TOYOTA COMS 後編
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今回の試乗は公道上ではなくトヨタが運営するクルマのテーマパークで東京お台場にある MEGAWEB 内のコースを2周りするライドワンで実施した。ここは今回の試乗コースとともに現行トヨタ車約60台を展示したショーケース、そして旧車の展示などを行っているヒストリックガレージなどがある。何故コムスの試乗をメガウェーブで行ったかといえば、一般のディーラーにはまず試乗車は無いだろうし、イベントなどで試乗出来たとしてもこれを公道上で運転する勇気は持ち合わせていないという2つの理由からだった。

受付で手続きを済ませてから試乗まで30分位時間があったので、併設されている巨大なショールームであるショーケースに展示中のコムス B-COM デリバリーを見ておく事にした。やがて時間が近付いたので再度受付付近で待っていると他の試乗予定者も集まってきて、スタッフによる簡単な説明の後にコースに出て自分のクルマを探すと一番先頭にチョコンと小さいのがいた。ライドワンの試乗は1回300円で、原付扱いのコムスも、その2台後ろに止まっているセンチュリーも同じ300円で、何やらひどくそんをした気分になる。

試乗車に近付いてみるとオプションのキャンバスドアが付いているようで乗り込むのに、さて、どうやって開けるのだろうか? ドアノブらしきものはなくドアが開くような構造にもなって無さそうだしと悩んでいたら、そこにスタップが来てジッパーをジーっ」とやって開けてくれた。しかし開けると言っても完全に開くわけでもなく、下部に残ったドアの一部を乗り越えながら運転席に座る。ドアを閉めるには再度ジッパーをグルーッと動かす事になるが、使い勝手のはすこぶる悪い。ドアのジッパーを閉めてシートを調整するには座面下のレバーを引き上げて前後に動かすのは他のクルマと同様だし、さらにバックレストも右側面レバーで解除して角度を決めてロックするので、この部分については特別な知識はいらない。シート自体は対してクッションも付いていないようだが、それでも必要な部分は沈むから見かけの割には体にフィットする。そしてシートベルトも普通の3点式だから、特に戸惑うこともない。

  

システムの電源をオンにするにはステアリングコラム右側面のキーホールに金属キーを差し込んで右に撚るという、今時は軽自動車でも殆ど見かけない方法だが、考えてみたらコムスは軽自動車以下のミニカーというか法律上は原付だから、まあコンナモノでしょう。電源を入れると正面のメータークラスターの液晶パネルのバックライトが点灯すして数字が現れ、大きめの数字で速度のデジタル表示と次に述べるセレクターのポジション表示、そして小さい文字で走行距離が表示される。更に右下には電池の残量計らしきものがある。

  

セレクターはステアリングコラム左に生えたレバーで、これは中点がニュートラルでN及び SRART と白抜きで表記されている。世間一般の2ペダル車には必ずあるP ポジションは無いから、停車後は必ずパーキングブレーキを引く事を忘れてはならない。最近はAT が多いことから、停車時にパーキングブレーキを使わなくてもP レンジで十分にクルマを保持できることもあり、チョッとした停車ではパーキングブレーキを使わないユーザーもいるようだが、この動作に体が馴染んでいると COMS の場合はヤバイことになる可能性もある。

セレクターをDに入れてパーキングブレーキを解除するのだが、このレバーは運転席右側の後部にあり、その角度は運転席から見るとパーキングON でほぼ水平に見えるので、パーキングが解除されているのかどうかを判断しづらい。まあメータークラスター内のインジケータを見れば良いのだが‥‥。

ブレーキを離した足をアクセルに載せて少し踏み込むとクルマは走りだした。そのままでは速度が上がらないので2/3くらい踏み込むと原付という認識からすれば思いの外加速は良く感じるが、その代わりに加速中は盛大なギアノイズが聞こえてくる。電気自動車といえば強力な低速側トルクのためにギアによる減速が殆ど必要ないという認識だったが、コムスは結構なギア比と思えるようなギア音が聞こえる。しばらく加速してから速度計を見ると30q/hで、結構速いと思っていたのは速度感がやたらにあるからで、実際には大した加速ではなかったようだ。

実は走りだして最初に感じるのは全く頼りにならないステアリングと接地なんていう言葉とは縁遠いサスペンションの酷さであり、良い車は10m走れば判るという言葉があるが、コムスで10m走るとこれはヤバイ、いや危険レベルだと感じる。このコースの制限速度は40q/hだが、この速度まで加速すると結構な恐怖感があり、公道での法定速度は軽自動車(普通車も)と同じ60q/hだが、実際にこのクルマで60q/h走行は危険極まりないだろう。

今度は最初の狭いブラインドコーナーに入るので兎に角減速して、体感的にコーナーをクリアーできそうな速度まで減速してみたらば速度計は20/hを指していた。そりゃ、まあ、35q/hでも恐怖を感じるのだからコーナー手前で20/hまで減速するのは当然だ。それにしてもこんな低速で走っていたらば後続の他車に迷惑ではないかと心配になってサイドミラーを見たが、後続車は見当たらない。最初にこのクルマが先頭だったのは後続車の出発を遅らせて、コムスを十分に先行させるのが目的だったようだ。

さて20q/hで回るコーナーは、それでもまあ何とか走っているという感じだが。路面は直ぐに石畳となり、下からの直撃と車体が飛び跳ねることで接地感は更に失われている。しかも路面状況でクルマは左右に頭を振るから、こんな低速とはいえ慎重に修正舵を必要とする。その後直線となり制限速度の40km/hまで加速したところで前方の信号が赤になるのが見えたのでプレーキペダルに足を乗せるが、この速度では回生ブレーキの効果は判らない。しかもペダルに軽く足を載せた程度では全く減速しないことから停止線が迫ってきたので、奇しくもフルブレーキとなってしまった。そういえば、出発前に係員からブレーキが効かないので注意して下さいと言われていたのを思い出したが、これ程効かないとは思わなかった。

その後はまた狭いコーナーを抜けて波状路に進むと、大した凸凹では無いにも関わらずクルマは盛大に揺すられて、勿論直進性なんて言うものはどこかへ忘れてしまったかのようだ。その後は出発点を通過してもう1周するのだが、ハッキリ言って気が重い。まあそれでも2周目は少し慣れたこともあり1周目程の恐怖感はなかったが、それにしても酷いクルマ、もとい原付だ。最後に停止位置に近付いて20km/hくらいからブレーキペダルに足を載せるとクーっという回生ブレーキの音と共に結構な減速度を感じたので油断したのがいけなかった。そこからフートブレーキを踏んでも殆ど減速度は増えずスーっと滑っていく感じで、慌ててフルに踏んで何とか止まることが出来た。回生ブレーキについては40km/hでは感じなかったのは、このくらいの高速!では上手く回生が効かないのかとも思うが、さてどんなものだろうか?

停止後パーキングブレーキレバーを引いてセレクトレバーを上に持ち上げて N に戻してベルトを外し、ドアを開けるためのノブを探そうとして思い出した。そう、このドアにはノブもヒンジも無く、ジッパーをジーっとやってキャンバスを下に垂れ下げて、そこを跨いで降りたのだった。

それにしても走る (動力性能) はまあまあとしても、曲がるは問題外の低レベルであり、止まるに関しては危険レベル、いや曲がるも危険レベルだが、いくら原付登録とはいえ今時この性能はあんまりだ。それで価格は80万円となれば、一体誰が買うのだろうか??

注記:この試乗記は2014年12月現在の内容です。