Porsche 911 Carrera 4 (997) (2011/12) 中編


エンジンの始動は997(911)と987(ボクスター/ケイマン)では全て共通である、御馴染みの金属キーをキーホールに差し込んで右に捻るという昔からの方法で、試乗車はLHD(左ハンドル)だからステアリングコラムの左側にあるキーホールのために、左手で操作することになる (写真21)。 そして、試乗車はPDKだから、始動時にブレーキペダルを踏むのは世間の常識と変らない。キーを捻るとエンジンは短いクランキングで始動して、911系らしく適度な振動をボディ全体に伝えるが、金庫のようだと例えられる剛性感の塊のよう なボディがブルブルと震えるのは一種独特のフィーリングで、この振動を感じる度に911をドライブするんだという期待感に包まれるのはいつもどおりだ。 ただしカレラSに比べれば、そのブルブルも穏やかなのも2WDと同様だ。というか、アイドリング時のフィーリングは2WDのカレラと全く同じだった。
 


写真 21
金属キーをキーホールに差し込んで右に捻るとエンジンは始動する。
 

 


写真 22
サイドミラーにはモッコリと盛り上がったリアフェンダーが見える。

 

走り出して裏道を30km/h程度でユックリと進んでいく限りにおいては特別なクルマとは感じないが、それでも独特の雰囲気は既に放っている。 そして走行中にふとサイドミラー(写真22)を見ると、モッコリと盛り上がったファンダーを確認できる。スタンダードのカレラだってフロントよりリアが広く、慣れないと運転し辛いが、それよりも更に全幅が40mm広いカレラ4は片側でも20mm広いことになり、益々リアの幅を意識しないとガリっとやって痛い目にあうことになる。しかも、前半分はカレラと同じだから、同じ感覚でギリギリに寄せる場合などは注意が必要となる。クルマというのは、全長方向には100mmくらい長くても大きな違いは感じないが、全幅は10mmでも運転感覚は大いに異なるから、40mmというのは結構 な違いがある。

表の市道に出て40km/h程度の遅い流れに乗って行くが、心なしか2WDのカレラよりも動きが重々しい気がする。 500m程で4車線バイパスに合流し、とりあえずハーフスロットルで50km/h程度まで加速し、その後は流れに乗って50〜60km/h程度で流しながら、ちょっと前が空いたので少しスロットルペダルを踏んだが、反応は決して良くない。ふと回転計を見ると1,500rpmを指していた。911ともあろうクルマがこんな低回転を使うのはどうかと思うが、これも世の中の動向ということだろう。 試乗車にはオプションのスポーツクロノが付いていて、今までの走行ではNORMALになっていたが、ここでSPORTに切り替える(写真23)。この時にステアリングホイールの右側スポークにSPORTという文字が表示されるのは実に良いアイディアだし役に立つ(写真24)。SPORTに切り替えたらほとんど瞬間(実は多少のタイムラグがあるのだが、トロいNORMALの直後なのでそのように感じた)にシフトダウンが起こり、回転計の針はピョンと2,500rpmに跳ね上がった。 う〜ん、そうそう、やっぱりスポーツカーというのは2,000rpm以下で巡航するなんていうのは邪道もいいところだから、SPORTモードが本来の姿だ(と思っている)。

SPORTモードはシフトタイミングだけではなく、スロットルレスポンスも劇的に変化する。NORMALでは911ってこんな程度なのか?とがっかりするのだが、これがSPORTとなると流石はポルシェの水平対向エンジンと納得できる状態になるから、この点でもSPORTが本来のモードのようだ。 そして、SPORT PLUSはといえば、シフトタイミングもエンジンレスポンスも更に過激になるが、NORMALとSPORTの差程ではないから、NORMALが押さえ過ぎということになる。

ポルシェに限らず、走行モードを持っているのは最近のトレンドのようだが、これを知らずにノーマルのままで試乗したら、911なんて今や普通のクルマで高い金を出して買う価値なんか全く無い、と思ってしまうだろう。 まあ、これは国産の高性能車でも同様で、マニアの定番であるインプレッサSTIやランサーエボリューションなどでも、一番大人しい(エコな)モードだけで走ったら、な〜んだ、大した事は無いな、と思うだろう。

走行モードといえば、前回2WDの”素のカレラ”に試乗したときに走行モードをSPORTにした時にPASMも自動的にSPORTとなり、これを上手く解除できなかったということに対して、再度確認をするという宿題があった。そこで、スポーツクロノを再度SPORTにして、次にPASMのスイッチを再度押す・・・・・筈だったが、PASMのスイッチが無い!そう、試乗車にはスポーツクロノは装備されていたが、PASMは付いていなかったのだった。 カレラSには標準のPASMもカレラにはオプションだから、4WDも”S”ではない只のカレラ4だった今回の試乗車にPASMが付いてなくても不思議はない。それにしても、思わず「糞ったれ!」と叫んでしまう。なんて書くと、
B_Otaku は脳内911オーナーだからそんな下品な事をいう、と喜んでいる厨房(実は中年が多いらしい)がいるかもしれないが、ハッキリ言って911オーナーも含めたポルシェオーナー全体に言えるのは、決して紳士的でないということだ。 勿論、それだけの収入があるのだから社会的な地位も高く、人柄だって(たぶん)立派なのだろうが、皆一癖有り気なタイプだったりする。まあ、それはそうで、今の地位を築くためには、ある時は人を蹴落とすことも必要だし、またあるときは・・・・・・って、何の話をしているんだ。ここは特別編ではなかったので、この話はここでお終い。
 


写真 23
センタークラスターの下端にあるスポーツクロノのモード切り替えスイッチ。
 

 


写真 24
スポーツクロノでSPORTを選ぶと、ステアリングスポークに表示が出る。勿論SPORT PLUSも同様に表示される。
 

 

実はこのクルマで走り出した時に「何時もより足が固めだな」とは気が付いていたのだが、4WDとの関係なのかと思っていた。しかし、PASM無しということで、納得。そう、PASM無しの場合は、有りのNORMALのようにしなやかな乗り味ではなく、結構スパルタンなのだ。といっても、例によってこれだけの剛性のあるボディだから不快感は全く感じないのは言うまでも無い。 なお、試乗車のタイヤは標準のフロント235/40ZR18、リア265/40ZR18(写真26−2)に代えてオプションのフロント235/35ZR19、リア295/30ZR19 (写真26−1)タイヤが装着されていた。

2WDと4WDの最も大きな差が出るのは多分、操舵性だろうという事に異論はないだろう。最初に4車線バイパスを60km/h程度で巡航していて気が付くのは、適度の操舵力ではあるがセンタリングがシャキっとしないし、例えば外周で50mm程左に切った状態で手を放してもセンターに戻らず、クルマは左に進んでいく。 今まではスポーツクロノをNORMALにしていたので、今度はSPORTに切り替えると、大分シャキっとしてきたが、それでも2WDのカレラよりは甘味な感じがする。

カレラ4のエンジンは2WDのカレラと全く同じで、リアのエンジンフードを開けた眺めも両車は全く同じだった(写真25)。 更にはミッションのギアレシオも、リアのファイナルギアレシオも同じだが、フロント側のファイナルが多少異なるのは、カレラ4が前後異径タイヤを採用しているためであろう。カレラというグレードは911のベースグレードだから何やらパワーが少ないクルマと思う読者もいるかもしれないが、自然吸気の3.6Lで345psのエンジンを積み、0〜100km/hを4.8秒で走り 切るというのは、第一級のスポーツカーであるとに変わりはない。そして、これだけの高性能車の動力性能を試すには、どう考えても一般道では無理だから(高速でも無理だが)、これはもう即座に高速のインターに向かって行く。

首都圏には夫々の高速道路の起点の料金所があり、これらは本線上に設置されているから、通過後は行き成り直線で本線と繋がっていて、ここならば少なくとも発進から100km/hは合法的に体験できる。 高速に乗り入れる首都高速から入って暫くすると料金所に到達し、既にセレクターはDのままでモードはSPORTにして、ETCゲートを目一杯減速して通る。本当はここで一時停止なんてやりたいところだが、後続車もいることだし”完璧な徐行”後に一気にフルスロットルを踏む。一瞬のタイムラグの後にガツンっと背中を蹴飛ばされるようなGとともに一気に加速状態に入り、あっという間に回転計の指針は7,000rpmまで跳ね上がり、今度は一瞬下降して2速にシフトアップされ、またまた強烈な加速を始める。 料金所の徐行で苛々したのか、嫌味なくらいにピッタリと後ろに付けていた後続のクラウンアスリートの姿は一気にバックミラーの中で小さくなる。カタログデーターでは0〜100km/hは4.8秒だが、今回は完全なスタンディングスタートではく、フライングスタートだったので、恐らくデーターと同等以上だったであろうから、少なくとも5秒弱で100km/hに到達したことになる。スタート時には前の車群は遠くに見えたが、これだけの加速だと前車が見る見る迫ってくる。普通のクルマで料金所を通過後にチンタラ加速するファミリードライバーの小型ミニバンだったら、料金所を通過して5秒後の速度は恐らく50km/h程度だろうから、あっという間に追いつくのも当然だ。 そして、フル加速中の音はといえば、背中の後ろから盛大なメカ音と排気音が聞こえてくる。フェラーリほどには官能的ではないが、ポルシェ独特のメカメカしい音は、これはこれでドライバーをえらく刺激する。ところで、同じ水平対向6気筒でもボクスター/ケイマンとは音の質が異なるのは、エンジンの搭載方向が逆のために聞こえる音の発生源の位置が違うのが大きな原因だろう。特にミッションがキャビンに近い911系の場合は、当然ながらミッションの音が聞こえ 易い。
 


写真 25
こうして見比べても両車の違いは全く区別できない。
 

カレラ4のこの強力な加速は2WDのカレラとは全くフィーリングが異なり、4つのタイヤで確実に前に進んでいる安定感が伊達ではない。それに比べて2WDのカレラはもっと危うい雰囲気で加速するが、マニアにとっては2WDの方が楽しいと感じるかもしれない。今度は高速での操舵について触れてみる。前述のように、カレラ4の操舵感は2WDのカレラと比べると何となく甘い感じがするが、そこで100km/h走行時にSPORTで試してみると、結構センタリングは強くなり直進性も充分に良く、しかも手首を微妙に捻る程度でクルマはクイッと鼻先を変える。これは中々良い感じだ。


写真 26
高速道路の100km/h巡航は全く不安の無い走行で、何があっても安全に回避できそうな気がする。
 

そこで気を良くしてSPORT PLUSにしてみると、傾向は更に顕著になって、クリックなのに軽く手を添えていれば矢のように直進する。ただし、運転スキルの足りないようなドライバーだと、不意に大きくステアリングを切れば、忠実に向きを変えるから、最悪は路肩や中央分離帯と仲良くしてしまう事になる。 そして、NORMALでは低速時程ではないがセンタリングの甘さとレスポンス不足となるが、高性能車に慣れていないドライバーだと、NORMALくらいに緩慢な方が返って良いのかもし れないし、長距離の高速巡航ではベテランでもNORMALでのんびり巡航するのも良いだろう。 なお今の世の中、国産車だってクラウンクラスになれば100km/h巡航なんて眠くなるほどに安全なのだから、カレラ4の100km/hなんて他車がどんな緊急事態でも、まず自分だけは避けられそうだ、と思うくらいに余裕綽々だ。

一通りのことをやってみたので、残る課題はこのチャンスを利用して、「貧乏人の諸君、セコいクルマで、何をそんなに急いでいるんだい」という感じで左車線をユックリ走ってみるという、脳内ポルシェオーナー必須の経験をしなくてはならない。な〜るほど、これぁ中々気分の良いものだ。 そんなことをしているうちに高速の出口が近くなったてきたので更に減速しランプウェイに入る。 高速のランプウェイは場合によっては180度以上もの旋回だから、荷重移動というわけにもいかず、2WDのカレラやボクスター/ケイマンというポルシェのスポーツカーシリーズの全てが、このランプウェイの急な旋回路ではアンダーステアが結構出てしまう傾向があるのだが、カレラ4はチョイと違っ て、明らかにアンダーは少なく感じた。
 


写真27-1
試乗車に装着されていたのはオプションの19インチのスポーツデザインホイール(フロント8J×19、リア11J×9)とフロント235/35ZR19、リア295/30ZR19タイヤの組み合わせ だった。
 

 


写真27-2
カレラおよびカレラ4の標準ホイール&タイヤは18インチカレラWホイール(フロント8J×18、リア10.5J×18)とフロント235/40ZR18、リア265/40ZR18タイヤの組み合わせ。

 

高速道路を下りたら、高速と平行する側道に入って、高速のインターに沿って走ることで中速コーナーが連続する地点を走ってみる。 最初に感じるのはやはり2WDのカレラと違い全く癖のないコーナーリングで、BMWのようなニュートラル感では無いにしても、カレラに比べれば明らかに癖が無く、アンダーも弱くて、言ってみれば誰でも乗れる911という感じだ。 ただし、今回の試乗車には標準の18インチホイールに代えて、オプションの19インチが装着してあった(写真27)から、その分は多少考慮することも必要だが・・・・。

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