Mercedes Benz E300 AVANTGARDE (2009/9) 前編 ⇒後編


新型になる度に近代的な外観になるが、メルセデスのアイデンティティは常に変わらない。
ラジエターグリルとボンネット先端のスリーポインテッドスターはメルセデス以外に有り得ない。
 

メルセデスベンツといえば本来は今で言うところのSクラスのことなのだが、Sクラスよりもコンパクトで価格も( メルセデスとしては)安いオーナードライバー向けのシリーズがコンパクトメルセデスといわれているもので、そのルーツは 1968年発表のW114/115、その後1975年のW123へと続いて、1984年のW124の中期からEクラスと呼ばれるようになった (写真1)。B_Otaku が初めてメルセデスのステアリングを握ったのはS123というW123のワゴン版だったが、当時のメルセデスというのは国産車とは全く異なり、クラウンやセドリックがフワフワ、ヨレヨレなのに対して、ワゴンのくせに当時の国産GTよりもステアリングレスポンスやコーナーリング性能が良くて、当分はそのショックから抜け出せなかった。この123のモデルチェンジ版であるW124の発売当時はバックオーダーが1年以上という不滅の名作で、このクラスのトップの座を揺ぎ無いものとしていた。ただし、価格も結構なもので4気筒2.3ℓのベースグレードの国内価格は確か600万円くらいだった記憶がある。当時の国産車は300万円出せば”これでもか”の高級装備を施したクラウンやセド/グロが買えたし、 中産階級の憧れだったマークU 2.0グランデは230万円くらいだった。
W124までは有名な「最善か無か」という理想主義を貫いていたが、メルセデスの方針が大きく変わって、妥協とコストダウンを取り入れた、言ってみれば日本車的な要素を持ったのが次のW210だった。W210はW124とは大きくイメージを変えて、フロントには4つのライトがアクセントとなり、これは当時のメルセデスオーナー達の間では否定派が多かったが、今回の新型も含めて3代に渡って貫いている (写真2)。
メルセデスが方針を大きく変えた理由は、1985年から米国で展開されたトヨタのレクサスブランドの最上級グレードであるLS(日本ではセルシオ)のコストパフォーマンスの良さに危機感を感じたためと言われている。しかし、メルセデスはコストダウンが下手というか、如何にも手抜きと見える出来の悪さから、W210の評判は決して良くなかった。そんな折、メルセデスから見れば格下と思っていたBMW5シリーズが2003年 に新型E60にFMCされた。 クリスバングルによるアグレッシブなスタイルやアクティブステアリング等の先進的な機構を採用するなど、地味で人気薄の先代E39とは打って変わって一躍人気の車種となった。
Eクラスにとって致命的だったのは、E60より少し前に発売されたW211のSBC(ブレーキバイワイヤシステム)に致命的な欠陥があり、ついには2度に渡るリコールとなったことで、長年に渡ってこのクラスの王者であったEクラスが販売数で5シリーズに迫られる結果になってしまった。E39までは、世間では5シリーズはEクラスよりも格下との認識があったが、これが一気に崩れてしまった。もう時効だと思うので書いてしまうが、E39のモデル末期である2001年頃には、イヤーモデル落ちとはいえ525i Mspの展示車が乗り出しで500万円を切っていたから、事実上のEクラスとの価格差は相当にあったのだが、E60となってEクラスと真っ向勝負の売り方に変ってしまった。

そんな経緯から、今回の新型(W212)はメルセデスとしては起死回生のモデルであり、相当に本腰を入れて開発してくるだろうことは予想された訳で、腐っても鯛、落ちぶれてもメルセデス。技術的には未だに世界最高のものを持っているのだから、これは期待できる。栄光のW124の再来となるのか?じっくりと見てみよう。
今現在発売されているW212はベースグレードのE300(730万円)、レザーシートなどの装備を充実させたE300アバンギャルド(今回の試乗車、780 万円)、E300と共通のエンジンブロックで排気量アップしたE350アバンギャルド(850万円)、そしてV8エンジン搭載のE550アバンギャルド(1080 万円)、加えてターボディーゼル搭載のE320CDIアバンギャルド(871万円)という構成となっている。なお、近々1.8ℓターボのE250が追加発売される が、今現在正式な価格は発表されていない。

この新型W212の国内販売では、最初に輸入されたのがE350のLHDだったため、今でもE350の展示車はLHDが多い。実際に今回の写真もショールムで撮ったものはLHDとなっている。LHDを輸入することによる批判も多いが、Eクラス以上の場合はショーファードリブンで使用されることが多いため、ドライバーが左側後席ドアを開けてお客様を乗せたらドアを閉めて、即座に運転席に乗り込んで迅速に出発するのには、一度クルマの反対側に移動する必要のあるRHDよりも、2〜3歩で運転席に着ける LHDが便利だと聞いたことがある。運転で飯を食っているプロドライバーだから、右折や停車中のバスを追い越すときにに対向車線が見難くでも、素人が心配するほどには危険ではないのだろう。

ところで、新型Eクラスのスタイルだが、写真4〜6に示すように、何やらレクサスGSと似てしまったようだ。元々、GSの4つ目はW210に影響されてのことだから、鶏が先か卵が先か的な論争になるのは見に見えているが、どうなる事やら。
 


写真1
左からW144(1968〜)、W123(1975〜)、W124(1984〜)
W123のワゴンS123はB_Otaku が最初に運転したメルセデスで、これを知ったらショックで当分国産車は運転できない
程に差があった。そのW123の改良型であるW124は不滅の名作で、「最善か無か」のコンセプトを貫いていた頃の製品だ。
発売当時は1年以上のバックオーダーを抱えていて、欲しくても手に入らなかった。
 


写真2
W210(左、1995〜)とW211(2002〜)
W124から210となってコンセプトは多いに変わり、「最善か無か」のポリシーはアッサリ捨てられた。
 

 


写真3
流石に広いトランクスペース。日本版のカタログにはゴルフバックが横置きで4個載ることを強調している。ある面クラウン的になってしまったのが嘆かわしいが。
 

 


写真4
レクサスGS(右)にそっくりと言われる新型Eクラス(W212)だが、GSの4つ目が出たときにはEクラスのパクリと言われた。
まあ、卵が先か鶏が先かは置いておいて、4つ目のEクラスというのは決して好きにはなれないが、実物を見るとカッコは良いし
GSとも大分イメージが違う。
 


写真5
そしてリヤはといえば何と!
まあ、実際には先々代のW210を近代化したW212と、W210の影響を受けたレクサスGSが似ていて当然でもあるが、
これは論議を呼びそうだ。
 


写真6
しかし、この角度から見るとそれ程には似ていない。
特にトランク向けて水平に入ったW212のリアフェンダーラインはGSとは全く印象を異にする。
 

メルセデスのシートは以前から定評があったし、これこそ国産車が敵わない分野だったのだが、先代Cクラス(W203)辺りからどうも雲行きが怪しくなって、手抜きによるイマイチのシートを装着し始めてしまった。 そうは言っても、国産車の大部分よりは良いのだが、昔のメルセデスを知っているユーザーは只々嘆くことになってしまった。EクラスのシートはCクラス程の手抜きはなかったが、無敵のW123〜124に比べれば、これまた何だか寂しい気持ちになったものだ。 それに比べると今回の新型は中々良くて、適度に硬く、適度に体に馴染み、Eクラスとして恥ずかしくないシートが付いていた。先代W211が発表されたときに早速見に行ったら、ダッシュボードのつなぎ目に段は付いているし隙間は均等ではないし、一体メルセデスはどうなっちゃったんだろうか?と唖然とした物だが、今回の新型は最初からピシッとできているので一安心。
 


写真7
これこそメルセデスと言いたくなるこの雰囲気はレクサスGSでは味わえない。やっぱり本家は違うなぁ。
 

 


写真8
リアスペースは充分であり、ショーファードリブンでも使えそうだ。

 

写真9
ある時期からチャチになったメルセデスも今回は質実剛健でいて豪華さもある本来のEクラスらしいものになった。BMWとはまた違うセンスで、どちらを選ぶかというユーザーの選択肢も増えたことになる。


写真10
ドイツ車独特の分厚くてシボのハッキリしたレザー表皮。
 

 


写真11
これもメルセデス独特なドア内張りにあるシート調整スイッチ。 一般的なシート側面の場合比べて視認性が良く、特にメモリースイッチを確認し易い。
 

 


写真12
ナビの画面はダッシュボード上面になり視認性は向上したが、ディスプレイがチョッと小さくないかい?

 


写真13
例によってゴチャゴチャとボタンだらけのオーディオコントロールパネル。最小限のボタンしかないBMWとは対照的だ。
 

 

ドアを閉めるとお馴染みのメルセデス独特の匂いを感じるから、新車で購入すれば少なくともある程度の期間はメルセデスのオーナーになった喜びを鼻でも感じられる。 これは主にレザーのなめし剤と接着剤なのだろうが、不思議にドイツ車と英国車は違う匂いがするし、メルセデスとBMWも少し違い、レクサスは英とも独とも全く異なる 。レクサスが何を如何してもドイツ車の雰囲気が出ないのは、この匂いからくるフィーリングの違いもあるのかもしれない。

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