現代自動車・LGエネルギーソリューションは B-1(商用出張)ビザで渡米し、短期間(最大75日程度)で専門的な作業を行っていたとのことが違法とされた。本来はH-1Bビザ(専門職ビザ)の取得が必要で、このビザは学士号以上+専門性のある職務であれば利用可能なのだが、年間85,000件の抽選枠(うち修士以上2万件)に応募する必要があり、抽選頼みで確実性が低い。
この為に韓国企業は取得が簡単なB-1ビザによるグレーゾーンを使用していたという事だ。
では、日本の企業はどうしているのだろうか。勿論、原則としてはH-1Bビザの取得となるのだが、実は日本の場合、別の手立てがあったのだ。
日本企業が米国工場立ち上げに使う典型的なビザとして次の2つがある
① L-1ビザ(企業内転勤者)
親会社(日本)と米国子会社の間での転勤扱い。
管理職・専門職であれば大卒資格がなくても取得可能。
工場立ち上げ初期のマネージャー・エンジニア派遣でよく使われる。
➁E-2ビザ(投資駐在員)
日本は米国との投資条約締結国のため利用可能。
一定額以上の投資を行った企業の従業員を派遣可能。
日本企業は長年の利用実績あり。
これらを使用するから、敢えてグレーゾーンの危険な運用をする必要がないのだった。
では、韓国はL-1やE-2ビザを使わないのかというと、韓国企業がこれらを使用する事は制度上は可能だが、「一定期間以上、海外本社で勤務していた従業員」を派遣するという要件を満たす従業員がいない。
加えて、前編では韓国の情報が主であった事から、多くは「工場稼働に必要な特殊技術を持つエンジニア」や「設備インストーラー」だと理解していたが、その後の情報では、今回摘発された多くの従業員は下請け作業員であり、工場建設の単純作業員や技能工レベルで、そもそもH-1Bビザ(専門職ビザ)を取得できない。
米国にしてみれば、単純作業員や技能工は米国人を使用するのが当然であり、これによって米国人労働者の雇用が確保でき、それこそ工場誘致の最大の目的なのだから、建設の段階で既にこのメリットを失うような事を許さない、というのも頷ける。
では、何故に韓国企業は現地の作業員を使わずに、わざわざ旅費や宿泊費などの必要な自国からの作業員を派遣するのか。その理由は
・コスト削減:米国の建設・配管・電気工事などの労働者の工賃は非常に高額
・工期短縮:現地の労働者を一から教育するより、慣れた自国チームを丸ごと派遣した方が早い
・品質確保:設備据付や配管に不具合があれば数千億円規模の損害が出るため、「自社で責任を持てる人材」を送りたい
・労働文化の違い回避:米国の建設業界は労働組合が強く、工事の発注先によっては高額な組合費や規制が発生する
・補助金条件の達成:「迅速な稼働」を条件に米国政府や州政府から巨額の補助金を受けているため、工期の遅延が補助金や契約条件に直結する。
などの事情があるようだ。
米国に限らず、海外の大規模プロジェクトで日本が高コストの為に受注を失うケースがあるが、実は韓国や中国の低コストにはグレーゾーンの運用がかなりあるし、結果的に品質の悪さから高い買い物になるのだが、まあ、最近はこれで痛い目にあっている国も多く、ようやく日本のコスト高の理由が理解され始め、長い目で見れば買い得な事が判りつつあるようだ。