元米軍統合参謀本部議長のマーク・ミリー退役陸軍大将は、在任中から退任後にかけ、ウクライナ戦争で顕在化したドローンやAIの実戦投入を「戦争の歴史における根本的な転換点」と位置づけ、未来の戦争の姿について具体的な予言と強い警告を発し続けている。
特に米メディア(AxiosのイベントやCBS『60 Minutes』など)での発言や、元Google CEOのエリック・シュミット氏と共著で米外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ(Foreign Affairs)』に寄稿した論文「アメリカは未来の戦争への準備ができていない―そしてそれはすでに始まっている(America Isn’t Ready for the Wars of the Future)」を中心に、彼の主張の核心は以下の4つの柱に集約される。
1. 具体的な予言:「10〜15年以内に米軍の3分の1がロボットになる」

ミリー氏が最も具体的に示した未来予測は、軍の構成そのものの無人化・自律化だ。
• 兵力の25%〜33%が無人化: 今後10〜15年(2030年代後半まで)のうちに、米軍の戦力の4分の1から最大3分の1が、AIを搭載したロボットや自律型スマート兵器に置き換わると予測している。
• 陸・海・空すべての無人化: 空軍の無人戦闘機(ロイヤル・ウィングマンなど)、海軍の無人水上艇・無人潜水艦、陸軍の無人戦闘車両やロボット兵が当たり前となり、人間が直接前線で戦う割合が劇的に減少すると述べている。
• 意思決定の超高速化: AIが膨大なセンサー情報や衛星データを瞬時に解析し、標的の特定から攻撃までのサイクル(OODAループ)を人間の認知能力をはるかに超える速度で回すようになると指摘している。
2. ウクライナ戦争から得た「戦場の教訓」

ミリー氏は、ウクライナの戦場を「未来の戦争の実験場」と表現し、すでに起きている構造変化を強調している。
• 「安価な大量の無人機」が「高価な有人兵器」を無力化する: 数百ドル〜数千ドルのFPV(一人称視点)ドローンや水上ドローンが、数百万〜数億ドルする主力戦車や黒海艦隊の大型軍艦を次々と撃破している事実に注目している。
• 「透明な戦場」の出現: 無数の偵察ドローン、商業衛星、スマホの通信データ、AIの画像解析により、戦場から「隠れる場所」が消滅した。部隊が集結すれば即座に探知され、精密誘導兵器や自律型ドローンの餌食になるため、従来の「大規模な機甲部隊による突破」というドクトリン(戦闘教義)が通用しなくなっていると分析している。
• 電子戦とAIのイタチごっこ: GPS妨害や通信ジャミングが激化する中、通信が途絶えてもAIが自律的に標的を認識して突入する「自律型終末誘導」への移行がウクライナとロシアの双方で急速に進んでいることを挙げている。
3. 米軍および西側諸国への強い警告

ミリー氏とエリック・シュミット氏が最も強い危機感を抱いているのは、「米国が過去の戦争の成功体験に縛られ、変化に遅れている」という点だ。
• 高価で少数の兵器への依存リスク: 米軍は依然として、1隻1兆円を超える空母や、1機100億円以上の有人戦闘機、高価な戦車など「少数で極めて高価なプラットフォーム」を中心に編成されている。未来の戦場では、これらが安価で大量の自律型ドローン群(スウォーム/群れ)による飽和攻撃で簡単に無力化される危険性があると警告している。
• 硬直した調達システム(ペンタゴンの官僚主義): ウクライナの戦場ではソフトウェアやドローンの仕様が「数週間単位」でアップデートされているのに対し、米国防総省の兵器開発・調達プロセスは「数年〜十数年単位」の時間がかかっている。この官僚的な調達制度を根本から改革しなければ、中国などの競合国に軍事的優位を奪われると警鐘を鳴らしている。
4. 倫理的・戦略的リスクへの懸念

技術推進を訴える一方で、ミリー氏はAI兵器がもたらす危険性についても繰り返し言及している。
• 戦争のハードルが下がる危険性: 自国の兵士が血を流さない「ロボット同士の戦い」になることで、政治指導者が武力行使を決断する心理的ハードルが下がり、結果として戦争が起きやすくなる可能性を指摘している。
• 「人間による関与(Human in the loop)」の重要性: 殺傷判断を完全にAIに委ねる「自律型致死兵器システム(LAWS)」の暴走や誤認リスクを懸念し、最終的な致死力の行使には必ず人間の判断を介在させる倫理的ルールや国際的な枠組みが必要だと主張している。ただし、実戦において「AIにすべて任せた方が反応速度で勝る」という軍事的圧力が生じるため、倫理と軍事的合理性の間で激しいジレンマが起きるとも予測している。
ミリー氏が提唱する「生き残りの条件」
ミリー氏は歴史を振り返り、「戦車や航空機を発明した国が勝つのではなく、新しい技術を前提に軍の組織構造、戦術、教育、調達をいち早く作り変えた国が次の戦争を制する(例:第二次世界大戦初期に戦車と無線機、航空機を組み合わせて『電撃戦』を編み出したドイツ軍)」と説いている。ウクライナで起きている現実を直視し、軍のあり方を根底から再設計することが、大国の抑止力を維持する唯一の道であるというのが彼の結論だ。