BMW M2 Coupe
  [M2 Coupe vs 718 Boxster 後編 その2]




特別編へようこそ。
前編でも御注意申し上げたように、このコーナーは言いたい放題の毒舌が好みの読者以外はお勧めいたしません。

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最近のクルマは中級車以上の場合には走行モードの切り替えスイッチが付いている場合が多く、ノーマルモードに対してシフトタイミングが高回転側になったり、エンジンのレスポンスを上げたり、はたまた操舵力が増してクイックになったりという ”SPORT MODE" と、極力低回転を使用して、アクセルレスポンスも抑える燃費重視の ”ECO MODE" に切り替えられるものが多い。そしてこの2車にも当然ながらモード切替は付いているが、その位置は M2 ではコンソール上の AT セレクター右側という多くの BMW 車に共通のタイプが付いているが、この欠点は視線を下に向けないと操作出来ない事で、走行中での切り替えは一瞬とはいえ全く前を見ていないタイミングが発生してしまうことだ。

では 718 はといえば、ポルシェも極最近まではコンソール上の、しかも右ハンドル車ではATセレクターの影に隠れているという最悪の位置にあったが、991 フェイズ2や 718 へのビッグマイナーチェンジでステアリングに組み込まれたために、視線移動という面では極めて使い易く安全性も増した。

そこで2車の SPORT モードの効き具合はと言えば、当然ながら巡航時でも 2,000rpm 以上になるようなギアを選択するし、ステアリングも寧ろ丁度良いくらいにシャキッとする。まあ、この手のクルマに乗るのならアイドリングストップ解除とスポーツモードの選択はエンジン始動直後に済ませるくらいで良いと思うし、その必要性を感じないならばもっとコンフォートなクルマを選ぶべきだ。

ここで正面にあるメータークラスターに目を移して、最初に M2 のメーターをみると右側の回転計中央には、何とあの ”M” のロゴがある。これこそがナンチャッテ M の M240i との違いで、オーナーは運転中常にこのロゴを見ながら悦に浸る‥‥と言いたいが只の印刷だからそれ程には立派では無い。そして回転計のフルスケールは M モデルらしく 7,500rpm 、んっ? これって、もしかして ”M ロゴ” 以外は M240i と同じとか?

次に 718 は如何にもポルシェらしく中央に大径の回転計を置き、そのメーター内の下端にはデジタル式の速度計が組み込まれているお馴染みのもので、911 の5連メーターと違い3連メーターで数百万円の価格差を表現しているのも何時もと同じだ。レッドゾーンは7,400rpm で、その数値だけで比べると M2 だって7,000rpm だからその差は僅かに 400rpm だが、M2 は6,500rpm 以降がゼブラゾーンになっていて、要するに「ここは回しても良いけど殆ど意味ねぇからな」という意思表示だ。まあそんな能書きを言うよりも下の写真をみればその状況は一目瞭然だ。

スポーツカーというのは動力性能も大事だが、それ以上にステアリングの特性や旋回性能など、いわゆる "曲がる" 性能も重要だ。例えば動力性能のみだったらホンダ S660 (0-100q/h 12秒) よりもクラウン 3.5L (同約5秒) の方が圧倒的に速いが、しかし S660 は誰でもがスポーツカーであると認めるだろうが、クラウンをスポーツカーとは思わないだろう。

それでは M2 のステアリング特性はといえば、歴代 M3 でも中止付近の不感帯が明らかに存在していて、これが BMW のポリシーだから当然ながら M2 にも受け継がれている。ただし最近は技術の進歩でモード切り替えという有り難い装備もあるから、これを SPORT にすれば結構クイックになるが、それでも基本は安定志向だ。それでは 718 の操舵特性はというと、何しろエンジンがあれだけ過激でオーバーレスポンス気味なのだからステアリングだってキレキレの‥‥と想像するとやはりズッコケる。旋回方向の慣性モーメントの小さいミッドシップエンジンの挙動はいざと言う時に一般のドライバーでは修正不能だから、718 に限らず何処のメーカーでもミッドシップ車はアンダーステア気味に調教してある。しかし荷重移動を上手く使えばアンダーステアを抑えるのは容易だし、これはもうドライバーの腕次第であり、それこそがこのクルマの魅力でも有る。そりゃあ室内に手荷物さえ置けない不便さの代償としてはこのくらいの魅力ないとねぇ。

ところで幾ら走り命の高性能スポーツとは言え乗っていて不快に成る程に硬い乗り心地というのでは幾らクルマ好きとは言えやっぱり限度を超えたら耐えられないが、その点ではこの2車共に充分に合格で硬いが決して不快になる程ではなく、これは低速で荒れた路面でも同様だ。その意味ではチョッと荒れた路面ではそれこそ耐えられないくらいの突き上げがあるコペンなどはハッキリ言ってゴミだ! と、ダイハツファンを煽ってみる。えっ、ダイハツのファンなんているんか? って、まあ、そのう。どうかな。

最後に止まるについては勿論一般道では何の問題もない。そして以前は軽すぎてカックン気味のセッティングが主流の BMW も、効きは抜群ながらも踏力はかなり重くてガッチガチだったポルシェも、お互いに歩み寄った形で、今はどちらも適度な踏力となっている。

両車のタイヤとホイールは、M2 ではフロントが 9J x 19 ホイールと245/35R19タイヤ、リアは 10J x 19 ホイールと265/35ZR19タイヤの組み合わせで、718 ではフロントが 8J x 18 ホイールと235/40ZR18タイヤ、リアは 9.5J x 18 ホイールと265/45ZR18タイヤの組み合わせとなる。実は M2 の試乗に当っては歩道と路面の段差、と言っても駐車場の出入口だから精々50o 程度の段差だが、それでも斜めに最徐行で渡るようにと念を押されたが、特に35タイヤのホイールを傷め易いのだという。対するポルシェは元々見掛けの割には段差に強いのは、流石に高性能と実用性の両立をモットーとする同社らしいし、718 のタイヤは M2 程扁平でない事もある。

そこで実際にホイールから覗くキャリパーを比べると、ブレーキに金を掛けないので有名だった BMW も流石に最近は方針を変えたようで、M2 ではフロント4ピストン、リア2ピストンのアルミ対向ピストン (オポーズド) とドリルドローターが見える。対する 718 はポルシェの定番である前後とも4ピストンのオポーズドで、M2 よりリアキャリパーが大きいのは重量配分上でリアヘビーな 718 はリアのブレーキ負荷も大きいからだ。なおキャリパーの色は M2 ではブルーに "M” のロゴというMモデルらしいもので、対する 718 はベースグレードでお馴染みの黒い塗装に当然ながら PORCSHE のロゴが付いている。これにより M2 のブレーキは少なくとも見た目では 718 と同等に勝負できるようになった訳だ。

以上BMW M2 とポルシェ 718 ボクスターを比べてきたが、M2 ついては往年の E30 時代の M3 の再来というのにはチョイと乗用車テイストが強すぎたが、まあ性能自体は恐らく本物の E30 M3 より大幅に勝ってはいると思う。しかしクルマの魅力というのは動力性能さえ良ければ良いとは言えないところが車選びの面白さであり難しさでも有る。

それでは718 ボクスターはといえば、こちらは流石にスポーツカー専用のシャシーを使っているしミッドシップエンジンというストリートモデルには珍しい成り立ちだけあって、他車では得られないフィーリングを持ってはいる。そして新しい4気筒ターボエンジンによる動力性能も先代よりも大幅にアップしてはいるが、これまたフィーリングという面では6気筒自然吸気エンジンの良さは失われている。

今回の比較は最初に犯人が判る「倒叙物」ミステリー、例えば刑事コロンボみたいな話の筋になってしまったが、こういうのも偶には良いだろう。だだしミステリーと違ってどちらを選択するかという件に関してはユーザー自身が選択するという事になる。そして何時も言っているが、こればかりは個人の考えや情況で決まる訳で、他人の口出しする余地は無い!

という事で、趣味のクルマに700万円出せるなら、そして環境さえ許せば 718 は絶対に買いだけど、M2 については、う〜ん、どうかなぁ。