BMW New(F10) 528i Touring M-Sports (2011/6) 後編 ⇒前編


5シリーズでエンジン始動から走り出すまでの手順は、今更いうまでもないから、今回は省略して早速走り出すことにする。

駐車場から国道に出て、速い流れに追い付こうと2/3程スロットルを踏んでみると、クルマは軽快に加速する。あれっ、528iって、こんなに速かったっけ?  考えてみれば528iと名乗ってはいても立派な3Lだし、258ps/6,000rpm、 31.6kg・m/3,000rpmという性能はE60(先代)530iの272ps/6,650rpm、30.6kg・m/2,750rpmと比べて、最大トルクでは寧ろ上回っているし、最高出力においても650rpm低い回転数で14ps少ないだけで、事実上同等となっている。 すなわち、スペック上で比較しても、充分に速かったE60の530iツーリングと同等性能が期待できるわけで、528iツーリングが充分に速いのは当然だったのだ。

5シリーズにはNORMAL、SPORT、SPORT+の3つの走行モードを持つダイナミック・ドライビング・コントロールが標準装備されていて、ここまではデフォルトのNORMALで走ってきた。前述のように思いの他軽快な加速をする528iだが、10分ほど走って冷静になってみると、 アクセルレスポンスやATのシフトスケジュールも穏やかだし、キックダウンのレスポンスも決して迅速とはいえない。NORMALでの巡航では、回転計の指針は
1,200〜1,500rpmくらいを指しているから、巡航状態から加速が必要になる場合、少しくらいアクセルを踏んでも加速は緩慢だし、キックダウンでシフトダウンを狙っても加速を開始するまでのタイムラグはどうしても感じてしまう。
そこで、今度はSPORTに切り替えてみると、巡航中の回転数が500〜800rpmくらいアップする。すなわち、国道で流れに乗って巡航している場合は2,000〜2,300rpmくらいであり、この回転数だと特にキックダウンをしなくても、軽くアクセルを踏むだけである程度の加速が得られる。勿論、アクセルを強く踏んでキックダウンによるシフトダウンを狙った場合でも、NORMALに対してより早いレスポンスでシフトダウンが起こり、そこからは軽快に加速する。

SPORTのままで今度は発進加速をやってみる。Dレンジに入れて信号が青になってからフルスロットルを踏むと、車重1,900kgと決して軽くは無いクルマだが結構勢い良く飛び出して、エンジンは軽快に吹けあがり 5,500〜6,000回転(約50km/h弱)くらいまでシッカリと引っ張ってから2速にシフトアップされた。その後 、2速でも同じく6,000rpm(70km/h)まで引っ張って 3速、4,000rpmで巡航状態に入ると、コントローラーは少し様子を見た後に、このドライバーが巡航状態に移ったと判断したようで、いつの間にやら 1,800〜2,000rpmくらいで巡航していた。この加速は普通のユーザーなら充分だし、実際にこれ以上の加速性能が必要となることは無いだろう。 後ほどギア比を調べてみたらば、セダンの528iとは8ATのギア比は勿論のこと、ファイナルギアも全く同じ減速比だったから、ツーリングよりも車両重量で130kgも軽い(1,770kg)セダン528iよりは多少加速性能が劣るのは当然だが、実際に走ってみると、それ程の差は感じなかった。 528iツーリングの動力性能は他のBMWモデルで言えば、4気筒2Lの320 iよりは圧倒的に速いし、同じ3Lでも528iよりも40ps低い218psのデチューンエンジンを搭載しているとはいえ、車両重量が 1,540kg(セダン)と軽く、5シリーズに比べてコンパクトな325iでさえも凌ぐくらいだった。 この理由を考えてみれば、325iが今となってはイマイチの6速ATを搭載しているのに対して、528iの場合は最新鋭の8速ATが搭載されて、きめ細かな変速比が選ばれるということも、大きな理由だと思うし、エンジン自体の特性も、528iの方が高回転側での勢いがあるのも、また事実である。要するに、3シリーズユーザーには申し訳ないが、5シリーズは明らかに3シリーズよりも上になるように意図的に設計されていると思える。これはポルシェがボクスター/ケイマンとカレラに意図的な性能差を付けているのと同じことだ。
 


写真 211
5シリーズに共通のメーター類。写真はスモールライトを点灯した状態なので、メーターの文字がアンバーに照明されている。これもまた、BMWの魅力でもアル。
 

 


写真 22
Mスポーツのステアリングホイールは同じみの太いグリップのもので、個人的には好きではない。なお、本物のM5の場合は、形状が似てはいるが、マルで別物だ。
 

 


写真 23
ATセレクター右にあるモード切り替えスイッチを押すと、正面のメータークラスター内のディスプレイに表示される。
 

 


写真 24
トランクを持たないワゴンボディは、リアウィンドウと後続車の距離が短いために、後続車がDQNドライバーの大型でピッタリ着けられたりすると、異様に迫って見える。

 

やがて試乗車はホームグランドであるワインディングコースに着いた。往路はSPORTモードでDレンジ、要するにATでのトライとした。ところが運悪く前に遅いクルマがいたことから、広い直線に出たところで左によって、前が遠く離れていくのを暫し待つことにする。2分程経過したとこ ろで走り出し、先ずは最初のコーナーを50km/h程度で素直にクリアしてみる。10日前に同じコーナーを走ったアルピナB5に比べて、やはりフロントの軽さがハッキリと判る素直なコーナーリングだ。勿論B5だって充分に素直でアンダーステアも少ないのだが軽快感がマルで違う。B5の1,950kgに対して528iセダンの 場合は1,770kgと180kgも軽いが、ツーリングは1,900kgと50kgの違いしかない。ただし、B5の重量増加の大半がフロントのエンジンと推定できるし、528iツーリングはそのボディ形状から多くが Cピラー以降だろう。したがって6気筒の5シリーズセダンに対して、B5はエンジン重量を主としたフロントヘビーで528iツーリングはワゴンボディによるリアヘビーの傾向があることになる。

実はこのリアーが重いこともアンダーステアが少なく感じる方向になる事は間違いないから、ますますコーナーリング自体の楽しさという面では、価格的に倍もするアルピナB5を上回るという結果になってしまった。さらに、日本に輸入される5シリーズには、ハイテクメカである4輪操舵のインテグレーテッド・アクティブ・ステアリングが 標準で装備されている。この装置は悪く言えば人工的な色付けを感じないこともないが、それでも操る楽しさという面では充分に満足できるものがある。これに対してB5はオーソドックスな操舵系を持つから、癖の無さでは確かに圧倒的にBMW各車より上なのだが、逆に重苦しいフィーリングとなってしまっている。

10年ほど前にMスポーツというパッケージオプションが設定された時には、ヤンキー兄ちゃんも真っ青というくらいの大径ホイール&扁平タイヤという組み合わせに驚いたものだったが、今では標準モデルに勝るとも劣らない乗り心地を発揮するに至ったのは技術の進歩というものだろう。ただし、10年前でも3シリーズ(E46)のMスポがオーバーサイズタイヤのデメリットが明らかに感じられたのに対して 、5シリーズ(E39)のMスポは決して悪くなかった事も事実で、この辺は5シリーズの足回りに金が掛かっていたということだろうか。 実は先代3シリーズ(E46)のサスペンションは5シリーズのマルチジョイントに対してシングルジョイントであり、それが3シリーズが5シリーズの高級感に負ける原因だったのだが、現行3シリーズ(E90系)ではマルチジョイント化されたことにより、高級感は向上した 。ところが、逆に軽快感が失われてしまったとも感じられる。う〜ん、やっぱりクルマは奥が深い!

というわけで、今回の試乗車の乗り心地も当然ながら硬めではあるが不快な挙動は一切見せなかったし、ワゴンボディのハンディも感じられなかった。そして、ブレーキもBMW独特の極めて軽い踏力でガツンっと効くもので、好き嫌いや賛否両論はあるものの、ブレーキとしての安全性では全く文句なしのものだ。
 

写真 25
試乗した528iツーリングは直6、3ℓ NAにより258ps/6,000rpmの最高出力と 31.6kg・m/3,000rpmの最大トルクを発生する528iのN52B30Aエンジンを搭載する。
この写真で見る限りでは、サルーンかツーリングかの判断は出来ない程、全く同じとなっている。
 


写真26
Mスポーツに標準の8J×18 Mライト・アロイ・ダブルスポーク・スタイリング350Mホイールと235/45R18タイヤ(RFT)の組み合わせ。これはセダン/ツーリング共に共通。
 

 


写真27
サルーンの528iと共通のブレーキキャリパーとディスクローター。
 

 

実は、乗り出す前には数日前に乗ったアルピナB5の印象が残っていて、528iに乗った瞬間にガックリするかもしれないという危惧を抱いていたのだが、何の事は無い、これにはこれなりの良さがあり、お〜っ、結構イケルじゃないか、と感じたのだった。クルマは軽いのが一番。天下のアルピナもニュートンには勝てなかったようで、軽快感という面のみで比較すれば、528iの方が勝る から、ある面では5シリーズのベストバイは528iかもしれない。もっとも、内装の豪華さや仕上げの良さ等、アルピナにはBMWとは全く別世界があるから、これはもう価値観の問題だろう。いや、その前に予算の問題が一番大きいが・・・・・。

さあて、ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。今回のテーマは勝ち組はどんなクルマを選ぶべきかについて。

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