HONDA S660
※検索エンジン経由でノーフレームの場合はここをクリックしてください。

ホンダ S600 の今現在の納期は1年半で、しかも抽選に当たらないと1.5年後の予約さえ出来ないという、まあ何時もながらのホンダ独特の状況だが、今回も恐らく2年もすれば特定のユーザーに行き渡り、その後はジリ貧で3年後には完全に忘れ去られる事になるだろう。

そしてまたホンダのこの手のクルマの特徴として、発売直後には試乗車がある程度用意されているが1年もすれば殆ど無くなってしまうから、これは今のうちに乗っておくか、という気持ちで今回の試乗と相成った。まあ試乗とはいえ、この手のクルマは本当にチョイ乗りが殆どだから詳細なことは判らないのだが、それでも凄く良いか普通か、それともどうしようもないかくらいは判断できる。

ということで本当に簡単なインプレッションとし、更に車両の内外装については6月1日からの日記を参照願うとして、ここでは主に日記で説明できなかった部分の補足程度とする。

先ずはルーフの取り外しによるオープンの方法については日記では紹介できなかった事から、その手順について写真とともに説明してみる。最初に室内の前後左右にあるロックレバーを外し (写真@) キャンバスルーフをクルクルと丸める (写真A) 。次にこの丸めたキャンバスをフロントフードを開けてその中にある専用の収納ボックスに入れる (写真B) 。これで目出度くオープンとなった (写真C) 訳だが、ビートのようなフルのキャンバストップではなく、所謂タルガタイプで、この方式の本家でもあるポルシェ 911タルガやロータス エリーゼなどもこの方式だ。

ドライバーズシートに座るために腰を落とすと、日記の時の展示車でも感じたがヒップポイントが異常に低いのに驚く。手動式のシート調整により前後を合わせてから次にバックレストの角度を調整するが、この時にこの低い着座位置のスポーツカーらしく少し寝せたような角度にしてみたが、背中の上部を上手くサポートしない。これは本人の体形の問題もあるかもしれないが、それ以上にシートの出来がイマイチということだろう。それでも取り敢えずその位置で今度はステアリングを合わせるためにステアリングコラム底面にあるロックレバーを外して先ずは上下を合わせ、次に少し遠すぎるので手前に引くと‥‥動かない! そう、ステアリングは前後には動かないのだった。

仕方なくシートを前進しようとしたが、そうすると今度は膝を曲げなければならず、これではマトモに運転が出来ないので、結局バックレストを更に立てて実用車のような姿勢にするが、そうなると低いヒップポイントとペダルの位置関係から、これまた足腰に無理が掛かりそうで、まあこんなモノと諦めるしか無い。ついでに言っておくと、コレだけ低いヒップポイントはミッドシップエンジンのスポーツカーという記号に相応しいような、何やら現実感からかけ離れた特別の飛んでもないモノに乗っているという感覚を想像するが、実際にはそのような事は全く感じられない。まあ、それでもコペンよりはマシではある。

エンジンの始動は正面のメータークラスター右側と隣り合った場所に赤い押しボタンスイッチがあり、これを押すという極々当たり前の方法でエンジンは始動する。正面のメーターは大径の回転計の内部にはデジタル式の速度計が組み込まれている。左右には液晶ディスプレイを使用したメーターがあり、左が時計や外気温、そしてATセレクターのポジションと燃費計などで、右は燃料計と積算計などとなっていて、ぶっ飛び過ぎて使いづらいようなものが多いホンダにしては意外とオーソドックスだ。

 

ここでやはり日記では紹介していなかった、というよりあの時の展示車には電源が入っていなかった事から判らなかったディスプレイなどに触れておくと、エンジンを始動すると狭〜いセンタークラスターの頂点におっ立っているディスプレイに表示が出たが、これはGメーターとかいう加速度やアクセル開度とかブレーキ圧を表示するものだそうで、メーカーオプションとのことだがGメーターなんて何の役にも立たないし、ブレーキ圧なんて最近の電子制御されたブレーキは各車輪を独立制御しているから、こんなモノは何の役にも立たない。それに何よりパニックブレーキ時にはこんなディスプレイを見ていたら危険でもある。

センタークラスターのエアコン操作パネルには小さくて安っぽい、まるで100円ショップのグッズみたいな液晶表示で温度と吹き出し口の位置などが表示されるが、コントラストが低いし表示も小さくて視認性は最低だ。

それでは走り出すためにAT セレクターを見るとパターンは直線式だが、一般によくあるDから横方向に押してSやマニュアルモードになるようなパターンは一切無くてDレンジのみだ。これについては後ほど追記するが、とにかくDレンジに入れてレバー式のパーキングブレーキを解除して走り出してみる。

  

公道に出て加速した第一印象は、まあ軽としてはソコソコのトルク感はあるが大した事はない。このクルマのミッションはCVT だが、発進時に少し踏み込むと回転計の針がトルコンAT並にグーンと上がるフィーリングは悪くない。そこで今度は低速状態からステアリングに付いているパドルスイッチで1速まで落としてからフルスロットルを踏んでみると、回転計の針は3,000 rpmくらいまでは多少緩慢ではあるが加速感はあるのだが、それから先は回転の上昇はまだるっこしい程にトロくて、これはもう軽丸出しだ。幾らミッドエンジンの操舵性を重視するとしても、軽自動車に250万円も出してこの動力性能では話にならなし、半値以下のアルト RSターボの方が遥かにスポーツモデルらしい動力性能を感じたくらいだ。考えてみればどちらも660cc ターボで64psとはいえ、車両重量ではS660 の830kg (MT、CVTでは850kg) に対してアルトRS は670kgであり、パワーウェイトレシオはそれぞれ13.0と10.5kg/psだから、これではフルスロットルでの性能差が出て当然だ。

今回の試乗は ”試乗” というのがおこがましい程のチョイ乗りで、途中にワイディングどころかチョイとしたコーナー、いや道路の曲線すら無いような状況であり、S660 の最も得意技と思える操舵性は殆ど判らなかった。ただ、走行中でのステアリングのレスポンスは確かに良いのは解ったが、それでもダントツでいたく関心したとかいうことはないし、良いクルマは10m走れば判るなんていうことわざ(?)のようにチョイと走っただけでもコレは凄い、という程でもないが、まあ悪くは無いとは言える。

乗り心地については硬めだが如何にもボディ剛性の高そうな感覚は伝わってくるから、これは軽のしかもオープンとしては立派なものだ。まあオープンと言ってもタルガトップだから条件は良いという事情もあるが‥‥そんな訳でコペンに比べれば乗り心地も剛性感も圧倒的に優っている。

という訳で、まあ悪い車ではないが実質二百数十万円出す価値があるかといえば微妙なところだが、それよりも実用性の面では唯一無二の荷物が置けそうなスペースはソフトトップの収納場所だから、S660 にはトランクケースどころがアタッシュケースを置くスペースすら無く、自分の身の回りの小モノはパッセンジャーシートの上にでも置くしか無いという状況で、若い独身男性がこれを買ったらそれこそ彼女は出来ないと思ったほうが良い。尤も、こんな特殊なクルマを買うような重症のホンダおたくでは、どうせ彼女なんて出来るわけもないが‥‥。

ところで冒頭でも述べたように現在は注文自体が抽選に当たる事が必要で、それに当たっても納車は1年半後という状況だ。さっすがー! そんなに売れてるのか、と思うだろうがS660 の生産体制は1日に40台というから月産800台であり、それに対して4月の発売直後で5,200台の受注があり、これで既に半年分以上のバックオーダーを抱えたことになる。要するに元々生産台数が少ないのだ。一般的にクルマというものは月産3,000台がベイラインで、それ以下だと初期投資を回収できないと言われているが、S660 は生産台数からして一般的な製造設備よりも簡略化した、言い換えればその分人海戦術や工数増でまかなうであろう。そしていずれは閑古鳥が無くであろうことはクルマにホンダ自体が一番認識しているから、これ以上製造ラインを増強することは考えないだろう。

ここで最後に走行モードについて補足すると、実は試乗中に助手席の営業マンにスポーツモードについて聞いたが、そういうものは無いとの回答だった。ところが、帰宅後にカタログやネットで調べてみたらば、メータークラスターの左隣にあるスタータースイッチと対称に配置された丸いボタンが ”SPORT” スイッチだった。これは営業マンに知識が無いのか、SPORT なんて試されると危険だと思ってシラバックレたのか、のどちらかだろう。何しろ暫く振りに販売する ”本格的スポーツカー” だから、舞い上がったユーザーが無謀な運転をしないように監視するのが営業マンの一番の役目であり、輸入車ディーラーやトヨタ店(センチュリーやクラウンを売ってる店)のようにお客様(試乗者)への説明係というのとは大いに違うのだ。まあ、それを言ったらばスバルだってWRX の試乗で無茶な加速をして試乗車を潰した例なんかがあるというし、三菱のランエボも事情は同じのようだから、底辺層も興味を持つ高性能車の難しさというものはある。

さて、今回の試乗により国産の軽スポーツ3車種 (S660、コペン、アルトRS) に ”一応” 試乗したことから、これらを特別編で比較して言いたいことを言うのも面白そうだ。

注記:この試乗記は2015年6月現在の内容です。

追 伸
特別編は予定通りに軽スポーツ3車種を比較する。

ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。

特別編「HONDA S660 vs DAIHATSU COPEN」に進む

TOPページに戻る

//-->