1. 発端:「米露ディーゼル合意」と米・ウクライナの衝突

10月9日に行われたトランプ米大統領とプーチン露大統領の電話会談により、ロシア産ディーゼル燃料を米国および世界が調達できるようにする合意が発表された。
• 合意と制裁緩和の内容
ロシアが即時に30万トン以上、11月に50万トン、その後100万トン、さらに短期間で300万トンを追加する合計500万トン規模のディーゼル供給を行うもので、米財務省はこれに合わせて対露経済制裁を一時的に緩和した。米国の大統領が対露制裁の一部を解除したのはオバマ・バイデン政権を通じて初めてのことだ。
• ウクライナ側の反発
この発表は、米マイアミでトランプ政権とウクライナの交渉団が和平協議を行っている最中に出された。そのためゼレンスキー氏側は「和平交渉を煙幕として利用された」「プーチンに戦争資金を渡す弱い決定だ」と激しく非難した。
• アメリカ(トランプ氏)の反論
これに対しトランプ氏は「ゼレンスキーがロシアのエネルギー精製施設への攻撃をやめないから、世界的にディーゼル価格が高騰しているのだ」と反論し、「ウクライナには新しいリーダー(大統領)が必要だ」と突き放した。
2. 「エネルギー停戦」をめぐる3カ国の主張と認識の食い違い
ディーゼル合意の翌日、トランプ氏は「ロシアとウクライナの間でエネルギー停戦が合意された」と発表した。しかし、この合意は文書化されておらず内容が曖昧だったため、直後に3カ国間で深刻な認識の食い違いが生じた。

このように、米露は「ディーゼル精製施設に限定した停戦」と理解していたのに対し、ウクライナ側は「電力網を含むエネルギー施設全般の停戦」と捉えた(あるいはロシアの電力網攻撃を口実にした)ことで、停戦は即座に破綻した。
3. 停戦破棄から「完全決裂」への連鎖

この食い違いを機に、10月14〜15日にかけて米・ウクライナ関係は修復不可能なレベルまで悪化した。
① ウクライナによる精製施設への攻撃再開
ゼレンスキー氏はインタビューで「トランプに裏切られた」「彼は間違った歴史の側に立っている」と公言するようになった。さらに英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙のインタビューで「ブロック(停戦)は解除だ、もう終わりだ」と宣言し、ロシアのディーゼル精製施設に対する攻撃を再開した。
②「スターシールド」の速度制限とイーロン・マスク氏との応酬:
ウクライナが攻撃を再開した直後、米軍がスペースX社から購入してウクライナに提供している軍事用衛星通信「スターシールド」に突然速度制限がかかり、ウクライナ軍の主力であるドローン作戦に支障が出た。ゼレンスキー氏は「技術的問題ではなく意図的な制限であり、人命が失われる」とイーロン・マスク氏を非難した。しかしマスク氏は「これは米軍が使用している装備であり、最終決定権は(トランプ)大統領にある。自分に制限する権限はない」と反論した上で、トランプ氏に同調するように「ゼレンスキーはもはや退場すべき時だ(Time for Zelenskyy to go)」と投稿した。
③ トランプ氏による不正暴露(Newsmaxインタビュー):
トランプ氏もNewsmaxのインタビューで「ゼレンスキーは取引相手として良い人物ではない。言葉では和平を望むと言っているが実際には望んでいない」「プーチンよりも扱いにくい」と激しく批判した。さらに、バイデン前政権が供与した3500億ドル相当の装備品(パトリオットやトマホークなど)や現金について「ウクライナはそれらの装備品を公然と売り払っている」と述べ、バイデン政権とゼレンスキー氏の間でのマネーロンダリング(資金洗浄)を疑わせる内容を暴露して全面対決の姿勢を鮮明にした。