クルマ試乗記の裏話37 【羊の皮を被った狼1】




何の変哲もない、というか寧ろダサいオヤジセダンがトロトロ走っていると、そこに後方から迫るスポーツカー。後ろについて今風に言えば煽り状態になった次の瞬間、凄まじい加速で速度を上げるセダン。慌ててフルスロットルを踏むスポーツカーだが、その距離は離れていくばかり。

この光景こそ、昔から一部のマニアが憧れる「羊の皮を被った狼」という奴だ。

その元祖は恐らく1963年に登場した英国のフォード・コルチナ・ロータスで、フォードの平凡なファミリーセダンであるコルチナにロータスが大幅に手を入れてルーリングカーレースに使用できるクルマに仕立て上げたものだ。

標準のコルチナは最もパワフルなGTでも1.5L75.5hpだった。

これをベースにボティ―パネルは一部をアルミで軽量化し、サスペンションもロータス設計に代えエンジンはDOHC1.6 106hpを搭載していた。

では日本のコルチナロータスと言えば何だろうか?

スペック的に近いのは1971年に発売されたカリーナ1600GTではないかと思う。カリーナはセリカとシャーシーを共用していて、同じく小型セダンのコロナに比べてスポーティーなイメージではあった。とはいえ、平凡なファミリーセダンには変わりないが、そのバリエーションとしてセリカGTと同じ1.6L DOHCエンジンを搭載していて、正にコルチナロータスを手本にしたと思えるクルマだった。

とは言え、当時の日本でカリーナの立ち位置は小型車であり、大衆車に比べれば一般庶民が購入するのはチョイと辛かった。それなら、同じ1.6L DOHCエンジンを搭載したカローラ レビンはといえば、これはボディーが2ドアクーペだったから、ダサいカローラセダンなのに異様に速いという理想には叶わなかぅた。

そこで登場するのはカローラGTだが、このモデルが発売されたのは1979年であり、前述のカリーナGTから8年後だった。

これでフロントグリルやリアエンド、そしてサイドにある赤い「GT」エンブレムを外せば一見ダサいカローラであり、正に羊の皮を被った狼になる。

実は何を隠そう、当時本気で購入を考えた程だった。とは言え、カローラでは仕事で人を乗せるには狭過ぎる事と、どうせなら2.0L ツインカムを積んだ方が加速も良いだろう、という安易な考えで、カリーナ 2000GTを購入したのだった。

塗装色は地味なえんじ色で、GTエンブレムは当然取り外した。ただし、良く見ればタイヤが妙に太いし、ホイールもキャップレスの鉄っチンとは言え、当時としては何となくスポーティーな佇まいだったが、まあ余程のマニアでないと判らないだろう。

当時はガソリンスタントで給油する際には、店員がボンネットを開けて点検と称してオイルが真っ黒ですよ、直ぐに交換しないと大変です、何て言ってボッタクリ価格のオイル交換を勧めたものだった。それで、年の割にオヤジ丸出しの4ドアセダンに乗っているダサい客と見て、早速「ボンネット開けて下さい」と言って、フートを開けてエンジンルームが見えた時、結晶塗装の幅の広い如何にも高性能そうなヘッドカバーやずらり並んだソレックスキャブレター、そして鋳物とは言えたこ足風の排気管などを見て、クルマが好きな店員なら度肝を抜かれる姿を見るのは実に痛快だった。

とはいえ、カリーナ2000GTは成程加速性能は良いし、走行中常に聞こえるソレックスキャブの吸気音とツインカムのバルブ音の気持ち良さは十分なのだが、如何せんハンドリングが悪かった。「足の良いヤツ」というトヨタのキャッチコピーとは裏腹で、しかもステアリングには当時の国産車では常識だった大きな遊びがある等、結局2年を待たずして売却してしまった。

つづく。