BMW 120i Cabriolet (2009/10) 前編 ⇒後編


コンパクトなCセグメントのカブリオレというのはマイナーだが需要は確実にありそうだ。
オリジナル1シリーズのカッコ悪さは多いに改善されている。
 

BMW1シリーズのバリエーションにはベースとなる5ドアハッチバックに加えて、クーペおよびカブリオレがある。そしてクーペは3ℓツインターボの135iクーペのみで、クーペをベースにソフトトップによる4座オープンとしたのが今回の試乗車である120iカブリオレだ。 クーペは1シリーズとしては最強の3ℓツインターボ搭載モデルのみなのに対して、カブリオレは2ℓNAのみの設定という、何やら不可思議なバリエーション展開をしている。価格は車両 本体が445万円だが、試乗車にはオプションとしてiDRIVE (30万円)、レザーシート(28.6)万円、17インチタイヤ(34.7万円)、ウィンド・ディフレクター(7.3万円 )等が装備されていたから総額は何と545万円という恐ろしい価格となる。これは3ℓの130i Msp(MT)の504万円を凌ぎ、3ℓツインターボの135iクーペ(MT)の549万円に迫る価格だ。
Cセグメントで500万円超えというのは、他社では何があるかといえば既に販売を終了したVWゴルフ R32でも461万円だったし、ボルボV50 T5SEが449万円(これも凄い値段だが)と何れも400万円台だが、これらにオプション満載すれば同じような価格になるかもしれない。ただし、他のクルマはどれもCセグメントとしては例外的なハイパワーであるのに対して、120iカブ リオレは自然吸気の4気筒2ℓ。コストパフォーマンスという面では、間違いなく最悪のクルマだが、それでは何がメリットなのだろうか?と いう訳で、今回の試乗は付加価値探訪といこう。

120iカブリオレのソフトトップ開閉は写真3−1〜5のように結構複雑な動作をする。ソフトトップとはいっても4座カブリオレの場合はルーフが長いことから、2座ロードスターのように簡単にはいかないようだ。そして、その動作はメタルトップの335iカブリオレと似ている。
ドアを開けて最初に目に入るサイドスカットルはセダンに比べて十分な高さがあり、オープンボディによる剛性不足を少しでも解消するための設計であることが判る(写真8 、17)。 そしてドアの兆番に目をやれば、例によってゴッツいスチール製をボディ側には溶接で固定されている。これに対して、多くの国産車は薄板をプレスした板金物を使っている(写真9)。またサイドウィンドウは閉めた直後に数mm上昇してソフトトップに食い込むことでサッシュレスでも密閉される (写真5)。ただし、この方法は最近の国産車でも使われるようにはなった(フェアレディZ、スカイラインクーペなど) が、少し前のレガシィはサッシュレスドアなのにサイドウィンドウは車体側のゴムパッキンにガラスを押し付けるだけというお粗末な設計だった。 折角走りの良いレガシィもこういう面でイマイチだったのが実に惜しい(最近のレガシィはサッシュドアとなったので、この問題はなくなったが) 。
 


写真1
この角度から見ると1シリーズの面影は全くない。

 


写真2
幌を上げるとしっかりとクーペスタイルとなる。

 


写真3−1


写真3−2


写真3−3


写真3−4


写真3−5
幌の長いカブリオレは開閉時に複雑な動きをする。
基本的な機構は335iカブリオレのメタルトップ(RHT)と同系統
となっている。


写真4
RHT(リトラクタブル・ハードトップ)の多い最近だが、ソフトトップも中々味がある。

 


写真5
ドアを閉める時点ではサイドウィンドウは下がっている(@→ ←間)が、閉めた直後に上昇してルーフに食い込む(A)。

 


写真6-1
↑部分は幌を畳むスペースのためクローズ時には奥へ押し出すと多少はスペースが広がるが、それでも狭い。

 


写真6-2
ゴム製ストラップが標準装備されている。これは意外に便利だった。

 


写真7
トランクの底板を上げると、バッテリ(右)とコントロールユニット(ECU)が収納されている。

 


写真6-3
トランクの右サイドにはドイツ車でお馴染みの救急セット(ドイツでは義務化)が積まれている。

 


写真8
オープンボディの剛性不足を補うためにサイドシルの高さはリフトバックに比べると異様に高い。

 


写真9
ドアのチョウバンはBMWに共通のゴッツい金具をボディに溶接している。レクサスの薄っぺらい板金プレス部品との違いに注意。

 

試乗した車両はオプションのレザーシート(写真16)を装着していたが、シートとインテリアカラーのアラスカグレーとグレーポプラウッドトリムの組み合わせが充分な高級感を感じさせている。これは同じ1シリーズでも116i辺りの標準インテリアと比べたらばマルで別のクルマに見える。 1シリーズや3シリーズが高い価格のくせに日本車に比べてチャチだといわれるのはベースグレードで話をするからで、上級グレードならば国産車とは全く違うセンスの良さを味わえるのだが、価格は益々高くなる。
このシートは例によってシボのハッキリした厚いレザーというBMWそのもので、シート自体のサイズも小さすぎることも無く、座り心地もBMWらしく多少軟らかめだが体全体を上手くサポートする。車両カテゴリでは同一クラス(Cセグメント)ともいえるカローラのシートと比べれば、正に月とスッポンという奴だが、これも今更言うまでも無いが。

試乗車にはオプションのウィンド・ディフレクターが搭載されていたので、これについて説明してみよう。まずこれを装着するとリアシートは使用できない(写真11)し、ケースに入った本体(写真 14、結構かさ張る)を出してから組み立て&取り付け(写真13)までには結構時間がかかる。ただし、取り付け後の外観は心配したほどには”恥ずかしく”はない(写真 12)のが救いか。そして効果の程はといえば、これについては走行性能の説明で詳しく述べることにする。
 


写真10
オプションのレザーシートは形状&座り心地共に文句なしの出来だ。
リアスペースはハッキリ言って狭いが、小柄なら大人でも何とかなるだろう。
一応4シーターといっても良い範囲だが、2+2に近い。


写真11
オプションのウィンド・ディフレクター(7.3万円)を取り付けた状態。リアシートは使用できない。

 


写真12
ウィンド・ディフレクター装着状態の見掛けは心配したほどには恥ずかしくはない。まあ、決してカッコ良くはないが。

 


写真13
組み立てたウィンド・ディフレクターを車内の4つの穴に入れて固定するのだが、一人での作業は慣れを必要とする。

 


写真14
ウィンド・ディフレクターは4つに折り畳んで専用ケースに収納するが、結構デカくて只でさえ狭いトランクを占領する。

 

写真15
基本的には1シリーズに共通のダッシュボード。
試乗車はiDRIVEやレザーシートなどのオプションを装着しているので、1シリーズとしては異例に高級感がある。


写真16
レザー表皮の質感はBMWお馴染みものだが、座面のシボは多少細かい。
 
写真17
レザーシートは当然ながらフルパワーでメモリーも持っている。前述したように高いサイドシルで剛性アップを図っている。
 


写真18
パワーウィンドウの操作スイッチは左右、前後の4つの他に一斉に4枚を開閉するスイッチがあり、これは便利だ。

 


写真19
ソフトトップにも関わらず天井の内装は十分で、あたかもクーペに乗っているような錯覚に陥る。RHTにありがちが繋ぎ目が無いのは、折り畳みが出来るソフトトップのメリットだ。

 

写真20
ディスプレイはエンジン始動でオープンする。


写真21
センタークラスターのオーディオ&エアコンも1シリーズ共通となっている。最下段の6つのスイッチは左右がシートヒーター、中央2つがソフトトップのオープンとクローズ。

 

シートに座ってドアを閉めると、とくにサイドウィンドウを降ろした状態だと、ドア内部のメカが振動するようなチョッとチープな音が聞こえる。これは先代のZ4でも感じたのだが、どうもBMWのサッシュレスの傾向のよう で、慣れれば問題はないだろう。それにクローズド状態でウィンドウも上げておけば、BMWらしくズシンと閉まるから、オープン時は特別と考えることも必要だ。

というところで、いよいよ走り出してみることにする。

⇒後編に続く