F10のエンジン始動はインテリジェントキーを所持してスタートボタンを押す方式で、これは
先代7シリーズ(E65)で採用されたのを見て皆がアッと驚いたくらいだから、BMWが本家のようなものだ。ただし、E60では電子キーのスロットがあったが、今回からは単に所持するだけの国産車的な方式に変更された。エンジンを始動すると正面のメーターには
ディスプレイとLED化された燃費計が現れるが、国産車のように派手なブルーのメーターが浮き出す、という事は無い。
コンソール上のATセレクターはE60の後期モデルから採用されているスイッチ式(写真19)のもので、現在のBMWでは5シリーズ以上に使用されている。
しかし、1および3シリーズには今のところ使用されていない。
このセレクターの右側面のボタンを親指(他の指でもいいが、やり難い)で押しながら手前に引くとカチッとDに入り、これはレバー上(グリップ)部の表示とともに正面右の回転計の下部に
もDと表示される。このメーター上の表示はLEDではなく、メカ時計のカレンダー表示のような感じでメカ的に表示されるように見える。この
タイプの表示は初めて見るもので、近い将来には他社も追従するかもしれない。
F10のパーキングブレーキはコンソール上のレバーも無ければ、足元左端のペダルでもなく、ATセレクターの手前にある電気式スイッチで操作
され、スイッチを押すと解除され、引くとセットされる。実際にはこのスイッチにより、電動でメカ的な駆動によりパーキングブレーキを作動させるのだろう。何故なら、パーキングブレーキは機械的な作動であることを保安基準が求めているからだ。例えば、ブレーキキャリパーへの油圧を使ってパーキングブレーキとすることは許されない。
その理由は、長い期間の作動はメカを使うのがが一番信頼性があり、油圧では微妙な液漏れによる圧力低下などが懸念されるからだ。
パーキングブレーキ・スイッチを解除し(当然ブレーキペダルに足を乗せて)、ブレーキペダルを放すとクルマは僅かにクリープするから、ここでユックリとアクセルペダルを踏む
と、スムースに発進する。BMW(メルセデスも)の良さは、このアクセルペダルが適度に重く、レスポンスも自然な点が挙げられる。確かに最近の国産車、それも上級車の場合は決して悪くはなくなったが、それでも
535iに乗ってみるとコントロールのし易さは感心する。なお、F10のミッションは先代のZF製6速ATから8速AT(アイシン製?)に変更されている。
駐車場から表通りに出ると、そこは何時もの4車線国道バイパスで、モタモタしていれば後方のクルマがグングンと迫ってくる。この国道沿いには当然ながら多くのカーディーラーがあるが、表通りに出た瞬間からフル加速を必要とすることから、軽自動車
(特にNA)の場合は恐ろしい目にあう。当然ながら試乗車も直ぐに加速をすると、如何にもBMW6気筒らしい気持ちの良いスムースな加速をする。
「そうっ!これこれっ」 と言いたくなるようなシルキーシックスのフィーリングは健在だった。フーガもクラウンも10年前と比べれば随分と進化して、今ではEクラスや5シリーズとの差は以前ほどではなくなったが、こうして5シリーズに乗ってみるとBMWはやっぱりBMWで、フーガでは代用できない良さがあるのを思い知らされる。まあ、その代償は300万円也のエクストラコストだから、どちらが
良いとは一概には言えないが・・・・。
今回試乗した535iは3ℓとはいえターボの過給により40.8kg・mという4ℓ級の最大トルクを発生し、これは先代E60の540iに搭載されていたV8 4ℓエンジンに匹敵する。そして実際の加速感はといえば、充分速いE60の530iに対して、535iは流石にターボの威力を見せ付けて
更に一ランク上の加速感が体験できる。しかし、同じ3ℓターボの740iに比べると、その加速感は多少落ちるのは何故かと思い、後ほど両車のエンジンスペックを比べてみたらば535iの306ps、40.8kg・mに対して740iは326ps、45.9kg・mで、同じ3ℓターボでも740iは一クラス上のチューニングだった。そしてエンジン型式も535iはN55B30Aに対して740iはN54B30Aというように異なっていた。ついでに335iのエンジンはと思って調べてみたらば、こちらは535iと全く同一の306ps、40.8kg・mだが、型式は740iと同様のN54B30Aだった。
BMWの場合はチューニングが違ってもエンジンの型式は同一のようだ。ということは、性能の違いはROMのなかのソフトウェアだったりして?・・・・まさかそれはないでしょう、たぶん。
なお、両車をパワーウェイトレシオで比較すると、535iは1,820kgに306psで5.9ps/kgに対して、740iは車重1,980kgに326psだから6.1ps/kgとなり、これのみならば同等
以上なのだが、実際の体感は大分異なるのは、10%以上増強されたトルクの違いだろう
か。
そして、535iが740iより遅く感じるもう一つの理由は、スロットルレスポンスが多少劣ることだろう。1,500rpm程度の巡航からアクセルペダルを踏んだ時のレスポンスが535iはイマイチなのに対して、740iは即座に反応して、本当に3ℓエンジンでこのデカ
いボディを引っ張っているのか?と不思議に思うくらいの性能だった。と、言ってしまうと、535iは遅いのか?と言われそうだが、一般的な感覚から言えば、その動力性能は十分すぎる530i(E60)より
も更に一クラス上なのだから全く文句はないわけだが、740iの出来があまりにも良かった事で、このように感じてしまった。人間の欲望は限が無いから、どんどんとエスカレートしてしまう。更に付け加えるなら、335iの燃費(10・15モード)は9.3km/ℓに対して、535iは10.6km/ℓと車重が300kgも重いにもかかわらず燃費で勝っている。そのために
仕方なくレスポンスを犠牲にした事も考えられる。
まあF10には上位モデルとしてV8 4.4ℓエンジン(N63B44A 407ps、61.2kg・m)を積んだ550iがあるから、535iで物足りないユーザーはこちらを選ぶという手もある。ただし、550iの価格は1,040万円となり、これは740iの1,010万円より僅かに高いくらいだから、ちょっと考えてしまう。なるほど、それでお前ならどちらを選ぶんだ?と言われそうだが、残念ながらどちらも買わない、ではなく買えない。と言ってしまったら話が繋がらないので、もしも予算があると仮定したら、個人的には
・・・・・う〜ん、740iを選ぶかなぁ。
535iの動力性能がレスポンスに多少の不満を感じるのは、エンジン自体の特性もさることながら、新しく装着された8速ATの制御のシフトダウンがイマイチ遅いこともあるが、こればかりは学習機能の関係もあり一概には結論を出せない。そしてBMWはお馴染みのスポーツモードもある訳で、そうすればレスポンスについては解決できるが、実際に試してみ
れば、例によってわざとらしく妙にオーバーレスポンスとなり、本当のハイレスポンスでは無いのが気にかかるが、BMWのスポーツモードは以前からこの傾向があるから今更驚くことも無い
し、これが好きなオーナーには満足できるだろう。
|
5シリーズのライバルは言うまでもなくメルセデスEクラスであり、御三家という意味ではアウディA6も対象になる。そして国産車では先ごろFMCされたフーガが米国ではインフィニティMとしてこれらのライバルと競合している。
|
|
|
BMW |
BMW |
Mercedes
Benz |
AUDI |
Nissan |
|
|
|
新(F10) 535i |
旧(E60) 540i |
E350
Advangard |
3.0 TFSI Quattro
S Line |
Fuga 370GT
Type S |
|
車両型式 |
|
FR35 |
NW40 |
212056C |
4FCAJA |
KY51 |
|
寸法・重量・乗車定員 |
|
全長(m) |
|
4.910 |
4.855 |
4.870 |
4.925 |
4.945 |
|
全幅(m) |
|
1.860 |
1.845 |
1.855 |
1.855 |
1,845 |
|
全高(m) |
|
1.475 |
1.470 |
1.455 |
1.455 |
1,500 |
|
ホイールベース(m) |
|
2.970 |
2.890 |
2.875 |
2.845 |
2.900 |
|
駆動方式 |
|
FR |
← |
← |
4WD |
FR |
|
最小回転半径(m) |
|
5.5 |
5.7 |
5.2 |
5.7 |
5.6 |
|
車両重量(kg) |
|
1,820 |
1,800 |
1,710 |
1,850 |
1,750 |
|
乗車定員(名) |
|
5 |
← |
← |
← |
5 |
|
エンジン・トランスミッション |
|
エンジン型式 |
|
N55B30A |
N62B40A |
272 |
2GR-FSE |
VQ37VHR |
|
エンジン種類 |
|
I6 DOHC Turbo |
V8 DOHC |
V6 DOHC |
V6 DOHC S.C. |
V6 DOHC |
|
総排気量(cm3) |
|
2,979 |
3,999 |
3,497 |
2,994 |
3,669 |
|
最高出力(ps/rpm) |
|
306/5,800 |
306/6,300 |
272/6,000 |
290/6,800 |
333/7,000 |
|
最大トルク(kg・m/rpm) |
40.8/5,000 |
39.8/3,500 |
35.7/5,000 |
42.8/4,850 |
37.0/5,200 |
|
トランスミッション |
|
8AT |
6AT |
7AT |
6AT |
7AT |
|
燃料消費率(km/L)
(10/15モード走行) |
|
10.6 |
7.6 |
9.5 |
9.4 |
9.5 |
|
パワーウェイトレシオ(kg/ps) |
5.9 |
5.9 |
6.3 |
6.4 |
5.3 |
|
サスペンション・タイヤ |
|
サスペンション方式 |
前 |
ダブルウィシュボーン |
← |
3リンク |
4リンク |
ダブルウィシュボーン |
|
|
後 |
インテグラル・アーム |
← |
マルチリンク |
ダブルウィシュボーン |
マルチリンク |
|
タイヤ寸法 |
|
245/40R18 |
← |
245/45R17 |
255/35R19 |
245/40R20 |
|
価格 |
|
車両価格 |
|
835.0万円 |
920.0万円 |
850.0万円 |
861.0万円 |
492.45万円 |
|
米国価格 |
|
未発売 |
535i
$51,250 |
E350
$48,600 |
3.0T Sedan
$50,200 |
M37
$46,250 |
この一覧表で紹介できなかった同クラスとしては
ジャガー XF3.0 プレミアム ラグジャリー 760万円 (V6 3.0ℓ 243ps) もしくは
XF5.0 プレミアム ラグジャリー 895万円 (V8 5.0ℓ 385ps)
レクサス GS350 バージョンI 593万円 (V6 3.5ℓ 315ps)
GS460 バージョンL 775万円 (V8 4.6ℓ 347ps)
トヨタ クラウンアスリート 3.5Gパッケージ 559万円 (V6 3.5ℓ 315ps)
クラウンマジェスタ 4.6Gタイプ Fパッケージ 790万円(V8 4.6ℓ 347ps)
というところか。
はっきり言って、このクラスになれば、どのクルマを選んでも決して悪いことはない。言ってみれば好みの問題でもある。B_Otaku
にも偶にドイツ車オタクだなんだという中傷メールが来ることがある。
まあ、どうでも良いが、そういう人は本当に両車を比較した結果で言っているのだろうか。それなら、個人の見解の違いだからまあ御自由に、と言いたいところだが、上に挙げた車の中から少なくとも輸入車と国産車を各一組くらいは乗り比べた経験が
あるのだろうか? もしも経験が無いのに言っているのなら、何を根拠にドイツ車オタクと言うのだろうか。
国産車ユーザーは一度、この535iとかメルセデスE300や350に乗ってみることをお勧めする。同じクルマでもこんなに世界が違うのかとカルチャーショックというか、考えが変わるかもしれない。勿論、全然変わらないとか
、国産車の方が良いと本気で思ったなら
、それはそれで良いだろう。実際に違いは微妙といえば微妙だし、マルで違うといえば違うのだから。
結論として、家庭環境から本格的なスポーツカーが買えないクルマ好きのオトウサンが、一家に一台の、でもチョッと(いやかなり)贅沢なセダンを買う場合の選択肢として、535iは定番だ
し良い選択肢だと思う。853万円という価格は本格的スポーツカーならば、ポルシェ ボクスターS 7PDK(819万円+オプション)が近い。しかし、800万円代半ばという価格は総額では900万円近くなってしまい、
勤め人が個人で買うには幾らなんでも高すぎる。これが自然吸気の528iならば715万円と大分安くなってくるが、それでも結構なお値段となる。まあ、クルマに掛ける予算というのは各家庭の収入やら出費の状況、それにクルマに対する考え方で大きく変わるから
何とも言えないが、もしも535iや528iを買うことが可能ならば、それは充分に満足できる結果を生むだろうし、これらで満足できないというのなら一体何を求めているんだ、という事になる。実際に、535iにしてもE350にしても、いやE300だって文句のつけようが無い筈だ。勿論、ポルシェ パナメーラと比べれば見劣りするかもしれないが、あちらは更に
1.5〜2倍近い価格だし、それを言い出したら限が無い。
|