーキングブレーキはオーソドックスなレバー方式で、これは兄貴分の M4 と同じだ。718はダッシュボード右下端のレバースイッチで、これまた 911 と共通となっているから、言って見れば各社の方式に従っている事になる。ただし BMW の場合は5シリーズ以上では電気式となるのは、3/4シリーズより上級だからかとも思ったが‥‥いや待てよ、2シリーズアクティブツアラー/グランツアラーは電気式だった筈だ。という事は3シリーズと1シリーズ、それらをベースにした4および2シリーズがレバー式なのは単に設計時点の違いという事かもしれない。 次にペダルに関しては言うまでもなく M のショボさは相変わらずで、対する 718 は 991 フェイズ2と共にペダルデザインが変わって、全面が白い (アルミ?)ペダルとなった。材質はそれとして、形状についてはアクセルペダルは両車共オルガン式で、ブレーキペダルは M2では逆三角形の恐らく MT と共通と思われる形状で、ペダル配置も左端のクラッチペダルを取っ払って2ペダル化したように見える。そして 718 のブレーキペダルは幅が広く2ペダル専用で、しかも左足でもブレーキを踏み易いアメリカンスタイルとなっている。 それでは早速走り出してみるが、フル加速は別として普通に加速する場合に重要なのがエンジンのトルク特性だが、M2 と 718 は其々 465N-m/1,400〜5,560rpm および 380N-m/1,950〜4,500rpm と M2 が圧倒的に勝っているが車両重量が其々1,580s と 1,390s という具合に M2 は190kg も重い。更に数値上では M2 の1,400rpm よりも550rpm も高い回転数から最大トルクを発生する 718 だが、実を言えば実際のフィーリングは兎に角パワフルで、チョイとアクセルを踏むとドヒャーっと加速する。対する M2 は遥かに大人しく、より低い回転数から最大トルクを発生するとは言ってもそれはスロットルを踏み込んで過給が始まってからの話で、最初に踏み込んだ時のレスポンスでは 718 が明らかに勝っている。 と表現すると M2 は低速域のレスポンスが悪いと思われそうだが、いやいや最近のターボエンジンらしく実用上は充分なレスポンスを確保しているが、これはやっぱり相手が悪かった。それで M2 のターボはというとツインスクロールタイプで、これを良くツインターボと勘違いしている例を見るが、あくまでターボはシングルで、エキゾーストマニホールドからタービンハウジングへの流路を2つに分ける事で流量の変化に対応している。対する 718 はツインターボ‥‥では無くシングルターボだが、タービンの羽根が可変出来る可変ジオメトリーターボ (VGT) を採用している‥‥のはボクスターS の方で、ベースグレードは基本設計の巧妙さとチューニングの上手さでだけでこれだけのフィーリングを出しているのだろう (たぶん) 。 このように過激な 718 に比べると遥かに大人しい M2 ではあるが、ターボ化されたとはいえ BMW の直列6気筒、要するにシルキーシックスの系譜だからスムースさでは4気筒の718 よりも明らかに勝っている。またアイドリング時はサルーン並に静かだったエンジン音もフル加速時は直6らしいサウンドが耳に入るから、薄味になったとは言えBMW の高性能車独特フィーリングは持っている。これに比べると 718 は狭いリアに押し込んだエンジンは排気管の取り回しが理想とは程遠く、しかも今回は4気筒ということで脈動が生じてしまいボロボロというアイドリング時に聞こえていた音はフル加速では更に凄まじくなる。そしてこの音、何処かで覚えがあるのは‥‥そう、スバルのボクサー4でお馴染のもので、しかも現在のスバルでは排気管の取り回しを改良して殆ど気にならないまでになっている。まあこの音は「これが良いんだよ!」というマニアもいるし、これだけは我慢ならないという感性の持ち主もいるし、この辺は好みの問題となる。 ところで両車の 0 - 100q/h 加速のメーカー発表値は M2 が 4.3秒で 718 ボクスターでは 4.9秒であり、これはやはり絶対的なパワーが M2:370ps、718:300ps と2割以上勝るM2が当然有利となるのは判るが、4.3秒といったら 991 前期の自然吸気カレラS と同じ事になり、う~ん、幾ら先代モデルとは言え M2 が天下のカレラSと同じ加速性能という感じはしなかったが、気のせいだろうか。まあ最近は 991ターボやテスラーSなどゼロ百が3秒切るか切らないか、何ていうのに試乗して感覚がおかしくなっている事は有り得る。 |