VOLVO XC60 T6 SE AWD (2009/9) 後編 ⇒前編


センタークラスターはBMWのようにドライバー側を向いていて、ボルボとしては初めてナビを標準で組込んでいる。
 

ステアリングは適度に重く決してクイックではないし、中心付近(外周で1〜2cm程)には不感帯があるが、以前のV70や最近のV50のようにワザとらしく機敏に見せかけるような不自然さはない。そしてコーナーリング特性も決してニュートラルではないが、ドアンダーという奴でもない。4WD車としてはランクル200よりは多少アンダーステアが少ないという程度だからSUVとしては標準的といってよいだろう。しかし、BMW X3/5やポルシェカイエンのように、SUVの概念からみれば驚異的なハンドリングとはいかないようだ。まあ、ボルボというクルマの性格 やオーナー層からいえば、これで正解だろう 。

今回は結構良い印象だが、最大の問題点は乗り心地が硬すぎることだ。今時のクルマとしてはしなやかさがなくて、路面のちょっとした継ぎ接ぎでも振動となって伝ってくるから、これが大きめの段差などではガツンッという結構なショックとなる。ただし、この時にボディがワナワナと軋むのを感じたりはしなかったし、走行中も常にシャキッとして剛性感は 決して悪くなかった。

実際に運転してみると全幅が限りなく1.9mに近い1,890mmという数字から連想するよりも乗りやすい。まあ、最近は国産のコンパクトハッチでさえ1,750 mmくらいは珍しくないから、日本人が広い車幅に慣れてきたこともあるだろうが、この手のSUVで例えばポルシェカイエンに乗った時は随分幅が広いと感じたも のだ。と、思って、カイエンの車幅を知べたら1930mmだから、XC60より40mm広いことになる。XC60が意外に広く感じないのは、室内幅がカイエン程には広くないことからの心理的な物も原因かもしれない。
日本では現在SUVの左フェンダー側面の死角を防止するためにサイドアンダーミラー、といえばカッコも良いが何やらキノコみたいな物がおっ立っているが、電子式のモニターがある場合には不要となる。このモニターはナビに組み込まれているから、キノコが立っているSUVは純正ナビが付いていない(買えない!)ことを表しているようなもので、これはチョッと差別じゃあないか。そんなわけで、高級輸入SUVには純正ナビはマストとなっている。以前、ランクル200に試乗した際に走行中突然警報音と共にナビの画面がサイドアンダーモニターに切り替わったと思ったら、 いきなりバイクが左に近づいているのがモニターに写ったことがある。なるほど、これは便利というか安全上でも有用だと感心したが、さてXC60はといえば安全が売り物のボルボだから当然ながら同様の機能がある・・・・・・と思ったら、無い!それどころか、サイドモニターはセンタークラスターの各種スイッチの中の一つ (しかも低い位置で視線が正面から外れる)を押さなければならない。ボルボといえば安全という事になっているのだから、これはいただけない。まあ、狭い道の僅かな左の隙間に強引に入ってくるアホな原チャリがいる日本の現実なんてスウェーデン人には理解できないだろうし、主な販売先の北米だって路肩をすり抜ける原チャリなんていう存在は夢にも思わないだろうが。そういえば、ランクル200はそれ程に良く出来たサイドモニターがあるのに、ボンネット左先端にはサイドとフロント直前を見るために 2面のミラーが立っていたから、キノコ=ナビ 無しとは限らない場合もある。いやねぇ、そういう突っ込みをする奴が必ず居そうなものでして・・・・・。
 

写真20
直6、3.0ℓターボのエンジンは285ps/5,800rpmの最高出力と
40.8kg・m/4,800rpmの最大トルクを発生する。
V70 T6と同じエンジンで、クルマとしてはより新しく、それなのに値段は100万円安いXC60は買い得なのか?
いやV70が高すぎるのかもしれない。


写真21
高い視線は意外と幅も取りやすいから1.9mに迫る全幅でも取り回しに困ることは無い。

 


写真22
左前部フェンターの死角を標示している状況。使いづらいし見づらいし、安全が売りのボルボとしては問題あり。
 

 

ブレーキはBMWのように軽くはないが特に重い訳でもない。ただし、緩い減速でも軽くブレーキペダルに足を乗せるだけでは殆ど減速しない。それでも踏めば踏んだだけ 減速度は増加するし、この時ペダルは結構ストロークするが減速度に対してはリニアだから、慣れれば結句上手くコントロールできる。贔屓目にいえばポルシェの特性に似ている。このストロークの長さは恐らく装着されているパッドの特性によるものだろう。 しかし、BMWのような極端に踏力の軽い、いわばカックン気味のブレーキに慣れていると、XC60のブレーキは効かないという判断になってしまうだろう。試乗終了後にホイールの中を除いてみたらば、フロントにはBMW5シリーズの上級モデル等に使われているのと同形状のキャリパーが見えた。 しかしBMWのアルミ製に対して、こちらはオール鋳鉄製だった。このタイプで鋳鉄というは初めて見たが、まあ重量が重い以外は強度的にはむしろ有利にはなるし当然コストも安いから、それなりの意義はあるのだろう。

試乗中に停止状態でブレーキを緩めていって、僅かにパッドがローターを押している状態でクルマがクリープによってゆっくりと前進するような状況では、ブレーキからはグーッという 異音がする。通称クリープグローンと呼ばれる典型的な現象で、足回り全体が共振している状況だ。まあ、性能にも寿命にも関係ないから気にしなければいいのだが、BMWのようにμ(摩擦係数)が極端に高いパッドなら発生頻度は多いと思うが、XC60のパッドはμが低めなのにねぇ。クリープグローンは一般に足回りの剛性が低いと出やすいとか、そんな事はないとかまあ、一概には言えないようでして・・・・。。。。

そういえば、ボンネットを開けたときに見えたエアコンコンプレッサーは日本製だった。ほう、信頼性の高い日本製を使用か。エアコンは日本が世界一だからなぁ。しかし、世界一なのは日本製というよりも、デンソー 製の事で、確かにBMWもデンソー製だった。それでXC60はというと、同じ日本製でもS社製。いや、あのぅ、S社が駄目とか3流とか言っているんじゃなくて、デンソーが世界一という話でして。ふ〜っ、汗。
そして、ヘッドライトを覗いて見れば、B社でもC社でもでもなくV社製。まあ良いか。
あっ、それでもATはアイシン製とのことだから、安心して大丈夫ですよ。
 


写真23
標準タイヤのサイズは235/60R18で、試乗車は
PIRELLI P Zero ROSSO というSVU用タイヤを装着していた。

 


写真24
フロント(写真右側)はBMW5シリーズの上級モデル等に使われているキャリパーと同形状だが、なぜかオール鋳物製だ。
 

 

XC60のハイライトは主に渋滞の市街地で脇見や居眠りなどでの追突事故を防ぐために、時速4〜30kmで前車に接近中に追突の危険を感じると自動的にブレーキが作動して急停止するシティーセーフティという機能だ。 これは試して見るしかないと、一般道で安そうなクルマが前に停車していたらワザとブレーキを掛けずに接近してみる・・・・・・と言うわけにはいかないので、公道外で前車に見立てたプレート(万が一衝突しても簡単に 前倒れる、たぶん)に向かって試してみる。

前方に前車に見立てた3本の障害物がある(写真25)。これはもし衝突しても進行方向に倒れることで、車両に傷を付けることは無い(筈だ)。 最初はクリープのみでゆっくりと前進してみる。障害物が徐々に近づき、思わずブレーキを踏みたくなるのを我慢して、警報音も無視して進む。障害物はグングンと迫ってくる。だっ、大丈夫なんかよ。やばっ、ぶつかる !と思った瞬間にクルマは急制動状態でガンッと止まる。障害物はボンネット先端直前まで迫った位置で止まったようだ。お見事!(写真26)
次は速度を上げて挑戦する。前回よりも離れたところから発進して時速20km/hで障害物に向かって進む。前回のクリープ以上に恐ろしいが、じっと我慢して進んでいく。殆ど障害物に向かって突っ込んで行く感覚で、うわ〜っ、ぶ つ か る う  っ! という状況で、前回よりも更に強烈な減速ショックとともにクルマは止まった。ふう〜と深呼吸して、あ〜怖かった。しかし、まあイザという時には有用には違いない。
 


写真25
前方の3本の障害物に向かって進む。
 

体験走行が終わって、ATセレクターをPに入れたら、自動ブレーキの作動履歴が表示された(写真27)。 それにしても、このシティ・セーフティというシステムは、動作の原理自体は今の世の中なら大した物ではないが、これを実際に標準装備した発想がボルボならではと言えるかもしれない。 まあ、トヨタ辺りなら、この程度のシステムは簡単に実現できるだろうが・・・・。


写真26
ぶつかる寸前に自動的に急ブレーキがかかってギリギリで停止。
 


写真27
シテイーセーフティが作動した事を知らせる標示。

今回の試乗結果として、XC60自体は決して悪い車ではなかった(特に良くもないが)。ただねぇ、ボルボと聞くと、この10年ほどの最悪状態を思い出して、本当に耐久性はあるのか?新車は良いけど、1万キロも乗ったらスポットが緩んでこないか?とか、補記類がぶっ壊れて突然ステアリングが効かなくなって単独事故。それでも輸入元は運転が悪いなんてバックレたり、欠陥を指摘したら逆ギレして悪徳弁護士を雇って逆訴訟とかしないだろうか?なんていう心配が脳裏を過ぎるのですよね。

と、まあ、そんな事は置いておいて、XC60とライバルをスペック上で比較してみよう。XC60は同じ3LのBMW X3と同等なエンジン出力を発生している。といってもボルボはターボでBMWがNAなんていう突っ込みはしないように!10・15モード燃費はレクサスRXに比べて2割ほどガス喰いだが、この燃費計測自体が輸入車には不利な面も考えてあげよう。(でも、X3もQ5も 、もっと良いぞ、とか言わないように)。

   

日本でボルボに憧れるのはV50やV70(の5気筒版)など、300〜400万円代を狙うユーザーだと思う。その証拠に2.0のV50は大変な人気のようだし、V70の場合は 売れない6気筒3.2Lを廃止して (更に3Lターボは100万円値下げして!)5気筒のベースモデルを充実させた。

599万円という価格はBMW X3 3.0siの645万円よりも約50万円安く、トゥアレグV6の617万円よりチョイと安い。しかし、あと100万円強を追加すればカイエン3.6(718万円、6MTなら676万円)が 買えてしまう。中身はVWだなんていったって、天下のポルシェのSUVですぞ!こんなふうに大激戦の600〜700万円クラスSUVで勝負するのは並大抵ではないだろう。何しろ クルマに600万円以上もの金額を出せるユーザーは其れなりに見る目が厳しいし、ボルボ は世界一安全でランクとしてもMBやBMWと同等だ・・・・何て信じているユーザーは極少数だろう。XC60は確かにクルマとして悪くは無い。しかし、 この程度ならレクサスRXだって似たような物だし価格はより安く、こちらはHVもある。このクラスのユーザーの多くは、XC60程度では選択の候補にすら入らないのもまた事実。 さぁ〜て、XC60の売り上げは如何に?

ところで、10年ほど前に聞いた話だが、VOLVOはスウェーデンでの外貨獲得では第二位だとか。それでは第一位はといえば何と”アバ”だそうだ。1983年に事実上の解散となっても売り上げは衰えず、2010年にはロックの殿堂入りするとか。しかし、幾ら世界的とはいえロックアーティストにカーメーカーが負けるとは・・・・・・・。

     

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