Toyota FJ Cruiser (2011/1) 前編 


1950年に警察予備隊(現自衛隊)向けの車両仕様が発表され、これに向けてトヨタで開発を開始したのが
3,386ccのB型エンジンを搭載した小型4WD車で、その名はトヨタ・ジープ(写真1)。 そして1951年の入札に挑んだが、残念ながら採用されなかった。ちなみに、この時採用されたのが三菱重工が米国ウィリス社のライセンスにより生産した三菱ジープであった。 その後にジープという名称はウィリス社の商標に触れることが判明し、トヨタ・ジープはランドクルーザーと名称を変更した。 この初期型のBJ型は警察予備隊の入札には不採用だったものの、警察や各種官庁、建設会社向けに生産 ・販売されて実績を残した。

1953年には新型の20系(写真2)に発展し、B型エンジンを引き継いだBJ20と新開発のF型エンジンを搭載したFJ20系があり、多くのバリエーションが作られた。この20系こそ、北米はもとより、中南米、東南アジア、豪州、中東、アフリカなど、世界の奥地で活躍し、「ランドクルーザー」とトヨタを世界中に広める役割を担ったのであった。 そして、今でもランクルの代名詞である40系(写真3)が1960年に発売された。40系にはバリエーションが各種あり、ベースのFJ40に対してホイールベースを145mm伸ばしたミドルホイールベースのFJ43やロングホイールベースのワゴン型ボディを装備したFJ45V、その他にも ハードトップやソフトトップ(要するに幌クルマ)などの作業用4WD車独特の各種バリエーションを誇っていた。

もうお判りだろう、今回発売されたFJクルーザーのFJはFJ40を現在に再現したというコンセプトのクルマで、実は米国では既に2006年から発売されている米国専用車だった。なお、FJクルーザーは日本国内の日野自動車で製造されている。

FJクルーザーのバリエーションはベースグレード(314万円)に対してリアデフロックやビルシュタインダンパーを標準装備したオフロードパッケージ(324万円)、カラードアトリムとクルーズコントロールを標準装備したカラーバッケージ(324万円)がラインナップされている。

FJクルーザーのデザインは前述のようにFJ40をモチーフにしていて、特にフロントのラジエターグリル付近は完全に同一デザインともいえる(写真3、5)。全長4,635×全幅1,905×全高1,840mmという寸法から判るように、実車をみれば確かに大きく、とりわけ幅と高さは馬鹿でかいとい う表現がピッタリする。 リアのバックドアは片開きで今時珍しく背面にスペアタイアを背負っている。元々は巨大なタイヤを装備したオフロード車はスペアタイヤが大きすぎて車内に格納できずに、苦し紛れに背面 に背負ったのが始まりなのだが、今では一つのアイデンティティとなってしまい、本格オフローダーとしては必須項目ともいえるようになってしまった。
 


写真1
1950年に警察予備隊向けに開発されたトヨタBJ型ジープ。
 

 


写真2
1953年、BJジープから発展した20系。

 


写真3
ランクルの代表作でもある40系(1960〜)。
世界中に輸出されてトヨタの知名度アップにも貢献した。如何にもオフロード作業用という、プロの雰囲気がムンムンしている。
 

 


写真4
40系から進化した70系は、本来の不正地作業に徹した正当派のオフローダーで、このワゴンバージョンにはプラドというサブネームが付いていた。

 


写真5
FJ40のイメージを再現したFJクルーザーのスタイル。
 

 


写真6
最近では珍しく背面にスペアタイアを背負っている。

 


写真7
ラッゲージルームも結構広い。リアドアは片側サイドに開く。
 

 


写真8
オプションのルーフラックを装着したFJクルーザー。

 

FJクルーザーの最大の特徴はサイドにあるドアを観音開き(写真9)とし、リアシートへの乗降性を向上させていることで、言ってみればマツダRX−8と同じ手法だ。元々FJ40は基本が2ドアだったから、リアシートへの乗降にはフロントシートを倒して、狭い隙間からのアクセスという不便さがあったが、観音開きとはいえリアドアがあることで実用 性が増すことは事実だ。 ただし、写真12のように前後方向のスペースはコンパクトカー以下で、スポーツクーペの2+2よりはマシという程度だし、降りる時はフロントドアを開けてから でないとリアドアを開けられないなどの不便はある。 まあ、この手のショートホイールベースのオフローダーの後席なんていうのは、下手をすれば横向きの簡易シートだったりするから、狭くてもマトモなシートが 付いているだけで充分かもしれない。

シート表皮は撥水・防水ファブリック(写真10)で、床のマットも防水カーペット(写真11)というように、泥だらけになっても水洗いが出来るという実用性第一のために、見た目の高級感は全くないが、これはこれなりに筋が通っている。豪華な内装を求めるユーザーには、フレームを共有するプラドや、豪華さと踏破力を両立したランクル200などを勧める。
 

写真 9-1
FJクルーザーの大きな特徴はサイトドアが観音開きであること。

写真 9-2
内装は実用一点張りで、悪く言えばチャチだ。


写真10
シートは丈夫そうなファブリック。防水処理により水洗いも可能とか。
 

 


写真11
高いボディのために、立派なステップがある。床には防水カーペットが敷かれている。

 


写真12
リアは前後方法に狭い。黄色→がドア開閉用のノブ。
 

 


写真13
ダッシュボード右端の状況。

 


写真14
ドアインナートリムはプラスチックの一体成形で、中央部にはボディ同色のトリムが付く。
 

 


写真15
プラスチック丸出しの質感だが、実用性重視のクルマとしてはキャラクターに合っている。

 

FJクルーザーの内装は樹脂製で、しかも世間ではメジャーな革目のシボは一切使わずに、細かいボチボチの入った誰が見てもプラスチックというフィーリングだが、このクルマの性格には合っている。それでもカラーパッケージを選択すれば、ドアのイン ナートリムに一部車体色と同一のカラーパネルが装着されて、少しは華やかになる(写真14、15)。 なお、センタークラスターのエアコン操作パネルは全グレードで車体色となる(写真17)。そのエアコンは全グレードともマニュアルでオートエアコンの設定は無い。しかも大きなエアコンの操作ボタンは防寒具を付けても操作しやすいように配慮されている。
そして標準はオーディオレスでありセンタークラスター上部の2DIN分のスペースがメクラ蓋となっている。メーカーのアクセサリーカタログにはオフロード用の各種アイテムが並んでいるが、ナビやオーディはについては一切触れていないから、実際にはディーラーが用意するのだろう。

車内に乗り込むには立派なステップ(写真18)に足を載せられるので高い割には乗降は容易だから、スカートを穿いた女性でも問題は無さそうなので、これが原因で折角知り合った彼女に 逃げられるということも少ないだろう。シートの座り心地は特別に良くは無いが、相対的に安い価格設定で内装も実用一点張りのクルマとしては、決して悪いシートではない。ただし、国産シートの例に漏れず、体 形によっては体の一部が浮いてしまい、面でサポートできない事もありそうだ。
 

写真16
高い位置のダッシュボードや上下に狭いフロントウィンドウ。そして2本のシフトノブなど、オフロード4WDらしさがあり、最近のSUVとは雰囲気が違う。


写真17
標準はオーティオレス。パネルは外装色と同一で、昔の鉄板丸出し時代のイメージを追っている。
 

 


写真18
センタークラスタの夜間ディスプレイ。高級感はないが、実用上は問題ない。
 

 

さて、室内も見回したところで、これからエンジンを始動して走り出すことにするが、この先は後編にて。  

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