Nissan Murano 350 XV FOUR (2011/4) 後編


エンジンの始動は今ではそれが当然となっている、インテリジェントキーとプッシュボタンを使用する。 エンジンが目覚めると、僅かな振動と音を伴っていて、同じV6 3.5L級のサルーンのような静けさというか高級感は無い。ブレーキを放すとアイドリングでゆっくりと動き出し、僅かにアクセルを踏むと飛び出すこともなく低速で前進する。何時もの国道に合流して、ハーフスロットル程度での加速をするが、3.5Lのトルクは充分で、適度に速度を上げていく。 片側2車線とはいえ運悪く前方に遅い2台の軽自動車が左右の車線に並んで走っていた。1級国道の4車線バイパスだから制限速度は当然ながら法廷速度の60km/hだが、前の車はどちらも45km/hくらいで並んで走っているからいい迷惑だ。しかも、2台とも典型的なヘボドライバーの運転で、速度は一定せず、車線の中を右へ行ったり左へ行ったりフラフラと走っている。 まさか本人たちは安全運転のつもりじゃないだろうなぁ、なんて思いながら後ろに追従する。その程度の速度での巡航時だと回転計の針は1,200rpm程度を指している。

途中から地方道へ入り前車の後に続いて50〜60km/程度で巡航する。この時も回転計の指針は1,100〜1,300rpmという低い回転数を維持している。やがて前のクルマが右にウィンカーを出して停止し、数十秒後に右折したので、2/3スロットル程度で加速してみると、確かに3.5Lのトルクは感じるのだが、決して強烈な加速という程ではない。 その後、再度国道に出てから、ATのマニュアルモードを試してみる。ムラーノ350のミッションCVTであるが、マニュアルモードでは6速をシミュレートする。 セレクターをDから右側に倒して、前方に押すとアップ、手前に引いてダウンという国産車に多いパターンで、この時は50km/hで5速(1,300rpm)だった。ここで、セレクターを引くとメータークラスター内のインジケータは4速を表示する。 ここでの回転数1,600rpmと、少し上がった程度だったので、更にもう一度セレクターを手前に引くと表示は3速となり、回転計の針はやっと2,000rpmまで上がる。この状態から、加速を始めるが、2段のシフトダウンをした割には回転数自体が低くて、期待するほど加速は得られない。普通は2段落とせばもっと高回転からガーっと加速するだろうに。

その後もATモードでのフル加速などもやってみたが、ATモードではCVTのために3.5Lエンジンを積んでいる事を考えれば、思いの他加速は緩慢だった。車両重量が1,840kgに対して260psだからP/Wレシオは7.1kg/psとなり、結構早い筈なのに、どうもスペック倒れに感じる。この元凶は、やはりCVTを採用していることだろう。 そういえば、昨年の秋に試乗したエルグランド350も同じエンジンVQ35DEとCVTを搭載していたが、今回のムラーノは性能的にはエクストレイルに対して280→260os 35.1→34.3kg・mと幾分スペックダウンしている。その代わりにエルグランドの車重は2,020kgもあるためにP/Wレシオでは同等なっている。 そして、エルグランド350も確かにスペックの割には大した加速はしなかったが、少なくともフルスロットルを踏んだ時の回転上昇は同じCVTといえ、もう少しレスポンスが良かったような気がする。


写真31
エンジン始動は当然ながらスマートキーとプッシュボタン方式による。

 


写真32
国産高級車の証である自光式メーター。それでも、最近の傾向で、以前ほどケバケバしく無くなった。
 

 


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コンソールの前方、先端にあるのは4WDモードスイッチ(オート/ロックスイッチ)とシートヒーターのスイッチ。
 

 

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ATセレクターのパターンも極々オーソドックスなもの。
 


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ダッシュボード右端の下部には各種スイッチ類が並ぶ。右から、VDCオフ、給油蓋のオープン、リアシートバック復帰(右、左)。
 

 


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SUVらしく高い視線の運転席は見晴らしが良い。
 

 

ムラーノ350のステアリングは低速では軽く、交差点の左折では片手で簡単にクルクルと回せる。速度が上がってくれば幾分重くなるようだが基本的には軽い。 これはエルグランド350が重めでセンタリングが強かったのとは対照的だ。エルグランドがFFに対してムラーノは電子制御カップリングによる4WDということもあり、走行中の安定感では勝っているように感じる。 ムラーノで決して広くは無く、適度に曲がくねっている一般道を走行すると、安定感というか安心感のようなものは感じるし、乗り心地もしなやかで中々良く、SUVとしての走り自体は悪く無い。

そこで、エルグランドでも走ったコーナーに入っていくと、アンダーステアは感じるが結構素直な特性は好感が持てるが、重心の高いボディによるロールを感じることから、コーナーリング速度を上げるのはチョッと躊躇してしまう。 直進や緩いカーブ程度では乗り心地と安定性の良さを感じて、結構好評価をしようと思ったが、ある点を越えた横Gでのコーナーリングは、行き成りレベルが下がってしまう。

ムラーノの4WDは各種のセンサー情報から最適なコントロールを行うヨーモーメントコントロールを搭載しているために『ドライバーが狙うコーナーリングライン(ターゲットライン)を予想しながら、実際の走りを理想に近づけるよう、自動的に極めて細かい前後トルク配分をおこなう』という。 確かに実際に走ってみると、そのとおりで・・・・・と、言いたいが、それ程では無かった。

SUVというのは本物のクロスカントリー車が、トラックベースのヘビーデューティーな悪路作業や軍隊、警察向けの車種だったところに、乗用車テイストのオフロードも走れるレジャーカーとして発展して物だが、それでも真っ当なサルーンと比べればコーナーリング性能などは劣るのが当たり前だった。 そんな常識を覆したのはBMWのX5で、始めてX5を運転したときには、背の高いSUVのくせにパッセンジャーが横Gを感じるような旋回性能に驚いたものだった。 その後、ポルシェカイエンに至っては更に上手ということで、これらのクルマが当たり前と勘違いをすると完全に基準が狂ってしまうが、ムラーノやハリアー(レクサスRX)が本来の性能なのかもしれない。
 

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V6 3,498cc 260ps/6,000
rpm、34.3kg・m/4,400rpmを発生するVD35DEエンジン。
エルグランドと同一型式だが、パワーは20ps少ない。

停車中にブレーキを踏んだ見たらば、ペダルはグニューっと奥へ入っていく。あれゃ、これはちょっと。軽自動車じゃぁあるまいし、と嫌な予感がしたが、実際に走行状態からの減速では踏力が軽いことから、そんなにべダルが 奥に入ることも無かったが、 パニックブレーキの時はどうだろうか?エルグランド350の場合はミニバンとしては驚く程に剛性感があってシッカリしたブレーキだったのに、何が違うのかと思ってフロントホイールを覗いてみたらば、エルグランドは鋳物の片押しとはいえ立派な2ピストンのキャリパーを装備していたのに対して、ムラーノは小型乗用車みたいな1ピストンだった。 カーメーカーとしては、購買対策上複数の部品メーカーと付き合いを持つのが常識だから、エルグランドとムラーノが別のブレーキメーカーから購入しているのは不思議ではない。が、性能で差がつくのはイマイチ問題ではないか。 特にブレーキというのは安全上からも最重要ぶひんなのだから・・・・。


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350XVは235/55R20タイヤを標準装備とするが、20インチの大径ホイールの中のブレーキディスクは小さくスカスカだ。
 

 


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フロントキャリパーは エルグランドが2ポットを装備しているのに対して、こちらは乗用車並みの1ポットを使用している。
 

 

ところで、ムラーノの売れ行きはどの程度なのだろうか、と思って調べてみたら、2010年の販売台数では年間に約3,500台だった。これに対してライバルであるヴァンガードはといえば約26,000台で、なんと桁が違うではないか。更に旧型 を今でも売っているハリアーだって約10,000台も売れている。要するにムラーノはマイナー車なのだった。 そうかムラーノは本来、米国人好みの米国向け専用車だから、日本ではマイナーでも米国では大いに売れているのだろう、と思って調べてみたらば、2010年に約6万台弱が売れていた。成る程、国内の20倍近くも売れている。ところで、ライバルはどうなのかと思ってついでに調べてみたらば、ハイランダーもレクサスRXも夫々9万台ほど売れていた。なんと、ムラーノよりも売れているじゃあないか。

今回乗った結果としては、SUVとしては結構イケている方だし、設計が新しい分だけハリアーよりも洗練されてはいるし、SUVだかミニバンだか判らないようなヴァンガードよりは 余程マシだし、と思っても、販売実績では明らかなマイナー車種となってしまっている。結局日本でムラーノは、あくまでもムラーノに惚れ込んだ奇特なユーザーのためのクルマということにな ってしまっている。