Nissan Murano 350 XV FOUR (2011/4) 前編
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トヨタのオフロード4WD車は戦後の警察予備隊用装備への入札まで遡るということはランクルプラドやFJクルーザーの試乗記で紹介済みだが、実はニッサンも警察予備隊の入札に参加していた。結局、正式採用されたのはミツビシが米ウイリス車からのライセンスでノックダウン生産したジープとなったが、ランクル同様に民間用へと転用したのがニッサン パトロール(1951年〜)
で、その名のとおり、警察や町役場、そして消防用にと販路を求めた。ランクルが荒川車体で生産されたのと同様に、パトロールも新日国工業(現日産車体)と高田工業によって製造されていた。
2代目パトロール(60系)は1960年から1980年までというロングセラーで、1980年からは国内名称をサファリと改名した160型へとFMCされた。そして世の中はバブル景気へと突入し、それに伴い大型4WDブームが発生し、それまで個人が買うことの無かったパジェロに代表されるオフロードタイプの4WD
車がファミリーカーとして売れ始めた訳だが、このころ(1987年)サファリは
2代目のY60へとFMCされた。このY60はレンジローバーやメルセデスGなどと同等のコイルリジット方式のサスペンションを採用したことで、世界的にもトップクラスの走破性を有したことから、国内外の業務用オフロード車両としての実績は充分にあったが、ファミリーカーとしては本格的過ぎて、国内販売ではパジェロは勿論、ランクルにも大きく水を空けられていた(図1)
が、この本物感を好むマニアも存在したことから、最盛期は巨大なハイルーフのサファリが街を走る姿もしばしば目撃できた。当時の海外ニュースを見ると、湾岸戦争で使用される白いY60サファリ(現地名はパトロール)は、定番であ
り、英字新聞では、この白いUN向けのパトロールをUNジープと表していた。
サファリとは別に、1986年、日産はダットサン4WDピックアップトラックをベースにしたオフロード向けワゴンを日本国内ではテラノ、米国ではパスファインダーとして
発売し、ハイラックスサーフ(米国では4ランナー)と人気を二分することになる。このテラノが本格的に人気を得て、ブームに乗ったのは1989年に4ドアモデルが発売されてからで、パジェロ、ハイラックスサーフと共に、バブル時代のオフロードブームの定番車両ともなっていた。しかし、このブームもバブル崩壊と共に長くは続かず、その後は細々と改良しながら1995年まで国内販売されていた。
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写真1 (1987年〜)
世界でもトップクラスの走破性を持つ本格派だが、個人ユーザーは限られていた。それでも、この本格的な雰囲気を好む一部のマニアには好評だった。
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写真2 (1986年〜)
ダットさんトラックをベースにワゴンかされたのがテラノで命国ではパスファインダーと命名され、ハイラックスサーフ(芸国名4ランナー)の良きライバルだった。 |
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ピックアップトラックベースの4WD車が落ち目になるのと入れ替わってブームとなったのがSUVで、背の高いボディーによる悪路の走破性はあるものの、ベースはあくまで乗用車であり、乗り心地や挙動もトラックベースの4WD車に比べて遙かに乗用車的で、ファミリーユースでも使いやすいことがブームの原因
のようだ。SUVの本家といえば1994年発売のトヨタ RAV4であり、カローラなどのパーツを流用したナンチャってオフローダーであり、本格的なオフロードマニアからはひんしゅくモノだったが、一般ユーザーには結構うけたようだ。その後1995年にはホンダがRAV4より一回り大きいCR-Vが発売し、RAV4から一気に人気物
の座を奪ってしまった。
RAV4やCR-Vは、その後モデルチェンジにより、より大型化して現在に至っているが、米国で人気のSUVといえば、これらよりも大型のモデルで、そのルーツは1998年にトヨタが米国のレクサスチャンネル用に発売したRX
だろうか。このクルマは日本ではハリアーという名称でトヨタブランドとして販売され、比較的買い得の価格設定もあり、一気に人気商品となった。なお、ハリアーは2009年の現行モデルからはレクサスに移管され米国と同様にRX
(写真4)の名称で販売されているが、先代モデルは依然ハリアーとしてトヨタブランドでの販売が続いている(写真3)。
高級版のRXに対して米国ではトヨタブランドの兄弟車であるハイランダーも発売され、これは日本でもクルーガー(2000年〜、写真6)としてハリアーより低価格なモデルとして販売されていたが、2代目からは海外専用モデルとなり、国内モデルは事実上の後継がヴァンガードとなっている。
このクルーガーに対する日産のSUVが2002年に発売された初代ムラーノ(Z50)で、最初は米国でのみ販売されていたが、2004年からは日本でも販売された。その後、ムラーノは2008年に2代目(Z51)へとFMCされ、2011年に後期モデルへとMCされ
て現在に至っている。
日本でのムラーノのラインナップを見ると、2.5Lモデルが2WDと4WDにそれぞれ2グレード、合計4グレード用意されているのに対して、3.5Lモデルは4WDの1グレードのみとなっている。2.5Lモデルの価格帯は297.2〜389.9万円と幅が広く、最廉価グレードの250XLは300万円を辛うじて切っている。
以上を踏まえて、ムラーノのライバルを3.5LはレクサスRX350、2.5Lはハリアー240Gとして、主要諸元を比較してみる。ニッサンとトヨタだけでは片手落ちなのでもう一つ加えるに当って、国産の同クラスSUVを探してみたが、ホンダCR−Vは全長4,565mm
、ホイールベース2,620mmと小さく、価格帯も少し安いから、これはワンクラス下のクルマということになる。そこで選んだのがマツダ CX−7で、サイズ的にはムラーノと同クラスといってもいいだろう。え〜っ、マツダあ〜。何ていっているのは
誰だ!ことわざに
もあるように「マツダ車を笑うものは。マツダ車に泣く」・・・・って、ちょっと無理があったかな。
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@ Nissan |
A
Lexus |
B Nissan |
B Toyota |
C Mazda |
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Murano
350XV Four |
RX 350
Version L 4WD |
Murano
250XL |
Harrier 240G
Premium
Package |
CX-7 |
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車両型式 |
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CBA-PNZ51 |
DBA-GGL15W |
CBA-TZ51 |
CBA-ACU30W |
CBA-ER3P |
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寸法・重量・乗車定員 |
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全長(m) |
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4.845 |
4,770 |
4.845 |
4.735 |
4.695 |
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全幅(m) |
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1.885 |
1,885 |
1.885 |
1.845 |
1.870 |
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全高(m) |
|
1.730 |
1,690 |
1.700 |
1.680 |
1.645 |
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ホイールベース(m) |
2.825 |
2,740 |
2.825 |
2.715 |
2.750 |
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駆動方式 |
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4WD |
← |
FF |
← |
← |
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最小回転半径(m) |
|
5.9 |
← |
← |
← |
← |
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車両重量(kg) |
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1,840 |
1,950 |
1,650 |
1,610 |
1,660 |
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乗車定員(名) |
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5 |
← |
← |
← |
← |
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エンジン・トランスミッション |
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エンジン型式 |
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VQ35DE |
2GR-FE |
QR25DE |
2AZ-FE |
L3-VDT |
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エンジン種類 |
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V6 DOHC |
V6 DOHC |
I4 DOHC |
← |
I4 DOHC Turbo |
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総排気量(cm3) |
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3,498 |
3,456 |
2,488 |
2,362 |
2,260 |
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最高出力(ps/rpm) |
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260/6,000 |
280/6200 |
170/5,600 |
160/5,600 |
238/5,000 |
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最大トルク(kg・m/rpm) |
34.3/4,400 |
35.5/4,700 |
25.0/3,900 |
22.5/4,000 |
35.7/2,500 |
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トランスミッション |
CVT |
6AT |
CVT |
4AT |
6AT |
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燃料消費率(km/L)
(10/15モード走行) |
9.3 |
9.4 |
11.6 |
11.0 |
9.3 |
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パワーウェイトレシオ(kg/ps) |
7.1 |
7.0 |
9.7 |
10.1 |
7.0 |
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サスペンション・タイヤ |
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サスペンション方式 |
前 |
ストラット |
← |
← |
← |
← |
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後 |
マルチリンク |
ダブルウィシュボーン |
マルチリンク |
ストラット |
マルチリンク |
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タイヤ寸法 |
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235/55R20 |
235/60R18 |
235/65R18 |
235/55R18 |
235/60R18 |
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価格 |
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車両価格 |
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447.0万円 |
540.0万円 |
297.2万円 |
303.3万円 |
295.0万円 |
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備考 |
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ナビ標準装備 |
← |
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ムラーノ350とレクサスRX350は、スペックで見るとほぼ同一となっているが、価格は100万円もムラーノが安い。まあ、プレミアムブランドのレクサスと一般ブランドのニッサンでは当然の価格差・・・・・・と、割り切れるユーザーは良いとしても、何やら納得できない読者も多いのではないか。しかも、先代はハリアーとして良心的な価格を設定していただけに、価格上昇はトヨタの単なる戦略であることが丸見えになっているところが辛い。
それでは、この2車の米国での価格はというと
ニッサン ムラーノ(3.5L) $29,290(S FWD)〜39,900(LE AWD)
レクサス RX350 $39,075(4×2)〜40,475(4×4)
確かにムラーノの廉価グレードと比較すればRXとの価格差は1万ドルだから、日本で100万円違っても当然だが、上級グレードになれば殆ど同じ価格となる。詳細は装備を比べないと何とも言えない
ので、今回はこれ以上のコメントはしないことにする。
2.5Lモデルに目を移せば、未だに販売されているハリアーは4ATなんて流石にスペック的には古さを感じるが、それなりに売れているようだ。CX−7については、排気量は2.3Lではあるがターボを装着していることから性能的には3.5Lモデルに相当する。
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写真3
既に旧型となった現在でも、トヨタハリアーとして継続販売されている先代RX。
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写真4
現行車は米国と同様にレクサスブランドとなっているRX。
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写真5
主として米国向の先代ムラーノは、日本での売り上げはチョット寂しいものだった。 |
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写真6
レクサスRXのトヨタブランド廉価版のハイランダーは日本では販売されていない。
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ここで、米国の状況を調べてみよう。
ニッサンのレクサスに対するプレミアムブランドはインフィニティであり、インにティのSUVでRXと同クラスといえば、EX35があるが、これは日本ではスカイラインクロスオーバーとして販売されているのを見れば判るように、SUVというよりもサルーンに近いクロスオーバーと呼ばれるカテゴリーのクルマとなっている。他にインフィニティーブランドのSUVは日本で未発売のFXがあるが、FXはBMW X5やポルシェカイエン等のクラスに属するから、RXとは市場が異なる、というように、米国のプレミアムSUV市場ではニッサン(インフィニティ)とトヨタ(レクサス)は真っ向勝負ではなく、少し違う分野で夫々が商売をしていている事になる。
ところで、米国向けのムラーノではあるが、その米国での販売実績はどんなものなのだろうか、ということで調べてみたら、2010年の販売台数では
ムラーノ 53,999台
レクサスRX 95,790台
とRXが圧倒していた。さらに、トヨタブランドのハイランダーはといえば
トヨタ ハイランダー 92,121台
と、これまたRXと同等の販売台数を誇っていた。
それではマツダCX−7はといえば
マツダ CX−7 28,788台
と、ムラーノと比べても半分程度だった。
何やら、ムラーノは米国でも大ベストセラーというわけでもなさそうだ。
とはいえ、日本国内でのムラーノの現状は更に悲惨で、以下の2010年販売台数をみると、
ニッサン ムラーノ 3,473台
レクサスRX 5,300台
トヨタ ハリアー 10,393台
マツダ CX−7 627台
高価で割高なレクサスRXにも及ばず、旧型の継続販売であるハリアーには3倍もの差をつけられている。
さて、今回の試乗車はムラーノのラインナップでは最上級となる350XV FOUR 4WDで価格は447万円。マイナーチェンジといっても、外観上では前期モデルと区別することは殆ど出来ないが、強いて言えばリアのテールランプがLED化され
たのだろうか、レンズの色が赤から透明になった程度だ(写真7〜9)。
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写真7
フロントから見た場合の前期型との違いは、バンパー内のエアインテーク形状の多少の違い程度しか見当たらない。
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写真8
リアの形状も基本的には前期型と同じで、良く見るとテールライトが流行のLED化されれいるようだ。
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写真9
この角度から見ても前期型との違いは判らない。
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写真10
350の場合、テールゲートは欧州製の高級SUVと同様に、プッシュスイッチを押すと電動で開閉できる。
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前置きが長くなったが、それでは試乗車を見てみよう。
ムラーノの場合、試乗車の350XVの内装はレザーが標準となっていたが、350どころか250もベースグレードの250XLがファブリックシートである以外は全てレザーシートが標準となっている。
シートのレザー表皮は座面が通気穴付きでサイドは適度のシボのあるレザーが使われているが、何となくビニールっぽいのは気のせいだろうか、と思ってカタログを見たらば小さな字で欄外に「本皮シートは、シートメインに本皮を、その他の部位は人口皮革を使用しています」だそうだ
(写真13)。
ドアのインナートリムも、ビニールっぽいレザー(多分人工皮革)を多用しているが、ちゃあんとステッチも入っている。 これは、よ〜く見なければ、レザー仕上げの高級なインテリア、とも感じる訳で、高級SUVとしての満足感は、あると言えばある。
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写真
11
ムラーノは250のベースグレード以外は全てレザーシートが装着されている。
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写真12
シート調整は当然ながら電動式。
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写真13
レザーシートとはいっても、シートメインに本皮を、その他の部位は人口皮革を使用している。
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写真14
ドアトリムは人口皮革を主としていて、ステッチも入っていて結構な高級感がある。 |
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写真15
ドア側のパワーウィンドウスイッチの質感もマアマア。 |
次にダッシュボード付近を見てみると、結構出来は良いが400万円超の価格を考えれば当然でもある。ただし、高級感といってもフーガ的なものではなく、ミニバンのエルグランドの系統の豪華さを感じる。
ナビは標準装備で、ニッサンの上級車に共通のダイヤルを中心にボタンを配置したものだ。
ただし下の写真のように、ATセレクターやオーディとエアコンの操作パネルのデザインは、個人的には安っぽく感じるが、どんなものだろう。
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写真16
ダッシュボードを中心に室内を見ると、第一印象では結構豪華で高級そうに見える。 |

写真17
ニッサンの上級車に共通のデザインのナビ操作パネル。
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写真18
オーディオとエアコンの操作部は何となく安っぽいデザインに感じるが・・・。
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写真19
フロントセンターアームレストの中には小物入れがあり、内部にはオーディオ&ビデオ用のピンジャック入力端子がある。
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写真20
リアのドアトリムもフロントと共通デザインのもの。
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さて、室内も見回したところで、これからエンジンを始動して走り出すことにするが、この先は後編にて。
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