TOYOTA COMS 前編
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日本ではあまり知られていないが、欧州には microcars というカテゴリーがあって、各国多少の規格の違いはあるが、概ね以下のようになっている。

・シートはドライバーおよび乗客1人 (合計二人)
・エンジンは単気筒49〜500cc
・1’輪駆動
・ケーブルで操作される2または4輪ブレーキ
・単純なサスペンション
・ホイールサイズは6〜8インチ

この microcars は多くの国 (ドイツ、フランス、イタリア、オーストリア、スペイン) でオートバイとみなされ、自動車の運転免許を必要としないのが特徴となっているために、運転免許試験に受からない人や一部の国では飲酒運転等で免許証を取り消された人などの市場となっているという。

microcars の主要生産国はフランスとイタリアであり、イタリアの場合は簡単な講習と試験で14歳から運転ができることから最近は若年者のユーザーも増えていて、スタイルも若者好みのお洒落なものが増えている。参考に代表的な microcars としてフランスの Ligier (リジェ) の写真を掲げておく。

ここで話題を日本に移すと、日本で普通車よりも小さい規格のクルマといえば軽自動車だが、今や3台に1台は軽自動車という程にメジャーになり、室内も十分に広く装備も普通車と遜色のないモノが主流となっているような状況だが、ご存知のように今の軽自動車は幅が狭すぎることと排気量が小さすぎることで国内専用車となっている。これをグローバルな目で見れば、欧州でA セグメントと呼ばれるカテゴリーにするにはサイズも排気量もあと少しサイズアップすれば、十分に世界戦略車として欧州のみならずアジアの新興国にも販路ができる、という話は今更言うまでもなく多くの関係者が感じていることだ。

話は変わって今の日本でも軽自動車よりも更に小さく、言ってみれば軽とバイクの中間的なクルマで、前述の欧州の microcars の最小モデルに近いものが存在している。排気量 0.5L (50cc) 以下または定格出力 0.6kw 以下の車両は道路運送車両法では原動機付き自転車 (通称原付) の扱いになる。原付の大きさは保安基準で長さ2.5m、幅1.3m、高さ2.0m を超えてはならないと規定されているから、これらの規格を満足すれば4輪車といえども ”原付” となる。

それでは原付免許で運転できるかといえば、道路交通法 (道交法) では普通自動車運転免許 (普通免許) が必要と規定されている。道交法では普通車といことは2輪の原付のようにヘルメットの着用や二段階右折の義務もなく、法定速度も原付の 30q/h から60q/hにアップされる。なおこれらのクルマはミニカーと定義されていて普通車とはいえ高速道路や自動車専用道路の走行は出来ない。しかし日本のマニアの間でミニカーというと、1/43とか1/18のスケールモデルを意味するため一般的にはマイクロカーと呼ばれているので、この試乗記でもマイクロカーという呼称を使用する。ただし、これもまた前出の欧州版 microcars と混同されやすいが‥‥。

ここで一つ付け加えると、ピザの宅配などで使われている屋根の付いた3輪車は普通免許が必要かというと、実は道交法では総理府告示という形で例外規定が設けられるとされていて、それは告示によると軸距 (要するにホイールベース) が0.5m 以下で車室を備えない3輪車は原付免許で運転できるということで、ピザ屋の宅配3輪車などは目出度く原チャリ免許でOKとなるわけだ。

ところで最近道路上で目にするシニアカーとかいう電動式のカートのような、どう見ても電気自動車の小さいような奴が走っているのを見かけるが、世間ではあれを電動車いすと呼んでいるようだ。しかし、車椅子というのは大きな車輪の付いた正に椅子で身体障害者が使うものであり、それに電動モーターを付けたのが電動車椅子だと思っていたが、シニアカーは法律的にどうなっているのだろうか。そこで調べてみたらば道交法では「走行補助車」と規定されていて、障害者ではなく高齢者向けのもので基準も電動車椅子とは少し違うようだ。

しかし、このシニアーカーというのは見るからに危険な場面を目にすることも多く、夜間に無灯火で車道を走っていたり、車椅子だとばかりスーパーの店内を走っていて危うく接触されそうになったりと、これで事故は起こらないのかと思って調べてみたらば、2012年度までの5年間で91件発生し、そのうち死亡事故は33件あったということだった。このシニアーカーについては項目を改めて (特別編で) 検証しようと思っている。

前置きが長くなったが、今回の試乗車はトヨタ コムス (COMS) であり、今説明した原付登録だが運転には普通免許の必要なマイクロカーである。国産のマイクロカーといえば大蛇などでマニアの間でも有名な光岡自動車が発売していたが、既にこれは生産が終了していた。他に国産車な無いのか以外にも2〜3が扱っているようだが何れも海外からの輸入品で、その中から今回は中国からの輸入品を国内用に改造して販売している ACCESS という会社のミニ Ace を取り上げてみた。

これら3車の諸元を比較をすると

中国製のミニ Ace は性能的にも劣るようだが、価格も3車では一番安い。T10 についてはコムスとほぼ同等のスペックを備えているが、価格は10万円程高い設定になっている。実はコムスはトヨタとはいっても実際の開発も製造もトヨタ車体であり、一種の OEM ということになる。勿論トヨタ車体だって世間一般から言えば十分な大企業であり、零細企業の手作り的なモノが多いこの手のクルマにおいては例外的という訳だ。

コムスのバリエーションは大きく分けて乗用の P-COM (82万円) と貨物用の B-COM があり、B-COM にはデリバリー (79.5万円) 、デッキ (75.2万円) 、ベーシック (68.7万円) の3グレードがある。これらの一番の違いはリアのラッゲージスペースであり、立派なクローズとエリアを持つデリバリー、屋根の無い荷台を持つデッキ、そして荷台らしきモノの無いベーシック、さらには高さの低いトランクを持つ乗用車仕様の P-COM の違いがある。

なお以下の写真は全てデリバリーを使用している。エクステリアは前述のT10やミニ Ace に比へれば段違いに垢抜けているし、生産設備に金を掛けたと思うような滑らかなカーブを描いている。実はコムスだけを見た時には80万円も出してこれかよ、と思った訳だが、こうしてみればこの分野では十分に立派なのかもしれない。

コムスは全てのバリエーションでドアを持っていないためにドライバーは言ってみれば吹きっ晒しだが、まあ原付きですから‥‥。そういう意味でデリバリーのラッゲージエリアはまともにクローズドとなっていて雨風を凌げる唯一の場所でもある。その床面を持ち上げると更にスペースがある。この床板は近所の DOIT で切断してもらった板にマジックテープを貼ったような作りだ。まあ生産台数を考えれば、トヨタブランドとはいえある面手作り的になってしまうのだろう。なお、リアゲートは意外にシッカリできていて、このくらいの品質のドアが運転席にもあったらば‥‥なんて思うところだ。

それで室内はといえば、前述のようにドアは無いからそのままでキャビンは丸見えとなる。シート表皮はメーカーサイドではレザーと言っているが、これをレザーというにはあまりにも恥ずかしい只のビニールで、それでも座ってみると多少にクッションはある。シート調整は勿論手動式だが、調整ができるだけマシか。ただし、上下の調整をするようなレバーの類は見当たらないから多分出来ないのだろう。

 

インパネ、なんて言ったらばインパネに怒られそうなくらいにシンプルなパネルの中央には、一応メータークラースターがあり、その中には液晶メーターがある。それ以外ではオーディオやエア・コンらしきものも見あたらない。いや、エア・コンなんて贅沢は言わないが、せめて暖房くらいは欲しいがトヨタ車体のサイトで調べてみたらば、これらはオプションにもないようだ。考えてみればこれは原付きなのだから、エア・コンもオーディオも無くて当たり前だった。

内外装は解ったが、それでは肝心の走りはどうなのだろうか?

その走りについては後編にて。

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