BMW X3 xDrive 28i (2011/7) 後編 ⇒前編へ戻る


見かけ上は3シリーズに似た雰囲気のインテリアだが、実際にシートに座ってみれば、そこは背の高いSUVだから、3シリーズのようなセダンとはドライビングポジションも目の前 の視界も異なる。 SUVを買うユーザーの多くが、このポジションと眺めを求めている、ということも大いにあると思う。

シートはBMWらしく適度に柔らかい座面を持っているが、柔らかいといっても体が沈むこともなく、体全体をよく支えてくれるから当然ながら長時間の座りっぱなしでも疲れが少ない。試乗車はベースグレードのために、ファブリック表皮のシートだったが、ポジションの調整は電動式となっていた。

エンジンの始動はインテリジェントキーとインパネ上の丸いスタートボタンによるもので(写真21)、国産車なら当たり前の方式と思うかもしれないが、元を辿れば、この方法はBMWが先代7シリーズで採用したのが始まりだった覚えがある。 エンジンが掛かって、回転計が800rpm程度を指しているメーターを見て気が付くのは、メータークラスターに並ぶ4つのメーターも5シリーズと同じだということだ(写真24)。そして、5シリーズと同じ電子式のセレクター(写真22)をDに入れて、これまた5シリーズと同じパーキングブレーキスイッチを押して解除して、駐車場内をユックリと移動するときの第一印象は、チョッとステアリングが軽めだが、基本的にはBMWそのものという感じだ。公道の前で一時停止して、クルマの流れ が切れたところで軽めのステアリングを左に切りながら発進すると、歩道との段差で突き上げを食らう事も無く、また柔らかいサスと高い重心でボディが左右に揺れる事も無く本線に進入する。 ここでハーフスロットルを踏むと、クルマはBMWの自然吸気6気筒エンジンらしくスムースに加速していく。やがて前のクルマに追いついたところで、60km/h程度で巡航するが、この時の回転数は 1,500rpm程度で、BMWとしては極々標準的なものだ。この状況から、スロットルを素早く2/3程度まで踏むと、一瞬のタイムラグの後にシフトダウンが行われる。 このタイミングもトルコン式のATとしては充分に良好なレスポンスだが、これまた言ってみれば5シリーズと同じフィーリングだった。

今度は信号待ちからフルスロットルを踏んでみると、その加速は特に強力ではないが実用的には不満のないもので、ちょうど528iと同じという感じだった。考えて見ればエンジンはどちらもN52B30Aで最高出力(258ps)も最大トルク(31.6kg・m)も全く同じだし、ミッションも8速ATと、これまたおんなじ。 しかし車重はX3が1,850kgに対して528iは1,770kgと80kg重いが、 加速感に大きな違いはなかった。これはもしかすると、X3の方がローギアードな設定なのではないか、という疑問も沸いたので双方のギア比を調べてみた。

  1 ギア比較            
      ギア       オーバーオール*
    BMW
X3 28i
BMW
528i
BMW
X3 35i
BMW
535i
BMW
X3 28i
BMW
528i
BMW
X3 35i
BMW
535i
    8AT 8AT 8AT 8AT 8AT 8AT 8AT 8AT
  1 4.714 4.714 4.714 4.714 17.57 15.96 15.96 14.50
  2 3.143 3.143 3.143 3.143 11.71 10.64 10.64 9.67
  3 2.106 2.106 2.106 2.106 7.85 7.13 7.13 6.48
  4 1.667 1.667 1.667 1.667 6.21 5.64 5.64 5.13
  5 1.285 1.285 1.285 1.285 4.79 4.35 4.35 3.95
  6 1.000 1.000 1.000 1.000 3.73 3.39 3.39 3.08
  7 0.839 0.839 0.839 0.839 3.13 2.84 2.84 2.58
  8 0.667 0.667 0.667 0.667 2.49 2.26 2.26 2.05
  R 3.295 3.295 3.295 3.295 12.28 11.15 11.15 10.14
  FINAL 3.727 3.385 3.385 3.077   *ギア比×ファイナル  

  2 速度比較              
      回転数と速度(km/h)   最高出力(rpm)速度(km/h)
      1800 rpm   6600 6600 5800 5800
    BMW
X3 28i
BMW
528i
BMW
X3 35i
BMW
535i
BMW
X3 28i
BMW
528i
BMW
X3 35i
BMW
535i
    8AT 8AT 8AT 8AT 8AT 8AT 8AT 8AT
  1 13.6 14.4 14.9 15.8 49.7 52.9 48.1 51.1
  2 20.3 21.7 22.4 23.8 74.5 79.4 72.2 76.6
  3 30.3 32.3 33.4 35.5 111.2 118.5 107.7 114.3
  4 38.3 40.8 42.2 44.8 140.5 149.7 136.1 144.4
  5 49.7 53.0 54.8 58.1 182.3 194.2 176.5 187.3
  6 63.9 68.1 70.4 74.7 234.3 249.5 226.8 240.7
  7 76.2 81.1 83.9 89.0 279.2 297.4 270.3 286.9
  8 95.8 102.0 105.5 112.0 351.2 374.1 340.0 360.8
  タイヤ半径 0.351 0.340 0.351 0.339 0.351 0.340 0.351 0.339

こうして比べると、ミッションのギア比は5シリーズもX3も、しかも自然吸気(28i)もターボ(35i)も全く同じ。すなわち8速ミッションは完全に共通のようだ。ところが、ファイナルギアがX3の場合は5シリーズより低くなっているので、オーバーオールではX3がローギアードとなっていた。更に、タイヤ半径を調べてみると、X3はSUVということもありタイヤサイズが大きく、当然ながらタイヤ半径も大きいから、タイヤではハイギアードとなる。そして、最終的にはどうかといえば、やっぱりX3の方がローギアードな設定になっていた。恐らく車重の重いSUVであるX3のハンディをカバーするためと、クルマの性格上から各ギアでの伸びを抑えても問題ないと判断したのだろう。

それでは3シリーズに比べてどうかといえば、排気量的には同じ3Lではあるが、無理やりデチューンされたと思いたくなる325iの場合は、エンジンの吹き上がりがイマイチで、実際の加速よりも体感的に劣るように感じてしまう。BMWは以前から、同じエンジンをデチューンすることで、価格の下げるという商売をやっているが、これは決して褒められた方法ではないと思うのだが・・・・。
 


写真21
今や国産の軽自動車でも当たり前になったインテリジェントキーとプッシュボタン式のスターター。 しかし、この方式を量産車に採用したのは先代7シリーズ(E65)だった。

 

写真 22
現行3シリーズとは違い、5シリーズと同様のスイッチタイプの電子式ATセレクター。
手前の(P)というスイッチがパーキングブレーキ。

写真 23
今や極めて貴重な存在となった直列6気筒DOHC 自然吸気N52B30Aエンジンは、2,996ccで258ps/6,600rpm 31.6kgm/3,000rpmを発生する。
 

ステアリングは軽めだから、「BMW=ズッシリ重い」と思っているユーザーからすると、ちょっとBMWらしくないと思うかもしれない。軽いといえばアクティブステアリングを標準装備する5シリーズはBMWとしては軽めの設定だが、 勿論それとは違う。X3はBMWらしく中心付近では多少の不感帯があるが、挙動自体はSUVとしては十分にクイックだし、急なレーンチェンジをやってみても、高い車高にも関わらず車自体がグラ付くこともなく、この辺はBMWの名に恥じないものだった。 ただし、直進中に轍にステアリングを取られるような感覚が多少あって、実際にレーンが乱れることは無かったから問題にはならないが、何となく初期モデルにありがちな未完成さを感じた。

そしてX3のハンドリングはといえば、これまたBMWらしく素直でアンダーステアも弱いが、4WDシステムを使用していることから想像できるように、 3シリーズに代表されるようなRWDによるオンザレールのニュートラルステアではない。逆に電子制御の4WDによる最適な駆動力のコントロールは、コーナーリング中にはより安定した挙動を示す・・・・筈だが、今回は本気のコーナーアタックをした訳ではないので、定かではない。 X3の走行は、重心の高いSUVということを考えれば驚異的な安定性であり、先月乗ったムラーノなどとは次元が違うのを思い知らされてしまう。最近の国産車は、それだけで評価すれば決して悪くは無いのだけれど、BMWなどの欧州プレミアム系と比べると、やっぱり差が歴然としていることは事実であり、この差は依然として縮まらないようだ し、特に条件の悪いSUVにおいては、サルーン以上に差が付いていると感じる。
 


写真24
5シリーズとほぼ共通なメーターの配置で、3シリーズとは全く異なる。
 

 


写真25
高い視線はボンネット先端も確認できるから、取り回しは結構良い。
 

 

ブレーキはBMWらしく軽い踏力で良く効くし、BMWの一部の車種のように軽すぎて、チョッと踏んだらガツンっと喰い付くことも無く、適度な踏力で個人的には実に良いブレーキだと思う が、今回は高速走行をしていないので、抜群のフィーリングは少なくとも街中ではという但し下記が付く。

始めてX5に乗ったときに、ドライビングポジションは背の高いSUVにも関わらず、横Gを感じるようなコーナーリング速度でも全く安定しているし、大したロールもないという旋回性能にビックリしたものだった。 しかしその後、ポルシェカイエンSに試乗したら、あれほど驚異的だったX5よりも更に上手のコーナーリングには、これまた驚いたのだが、それにしてもBMWやポルシェが参入するとSUVの概念が変わってしまうような性能を平気で達成できるところに、これらのメーカーの技術の高さを見せ付けられた思いだった。 まあ、ダイムラーが始めて自動車を量産したのは1890年で、このころ日本では明治維新でやっと日本国憲法が出来たところだった。そして日本で乗用車が量産されたのは1919年の三菱A型だから、スタート地点で約30年もの差が付いていたわけだ。
 


写真26
SUVらしく245/50R18という大径タイヤが装着されていた。
 

 


写真27
ホイールの隙間からは普通の片押しキャリパーが見える。
 

 

今回試乗したX3 xDrive 28iの価格は598万円と殆ど600万円の世界だ。これだけ出すならば、事実上同価格(610万円)で523iサルーンが 買えてしまう。 X3の3Lに対して2.5Lだからエンジンパワーは多少劣るが、それでも1,770kgという車両重量は1,850kgのX3 28iよりも100kgも軽いから、 前述のファイナルギア比の違いを考えても、実際の体感上の加速はそれ程には違わない。 そして、ハンドリングはといえば、いくらX3が優秀といっても、それは”背の高いSUVとしては”という但し書きの元でのことで、真っ当な中型サルーンである5シリーズと比較したらば、 残念ながら勝ち目は無い。

まあ、それでも、クルマなんていうのは個人の好みの問題だし、SUVの高い運転視線が好きだとか、色々理由もあるだろう。それにX5ともなると、今や廉価版の35iでも798万円もするから、200万円安いX3 28iは実に良いところを狙っている、とも言える。

そしてX3の場合は”3”とはいうものの、メーターやATセレクターは5シリーズと共通だから、ある面では5シリーズに近い性格でもある。3シリーズセダンの次期型では、これらが採用されるのか、それとも 相変わらず5シリーズとは差別化されるのかで、X3の立場も大いに変わることにもなる から、これはチョッと楽しみだ。

という訳で、X3の立場は相変わらず微妙でもあり、欲しい人はどうぞ、というのが結論かな。
 

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