Mercedes-Benz (W213) E200 (2016/8) 後編 その1


  

ドライバーズシートに座ってどちらも電動のシートポジションとステアリングホイールを調整すると、当たり前だがピッタリと要求する位置にセットできる。まあ最近では国産車も特にEセグメントのレクサス GS や日産 フーガクラスなら、これらは決して不満のない程度には改善されてはいるが、これが30年程前の国産車だとどう調整してもバックレストは寝過ぎているし、ステアリングホイールは遠くにあり過ぎ、そのくせペダルは近すぎて、要するに農協オヤジが寝っ転がって腕を目一杯伸ばして運転することを想定しているかのようなポジションが当たり前だったのを思い出すと、正に隔世の感ありという情況だ。

スポーツカーのようには低く無く、SUV のようには高くないポジションによる視界は実用車としては充分で、決して小さくは無いこのクルマだが取り回しは実に良い。とはいえスポーティーという雰囲気は無くて、あくまでも理想の実用車という立ち位置になっているが、それこそがEクラス本来の姿だから何も文句はない。そして前述のように最近は国産車も大いなる進歩を遂げたが、やはりEクラスの本物感はマダマダ健在であり、伊達に100年以上もクルマを作って来た訳ではないと思い知らされるところだ。

エンジンの始動は当然ながら押しボタンスイッチでその位置はステアリングホイール左側の裏、ダッシュボード上という他社でも多くが採用している場所にある。これが先代 (W212) ではどうかといえば、前期モデルの多くは未だ金属キーを差し込んで撚る方式を使っていて、その後上級グレードから押しボタン式に変更となった。なお、新型の押しボタンスイッチの見かけは結構レトロで、これはカタログでも主張していた (写真41) 。

AT セレクターはコンソール上には無くステアリングコラム右側に生えたレバーを使用するが、この方法は先代のW212 から継承されているがら戸惑う事は無い。そしてパターン配置も先代と同じだがレバー自体は新たな形状となっている (写真43) 。このレバーを下に押してDに入れ、ダッシュボード右下にあるパーキングブレーキスイッチを引いてリリースするのもメルセデスの定番だから、これまた戸惑うことは全く無い (写真42) 。


写真41
新型の押しボタンスイッチは結構レトロで、これはカタログでも主張していた。


写真42
パーキングブレーキはダッシュボード右下にあるスイッチを引いてリリースするメルセデスの定番方式だ。


写真43
AT セレクターはステアリングコラム右側に生えたレバーを使用するが、この方法は先代のW212 から継承されている。

そしていよいよブレーキペダルから足を放すと、トルコン式のAT ということもあるが、僅かなクリープと共に軽くアクセルを踏むとゆっくりと前進する。そのまま駐車場から隣接する狭い裏道をゆっくりと移動するが、このような極低速でも実にスムースに希望する速度を維持できる。一時停止の後に表の道路に出てハーフスロットルくらいで加速すると、スペックから想像する以上のトルクで加速する。その時のエンジンのスムースさはこれが本当に4気筒なのかと疑いたくなる程に滑らかだ。先代のW212 に初めて試乗した時も走った瞬間にその良さを感じたが、この新型 E200 も走り出した瞬間にこれは良いぞ! と感じるクルマだった。

話が前後するが、ここでメータークラスターについて補足すると、エンジンを始動して正面のメーター類を見ると左右対称のアナログメーターは左が速度計で右が回転計。そして各メーターの下部にはそれぞれ燃料計と水温計の小さいメータが仕込まれていて、これは極オーソドックスな自光式メーターに見えるが、実はメータークラスターは全面がカラー液晶ディスプレイであり、パソコンの GUI と同様にソフトウェアでシミュレートしているだけだ。その為にモードによっては右の回転計の代わりにナビの地図を表示したり、センターに大径の回転計とその中に表示されるデジタル速度計で左右はインフォメーションディスプレイになるなど、一昔前までは考えられないくらいに IT 化されている (写真45) 。そう思って先代W212 のメータークラスターとくらべて見ると先代は何ともレトロに感じるし、逆に新型のハイテクメーターの味気無さも身に沁みる事になる (写真44) 。

試乗中のメーター表示は写真44左のオーソドックスな2眼タイプにしていたから回転計は多少視線から外れるが、それにしても常に最大トルクの発生する1,200rpm より少し上を維持しながら、しかも妙に小まめにシフト操作が行われているので不思議に思って試乗後に調べてみたらば何とミッションは9速!AT だった。高級車の主流が7速以上、一部では8速 AT なんていう状況になってきて、もうそんなに必要あるのだろうかと思っていたが、遂にメルセデスは9速化に踏み切ってしまった。そしてそのメリットは残念ながら (?) 充分に感じられてしまった。


写真44
メータークラスターは全面がカラー液晶ディスプレイであり、パソコンの GUI と同様にソフトウェアでシミュレートしているだけだ。これに対して先代W212 のメータークラスターは何ともレトロに感じる。


写真45
液晶表示のために切り替えによって全く違う表示方法を選択できるのはハイテクの強みだ 。

最近のクルマはミドルクラス以上には必ずと言っていいほどに走行モードの切り替えスイッチが付いているが、この新型Eクラスも当然ながらその手のスイッチは付いていて、その場所はセンターコンソール上の左前方だが、MODE 云々という表示では無く ”DYNAMIC” という素直じゃあない表記方を採っている。これは最近のメルセデスに共通のものだから、メルセデスオーナーなら当たり前に理解できるだろう。えっ、そんなの知らないって? あっ、確かにW124 にはこの手の装備は付いていなかった。いやこれは笑い事ではなく、メルセデスを個人で購入したオーナーは10年なんて短い方で、20年以上も乗り続ける場合もあるようで、この辺が BMW との違いでもある。

それでは早速 DYNAMIC スイッチを前方に一回押して Sport にしてみると、当然ながら高回転側を使うようになりエンジンはよりダイナミックに回る感じで、標準モード (Comfort) でも普通に市街地を走るには充分だったが、やはり Sport モードの方がより気持ちよく走れるから、走ることが好きなオーナーならこのモードに入れっぱなしでも良いかもしれないし、そうすることで充分にスポーティーなセダンとして満足できるだろう。というのは、Sport モードは動力性能がアップする事もあるが、それ以上にメリットを感じるのが操舵感がしっかりする事だ。

Eクラスのステアリングは中心付近では適度にクイックだがメルセデスらしく直進性を重視していて言ってみれば多少ダルいが、これが Sport モードに入れた瞬間にセンタリングがシャキッとして操舵力は多少重くなる。要するComfort モードでは多少心もとないセンター付近の操舵感は大いに改善される。ただし意地悪い見かたをすると、このセンタリングが強くなった時のフィーリングが家庭用ゲームマシンのステアリングコントローラ−っぽいので、まあゲームも実車も基本的には同じようなハイテクによっているからではあるが、多少の態とらしさは否定出来ない。

なお Sport でのフルスロットルは当然試みたが、勿論普通のドライバーなら充分に満足するレベルで少なくとも苛々 (イライラ) することは無いだろう。勿論加速命のドライバーには不満はあるだろうが、そういう手合には AMG E ナントカというのも用意されるだろう。えっ、AMG 何てボッタクリだし、性能ならばスバル WRX STi が一番だ、って? まあ、その手の考えの人は最初からメルセデス何て無視していれば良い訳で、こんな所に来て余計な口出しをする暇があったらばスバヲタ向けの掲示板かなんかで褒め讃え合うのが一番でっせぇ。


写真46
走行モードの切り替えはコンソール上の DYNAMIC スイッチを使用する。


写真47
使う機会は無いだろうがマニュアルシフト用の立派なパドルスイッチも付いている。

と、このサイトのお約束であるスバヲタいびりもやったところで、話を旋回性能に移すことにするが、この続きは後編その2に続く。

⇒後編その2へ