Porsche 911 Carrera 4 (997) (2011/12) 後編


今度はワインディング路を走ってみることにする。とはいっても、今回のコースはローリング族対策?なのか、コーナーはゼブラ模様の舗装でμ(路面摩擦係数)を不安定にして、道幅はポールやガードレールで狭くされているから、速めの速度でコーナー進入が難しいが、コーナーリングの基本特性は把握できるだろう。 今までの走行から既に予感はしていたが、ここでも癖の無さは相変わらずで、結構速めの速度でも何の小細工も無しにコーナーを回っていく。カレラの場合は、尻の先に重りをぶら下げているのがはっきり判るようなコーナーリング特性で、まあ、それを逆手に取ってのコーナーリングがマニアにとっては魅力なのだろうから、そういう意味ではカレラ4は物足りないかもしれない。


写真 28
ローリング族対策?なのか、コーナーはゼブラ模様の舗装でμ(路面摩擦係数)を不安定にして、道幅はポールやガードレールで狭くされている。
 

カレラ4は2ペダル仕様なので、997の後期モデルから採用されたDCTタイプのPDKが搭載されているが、2WDのカレラより気のせいかスタート時にギクシャクする感じがした。特に渋滞でユックリと前進している時に突然シフトダウンしてガツンっと繋がる時があった。これは後期型となって直ぐに乗ったカレラSでも感じたことなので、単に条件が悪い時に出るのかもしれない。 そんなことを考えながら走っていると、結構急な登り坂の途中にある信号が赤になったので停止する。そして信号が青に変わって、ブレーキペダルを踏む右足を素早く放して右に移動しアクセルを踏み込むが、クルマは進まないで、丁度判クラッチで止まっているような状態となり、少し遅れてから走り出す。この半クラッチが長いのかチョイと気になるが、まあ、急坂での発進なんて滅多にないから、それ程気にする事も無いが、幾らPDKが良く出来ているといっても、こういう状況ではトルコンATには未だ敵わないようだ。

今回はPDKについて何時もより注意を払っていたので、次はマニュアルによるシフトの反応をみて見た。マニュアル操作はコンソール上のATセレクターを左に倒してマニュアルモードとして、レバーを押してアップ、引いてダウンという個人的には好ましくない動作となる。このフロアーセレクターでの操作が混乱するために、ステアリングに付属するパドルスイッチを使うことにする。 なお、いつも述べているように、ポルシェは意地を張って独自のステアリングスイッチを標準装備として、世界の標準となっているパドル方式をオプションとしているが、事実上はパドルが主流で、試乗車にもオプション扱いのパドルスイッチが付いていた。なお、東京モーターショーに展示された新型911にもパドルスイッチが付いていたから、もしかしたら新型からは正式にパドル方式が標準となるのかもしれない。 さて、それでは実際にマニュアルモードを試してみる。なお、これまた今更言うまでもないが、Dレンジ(オートマモード)で走行中にパドルを操作すると一時的にマニュアルモードとなり、その後20秒ほどでオートマモードに戻る。

速度は50km/h、ギア位置は4速で1,800rpmで走行中にATレバーをMに倒し、ここで左のパドルを引くと殆どタイムラグを感じないで3速にシフ トダウンされて、回転計は2,300rpmに跳ね上がる。今度は60km/h、3速、2,700rpmで走行中に右のパドルを引くと、あれっ?反応が無い・・・と、思ったら少し遅れて4速にシフトアップされた。 PDKのようなDCTタイプのミッションは、奇数系と偶数系の二組のギアを持ち、2つのクラッチで瞬時に切り替えるのだが、反対の系統のギアが目的の位置でスタンバイしていない場合は、先にギアを入れ替えてからクラッチが切り替わる為に、そのタイムラグが発生してしまう。先ほどの例で言えば、4速で走行中にシフトダウンのスイッチを引いたときに、奇数系のギアは上手い具合に3速に入っていたから、あとはエンジンの回転合わせのタイミングで僅かに遅れるとしても、殆ど瞬時に繋がったように感じたわけだ。 これに対して3速走行時に右のパドルを引いた時には、偶数系のギア位置は運悪く2速に入っていた為に、一度2→4速への切り替えを行った後に、クラッチが繋がった為に、この入れ替え時間分だけ送れたのだろう。

ここでチョっとブレーキについての比較を行ってみる。先ずは、カレラとカレラ4の キャリパーを比較してみると、両車は全く同じキャリパー&ローターを使用しているのがわかる(図29)。キャリパーは御馴染みのブレンボ製のアルミモノブロックで、前後とも4ピストンを使用しているのが他車と異なるところだ。普通はリア2ピストンが多いが、それはリアの負荷がフロントに比べて小さいからだが、911のようにリアにエンジンがあることで、相対的にフロント負荷が小さく、その分一般的なクルマよりもリアの負荷が大きいために、前後で4ピストンという構成になる。

次に、新型(991)と現行(997)のブレーキ・キャリパーをカレラS同士で比較する(図30)と、フロントが従来の4ピストンから6ピストンへと変更になっている。以前からオプションのPCCB(カーボンセラミックブレーキ)の場合は6ピストンだったが、標準は カレラSでも4ピストンだった。 フロントが6ピストンとなったということは、フロントの負荷を大きく想定している訳で、これはより強力な減速度によりフロントへの荷重移動が大きく、如何にリアヘビーなリアエンジンといえども、減速時にはフロント軸重が大きくなるということを考慮している訳だ。 今回の変更理由は定かではないが、考えられるのはタイヤのグリップ(摩擦係数)がより強力になったことだろうか。
 


写真29-1
カレラ4のブレーキ・キャリパーはカレラと共通。
 

 


写真29-2
カレラのブレーキ・キャリパーは御馴染みのブレンボ製アルミモノブロックで前後とも対向4ピストン。
 

 


写真30-1
997カレラSのキャリパーはカレラよりもワンサイズ大きいが、前後4ピストンは変らない。

 


写真30-2
991新カレラSのフロント・キャリパーは6ピストンとなっていた。
 

 

さて、実際のブレーキフィーリングはといえば、カレラ4のブレーキは踏んだ瞬間にあれっ?と思った。何故かといえば、ポルシェのブレーキは宇宙一といわれているが、そのフィーリングはガッチガチで踏力は意外に大きく、軽く足を載せたくらいでは減速しないが、グイっと踏めば真綿を締め付けるように効いてくるし、更に踏めば踏むほど減速度が上がってくるという独特のフィーリング となっている。特にカレラSの場合は顕著で、踏み始めに遊びが殆ど無く、そこから重いブレーキを踏めば多少のストロークをするがガチガチのフィーリングで、BMWなどの軽く足を載せただけでガツンと効くような特性とは全く異なる。 これがカレラ以下、ボクスター/ケイマンなどになると初期の遊びは多少あり、そこから踏むと意外にストロークがあり、踏めば踏むほどストロークするとともに真綿を締め付けるという感じだ。ところが、カレラ4のブレーキはBMWほどでは無いものの、初期の遊びストロークが多少あり、そこから先はチョいと踏んだだけでグイっと喰いつくように効くという、ポルシェとしては珍しい特性だった。これはカレラ4だからなのか、ある時点からはカレラも同様になったのかは定かではない。 前述のようにホイールのスポークの隙間から覗くキャリパーは同一だから、この効きの違いは恐らくパッドの材質が違うのだろう。

以上、 4WDの911であるカレラ4を2WDのカレラと比較してみたが、世に言われているように確かにカレラ4は誰にでも乗れる911であることに間違いは無い。普通のドライバーが乗るにはカレラ4の自然な操舵特性は”普通のクルマ”と同じ感覚で乗ることが出来る。それでも911独特の金庫のような剛性感や、精密機械を操作しているようなステアリングやペダル類などの操作系は、普通のクルマとは違う世界を充分に体験させてくれる。まあ、最近は2WDの911もPSM(横滑り防止装置 )などの電子装置を備えているから、以前程には危険は少ないが、それでもウェットなど路面条件が悪い時にちょっとオーバースピードでコーナーに入ると、恐ろしい目に合うことには変わりないから、そういう面でもカレラ4は安全なカレラといえる。したがって、クルマ命で一生の思い出にカレラを買うというようなユーザーには文句なしで2WDを勧めるが、金があるからポルシェでも買ってみようか、という程極端ではなくとも、クルマは好きだけれど走り命ではない、というタイプのユーザーには4WDを勧めたい。考えてみれば、クルマなんかに目もくれずに勉強一筋で、その甲斐あって国立医大に合格し、その後10年の努力でやっとそれなりの高収入を得られるようになったが、ふと気付くと回りは皆良いクルマに乗っている。それなら一丁自分も買ってみるか、と思ってはみたものの、勉強一筋でクルマなんて目もくれなかったから、何を買って良いか判らない。というような場合に、 この際一気に911まで行ってしまうというのなら、少なくともカレラ4を選ぶべきだろう。えっ、普通はBMW3シリーズ辺りから入門するか、精々5シリーズだろう?って、確かにそのとおりだけれど、このように説明すれば判り易いかとも思ったもので。因みに、私立医大 出のボンボンたちは、既に学生時代から欧州車なんかに乗っていたりして、中には911ターボで通学した、なんて場合もあるかもしれない。もう40 年程前になるが、当時川崎市に新設された私立医大の学生用駐車場にはポルシェ(それも多くはターボ)、フェラーリ、ランボルギーニ等がゴロゴロあって、まるで環八辺りの中古外車屋みたいだった。

さて、4WDを選択した場合、現行の997を買うか、新型の991に4WDが設定されるまで待つかは、実に悩ましい問題だ。「最新のポルシェは最善のポルシェ」というセオリーに従えば新型ということになるが、歴代のポルシェでは大きなモデルチェンジ後は必ず先代を惜しむ声が 出てくる。確かに空冷時代はより官能的だったし、どんどんと肥大する911を考えれば初期のナロー(901)が一番911らしいとなる訳で、これまた悩ましい問題だ。ただし、これはポルシェのみならずで、メルセデスだって「最善か無か」というポリシーだった歴史に残る名作W124から、チャチなW210になった時は嘆いたし、BMWだって以前のビッグ6と呼ばれた直6 3.5Lは無くなり、 残ったスモール6も極最近は自然吸気6気筒が廃止されて、4気筒ターボになってしまうという状況であり、新型ではあのシルキーシックスは味わえなくなってしまった。

とまあ、新旧それぞれ一長一短はあるものだから、後は本人が如何考ええるか・・・・・・、という何時もの結論になってしまった。