BMW 325i M-Sports (2010/12) 後編


アイドリングはエンジンの振動がはっきり感じられるし、ステアリングを伝わって細かい振動が手に伝わってくる。そういえば、E46時代の330iはアイドリング中にハッキリとした振動と、デロデロデロ・・・・という一昔前のハイチューンエンジンのような排気音で、これは大変なクルマに乗ってしまった、 という雰囲気がムンムンと伝わるような演出がされていたが、今回の新325iも程度の差はあれど、その手の演出がなされている。 ただ、BMWのエンジン振動の演出はポルシェ(特にカレラS)のようにエンジンマウントの異様な硬さと、極端に高剛性のボディによる クルマ全体が振動するという他に例の無い雰囲気に比べれば、ず〜っと穏やかだ。 しかし、325iを単なるブランド物として買うユーザーには、この振動が理解できるか、という懸念はある。

今回のディーラーも国道沿いで、しかも6車線という主要道だから、本線に入ったら即加速することが必要で、軽自動車や1.0L級のコンパクトカーでは命がけの合流となるが、325iは余裕で加速していく。 しかも、40km/h程度まで速度が上がった状態でも、MC前の2.5Lとは明らかに違うトルク感が感じられる。2.5Lと3.0Lではスペック上のパワーは218psと変わらないが発生回転数が6,500→6,100 rpmと下がっているし、最大トルクが25.5/2,750-4,250 から27.5kg・m/2,400-4,200rpmと絶対値の向上と共に低回転から発生している。 この事実がトルク感の違いに大きく寄与しているようだが、まあスペック云々の前に絶対的な排気量が2.5から3.0Lとなったのだから違って当然で、12万円の価格差はバーゲンというべきか、これが本来と言うべきか・・・・。
 

写真20
お馴染みのATセレクターと、手前にはiDriveのコマンドダイヤルを配置するセンターコンソール。
右手前にはオーソドックルなパーキングブレーキ操作レバーが見える。パネル以外は全車に共通。
左は夕暮れでライトを点灯した状態。
 


写真21
メーター類もMスポーツとベースモデルの差は無い。
 

 


写真22
全幅1,800mmと今や決して小さくはない3シリーズだが、取り回し自体は悪くない。

 


写真23-1
ステアリングホイールはMスポーツ専用となる。
 

 


写真23-2
ノーマルのステアリングホイールでも、特に不満は無い。

 


写真24-1
下端にMのエンブレムがある。リムは通気穴が空いたレザーを使っている。
 

 


写真24-2
ベースモデルのレザーは新車のうちはゴワゴワした感触だが、2万キロも乗れば適度に滑らかになる。

 

2,000rpm以下の巡航時は結構静かで、アイドリング時のような振動も感じられないが、ひとたびスロットルペダルを踏むと、BMWらしい勇ましい排気音と共にエンジンの振動も伝ってくる。この雰囲気も如何にもトルク感に溢れているし、この振動が強力な高性能エンジンを積んだスポーツサルーンであることを強調しているが、既に述べたように、このクルマを単なるステイタスシンボルとして見栄で買った、特にクルマが好きという訳ではないファミリーユーザーは、この迫力を喜ぶのだろうか?  なお、メーカー発表の0〜100km/h加速は7.1秒という数値で、これはレクサスIS250やスカイライン250GTなどの国産2.5リッター級Dセグメントセダンに対して、1秒程速いから、3Lエンジンは伊達では無さそうだ。 因みにMC前の2.5Lの325iは国産勢と殆ど同等だったから、やはり3L化での性能アップは間違いない。

BMWの6気筒エンジンといえば何処までもスムースなシルキーシックスを思い浮かべるが、3Lの325iの場合はスムースさでは残念ながら2.5Lに及ばない。まあ、 滑らかな回転と言うのは、同じ6気筒ならば排気量が小さいほどピストン径もストロークも小さいし、ピストン自体の重量も小さいから振動も少なくスムースなのは当然であり、この点では3Lが不利なのは当たり前ではあるが、どうもそれだけでは無さそうだ。 そして4,000rpmを過ぎてからの力強さというか、レッドゾーンに向かってグイグイと回転が上がっていくという事も無く、高回転域では急激にトルクが低下するようなフィーリングを感じてしま う。これはBMWのデチューンエンジンによく見られる現象で、2.5Lの323iでも同様だった。 この事実も考えて見れば当然で、最大出力を落とすという事は高回転時のトルクを落とす事で達成?できる訳であり、だから325iという名称だし価格もそれなりに抑えたんだ、と言われそうだ。

写真27
直6 2,996cc 218ps/6,100
rpm、27.5kg・m/2,400〜
4,200rpmを発生するN53B30Aエンジン。
 

最近の他社の軽いステアリングと比べるとBMW各車の操舵力は、どちらかと言えば重い傾向でズッシリと感じるが、この325iも決して軽くは無い。しかし、重ステで有名な1シリーズ程には重くは無いようにも感じる。そして例によって中心付近には多少の不感帯があって、この部分はチョッとゴムを捩るような感触があるが、BMWに慣れたドライバーなら気にはならないだろうし、これが長時間の運転では疲れを軽減させる事になる。 とは言っても、メルセデスのEクラスなどに比べれば、3シリーズのステアリングはシビアで疲れるという意見もあるから、325iだって決してトロいステアリングという訳ではない。なお、Eクラスと比較したのは何故かというと、現行のCクラスは3シリーズを意識してか、以前のように矢のような直進性を捨ててしまった からだ。勿論、その分は3シリーズ的にクイックになったのだが、古くからのメルセデスオーナーからすれば嘆かわしい事かもしれない。 年寄りはCなんか買わずにEを買え!と、いうことかもしれないが、今の年金制度では老後にEクラスをプライベートで乗り回すのは非現実的でもある。あっ、Cクラスも厳しいかも。

今回は試乗時間に多少の余裕があったので、523iの試乗でも使用した例のハンドリングコースを走ってみた。第一印象としては、2.5Lに対して30kg重いボディは軽快さと言う点では一歩後退しているようで、どうしてもフロントの重さを感じてしまい、3シリーズ本来のレールの上を走るようなニュートラルな特性は あまり感じられない。 言ってみれば多少のアンダーステアを感じる特性で、そうと判ればそれなりに走るしかない訳で、コーナー入り口でスロットルオフにして荷重をフロントに移動して、トルクを掛けずにアンダーを殺してから、直線が見えたら徐々にスロットルを踏み込むようにすれば、充分に速く走れる。 それよりも感心するのは、絶大な低域トルクのお陰でマニュアルモードにして3速に入れっぱなしでも、充分なトルクでコーナーを抜けられる事で、これが320iだったりすると、3速ではコーナー脱出時に充分なトルクを得られない為に、コーナー入り口 で2速に落とすことが必要となる。 その代わりに、320iは軽量なフロントによる機敏な操舵特性やオンザレールのニュートラルステアなどのメリットもある訳で、今回はその当たり前の事を確認した結果となってしまった。

なお、同じコースを走った523iやパナメーラS、カレラSと比べて如何かといえば、どれもみなコーナーリングの限界は物理的なモノではなく、日本の 速度制限によるという結果だった。そう、マトモな神経ではどれでも限界より遥か手前での余裕のコーナーリングが可能だから、そうしてみると、この日本ではある程度以上の性能は無意味でもあるし、ストレス無しに踏み込みたければ、小排気量のホットハッチでも乗るのが正解とも言える 。でもねぇ、いい年してホットハッチもねぇ・・・・。
 


写真28-1
Mスポーツはフロント225/45R17、リア255/40R17タイヤを装着している。
 

 


写真28-2
320iは前後とも205/55R16(上の写真)、325iでは225/50R16タイヤが標準装備となる。

 

2.5Lの325i Mスポーツが574.5万円に対して、3L化された現行325i Mスポは586.5万円と、その差はたったの12万円。買い得といえば買い得だし、今までが高過ぎといえばそうだし、いやいや未だ未だ高すぎるといわれれば、それもそうだし・・・・・。そして、排気量が 大きくなった分だけ動力性能は上がったが、切れは悪くなったのも、また事実。それでも、総合的にみれば、ユーザーにとって3L化のメリットはあるのではないだろうか。

今から10年ほど前にE46の318iにMスポーツが設定された時には、4気筒1.9L 118psのリアに245/40R17タイヤを装着しているのをみて、なんというバカなことをやったのだ、と思ったものだった。しかしBMWのこの路線は多くのユーザーに支持されて、一時期は3シリーズの多くがMスポーツという 時期もあった。そして、この成功を見た国産各社も、一斉に扁平タイヤに大径ホイール化へと進み、今では17インチなんて驚くに値しないくらいになってしまった。そういう意味では325i Mスポーツのフロント225/45R17、リア255/40R17タイヤ なんていうのは、寧ろ大人しいくらいに思えてしまう。
それと共に扁平タイヤや、そのサスペンションの進化も著しく、更にはBMWの場合に全車にランフラットタイヤ(RFT)を標準装備しているにも関わらず、乗り心地は結構良く、多少の硬さはあるが充分に快適といえるレベルに達している。まあ、BMWといえどもRFTを完全に履きこなしたのは、極々最近の事ではあるが。

Mスポーツの魅力は、太いタイヤに代表されるスポーティなエクステリアと共に、ホールドのシッカリしたスポーツシートが装着されていることだが、こういうのを好むのは男性の感性らしく、どうも女性の感覚からは決して喜ばしいものではないようだ。 だから、予算さえあれば誰だってMスポーツを選ぶだろう、とういのは男の考え。同じ人類でも男と女は全く別の生き物と考えたほうが良さそうで、奥方の意見はMスポーツのシートのサポートの良さが気に喰わないから、絶対にベースモデルで無ければ嫌だ!とのお達し。かくして、オトウサン憧れのMスポ購入案は一声でボツとなる。昔はあんなに可愛らしくて従順だった彼女も、今ではルックスは見る影も無く、自己主張ばかりで性格の悪いオババになってしまい、こんな筈じゃあなかったと嘆いているダンナっ!俺が長年に渡って、精神的・肉体的な激務に耐えたからこそ、今の生活があるんじゃねえか。それなのに、あのバカ女房は・・・・。いや、待てよ。今の贅沢が出来るのは、そのバカ女房の親が残した遺産を相続したらか?なんて。あれ、あれ。それじゃあ、立場が悪くても文句は言えないやねぇ。

さ〜て、ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が 気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。今回は本家何チャってM3のBMW320i Mスポーツと同じコンセプトの何チャってIS−FであるレクサスIS250 Fスポーツを比較してみる。  

特別企画「BMW Mスポーツ vs レクサス Fスポーツに進む

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