BMW 320 i 6MTvs Skyline 370GT 6MT (2009/5)
後編(370GT)
⇒前編(320 i)


日本国内で買えるFR&MTで、しかも総額500万円以下といえば、この2車種くらいしか思い
あたらない。内容的には両極端の面もある2車の実際は?

総額500万円のFR+MT(それにRHD)車比較は前編のBMW320i 6MTに続いて、スカイラインクーペ370GT 6MTに乗ってみ た。ところで、320iが4ドアセダンなのにスカイラインは何故クーペかといえば、セダンにはMTの設定が無いからだ。まあ、この件については後ほど触れることにしよう。

スカイラインといえば国産スポーティサルーンの草分け的存在だし、ラインナップの頂点にはGT−Rという憧れのクルマがあり、そのバリエーションの”普通のクルマ”をGT−R風にモディファイしたり、というのが一時は流行ったようだが、現行スカイラインは性格的にも別のクルマになってしまった。そして現行GT−Rはスカイラインではなく日産GT−R。写真1〜4をみれば判るようにスカイラインとGRーRは全く別物となってしまった。
そういう面ではBMW320iはフラッグシップにM3を擁し、しかも今回からはM3セダンまでもがラインナップされている。この手法はスカイラインが40年ほど前にGC10時代に行っていたから、むしろ先駆者なのだが、そういう面でもスカイラインが若者受けしない、すなわち売れないという事実に繋がるのだろうか。

今更言うまでもないが、スカイラインは米国ではインフィティGとしてレクサスISのライバル的存在となっている。しかも、ISがセダンのみ(極最近コンバーチブルを追加したが)なのに対して、インフィニティGはクーペがラインナップされている。それでは米国での売り上げはといえば、大恐慌の影響の出る前の売れ行き最高だった2007年の平均販売台数では、インフィニティGが約5,900台/月でレクサスISは約4,500台/月 だから、インフィティはレクサスを凌いでいる。因みにBMW3シリーズはといえば、約12,000台/月、メルセデスCクラスは5,200台/月だから、インフィティは 意外にも頑張っているのが判る。これじゃあ日本に目が行かないのも無理はないかもしれない。 それにしてもレクサスISは米国でもイマイチのようだ。
 


写真1
国産車では貴重なセダンベースの2ドアクーペ。R34型を最後にフラッグシップグレードのGT−Rを持たない。

 


写真2
今回からはニッサンの最高性能車ということでスカイラインとは決別したGT−R。

 


写真3
リアからみると流石にクーペらしくスタイリッシュだが、伝統的なスカイラインのアイデンティティは無い。

 


写真4
こちらは初代スカイラインGTから伝統の丸型4灯のテールランプを持つ。

 

今回の試乗車はスポーツモデルでしかも豪華装備のタイプSP(450.5万円)のため、既に試乗記を発表済みのタイプPと比べても、室内はペダルが3つあることと、コンソール上のATセレクターがシフトレバーとなり、ステアリング背面のパドルスイッチが無いこと以外はATと変わらない。
シートは以前試乗したType Pと共通のレザーシートで(写真6)、国産車としては決して悪くはないが欧州車と比べれると、チョッと如何なあ、というユーザーが多いかもしれない。 ニッサンのレザーシートの特徴としてレザー自体の質感が良くない。でも、まあ今回は少しでも良い部分を見つけて見ると、フルレザーのスポーツシートというのはポルシェカレラ (写真9)と同じと思えばオーナーは満足するだろうか。勿論、カレラと真正面から比べるのは酷だが、もしかしたらニッサンの開発担当者はBMW (写真7)などには目もくれず、ポルシェカレラを目標にしたと考えれば、ある面納得がいく。

最近のMT車に共通のクラッチを踏みながらエンジンを始動するという方法で、スタートはステアリングコラム右側のダッシュボード上の丸いボタンを押す。エンジン自体は決して静かではないが、スポーツ カーらしい振動を演出しているわけでもない。ただし、MTのシフトノブに手を載せるとニュートラルでも細かい振動が伝わってくる。
 


写真5
3つのペダルとコンソーツ上のシフトレバー以外はATと変わりが無い室内。


写真6
スポーツモデルといってもシート自体はタイプPと共通のタイプSPのシート。フルレザーで座面には通気孔まで開いているのだが、イマイチの質感は何とかならないのだろうか。
 

 


写真7
BMW320iはMspに共通のサイドと先端がアルカンターラで座面がファブリックのシート。裏革による艶消しの雰囲気が車内の質感アップに貢献している。

 


写真8
ポルシェ ボクスター/ケイマンに標準のシート。BMWとは逆に座面がアルカンターラ。ホールド性という面ではレザーを上回る。

 

写真9
カレラSの標準は座面もレザーとなる。スカイラインもこれを目指しているのかもしれないが、質感は大分違う。

 

クラッチは少し重めで繋がる位置はヤケに手前だ。しかもペダルの動きが渋いのでギクシャクした動きをする。それでも扱い難いとか急に繋がってエンストし易いという程でもない。エンジンはスムースに吹け上がり1速ではレッドゾーン手前まで一気にストレス無く吹け上がる。 低回転ではドロドロとアメリカンな雰囲気の音も感じられるが、高回転域になると結構軽快なメカ音が適度な排気音と混じって、決して悪くは無い。なぜ、”良い”と書かないかといえば、悪い音ではないのだが胸がときめかないというか、ワクワクしないというか。 まあ、こういう物は個人の感覚の問題だから370GTで最高の気分になれるドライバーもいるかもしれない・・・・・・たぶん?
今回はMT車だから、一番気になるのはシフトフィーリングだろう。結論から言えばマッサラに近い新車とはいえ、動きは渋く、しかも引っかかり感があり、素早いシフトは極めてやり辛い。昔からMTのシフトフィーリングは ニッサンよりも寧ろトヨタの方が勝っていたのだが、スカイラインクーペの6MTには良い点 数は付けられない。このミッションはフェアレディZと共通の筈だが、そう言えばZのシフトフィーリングも同様に良くなかったったから、まあ当然の結果でもあるが。そして、この点ではやはりイマイチとは言ってもBMW320iの6MTの方が勝っていた。

動力性能としては基本的にフェアレディZと同じエンジンと駆動系で、車重はZの1,520kgに対して1,660kgだから120kg程重いが、それでもZと比べても大きく引けを取らない程に強力な加速を得られる。当然ながらBMW320iは動力性能的には スカイラインクーペ370GTの敵ではない。だから、総額500万円の価値を動力性能に求めるのなら、最初からBMW320iなんて考えないことだ。 今現在発売されている400万円以下のMT車で370GT以上の動力性能を得ようと思えば、これはもう一部の4WDターボ車、すなわちランエボ]かインプSTIくらいだろうか。
 


写真10
MT以外は他のスカイラインと全く同じダッシュボード。


写真11
国産車得意の自光式メーター。これは好みの問題だが、個人的には玩具っぽくて好きになれない。

 


写真12
シフトノブは最近流行のレザーとアルミの組み合わせでAT車と同じ。何故かノブにシフトパターンの表示がない。

 

操舵力は適度な重さで遊びは殆ど無い。贔屓目に言えば極めてクイックで、少し動かしただけでも左右にピクピクと反応する。慣れれば自在に扱えるのかもしれないが、どうも何かが違うような気がする。 要するに最初に僅かな力を入れてもステアリングはビクとも動かず、大分力が入った状態でステアリングが動き(回り)初めて、クルマは大げさに反応する。 要するにステアリング系の作動抵抗(フリークッション)が大きい、すなわちメカとして金を掛けていないのでは、と疑いたくなるような作動だ。例えば、ポルシェケイマンのようにクルマ好きのドライバーならば初めて乗っても、10分も経てば僅かな手首の動きで思い通りにクルマが動く、正に人馬一体になるのとは違い、何やらオーバーレズポンスというか、創られたクイックさを感じる。
対してBMWのステアリングはスムースなので定評があるし、この如何にもフリークッションの小さそうな滑らかさこそが、BMW車に乗る喜び の一つでもあるのだが、今回はそれを再認識してしまった。最も、BMWのステアリングは中心付近に微妙な不感帯を持たせることでドライバーの負担を軽減しているのだが、人によっては、なあーんだBMWなんて大したことは無いなあ 、それに比べればスカイラインの方がはるかにクイックでスポーティーだと感じるかもしれない。そう思うのは実に幸せなことだから、BMW(もメルセデスも)なんて綺麗サッパリ忘れるのが得策だ。

乗り心地は相当硬いから路面の凹凸にはビシビシと反応する。その硬さはPASM無しのポルシェカレラよりも未だ硬いという感じで、シビック タイプRに近い。 タイプRの場合はコテコテの走り屋仕様だが、スカイラインクーペのユーザーは果たしてこれ程に硬いサスに我慢が出来るだろうか。スカイラインクーペらしさという面ではバージョンPの方がキャラクターに合っていると思う。

次にブレーキについて触れてみよう。スポーティーなクルマに憧れる場合、当然空力抵抗の低そうなエアロパーツが気になるが、同時に大径ホイールとそこから覗く大きなキャリパーというのも、マニア心を刺激する。その点ではクーペ370GTはスポーツグレードであるSとSPにはアルミ対向ピストンキャリパー(オポーズドとも呼ぶ)が装着されるから、見た目はバッチリOKだ(写真16)。 これに対してBMW320iの場合は今更言うまでもなく鋳物ボディの片押しとかフローディングとか呼ばれる方式で、しかもフロントさえ1ピストン(写真17)となる。 まあ、BMWはM3でさえも片押しタイプなのだから320iなら当然でもあるが、何故か135iクーぺはフロントにアルミオポーズト、それも6ピストンタイプを装着している。 初めて見た時にはBMWも今後はオポーズドに順次ランチェンかと思ったが、その後は新7シリーズでさえ採用されていない。
 

  
写真13
V6、3.7LのVQ37VHRエンジンは333ps/7000rpmの最高出力と37.0kg・m/5200rpmの
最大トルクを発生する。


写真14
SPはフロント225/45R19タイヤを標準で装着する。

 


写真15
そしてリアは245/40R19。

 


写真16
タイプSとSPにはフロント4ポット、リア2ポットのアルミ対向ピストンキャリパーが装着されている。

 


写真17
BM320iは鋳物の片押し1ピストンで見た目では370GTとは大いなる差が付く。

 

今回紹介できなかった他のMT車も含めて比較する場合、やはり駆動方式をFRに限定するとその範囲は非常に限られてしまう。しかも、リアにシートがあること、すなわち2シーターを除くとすれば、マツダロードスターやポルシェボクスターなどの大御所が落選となってしまう。
他にはアウディRS4が6MTだが、999万円也の車輌価格を考えると余程のアウディフリークか、これまた余程の買い得価格の提示以外は有り得なさそうだから除外する。 (あっ、何やらアウディユーザーによるダークサイドのフォースを感じる!)

こうして並べてみると、それぞれに全く性能もクラス(価格)も違うのが判る。こうなるとどれが良いかではなく、各ユーザーの予算、生活環境や趣味で選ぶしかないだろう。また、 雑誌等ではM3はポルシェ911(カレラ)のライバルのように扱われているが、実は911とは全くカテゴリーの違うクルマだと思ったほうが良い。BMWオーナーに 、この事実を告げると湯気を立てて怒るが、実際に乗ってみればフィリンーグで生まれが乗用車である事を感じてしまう。考えてみればBMWは本来サルーンメーカーだからスポーツカー専門のポルシェとは比較するのがお門違いでもあり、言ってみれば蕎麦屋の天ぷらと、天ぷら屋の天ぷらみたいなものだろうか。 蕎麦屋の天ぷらは其れなりの良さを持っているが、天婦羅専門店とはチョッと違う。

さて、クーペ370GTの結論はといえば、これは寧ろATで乗ったほうが似合っているような気がする。3.7Lの強烈なトルクはトルコンのロスを考えてもATで充分な動力性能を得られるし、このトルクだとMTでは3速でも4速でもあまり変わり映えがしないから、結局ずぼらなシフトと成りそうだ。まあ、ポルシェ911(カレラ&カレラS)だって既に日本では80%以上がATだという事実は認識する必要がある。

結局今回のBMW320i vs Skyline Coupe 370GT Type SPを比較してみれば、共通点はFRで4人以上乗れて、RHDで6MT、そして総額で約500万円の価格帯という以外は全く比較の対象にはならないくらいに内容が違った。確かに370GTの動力性能は 立派なものだったが、320iのBMWらしさというか独特のフィーリングはマニアならば絶対に欲しくなる要素が満載だし、クルマというのは只速ければ良いというものではい、という常日頃言っている事を今更ながら再確認してしまった。それでも、一度は320i MTに満足していたとしても、やがて動力性能に飽き足らなくなって、更に上位の車種が欲しくなる 、なんて事もあるかもしれない。まあ、それまでに320iのMTを完全に使いこなして、骨までしゃぶって、いよいよ不満が出てきた時点で、M3でも何でも狙えば良いだろう (その時は一見さんとは違う、オーナー特別価格で?)。
以前にも一度触れたが、スカイラインセダンにMTの設定があれば、ある面320i MTのライバルと成りえただろうし、更には250GTの6MTならば価格的にも320iより充分に安くて動力性能では勝っているから、BMWに流れてしまうマニアを食い止める役割は充分に果たせるような気がする。事実、今回の試乗車のオーナーはスカイラインセダンにMTの設定があればBMWを検討する前にスカイラインの契約をしただろう、という状況だった。ニッサンさん、何とか成りませんか、ねぇ!?

⇒前編(320 i)