インサイトが4気筒SOHC 1.4ℓから88ps/5,800rpm 12.3kg・m/4,500rpmを発生するガソリンエンジンを搭載しているのに対して、
CR−Zは1.5ℓで113ps/6,000rpm 14.7kg・m/4,800rpmと多少パワーアップされている。モーターはインサイトと共通の14ps/1,500rpm 8.0kg・m/1,000rpmを発生するDCブラシレスモーターが搭載されている。
SPORTモードでマニュアルになっている状態で信号待ちの先頭となったので、このチャンスを利用してフル加速に挑戦してみる。場所は1級国道の片側2車線の立派な道路。信号が青になり、隣の高級ミニバンが真っ先に飛び出していくのを見ながら、こちらも
フルスロットルを踏むと、回転計の針はどんどんと上がっていって5,500rpm程で右のパドルを引くと2速にシフトアップ。
そしてまたフル加速により回転計の針は上がってゆく。そして隣にいたミニバンはといえば、はるか先に行ってしまった。そう、モーターのアシストがあるとは言ってもエンジンは所詮1.5ℓ、113psだから、そんなに凄い加速をする訳が無いのだが、何やら過大な期待をしてしまったようだ。
発進直後の低回転域、2,000rpmくらいまではモーターのご利益を多少感じるが、そこから上の回転数では大したことはない。そして、フル加速時の音は結構な音量だ。CR−Zはスポーツクーペだから勇ましい排気音は寧ろ好ましいのでは、なんていう意見もあるだろうが、残念ながらCR−Zのエンジン音は排気音もメカ音も決して質は良くない。
動力性能的には決してスポーティーとは言えないCR−Zではあるが、ハンドリングについては結構良い評価が出来る。
操舵力も適度でレスポンスも丁度良いから、普通のドライバーでも過敏すぎることも無く、マニアが乗ってもレスポンスに不満が出ることも無いという、上手いところを狙っている。短い試乗時間ながら途中の一般道(市道)にきつ目のコーナーがあったので、
ここを一般ドライバーよりも速めの速度でコーナーに入っていったが、大きなアンダーもなく素直なコーナーリングでクリアした。乗り心地は硬めだがスポーティーと考えれば納得がいく範囲だし、ボディ
の剛性感も充分に感じられる。このコーナーをクリアする時にATはマニュアルモード、
走行モードはSPORTにセットしていたが、4速でコーナーに向かい手前で3速にシフトダウンしてコーナーを回りながら、出口が近づくにつれてアクセルと踏み込んで、直線が見えたところでフル加速をしてみると、実に楽しいドライブが出来る。
動力性能ではイマイチ物足りないCR−Zだが、コーナーリングという面では充分にマニアも楽しめるクルマであったのは救いだった。
ホンダによればCR−Zの場合リアの低い位置にバッテリーを積んでいるために、重量は配分は前60:後40で、しかも低重心であることから、FF車としては理想に近づいたそうだ。普通のFF車は前70:後30くらいだから、確かにCR−ZはFFとしてはバランスが良いわけだ。因みにFRのBMWの多くは50:50で、ミッドシップエンジンのポルシェボクスターは46:54、そして同じポルシェ
でもリアエンジンの911(カレラ)は38:62となっている。
ブレーキシステムはオーソドックスなバキュームサーボによるアシストを持つマスターシリンダー方式、要するに極普通のシステムを採用している。この辺が高度の電子制御を使用しているプリウスやSAIなどのトヨタ製HVとの違いである。
逆に言えばフィーリングは自然だし、更には同じホンダのインサイトで感じた極低速での違和感も感じなかった。また、インサイトで感じた低速で軽く制動したときのヒューンという
電車チックな回生制動の音も今回は何故か聞こえなかった。
CR−Zの最大の特徴はHVであること。そこで先ずは実用HVの代表として同じホンダのインサイトとトヨタのプリウスとの比較をしてみる。
インサイトは元々CR−Zのベースとなっている車だから近似性があるのは当然だが、よくみれば流用元であるインサイトのプラッフォームよりもCR−Zの方が115mmも短い。そして既に述べたようにエンジンもCR−Zの方が約150cc大きい。
それにも増して重量はCR−Zが30kg軽いから、動力性能はインサイトに勝っていて当然ではある。プリウスの場合はクラスが一つ上だから直接の比較は出来ないが、価格的にはCR−Zより安い。まあCR−Zでも廉価モデルのβならば226.8万円とプリウスの買い得
グレードと事実上同価格帯となる。
とはいっても、単にHVが欲しいということで、これら3車種を比較検討するユーザーって居るのだろうか?
CR−ZはHVとスポーツクーペという相容れない要素を両立するところにメリットがある。
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@ |
A |
B |
C |
D |
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HONDA |
HONDA |
TOYOTA |
MAZDA |
ALFAROMEO |
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CR-Z α |
INSIGHT |
PRIUS 1.8S |
ROAD STAR RS |
MITO |
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車両型式 |
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ZF1 |
ZE2 |
ZVW30 |
NCEC |
955141 |
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寸法・重量・乗車定員 |
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全長(m) |
|
4.080 |
4.390 |
4.460 |
4.020 |
4.070 |
|
全幅(m) |
|
1.740 |
1.695 |
1.745 |
1,720 |
1.720 |
|
全高(m) |
|
1.395 |
1.425 |
1.490 |
1,245 |
1.475 |
|
ホイールベース(m) |
|
2.435 |
2.550 |
2.700 |
2.330 |
2.510 |
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駆動方式 |
|
FF |
← |
← |
FR |
FF |
|
最小回転半径(m) |
|
5.0 |
5.0 |
5.2 |
4.7 |
- |
|
車両重量(kg) |
|
1,160 |
1,190 |
1,350 |
1,120 |
1,220 |
|
乗車定員(名) |
|
4 |
5 |
← |
2 |
4 |
|
エンジン・トランスミッション |
|
エンジン型式 |
|
LEA |
LDA |
2ZR-FXE |
LFVE |
199A8 |
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エンジン種類 |
|
I4 SOHC |
← |
I4 DOHC |
I4 DOHC |
I4 DOHC TURBO |
|
総排気量(cm3) |
|
1,496 |
1,339 |
1,797 |
1,998 |
1,368 |
|
最高出力(ps/rpm) |
|
113/6,000 |
88/5,800 |
99/5,200 |
170/7,000 |
155/5,500 |
|
最大トルク(kg・m/rpm) |
14.7/4,800 |
12.3/4,500 |
14.5/4,000 |
19.3/5,000 |
20.5/5,000 |
|
トランスミッション |
CVT/(6MT) |
CVT |
CVT |
6MT |
6MT |
|
モーター型式 |
|
MF6 |
← |
3JM |
- |
- |
|
モーター最高出力(ps) |
14/1,500 |
← |
82 |
- |
- |
|
モーター最大トルク(kg・m) |
8.0/1,000 |
← |
21.1 |
- |
- |
|
燃料消費率(km/L)
(10/15モード走行) |
25.0 |
30.0 |
35.5 |
7.5 |
12.0 |
|
サスペンション・タイヤ |
|
サスペンション方式 |
前 |
ストラット |
← |
ストラット |
ダブルウィシュボーン |
ストラット |
|
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後 |
車軸式 |
← |
トーションビーム |
マルチリンク |
トーションビーム |
|
タイヤ寸法 |
|
215/45R18 |
215/55R17 |
195/65R15 |
205/45R17 |
215/45R17 |
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ブレーキ方式 |
前/後 |
Vディスク/ディスク |
← |
← |
← |
← |
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価格 |
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車両価格(発売時) |
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249.8万円 |
189.0万円 |
220.0万円 |
260.0万円 |
285.0万円 |
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備考 |
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となると、CR−Zを選ぶオーナーは、国産車では絶滅してしまったコンパクトな2ドアクーペとして、もしくは小型のスポーツカーとして選ぶのではないだろうか。そこで前者としてはアルファロメオのミトとの比較をしてみた。価格的にはCR−Zより35万円程高いが、まあ無理をすれば同一予算でも買えそうだということでライバルとしてみた。ミトは極めてコンパクトなクルマとの認識をしていたが、こうしてスペック
上での大きさを比べてみると、驚くことに全幅と全長は殆ど同一だった。違うのは全高で、ミトはCR−Zより80mmも高い。ミトが何となくコロっとして見えるのは全高が高いのが原因だったようだ。ところで、この2台を比べてみれば、スポーツカーとしての楽しさや個性では圧倒的にミトの勝ちだし、ファミリーカーであるフィアットの陰が見え
隠れするとは言え、イタリアンセンスの内装は独特の魅力がある。ただし、信頼性の低さも定評があるから、購入には二の足を踏んでしまう。
それなら国産のマツダロードスターはといえば、低いシートに座っただけで本格的なスポーツカーに独特の非日常性を感じるし、実際に走り出しても2シーターという武器を最大限に生かした重量配分の良さと、FRという走り屋大好きの駆動方式も手伝って、その楽しさは群を抜いている。
しかし完全な2シーターだから、2人乗車では室内にはコートの置き場すらない。CR−Zやミトならば最悪後席に人を乗せられるが、ロードスターではどうにもならない。
来年にはトヨタのFT−86も発売されるようだし、近いうちにはBMW1シリーズクーペに2ℓが追加されるという噂もあり、真っ暗闇の暗黒時代だったコンパクトスポーツクーペの世界にも少しは明るい兆しが見えてきた。CR−Zは発売と同時に4,500台程のオーダーを抱えているようだし、しかも予想外に20〜30代のユーザーが多かったとも言われている。そうしてみれば、若い世代がクルマに興味が無くなってしまったという話も、魅力あるクルマが無いからで、欲しいクルマが出てくれば結構スポーツクーペがブームになることも考えられないでも無い。
今回の試乗車は残念ながらCVTだったが、これが6MTだと感じ方も違ったかもしれない。チャンスがあればMTモデルをジックリと試乗してみたいものだ。
注記:この試乗記は2010年3月現在の内容です。
⇒ CR-Z α 6MT 試乗記
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