Mercedes-Benz (W213) E220d (2017/4) 前編

  

その昔、いやそれ程昔ではなくてもディーゼルエンジンと言えば音や振動が大きく、重量は重く、パワーは低く、価格は高いという情況で、それじゃあ一体何がメリットなんだと言いたくなるが、それはただ一つ燃費が良い事に尽きる。ディーゼルエンジンはガソリンエンジンに比べると希薄燃焼の為に燃料消費が少ない事と、燃料の軽油は政策的に税金を安くしている事から更に燃料費が低減できる。そういう訳だから中・大型商用車、要するにバスやトラックは以前から全てと言って良いくらいにディーゼルエンジンを搭載していた。

しかしいくら商用車といってもあの騒音と振動は耐えられるのかとえば、実はディーゼルエンジンというのは排気量が大きいほど、シリンダー数が多いほど振動も減ってくるし効率も良くなる傾向にある。最近は中大型商用車の世界でもダウンサイジング化により以前のような多気筒大排気量からより小排気量のターボに変更されているが、20年程前の大型車なんてV8気筒は当たり前で中にはV10やV12 何ていうのもあったし、その排気量は軽く10L を越えて20L近いものもあったくらいだ。

ということで中大型商用車についてはディーゼルのメリットが十分発揮出来ていたが、さて小型商用車となるとどうだったか、といえば凄まじい騒音と振動は仕事と割り切らない限りは我慢できるものでは無かった。それに加えて空荷の場合などは特にリアサスは殆ど動かないくらいだから乗り心地は最悪というオマケまで付いていた。そんな状況だから1970年代くらいまでは2トン積クラス以下ではディーゼルよりもガソリンの方が主流だったが、このガソリンエンジンがまた低出力で安いだけが取り柄みたいなものだった。なお中型や小型等の各種商用車については2017/3/20 からの日記を参照願いたい。

さてディーゼルエンジンの経済性を考えると当然ながらこれを乗用車に搭載したらという発想が浮かぶが、このような振動と騒音の塊のような小型車用ディーゼルエンジンでは実際に商品として成立しなかった。そんな当時としては画期的なディーゼルエンジン搭載車であるメルセデスベンツ 300TD が発売されたのが 1970年代中頃と記憶している。1976年に発売された W123 は当時のメルセデスとしては ”コンパクト” と呼ばれたエントリーモデルだったが、メルセデスといえば今で言うSクラスだったから、ここにEクラスがラインナップに加わった事でメルセデスの敷居も低くなって (と言っても高価だったが) 大いに販売台数を伸ばす事になった。その W123 には魅力的なステーションワゴンもラインナップされていて、これは S123 というコードで呼ばれたが、その S123 が日本で発売された時には前述のディーゼルモデルである 300TD のみの発売だった (写真1) 。なお TD の ”T” はワゴンを表すもので、恐らく ”Touring" の頭文字だろう。そして ”D" はディーゼルエンジンを表しているが、この TD をターボディーゼルと勘違いしている記述を目にしたことがあるが勿論間違いだ。

この 300TD は当時友人が所有していたので運転する機会が結構あったが、確かに当時の国産ディーゼルのイメージからすれば驚異的に静かで振動も少なかったが、それでもやはりディーゼルエンジンだから加速時にはガラガラという音がするし、アイドリング時は明らかな振動を感じた。それ以上に緩慢な加速は現在のようなメルセデス=高性能という感覚からすればマルで当て嵌まらなかったが、本来メルセデスの主流はどちらかと言えば動力性能は控えめでシャーシーがエンジンに勝っているのが流儀だったから、まあ大きな不満はなかった。なお付け加えれば、この 300TD の 3.0L ディーゼルエンジンは何と直列5気筒だった。ただでさえ振動の大きいディーゼルエンジンに奇数のシリンダーという事を考えれば、これまた当時のメルセデスの実力は飛び抜けていた事になる。

この 300TD のエンジン以上に感心したのはその安定した走りであり、これは当時国産車としては最もハンドリングが良い部類のいすゞ ピアッツァと同等以上だった。ピアッツァは2+2のスポーツクーペであり、これと同等以上のコーナーリング性能を大柄なステーションワゴンで達成するメルセデスの技術にはただただ驚くばかりだった。そして付け加えれば、当時の国産高級車であるクラウンやセドリックの酷さは今の若い世代には想像も出来ないだろうが、それでも多くの日本人はそれが普通だと思っていた訳で、その差を知っているのは極々一部だった。ところでそのセドリックだが 300TD から少し遅れて何と6気筒 2.7L ディーゼルエンジンを開発して搭載したのだった。このディーゼルエンジンは6気筒だけあってメルセデスの5気筒に勝るとも劣らない、いや振動の面では勝っていたくらいだった。

なおメルセデスの乗用車用ディーゼルエンジンの歴史は古く、W123 より前のモデル (60年代、W115) でも60年代から4気筒 2.0L や 2.2L の200D や 220D と呼ばれたモデルがあった。更にはW123 の後期では 300TD にターボディーゼルを搭載した 300TDターボも販売されて、W123 から W124 (1985年〜) に FMC されても 300Dターボは設定されていたが、その次代モデルの W210 (1995年〜) では既に日本ではディーゼルエンジン車の設定は無かった。

このように天下のメルセデスといえども当時の日本のディーゼルに対する規制強化と世間での風当たりの強さには勝てず、後にメルセデスサルーンに日本向けディーゼル車が設定されたのは W211の後期モデル (2006年) からだった。10年以上日本への輸入が途絶えていたメルセデスのサルーン用ディーゼルはその間に大いに進歩していて、これについては当時の試乗記で述べているので参照されたい。
 ⇒ メルセデスベンツ E300 ステーションワゴン & E320CDI 試乗記 (2006/9)

この時代のメルセデスはディーゼルの車名としては末尾に "CDI" (Common-rail Direct Injection) が付加されていたが、これがその次代の W212 では "BlueTEC" となった。その試乗記は下記となる。
 ⇒ Mercedes Benz E350 BlueTEC Wagon 試乗記 (2010/10)


写真1
W123 のワゴンである S123 は、当初日本向けはディーゼルエンジンの 300TD のみ輸入されていた。このエンジンは5気筒3.0L 自然吸気で当時としては振動も騒音も少なかった。


写真2
10年ぶりに日本でのディーゼル車販売に際して、輸入元の広報車を全国のディーラーに持ち回りで貸し出してユーザーにアピールした。

そして今回の主役である W213 E220d だが、このモデルからは "BlueTEC" ではなく単に末尾に "d" が付くだけとなった。この E220d はその名称から想像できるように排気量は 2.2Lの4気筒‥‥と思ったら実は 2.0L だった。4気筒のディーゼルエンジンは先代 W212 でも設定があり、こちらは 2.2L でE220 BlueTEC という名称だった。そこで新旧の4気筒ディーゼルと新型の4気筒ガソリン車、更には E220d の最大のライバルと思われる BMW 523d の4車種を一覧表で比較してみる。

結果を見ればEクラスのディーゼル車は 177ps から 194ps へと約10% のパワーアップをしている。そして同じく新型のガソリン車である E200 と比較するとパワーで 10ps トルクでは何と 100N-m もディーゼルが勝っているが、これは20年以上前なら考えられなかった事だ。

しかし良い事ばかりではなく、その代償としては車両重量がガゾリン車よりも 130kg も増加している。ディーゼルエンジンは同クラスのガソリンエンジンに対して圧縮比が高いためにシリンダーブロックはより強度が必要で、これがどうしても重くなってしまう原因となる。ところが、ライバルである BMW 523d の車両重量は1,700kg と E200 とほぼ同一で、それでは5シリーズの 2.0L ガソリンターボ車である 523i の車両重量はといえば‥‥残念ながら現時点では未発表で、これは恐らく未だ型式認証が取得できていないのだろう。それで同じ 2.0L でもハイパワーバージョンの 530i で調べると 1,690kg で 523d との差は僅かに10kg だった。実はBMW のディーゼルエンジンは何故か以前からガソリンエンジンと殆ど変わらない重量で、別に今回が特別という訳ではない。

今回の主役であるディーゼルエンジンについては E220 と 523d の双方とも 2.0L ターボでパワー、トルク共に殆ど変わらないのは、今現在ではこの性能が最先端なのだろう。

以上を踏まえて本題に入るが、いつも試乗記では内外装を詳しく写真で紹介するのだが、今回の E220d についてはエンジン以外はガソリン車の E200 と殆ど同じために、ここで重複しても無駄という事から最小限の内容に留める事にする。なお E200 の試乗記は下記を参照願おう。
 ⇒ Mercedes-Benz (W213) E200 試乗記 (2016/8)

トップ写真のように試乗車は一見してガソリン車との違いは見つからない。試乗車のグレードは ”アバンギャルド” だが、実は現状のEクラスではベースグレードがこのアバンギャルドであり、装備品を質素にしたベースモデルに相当するモデルは販売されていない。まあEクラスを買おうというユーザーが敢えて装備のチャチなグレードを選ぶことは無い、という事だろう。

ドアを開けてみると視界に入るインテリアは当然ながら E200 と変わるところは無い (写真3) 。ただし E200 試乗記での写真はグレードが上位のアバンギャルド スポーツだったためにシート表皮はレザーARTICO/DINAMICA という言ってみればサイドが人工皮革でセンターがスエード調ファブリックのコンビシートが標準だった。それが今回はアバンギャルドだから標準はレザーツインという人工皮革とファブリックのコンビシートとなるのだが、今回の試乗車はオプションの本革シート (グレースチッチ入り) が装着されていた (写真4) 。

写真3
室内は E200 と殆ど同じだが、今回の試乗車は前回のアバンギャルド スポーツと違い ”只の” アバンギャルドという違いはある。

写真4
試乗車にはオプションの本皮シート (ステッチはグレー) が付いていた。

ということで、一番の興味である走行性能については後編にて。

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