Alpina B5 BiTurbo (2011/3) 前編


アルピナはドイツの事務機メーカーALPINAの2代目、ブルカルト・ボーフェンジーペンが1961年に 事務機器製造のノウハウを生かしてオリジナルのツインキャブレターを開発し、BMW1500に搭載したのが始まりで、その後はBMWをベースとするレーシングカーを開発し、1970年には欧州ツーリングカー選手権を初めとして多くの耐久レース、そして全てのドイツ選手権を制覇するという快挙を打ち立てた。 その後アルピナ社はBMWの公式チューナーとして、以前はユーザーが自らのBMW車を持ち込み、これに改造を施してアルピナモデルとしていた 。しかし現在ではBMW社からホワイトボディーを供給されて完成車の状態で販売されるている。 MモデルがBMWのラ一ナップの一つであるのに対してアルピナは全く別の独立したメーカーであり、日本においてもBMWジャパンは関与していない。アルピナは日本では 以前からニコル・オートモービルズが総代理店として直営店で販売しているが、今ではBMWの主力販売店でも取り扱っている。

現在のアルピナは、オリジナルのBMWでは性能も内装も満足できない、一部のユーザーの欲望を満たすために、BMWをベースとして極めて贅沢なスペシャルカーを生産している。2010年のアルピナの生産台数は全世界で950台。そのうち日本向けは202台で大部分は3シリーズベースのB3ということで、今回紹介するB5は今のところ日本のユーザーに渡ったのは3台という貴重なクルマだ。 ところで、最近のアルピナのモデル名は3シリーズベースがB3、5シリーズがB5、7シリーズがB7と極めて判りやすいが、少し前まではもっと 判り辛い体系だった。例えば5シリーズの場合はB7、B9、B10などと命名されていて、B5となったのは先代のE60からだった。

アルピナB5は世間での認知度は決して高くないから、クルマ好きの読者とは言え詳しい状況は判らないのではないか。そこで、先ずは同じくBMW5シリーズをベースとした高性能車であるM5や、オリジナルのBMW5シリーズとの違いについて纏めてみよう。
なお比較にあたって、5シリーズは一昨年に先代E60から新型F10にFMCされが、M5については未だ新型が発売されていないので、仕方なく既に販売終了となったE60で比較することに する。さらに、ベースとなるBMW550iとアルピナB5をそれぞれ新旧(F10vsE60)の比較もしてみる。
 
    Alpina BMW BMW Alpina BMW
      B5 BiTurbo(F10) 550i(F10) (旧)M5(E60) (旧)B5 Super
Charge (E60)
(旧)550i(E60)
 

車両型式

  N/A ABA-FR44 ABA-NB50 ABA-XH12 ABA-NW48

寸法重量乗車定員

全長(m)

4.910 4.870 4.855

全幅(m)

1.860 1.845

全高(m)

1.490 1.475 1.470

ホイールベース(m)

2.970 2.890

駆動方式

FR
 

最小回転半径(m)

  N/A 5.5 N/A N/A 5.3

車両重量(kg)

  1,950 1,960 1,880 1,790 1,810

乗車定員(

  5

エンジン・トランスミッション

エンジン型式

  N/A N63B44A S85B50A N/A N62B48B

エンジン種類

  V8 DOHC Turbo V10 DOHC V8 DOHC S.C. V8 DOHC

総排気量(cm3)

4,394 4,998 4,398 4,798
 

最高出力(ps/rpm)

520/5,500 407/5,500 500/7,750 537/5,500 367/6,300

最大トルク(kgm/rpm)

72.9/3,000
-4,750
61.2/1,750
-4,500
53.0/6,100 74.0/4,750 50.0/3,400

トランスミッション

  8AT 7DSG 6AT 6AT
 

 燃料消費率(km/L)
(10/15モード走行)

N/A 8.3 N/A N/A 7.4
 

パワーウェイトレシオ(kg/ps)

3.8 4.8 3.8 3.3 4.9

サスペンション・タイヤ

サスペンション方式

N/A ダブルウィシュボーン ストラット N/A ストラット

N/A インテグラル・アーム インテグラル・アーム N/A インテグラル・アーム

ブレーキ方式

前/後 N/A Vディスク/Vディスク N/A Vディスク/Vディスク
 

タイヤ寸法

前/後 Fr:255/35ZR20
Rr:285/30ZR20
Fr:245/45R18
Rr:275/40R18
Fr:255/40ZR19
Rr:285/35ZR19
Fr:245/35ZR20
Rr:285/30ZR20
245/40ZR18

価格

車両価格

1495.0万円 1,040.0万円 1,410.0万円 1,745.0万円 1,020.0万円

備考

RHD:+39.7万円

   

2007model

2008model

現行(F10)のアルピナB5とBMW550iは基本的に同じエンジンだが、スペックではB5がパワーで113ps、トルクで11.7kgmも上回っている。そして、価格は550iの約1.5倍となる。 とはいえ、550iでも新旧ともパワーウェイト(P/W)レシオが5kg/psを切っているから、世間の常識では充分なハイパワー車だが。
M5は、先代F10と比べる限りでは、パワーこそ同等の500psとはいえ、F1譲りのM5のV10 5.0Lエンジンは、市販車としてはかなりハイチューンのレーシングエンジンに近い特性だから、低回転域でのトルクが細くて、街乗りには適さないのに対して、B5は強力な低域トルクのお陰で街中でも充分なトルクを発生する 、というように、両者の設計思想は大きく異なる。
先代(E60)アルピナB5はスーパーチャージャーで過給されることで537psという新型よりもパワーは勝っているし、車両重量が160kgも軽量なことから、P/Wレシオでは現行よりも勝っている。 
 


写真1
1970年、アルピナは欧州ツーリングカー選手権を初めとして多くの耐久レース、そして全てのドイツ選手権を制覇するという快挙を打ち立てた。
 

 


写真2
先代E60ベースのM5はアルピナと異なり、自然吸気のV10 5LというF1譲りのエンジンで500psを7,750rpmという高回転で発生する。
 

 


写真3
先代E60ベースのアルピナB5 Super Charge。
V8 4.8Lで537psを発生した。
 

 


写真4
現行BMW5シリーズ(F10)、写真は535i。

 

今回の試乗車はベース価格 が1,495万円で、さらにオプションとして右ハンドル(39.7万円)、アルピナグリーン塗装(55万円)、 アダプティブドライブ(21.2万円)、アルピナアイデンティティ&パイピング(シートにパイピングとエンブレムが付いて59.8万円!) 、電動ガラスサンルーフ(17万円)、ルーフライニングアンソラジット(6.5万円)、ソフトクローズ(9.3万円)、 リアビューカメラ(9.6万円)で合計218.1万円が装備されて、1,713.1万円也。何と、オプション代でヴィッツRSを買ってお釣りがくるばかりか、レガシィB4 2.5i(220.5万円)が買えてしまう!FRのB5のオプション代で4WDのB4が買える?
ところで、5シリーズに詳しい読者ならば、リアビューカメラって標準装備じゃあなかったっけ?と思うだろう。ところがアルピナではオプションとなっている。この理由を想像してみたのだが、もしかしてオーナーによっては「リアビューカメラなんて邪魔くさいものはいらない」というベテランドライバーがいるから、とか?
それじゃあ、550iに標準のコンフォートアクセスやヘッドアップディスプレーがB5ではオプションなのは何でだろう 、なんていう突っ込みもあるが。まさか、どうしても価格を1,500万円以下にしたかった・・・・なんて事は無いとは思うが、E63 AMGと同価格となっているところをみると、強ち間違いでもなさそうだ。クルマに 1,500万円も出せる金持ちが、そんな細かいことを言うのか?という読者もいるだろうが、金持ちほど金にシビアだったりする。いや、だからこそ金持ちになった、とも言えるが。

B5のエクステリアは基本的にはBMW5シリーズの標準モデルに準じていて、同じ5シリーズでもMスポーツと比べるとB5の方が大人しいくらいだ (写真5)。それでもよく見れば、20インチの大径タイヤと超扁平(リアは30)タイヤが目に付くし、ボディサイドにはお馴染みの細くて複雑なラインのストライプ (写真12)で、判る人にはこのクルマがアルピナだということが判明する。

次にリアからの眺めはというと、これも基本的には5シリーズに準じていて、最大の相違点はトランクリッドの後端に控えめなスポイラーが着いていることと、左右に各2本の太い排気管が見えることだ (写真6)。勿論、一番判りやすいのはエンブレムで、左側に”ALPINA”、右側に”B5 BITURBO”という文字が輝いている (写真10)。

B5のボディカラーは5シリーズに設定してあるのと同じものが用意されている。これはアルピナが塗装済みのボディをBMWから購入しているためだ。ところがBMWには無い、アルピナ独特のカラーが今回の試乗車のアルピナグリーンと、アルピナの代名詞的なアルピナブルー (写真8)であり、これはBMWのラインで量産が出来ないためにオフラインでベテラン職人による作業となるために、55万円ものオプション価格が必要となる、との事だった。
 


写真5
M Sportsに比べればむしろ大人しいアルピナのフロントエンド。
 


写真6
リアエンドは基本的には5シリーズと大きく変わらないが、トランクエンドの控えめなスポイラーと左右各2本の太い排気管が特徴となる。
 


写真7
M Sportsの場合はリアも標準の5シリーズとバンパーが異なる。


写真8
グリーンと共にアルピナの特別色といえば、アルピナブルー。グリーンよりもこちの方が定番だ。写真は7シリーズベースのB7で、価格は2,120万円!
 


写真7
この角度から見ると、太い排気管と細いスポークの大径ホイールでアルピナと認識できる程度だ。
 

 


写真8
トランクは5シリーズセダンと全く同じ。
 

 


写真9
BMWと同様のリング型のスモールランプ。

 


写真10
リアトランクリッドを見れば、”ALPINA” ”B5” そして ”BITURBO”のエンブレムがある。
 

 


写真11
サイドから見ると、大径ホイールとストライブというアルピナの特徴が良く判る。
 

写真12
サイドのストライプは、結構複雑なラインを持っている。

B5には、これ見よがしの派手なパフォーマンスは一切無いから、知らない人がみれば只の5シリーズに見える。まさか、このクルマが520psのエンジンで300km/h超の最高速度が出るなんて思わないだろう。その控えめな上品さこそが、同じ5シリーズベースの高性能車でも 、M5との大きな違いとなる。

それでは次にインテリアを見てみよう。
続きは中編にて。

⇒中編へ