某新聞社サイトのネット記事で「部品が造れなくなる日 図面品質の劣化、トヨタにまで」という題名で、日本企業の「図面品質の劣化」が著しい、「加工できない図面が年々増えている、と指摘して危機を煽っている。
そして『図面品質の劣化は、規模の大小を問わずこれまで多くの日本企業に見られてきた。だが、ここに来てついに「危険水域」に達したと言えるほど、ひどい状態になっている』などと指摘している。
しか~し、その例題としている図面とは、自動車などの生産現場で使用する治工具、すなわち自動車(部品)を製造するために、部品を固定したりする治具と呼ばれるものだ。因みにこの治具は英語では[Jig」というくらいで、これぞ日本式生産のアイディアだ。
また自動車部品は開発時に膨大な項目の耐久試験を行うし、量産になってもラインに流動している部品を抜き取り検査する、量産品確(量産品確認)試験という事を実施するが、その時にその部品を固定する場合や、寸法精度を測定する場合なども専用の治具に固定して行う。
このように治具はそれ自身は製品ではなく道具だから機能すれば良い訳で、図面自体も結構内容が省略されているし、これを作成するのは生産技術部門だ。
問題の記事では、図面の例を挙げてボロクソ言っているが、先ず図面の指示の不備については別に治具だから機能を満足すれば良いだけだ。また単なるスペーサーなのに精密な表面加工を指示しているとの指摘だが、そもそも治具というのは加工や測定のための基準となるモノだから精密さは必要だし、一度作れば何年も使用し、しかも数も少ないからコストダウンを要求する事など、全くのお門違いだ。
では、実際に自動車を構成している量産部品はといえば、そりゃ月に何万個も生産するのだから、1円以下の単位でコストダウンするし、製品の図面は極めて細かい指定がされていて、例えば寸法公差なども2次元の相対位置を指示する幾何学公差で指示されている。また例題の図面には検図や承認のサインが無いと言っているが、前述のように単品の治具だから機能すれ良いだけで承認なんて必要ない。
また生産技術に関するものは子会社に丸投げするのが普通で、更にそれを加工するのは中小の機械加工業者となる。それぁ利益だけで何兆円というトヨタが、町工場に直接発注する訳が無い。
これに対して、量産品はといえば、検図や承認など決めたらた手順のサインが無いと絶対に発行されないし、それ以外にも図面では表せない内容をまとめた設計通知というものも添付される。またASSY図と呼ばれる製品全体を表す図面には、スペック図と呼ばれる詳細な試験仕様や要求性能を記した特別な図面も添付される。
以上を踏まえて、この記事の取材元の自動車メーカーOBエンジニアという部分をよく見ると、「生産技術部門出身」とあった。やっぱり。
言いにくいが、ぶっちゃけ、生産技術で治工具の設計を行っているエンジニアと、量産品の設計を行っているエンジニアでは月とすっぽんで、待遇などもマルで違うし‥‥まあ、それ以上は言わないが。
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