キヤノンが推進するナノインプリント・リソグラフィ(NIL)は、オランダASMLが独占するEUV(極端紫外線)露光技術に対し、「ハンコ(型押し)」のような物理的プロセスで挑む画期的なアプローチだ。
2026年現在の状況を整理すると、キヤノンは「ASMLを完全に置き換える」のではなく、「特定の工程での共存」および「コスト破壊」を足がかりに、その牙城を切り崩そうとしている。
1.ナノインプリント(NIL)の圧倒的な強み
キヤノンのNILは、光で回路を焼き付ける従来の方式とは根本的に異なる。
• 劇的な低コスト:EUV露光装置が1台数百億円(最新のHigh-NAモデルは500億円超)するのに対し、NIL装置は構造がシンプルなため、導入コストを数分の一に抑えられる。


• 省電力性能:強力な光源を必要としないため、消費電力はEUVの約10分の1に削減可能で、サステナビリティ(脱炭素)が求められる現代の工場にとって強力な武器となる。
• 微細化の限界突破:理論上、金型(マスク)さえ作れれば2nm世代の微細な回路も形成可能。
2.ASMLの牙城をどう崩すか(戦略の現在地)
キヤノンは現在、以下のステップで市場浸透を図っている。
① 「平坦化技術(IAP)」での実用化(2026年の新展開)
2026年1月、キヤノンはNIL技術を応用した「ウエハー平坦化技術(IAP)」を世界で初めて実用化した。これは回路を描く前段階でウエハーの凹凸を極限まで無くす技術で、既存の露光工程の歩留まりを向上させる。まずは「露光の前工程」で実績を作り、信頼を獲得する戦略だ。
② 特定レイヤーでの代替
すべての工程をNILに変えるのは難易度が高いが、複雑なEUVを使わなくてもよい「特定の層」に限定してNILを導入することで、チップ製造全体のコストを下げる提案を行っている。
③ 3D構造(3D NAND等)への適用
平面だけでなく、立体的な構造を一度に形成できるNILの特性を活かし、フラッシュメモリなどの製造現場への導入が進んでいる。

3.残された課題と競合状況
ASMLの牙城は依然として強固だが、以下の点が今後の焦点となる。
2026年の注目ポイント:キヤノンは栃木県・宇都宮市に新工場を建設し、2025年後半から稼働を開始した。2026年以降、この工場から出荷されるNIL装置が、実際の先端ファブ(半導体工場)でどれだけの歩留まり(良品率)を叩き出せるかが、ASMLのシェアを奪えるかどうかの分水嶺となる。