BMW Z4 3.0 (2005/7/3)

 


BOXSTER


Fairlady Z

※この試乗記は2005年7月現在の内容です。
従って、文中の車種や価格は現在と多少異なる場合があります。


長いボンネットと短いテール。普通のサルーンなら、殆どリアシート辺りで運転することになる。
 

BMWのオープン2シーターは戦後では1955年の507に遡る。507はV8、3.2ℓエンジンを載せた高級車で、北米の富裕層、すなわちビバリーヒルズあたりの生活に溶け込むようにというコンセプトのクルマだった。当然ながら生産台数は限られており、今では相当なレアアイテムのようだ。

その後、しばらくの間はオープン2シーターは途絶えていて、1986年に発表されたZ1で復活するが、このZ1はBMW本体ではなく、系列の技術系シンクタンク(その後のM社の前身)で開発された。Zはドイツ語で未来を意味する"Zukunft"に由来するそうだ。この時の名称がその後のオープン2シーターをZで表すしきたりとなった。このZ1は亜鉛鋼鈑とFRPの複合シャーシやプラスチック製のアウターパネルなど極めて先進的だったが、このZ1もまた大量に販売するようなクルマではなかった。

BMWのオープン2シーターで本格的に量産モデルといえるのはZ3だ。Z3は旧型となるE30セダン(3代前の3シリーズ)の足回りを基本としていため、リアがセミトレーリングアームと発売当時でもチョッと古い感じもしたが、ロードスターというのは絶対的な速さを競うものではない、と思えば納得できる。これは発売当初(日本では’96年末)は1.9ℓの4気筒140psが搭載されていたことでも判る。しかし、その後’98年には2.8ℓの6気筒モデルも追加され、最終的には3シリーズと同様に3.0ℓもラインナップされた。こうなると、本来のライトウェイトスポーツと言えるのか疑問もあるが、Z3は着実にプレミアム路線をヒタ走っていった。

BMW 507(1955)
V8、3.2ℓエンジンを搭載
1955年といえば、日本では初代クラウンが
発売された年だ。
こんな頃に既に、これ程の高級なオープン
スポーツを作っていたのだから、そう簡単に
追いつけないのは当たり前だ。

1986年、BMW Z1。
パネルはプラスチック製で、ドアは電動昇降式というユニークさだ。

Z1から10年後の1996年、BMW Z3。

そして、2003年にZ3からフルモデルチェンジしてZ4となる。Z4はZ3に対して、1ランク上ともいえる内容で、4気筒は無くなったこともあり価格も上昇した。発売当初は3.0と2.5のみだったが、その後2.2が追加された。
Z4は既に2003年7〜8月に3.0と2.5に試乗して試乗記もアップしてあるが、当時はショートインプレッション的な内容のため、最近の詳細な試乗記に比べて見劣りがする事により、ライバルのボクスターとの間に不公平感が感じられるというBMWファンのクレームも感じたことから、再度チャレンジすることにした。

試乗車は3.0でミッションは5AT、既に1万キロ近く走行しているから、初期の硬さは完全にとれている筈で、Z4本来の姿が評価できるだろう。価格は本体579.5万(消費税込み)にナビゲーションパッケージが装着されていたから、少なくとも600万超、諸経費を含めた総額は6百数十万円だから、決して安いクルマではない。それでもZ4は米国生産ということもあり、BMWの3ℓとしては安い方だ。

4年ほど前に7シリーズから始まった当時は批判の矢面にたっていた新世代BMWの外観は、今になって見れば全く違和感が無いから、オリジナルデザインの先進性は大したものだ。
エンジンルームを開けると、3シリーズなどでは6気筒エンジン全長の半分が室内側に隠れてしまうが、Z4は余裕でボンネットに収まるのを見て、この車が極端なロングノーズ・ショートデッキであるを認識する。


先代(E46)330iと同じM54型3ℓを搭載する。5シリーズに積んでも、かなり速いのだから、ずっと小ぶりな2シーターに積めば、想像通りトルクが有り余っている。

3シリーズだと、エンジンの半分が室内側に隠れてしまうが、流石にロングノーズだけあって、この長いエンジンが余裕で納まっている。

屋根を掛けたところ。ソフトトップの出来は国産オープンに比べてば各段に質が良いが、ボクスターと比べると少し落ちる。まあ、値段が違うから仕方が無いが。

短いテールから想像できるように、トランクは広くは無い。この点、前後にトランクを持つボクスターは、容積では圧倒的に優位だ。
 

運転席に座ってドアを閉めると、以前乗った初期生産のZ4は、なにやらガタピシという感じのドアだったが、今回の試乗車はマシにはなっていた。と、言ってもボクスター辺りと比べると見劣りがするが、慣れれば気になることはないだろうから、一般的なオープンボディとしては十分合格としよう。

3.0ℓのシートはレザー表皮が標準となる。基本的にはBMWサルーンとは変らない、どちらかと言えばコンフォートシートで、ボクスターのサポート優先のスポーツ丸出しとはコンセプトが異なるのが理解できる。


ダッシュボードのデザインの基本は7シリーズから始まった、最近のBMWのセオリー通りだ。

ダッシュボートや室内の内張りも、最近のBMW流でアルミのパネルを使った手法などはサルーンのスポーツ系(Mスポーツ等)とも似ているが、Z4はオープン2シーターということで、さらにスポーティーさが強調されている。試乗車はオプションのアイボリーの内装(標準はブラック)だった事もあり、実にモダンな雰囲気に満ちている。新型からは格段に質感が良くなったと言われているボクスターでも、Z4のオシャレさに比べると体育会系丸出に感じてしまう。


ベージュの内装はオプションとなるが、レザーシートは3.0に標準となる。

左はシートヒータースイッチでレザーシートに標準で付く。真ん中の2つはルーフの開け閉め用。
 
メーターのデザインはサルーンとは異なる。オープン走行による光の影響を考慮して、計器面は奥まっている。

オプションのナビは上部のポップアップ式となる。これもサルーン系とは異なるデザインだ。

試乗車は3ℓだから、当然ながら有り余るトルクを感じる。5シリーズでさえ十分に速い3ℓだから、遥かに軽量なオープンスポーツであるZ4には十分過ぎるが、考えによっては、2座スポーツなら、このくらいのパワーは当然欲しいとも言える。

搭載されているM54エンジンは基本的には5シリーズや3シリーズと同様だが、排気の取り回しやチューニングは異なるのだろう。オープンスポーツということで、5シリーズに比べると遥かに勇ましい音がする。ただし、3シリーズでは既に新型E90でバルブトロニックの新エンジンに変っているし、5シリーズも近々新エンジンに変るようだ。Z4はどうなるのだろうか?
ミッションが5ATというのも、3、5シリーズは当然ながら、ボトムレンジの1シリーズでさえ、既に6速化されているから、こちらも近いうちに変更があるのだろうか?

しかし、そんな事は如何でも良くなるくらいに、Z4 3.0はトルクフルだし、新型のバルブトロニックエンジンはスムースさや吹け上がりの気持ちよさでは、M54に劣る面もあるから、このスムースさが好きなら今のウチに買っておくという考えも賛成できる。

操舵性について言えば、Z4は他のBMWと違って電動パワステを採用している。特に、気にしなければ違和感はないが、3シリーズと比べると可也軽くて、路面の状況のインフォメーションという面では多少劣るようにも感じる。と、言っても5シリーズのアクティブステアリングによる異常な軽さとクイックさとも、また違う。
Z4の場合は、必死になってコーナーを攻めるタイプのクルマでは無いから、このステアリング特性はむしろ良いほうに作用する。本気で攻めたいなら、ボクスターを選べば良い。
そうは言ってもBMWだから、サルーンですらニュートラルな操舵性は世界中のカーメーカーの目標で、ピュアスポーツではないとしても、オープン2シーターのZ4が悪いわけが無い。国産2シータースポーツのフェアレディZが、重くて鈍重で強いアンダーなのに比べれは流石に次元が違うと思える程にクイックで特性はニュートラルだから、前述の電動パワステの問題はあるにしても、コーナーを駆け抜ければ、十分に楽しいのは言うまでもない。

前回の試乗車はオプションのFR:225/40R18、RR:255/35R18という扁平なタイヤを履いていたのと、降ろしたての新車で、全く当たりが付いていなかった事もあり、乗り心地は非常に硬かった。今回の試乗車は標準の225/45R17を装着し、走行距離も約1万キロと十分に慣らしも終ったクルマだった事も有り、乗り心地も決して悪くはなかった。とは、言っても、サルーンに比べれば硬いのは当然だし、ボディの剛性もサルーンよりは劣るが、このクルマの良さは別の部分にある訳で、同価格帯で525iや330iではなく、Z4を選ぶユーザーなら気にならない筈だ。

ブレーキも今さら言う事が無いくらい、実用車のお手本のように良く効くが、本気で攻めようという人には、踏力が軽すぎるだろう。これもまたブレンボーのシステムを使ったボクスターとは、用途が違うのが良く判る。

 
3.0に標準の8J×17ホイールと225/45R17タイヤ

リアもフロントと同一サイズのタイヤとホイール
 

今回は試乗の大部分をフルオープンで走行した。サイドウインドーを立てれば、オープンでも殆ど風は巻き込まないし、エアコンも十分に効く。当日はそれ程直射日光は強くは感じなかったが、外気温度計を表示させたら33.5度と出た。この状態でもエアコンの風はサイドウインドウに沿ってドライバーを冷やし、傍で見るよりも遥かに快適だ。やはりオープンカーはフルオープンにするのが本来の姿と納得する。

さらに今回の最大の発見は同じコーナーを屋根の有り無しで比べてみたら、オープンの方が遥かに楽しかったということだ。もちろん、絶対的な速度では屋根が有った方が攻めやすいというか、コーナリングに集中できるが、オープンにして適度な速度でコーナーリングを楽しむのが、こんなに楽しいというのは新鮮だった。

今回、ジックリと試乗をして感じたのは、Z4はオシャレなオープンスポーツで、絶対的な速さ云々を語ったり、サーキットでスポーツ走行するうようなクルマでは無いということだ。それなら2.5や2.2でも良さそうだが、この手のクルマは元々贅沢品なのだから、余裕あるトルクが贅沢を助長する点で3ℓが相応しいのではないか。勿論2.2でも実用上は十分で、排気量が小さい分だけ、吹け上がりもスムースだから買い得感は抜群だ。418万という価格を考えればフェアレディZにアト一声で買うことが出来るから、検討の価値は十分にある。この場合、フェアレディZの圧倒的なトルクとアメリカンな大らかさを取るか、Z4のスムースなエンジンと軽快な操舵感を取るかというのは個人の趣味の問題だ。

最近はZ4のような輸入スポーツカーは、税務署が経費としてなかなか認めないらしい。勿論、タレントなどオープンスポーツに乗ることも商売と人気維持の為に必要な(例えばプロ野球の新庄選手がフェラーリに乗るように)職業は別としても、普通の業種では経費で買うことは出来なくなったようだ。そこで、常日頃、自分達はナケナシの給料から自腹でクルマを買っているのに、経費で落とせる自営業や会社経営者を羨ましく思うサラリーマンは、この際、自営業では買えないオープンスポーツカーを買うという案はどうだろう。所得が全てガラス張りと嘆く前に、税金払った後の手取りでなら、何を買おうが大きなお世話と、自営業者が買いたくても買えない、何の役にも立たないオープン2シーターを買って、クラウンなんかを経費で落としている零細企業主に見せびらかす事こそ、サラリーマンの特権ではないか!