BMW M140i (2017/11) 前編 その1

  

少し前までは BMW の M モデルと言えば量産モデルとは異なるレーシングエンジンをルーツとするハイチューンの NA エンジンを搭載していたが、時代の波には勝てずに今ではベースの量産型ターボエンジンの過給圧を上げて高出力を得るという何やらあまり嬉しくない状況になっている。

まあそれはそれとして、マニア向け自動車雑誌の人気投票でトップを争うクルマと言えば BWM M2 がお馴染みだが、これはご存じのようにベースは1シリーズのクーペ版である2シリーズクーペで、これに6気筒 3.0L ターボを乗せたモノだが、最近は本物の M モデルよりは多少デチューンした M パフォーマンスというシリーズがあり、M2 の廉価版としては M240i クーペがそれに当たる。そうは言っても M240i クーペも M2 と同様に3.0L ターボであり、M2 の 370ps 465N-m に対して 340ps 500N-m だから最高出力は 8% 程低いがトルクに至っては寧ろ勝っている。実はM2 は N55B30A という従来のエンジン (N) 系列であるが M240i はB58B30A という新世代エンジン (B系列) という大きな違いがある。

それで価格は M2 が 827万円 (7DCT) で M240i は683万円(8AT) と、その差は 144万円という大差が付いている。尤も M2 はトレッドや足回りが違うから運動性能が勝っているとは言え、百数十万円の差は大きい。この M240i の1シリーズ版、要するにクーペでは無くハッチバックの M140i は更に安くて 618万円と M2 クーぺよりも 209万円も安いから、これは注目に値する。ということで今回の試乗車は M140i を選んでみた。

ここで M140i の話に入る前に、1シリーズの高性能版の歴史 (と言っても高々10数年だが) について纏めてみる。BMW のボトムシリーズと言えば長い間Dセグメントの3シリーズだったが、その下のCセグメント、しかもハッチバックの1シリーズが発売されたのが 2004年だからもう 13年も前と言う事になる。この時のラインナップは 1.6Lの 116i 、2.0L の 118i および 120i というラインナップだったが、翌年の2005年には6気筒 3.0L の 130i M Sport が追加された。この N52B30A エンジンは BMW のシルキーシックスとして3シリーズでも上位モデルに搭載されていた 265ps 315Nm という当時としては強力なもので、これをCセグメントのハッチバックに積んだ事でマニアからは大いなる注目を集める事になった。

更に2008年には1シリーズにクーペが追加されたが、当初は 135i クーペのワングレードだった。この 135i クーペは 3.0L とはいえツインターボの N54B30A エンジンで 306ps 400Nm という 130i よりも更に強力なものだった。

  ⇒ BMW 130i 試乗記 (2005/12)
  ⇒ BMW 135i Coupe 試乗記 (2008/4)


写真1
初代1シリーズのトップモデル 130i 、2005年発売。


写真2
1シリーズクーペは 135i が2008年に発売された。

1シリーズが2代目 F20 へと FMC されたのは 2011年秋だったが、6気筒モデルが発売されたのは 2年後の 2013年の夏で、このモデルより従来の M モデルと標準モデルの中間とも言うべき M パフォーマンスという新しいシリーズに属する M135i となった。"135" という名称は初代1シリーズに 135i クーペが存在したが、これはエンジンが N55B30A 306ps 400N-m であるのに対して F20 のハッチバック M135i では N44B30A 326ps 450N-m に変更された。しかし本物のMは相変わらず1シリーズには不在だった。まあ M1というのは永遠の名車と同じ名前だから巨人軍の背番号3みたいなモノで、BMWとしては悩むところだろう。

この F20 をベースとしたクーペ F22 は2014年初めに発売されたが、今回からは1シリーズクーペではなく2シリーズと名乗る事になり、そのラインナップには 135i のクーペ版である M235i クーペがあった。M135i は 2016年に同じ6気筒3.0L ターボながら、従来の N44B30A 326ps 450N-m から新開発の B58B30A 340ps 500N-m に改装され、モデル名も M140i となり現在に至っている。なおクーペ版の M235i も同じく M240i となった。
  ⇒ BMW M135i 試乗記 (2013/9)

ここでこれまでの纏めとして歴代の1シリーズ 3.0L モデルを一覧表にしておく。

上の表でパワーウェイト (P/W) レシオの変遷をみると、最初の130i でも5.7kg/ps という高性能ぶりだが、これが時代とともに更に高性能化して、今回の試乗車である M140i に至っては 4.6kg/ps というE46 M3 と同等にまでなっている。E46 M3 の価格は2006年 (最終) モデルで 6MT が893万円だったから、これと同等の動力性能で 618万円の M140i は買い得という事になる。


写真3
E46 のトップモデル M3 (2000-2006) は当時のマニアの憧れだった。


写真4
現行1シリーズベースのM2は流石に迫力では1枚上手だ。

M3 の話が出たところで現代版として当時の M3 に近いサイズでもある M2 に話題を移すと、M2 が発売されたのは2016年初めだった。それまで 1/2シリーズにはMモデルが存在しなかった事から、このクラス初のMモデルは大いなる話題となった。この M2 については既に試乗記で詳細なレポートを行っているのでそちらを参照願う事にする。
  ⇒ BMW M2 Coupe 試乗記 (2017/1)

本題に入る前にもう一つ、現在日本で販売されているCセグハッチバックで M140i と性能および価格の近いクルマを比較してしておくと、BMW のライバルと言えば勿論 メルセデスベンツであり、CセグハッチといえばAクラスで、その中から300ps 以上というと AMG A45 4Matic (以下 A45) となる。もう一つは残る御三家という事ではアウディで、Cセグハッチの A3 をベースとしてた高性能版の S3 スポーツバックを選んでみた。なおアウディの S はBMW では Mパフォーマンス相当で、M に相当するのは RS という関係になっている。

これを見ると価格的には S3 は M140i と同等だが AMG ということもあり A45 は割高となっている。なおこれらと比べると M2 は流石に価格としては一クラス上となっている。


写真5
メルセデス AMG A45 は M140i よりも100万円程高い。


写真6
アウディーでは S3 スポーツバックが M140i のライバルとなる。

以下その2へ続く。

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