スズキ アルトG 2WD 4AT 後編 前編




エンジンの始動はステアリングコラム側面のキーシリンダーに金属製のキーを突っ込んで回すという、極々オーソドックスな方法だ。 今になってみると古臭く感じるが、ホンの10年前なら高級車だって皆この方法だったのだから、実用上では何の不便もない。 ただし、最上級グレードのXではキーレスプッシュスタートシステムという、最近御なじみの方式が装着されているが、アルトに果たして必要だろうか。
エンジンを始動すると、アイドリングでも振動は伝わるしエンジン音も多少聞こえるが、これも我慢すれば特に問題は無い程度だ。 正面には大きな速度計があり、これは大きい事と数字が白地に黒抜きで実に見易い(写真上左)。両端にある2つの小径メーターも燃料計や各種警告灯、そしてATセレクターのポジション表示共に、これまた見易い。 ただし回転計は当然無いし、形状も意地悪く見ればスポーティさとは全く無縁でもある。 ワゴンRと比べれば、それなりに安っぽいが、逆に贔屓目で見ればこれをポップな雰囲気ともいえる訳で、中々上手く誤魔化してもいる。

フロアーから生えたATセレクターもT字型のレバーと、P→R→N→D→2→Lという組み合わせで、今時は少数派となったが、これまた10年前ならば当たり前だった 方式だ。 言ってみれば、とっくに開発費の元を取っているコンポーネントを使用する事で、これまたコストダウンを図っているのが判る。
パーキングブレーキも、ドライバーとパッセンジャーシートの間にある、これまたオーソドックスレバーで解除する。

走り出してみると同じエンジンを積んだルークスより更に軽快な加速をする。ALTOの車重は730kgと前回乗ったルークス(930kg)よりも何と200kgも軽い。 ただし、ルークスが副変速機付きCVTを装着していたのに対して今回のアルトはトルコン式の4ATだから、効率の面では多少劣るので200kg分がモロに効いている訳ではないが、ノンターボの軽自動車としては充分としておこう。 パワーウェイトレシオをみても試乗したアルト(13.5kg/ps)と価格の近いリッターカーであるトヨタパッソ(12.7kg/ps)に近い値を示している。

アルトGもCVT付きを選べば更に効率が良くなり、当然ながら加速も向上するだろうが、価格は89.25⇒95.025万円と約5.8万円のアップとなる 。ただし、この価格には4ATには未装着のABSが標準装備される分も含まれる。 あと6万円を投資するか、否か、中々難しいところでもアル。しかし、考えてみればこの価格帯の軽は以前ならば3ATが当たり前だったから、それから見れば大いなる進歩で、CVTなんて贅沢だよ、という考えもあるかも知れない。 実際に今回の4ATのアルトは先代の3ATに比べれば繋がりが明らかにスムースだし、キックダウンした時のシフトダウンのレスポンスも結構良くなっている。何よりの違いは10km/h程度から思い切りアクセルペダルを踏んでやると、 少し遅れてから1速に入る。回転計が無いのでハッキリとは判らないが、ガーっという盛大な音からも4,000rpm以上は回っているだろう 。これが3ATだと、ワイドなギアは上手くシフトダウンして繋げる事が出来ないので、どんなに必死で右足を踏みつけようがコントローラーは”知らん顔”ということになる。

先代アルト(ピノ)の走行安定性はといえば、速い流れに乗って走るには疲れるし危険でもあるし、コーナーリング性能から緊急時の回避性能などを考えれば、チョッと家族には乗って欲しくない部類のクルマだった。 そして、今回の新型はとえば、先代に比べて全く別のクルマと言っても良いほどに進歩している。例えば同じく新型のワゴンRと比べても大きく劣らない程度の安定性を持っている。操舵力も適度に軽いし中心付近の遊びも気にならない。 また、先代のように切っても曲がらないこともなく、そのフィーリングもワゴンRやルークス(パレット)に比べても大きく見劣りはしない。



着座位置は適度に高い事もあり、前方視界も問題ない。特にフロントサイドの三角窓とそのサブピラーに付けたミラーにより、斜め前方の視界も良い (写真上右)。更に乗り心地も先代からは劇的に進歩していて軽自動車としては平均的、要するに硬めで路面によっては多少跳ね気味にはなるが、不快で我慢できないというレベルではない。ブレーキもワゴンRと似たフィーリングで、最初のストロークは長めだが一度効き始めると意外にガッチリとして、それ以上はストロークが伸びない。 という事は、ある部分からは踏力を増すだけのコントロールとなるのだが、それはポルシェカレラのような上等なものではなく、リアのブレーキのシューがドラムに当たって、ある程度のブレーキ圧がかかって精度不足 による隙間等が変形したことにより、それ以上の無駄なストロークが無くなったことによる剛性感のように感じた。 なにやら文章にすると判り難いが・・・・。  
   

今回のFMCでアルトはハイトワゴン的なスタイルになったように思うが、下の表を見れば判るように、ライバルであるダイハツミラと比べて全高では5mm高いだけだった。そういう意味では先代アルトの全高1500mmに対して1470mmのダイハツエッセは現行車では最もセダンらしい軽セダンかもしれない。

事実上装備の同じアルトGとワゴンR FXの価格差は約15万円。先代のアルトだったら問答無用で15万円高くてもワゴンRを薦めただろう。 しかし、今回の新型アルトはワゴンRと比べても走行性能上は大きく劣る事がなく、実際に実車を比べてみれば、アルトがワゴンRと比べて価格が安いのは内装やシートを1種類として量産効果と管理費の削減したり という、 品質以外の部分でのコストダウンを行っているのも大きな理由となっているようだ。そしてアルトは多少全高が低く(ワゴンR−65mm)積載性に劣るなど実用上と 、内装材がコストダウンされているなど満足感という面では劣るが、ワゴンRだってそれ程の満足感があるわけではない。 高級感を求めたら限が無いし、何より経済性を求めて軽自動車を購入するのなら、質素な内装や装備だって実用上の問題さえなければ、それで充分ということになる。 今度のアルトは侮れない。というよりも、最近のスズキの進歩は凄い!
ニッサンマーチについては価格的にはアルトより高くワゴンR FXとはほぼ同等で、例によって倍近い排気量のエンジンから発生される余裕のトルクは捨てがたいが、今となってはアルトより20万円高い分のアドバンテージが完璧かといえば、ちょっと揺らいできたのも事実だ。次期マーチはタイで生産することで価格を下げるらしいが、これだけ進化した軽自動車と真向勝負するには、それも必要だろう。

聞いた話では、さるスズキ系ディーラーの店長さんが、奥さん用に新型アルトを早速購入したそうだ。店長曰く「今までのアルトじゃ、とてもじゃないが家族に乗せる気にはならなかったが、こんどのなら自ら買う気になれる」とのこと。あっ、これはあくまで噂話ですからねっ!

ところで、ライバルであるミラやエッセはアルトと比べてどうなのだろうか?という疑問も出てくるが、そんなことを言うとダイハツの廉価車の試乗もしなくてはならなくなりそうなので・・・・・気が付かなかった事にし ておこう。
 
注記:この試乗記は2009年12月現在の内容です。