BMW 120i Cabriolet (2009/10) 後編 ⇒前編


基本的には1シリーズに共通のダッシュボード。
試乗車はiDRIVEやレザーシートなどのオプションを装着しているので、1シリーズとしては異例に高級感がある。
 

ステアリングコラムの左側のダッシュボード上にあるスロットに電子キーを差し込んで 、その上部にあるスタート/ストップボタンを押してエンジンを始動する(写真24)。勿論ATセレクター(写真23)はP位置でブレーキペダルを踏むのは言うまでも無い。

エンジンが掛かった瞬間の吹け上がり時の排気音はハッチバックの標準120iよりもスポーティーな味付がに聞こえるが、アイドリングは極めて静かで振動も殆どないから、この状態では高級車顔負けだ。操作部分は他の1シリーズと共通だから全く迷うことなくATセレクター をDレンジに入れて走り出すと、1,530kgという重さが原因だろうか、コンパクトな割には贔屓目に言えば重厚な雰囲気が伝わってくる。逆に言えば当然ながら加速は良くない。 同じ4気筒2ℓエンジンを搭載している320i(セダン、AT)よりも遅く、ワゴンボディの320iツーリングと同等だった。車両重量からいえば320iツーリングは1,540kgと事実上同一だったから、実に納得できる。これをパワーウェイトレシオで比べると120i(ハッチバック)が1,470kg/156ps=9.4kg/psに対して120iカブリオレは1,530kg/156ps=9.8kg/psであり、ほんの0.4kg/psとはいえハッキリ体感出来るほどの差がある。 この動力性能が不満なユーザーはこのクルマを選択する事自体が間違っているというべきで、まあこれはスペックを見た時点で判ることだが。

ところで、120iカブリオレを一般道で走らせた時の動力性能は果たして気になったり不満がでるかという問題で、B_Otaku 自身が感じた限りでは、何も考えずに流れに乗って走る分には全く不満が出なかった。
 


写真22
これもBMWお馴染みのメーターだが、3シリーズと違ってアナログの瞬間燃費計が無く、代わりにインフォメーションディスプレイにデジタル表示される。

 

写真 23
6ATのセレクターは1シリーズや3シリーズの多くと共通のパターンを持っている。
手前のダイヤルはiDRIVE用だが、3シリーズなどはMCで周辺にスイッチを並べるように変更されている。

写真 24
電子キーはスロットに差込み、その上にあるボタンで始動/停止をする。

写真 25
ライトスイッチはBMW各車と同じステアリングコラム右側のダッシュボード上にある。


写真26
アクセルペダルはBMWに共通のオルガンタイプだから、フロアマットに引っ掛けて暴走事故に至る事は無い。

 


写真27
決して優れた動力性能とはいえないが、高速道路を合法的に流すには充分だった。 ウィンド・ディフレクターを装着すればオープンでの高速走行も全く問題ない。
 

 

120iカブリオレの最大の特徴はオープンボディーにあるから、早速オープン走行を試してみる。まずはウィンド・ディフレクター を装着した状態でサイドウィンドウも上げて走ってみる。この状態での風の巻き込みは殆ど無く、この面では同じBMWで2倍以上の価格である650iカブリオレ(ウィンド・ディフレクター未装着)よりも巻き込みが少ないくらいだ(勿論650iカブにも同じようなオプションはあるから、装着すれば最強だろうが)。この状態ならば高速道路の走行も 全く問題はなく、オープン走行を心ゆくまで堪能できる。とはいえ、後席が完全に潰れてしまうのは何とも言い難いし、装着も面倒だしオマケに格好も良くないから、実際にこれを付けて走るユーザーっているのだろうかという疑問 も湧いてくる。 新車購入時に念のために購入してみて、最初の1〜2回は面白がって装着するが、結局は使わなくなるという、何やら国産ファミリーカーのCVTについているパドルシフトみないたものだ。
さて次に、ウィンド・ディフレクターを付けたままで左右のサイドウィンドウを下げてみると、それでも殆ど風は入ってこないが、その分ドライバーの右肩のシートベルトが風の直撃を受けるために強烈な振動を感じて非常に気になる。したがってサイドウィンドウは上げるのが正解のようだ。考え て見れば決してカッコの良くないウィンド・ディフレクターを付けているのだら、サイドウィンドウを下げてカッコを付ける意味は全くないので、これで正解でもある。
次にウィンド・ディフレクターを外して走行してみる。といっても、これを外して、折り畳んでから専用ケースに収納するためには、何処か駐車スペースを探して、10分ほどの作業になってしまう。さて、この状態でサイドウィンドウを上げての走行は、フロントのウィンドシールド上端から多少の風が入ってくるが、これが適度に頭上を撫でることでオープンらしさ が感じられる。 いってみれば最近の良く出来た4座カブリオレの標準に近く、レクサスIS250Cコンバーチブルも似たようなものだった。ただし、この状態では精々80km/h程度までで、高速道路のオープン走行は厳しいかもしれない。そして、最後にサイドウィンドウも下げて、正しくフルオープンの状態で走行してみると、当然ながら左右から多少の風が巻き込んでくるが、そんなに気になる程ではなく、オープンが好きな人ならばこれも中々良い。 ただし、それは60km/h程度までの話で、それ以上はちょっと耐えられないかもしれないが、このモードは一般道をノンビリ流すのに向いていると思えば、充分に納得が出来る。

今度は高速道路に入ってみる。ETCゲートを通過して加速車線の直線に入った状態でフル加速してみると、イマイチの加速性能ではあるが加速車線の終わる 前に余裕で100km/h程度に達したから、合流で冷や汗をかくような事はなかった。そういう意味では、加速性能というのはこの程度でも十分なのかもしれないが、人間の欲望は限りないから、加速車線に入るや否や強烈な加速Gでバックレストに上体をめり込ませながら、あっという間に飛んでも無い速度になるようなクルマを求めるようになってしまうのだろう。 そして高速巡航時の動力性能も精々メーター読みで120km/h(すなわちカローラクラスなら実速度は100プラスα)程度で走る一般的なユーザーには全く問題ない。ところで、このサイトの読者のようにクルマ好きのドライバーなら当然スピードメーターの誤差なんてご承知と思うが、世の中にはメーターで100km/hが本当に制限速度だと思っていて、120km/hで走るなんてとんでもないと思っている無知な連中がいるようだ。 クルマの速度計は+15% −10%の誤差がJISで規定されているから、実速度が100km/hの場合のメーター指示値は90〜115km/hとなる。そしてこの誤差は一般的にプラス誤差となっていて、クルマによっては上限の+15%に近いものもある。こういうクルマは味も素っ気もない、クルマに全く興味の無いユーザー向けの車種に多いから、 追い越し車線を100km/h程度で延々と走っているドライバーはメーターの針が120km/hを指しているのを見て、制限速度を20km/hもオーバーする凄いスピードで走っているとの認識 だったりする。
高速道路でのオープン走行は既に述べたようにウィンド・ディフレクターを装着すれば全く問題なく巡航できる。そしてクーローズド状態では、これまた全く普通のクーペと変わらない程に静かなクルージングが出来る し、更にはルーフにもチャアンと内装材がついている(写真19)から、益々カブリオレに幌を付けて走っているという感覚でななく、クーペに乗っていると錯覚を起こすと言っても言い過ぎではない。 そのため、この120iカブリオレを滅多にオープン走行をしないで、単に小さくてオシャレなクルマとしての購入も間違いではないが、値段がチョッと。
 

写真28
直4、2.0ℓのエンジンは320iと共通で156ps/6,400rpmの最高出力と
20.4kg・m/3,600rpmの最大トルクを発生する。

オープンボディで、しかも2座のロードスターよりも開口面積の大きな4座カブリオレともなれば、剛性不足が心配となるが、120iカブリオレの場合はオープン走行でも通常の走行では何ら不満はない。ただし、道路を斜めに横断する橋の繋ぎ目などを通過する時に、 神経を集中して挙動を観察していると、リアが一瞬ボヨンという剛性不足のクルマに良くある振動を伴うのを感じた。まあ、これも気にしなければ問題にはならないレベルだ。そして、走行中にルームミラーを良く見ていると、これも路面の突き上げを食らった時には多少振動するようだが、これまた気にしなければ問題ないし、先代Z4よりは改善されているから、これもオープン走行の爽快感とのトレードオフと見るべきだろう。
それではルーフを掛けたクローズド状態ではどうかと言えば、オープン時に比べて明らかに剛性がアップした感じとなり、少なくともルームミラーの振動は認識できなった。良く出来たルーフの内装と共に、2ドアクーペの代用としても使えるのは、このクルマの用途を広げることができるが、それにしては高価すぎるのが難点か。
ステアリングは1シリーズ全体に共通のずっしりと重い操舵力だが、これこそBMWと思うユーザーには実に最適で、適度に不感帯を持ちながらも一般的な国産車に比べれば充分にクイックな特性は相変わらずマニアックだ 。今回はクルマの性格を考えて本気でワインディング路のコーナーを試してみることはしなかったが、途中の一般的なコーナーを通過する時はアンダーステアも極少なく、安定したコーナーリングを見せてくれるのはBMWのサルーンやハッチバックと何ら変わりはなかった。 そして、高速道路での巡航もBMWそのもので、矢のような直進性ではメルセデスに分があるが、スポーティさではやはりBMWという事実は、このカブリオレでも屋根を 閉めれば全く同様となる。幌を掛ければ国産車にはない高速安定性を持ったクルージングを楽しめるし、一般道路では爽快なオープンも可能という面では、このクルマは中々薦められる。 ただし、遅いが・・・・・。

標準の16インチに対してオプションの17インチタイヤを履いている試乗車は、乗り心地自体は結構硬い。最近のBMWはかたくなにランフラットタイヤ(RFT)を標準装備している事もあり、乗り心地では大きなハンディを背負っているが、このクルマもやはり乗り心地にしなやかさが無い。そこでタイヤの銘柄を調べてみたらばグッドイヤー製のEAGLE NCT −5というタイヤが付いていたが、これがブリジストン POTENZA辺りなら大分違っただろう。そして、硬さ自体もハッチバックの120iより硬い設定になっている。ただし、例によって決して不快では無いから、これまた慣れれば全く気にはならないレベルでもある。そしてブレーキはといえば、これもBMWその物で、軽い踏力でガツンと食いつくように効くのもお馴染みだから、BMWに慣れたドライバーならば全く違和感は無いが、その代償としてホイールは一週間で真っ黒けになるから、毎週末のホイール掃除は欠かせない。


写真29
標準タイヤのサイズは205/55R16だが、試乗車はオプションのFR205/50R17、FR225/45R17を装着していた。
 

 


写真30
ブレーキキャリパーは120iと共通のオーソドックスな鋳鉄製が装着されている。

 

Cセクメントの4座オープンとなると、世界的に見ても意外に数が少ないが、Cセグメントの定番であるVWゴルフをベースとしてオープンにしたEOSと、これもCセグメントのプジョー307カブリオレというどちらも今流行の メタルトップであるRHTとかCC(クーペカブリオレ)などと呼ばれているタイプとの比較をしてみる。そして国産代表としては残念ながらCセグメントのオープン4座は存在しないために、一つ上のDセグメントではあるがレクサスIS250Cを比較の対象とした。
 
    BMW 120i Volks Wagen PEUGEOT LEXUS
      Cabriolet EOS 2.0T 307 CC2.0 IS250C
 

車両型式

  UL20 1FBWA 7TC5FT GSE20

寸法重量乗車定員

全長(m)

4.370 4.410 4.455 4.635

全幅(m)

1,750 1,790 1,820 1.795

全高(m)

1,410 1.435 1,430 1.415

ホイールベース(m)

2.660 2,575 2,610 2,730

駆動方式

FR FF FR
 

最小回転半径(m)

  5.4 5.1 - 5.1

車両重量(kg)

  1,530 1,590 1,590 1,730

乗車定員(

  4

エンジン・トランスミッション

エンジン型式

  N46B20B BWA - 4GR-FSE

エンジン種類

  I4 DOHC I4 DOHC TURBO I4 DOHC TURBO V6 DOHC

総排気量(cm3)

1,995 1,984 1,598 2,499
 

最高出力(ps/rpm)

156/6,400 200/6,000 140/5,800 215/6,400

最大トルク(kg・m/rpm)

20.4/3,600 28.6/5,000 24.5/3,500 26.5/3,800

トランスミッション

  6AT 4AT 6AT
 

 燃料消費率(km/L)
(10/15モード走行)

  11.2 12.2 9.4 11.2
 

パワーウェイトレシオ

(kg/ps) 9.8 8.0 11.4 8.0

サスペンション・タイヤ

サスペンション方式

ストラット ダブルウィシュボーン

5リンク 4リンク トーションビーム マルチリンク

タイヤ寸法

前/後 205/55R16 235/45R17 225/45R17 225/45R17
245/45R17

ブレーキ方式

前/後 Vディスク/ディスク

価格

車両価格

445.0万円 478.0万円 455.0万円 495.0万円

備考

       

EOSとプジョーはそれぞれに個性のあるクルマだから、120iも含めて3種類の間で選択に悩むかといえば、それぞれのファンがいるから、自ずと選択車種は決まってしまうだろう。プジョーファンから言わせれば1シリーズの豚っ鼻は見るに耐えないだろうことは容易に想像がつく。
そしてIS250Cはというと、実はこの試乗の帰りに直接レクサスディーラーに寄って比較してみた。先ずはエクステリアだが、世間でも決して美しいとは思われていない1シリーズではあるが、それに 比べても IS250Cは美しくは無いし、特にルーフを閉めたクローズド状態としたスタイルは、よくよく見ればヘンテコリンな格好をしている。対して120iカブリオレのクローズド状態の方がクーペ的でカッコ良く感じてしまう。そして、 インテリアを比較 すると、今回の120iが1シリーズとしては反則ぎみの高級な内装であることを考慮しても、IS250Cだってレクサス得意のセミアニリンレザーシート等を装着した上級の”バージョンL”だから、お互いガップリ四つの好勝負となることを想像していたが、2車を比べれば圧倒的に120iに軍配が挙がる。これは何もB_Otaku の個人的な趣味というわけではなく、一緒に行った友人も全く同じ感想だった し、友人いわく「レクサスッってやっぱりトヨタなんだね」といっていた。 まあ、そうは言っても120iよりもIS250Cの方がスタイルも内装デザインも上だと感じるユーザーもいて当然(きっといるだろう)なので、一概には言えないが・・・・・・。 そして動力性能はと言えば、V型6気筒2.5ℓのIS250Cのほうがトルク感も加速も上回るのは当然ではあるが、スペックほどには差が無いのは120iカブリオレが重いとはいってもIS250Cは更に200kgも重い1730kgもあることが原因だろう。

5ドアハッチの120iならば価格は85万円安い360万円で、車両重量は138kgも軽い1392kgだから、同じエンジンでも動力性能的には多いに有利だし、ボディ剛性だってクローズドボディだから遥かに高い。それでもこのクルマを選ぶ最大の理由はオープンエアーを受けながらのドライブが出来ることだ。
それに、ハッチバックはハッキリ言ってカッコ悪い。それに比べればカブリオレのスタイル、特にオープン時はハッチバックとは全く別のクルマと思えるほどに優雅だし、幌を上げてクローズドとしても立派にクーペスタイルをしているから、85万円と138kgも許してしまおうという気にもなる。普通はカブリオレを選ぶのはオープン走行がしたいからとも思われているが、街中で偶に遭遇するカブリオレとかコンバーチブルといわれるクルマが実際にフルオープンで走っている姿は意外にも滅多に見られない。それこそ秋の晴天で絶好のオープン日和にクローズドで走っている3シリーズカブリオレなんて結構見かける。これはどういう事かと考えて見たらば、そういうユーザーはオープン走行がしたいのではなくて、オシェレな外観が好き、というかクーペのバリエーションとして購入しているのではないか。そうだとしたら、120iカブリオレもオシャレな1シリーズで135iクーペのような動力性能を求めないユーザーにもピッタリかもしれない。

勿論、ほぼ一年中、雨さえ降らなければオープンで走る、重症のオープンマニアにも勧められる。何しろ、とりあえず大人4人が乗れるから、一家に一台のファーストカーとして購入することも可能となる。まあ、その場合は家族を上手く騙すテクニックも必要だが。