SUZUKI SWIFT SPORT(MT) 後編
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スイフトスポーツ(スイスポ)はインテリジェントキーを採用している為にキーを所持してブレーキペダルを踏みながらダッシュボード右端のスタートボタンを押すとエンジンは・・・・・・・あれっ、ウンともスンとも言わない。よく考えたら、このクルマはMTだったから、クラッチペダルを踏みながらスタートボタンを押してみたら、目出度くエンジンは始動した。 3つのペダル配置は可也窮屈で、しかもクラッチの左側のスペースが少ない為に通常スポーツタイプのクルマに付いているフートレストがない。結局左足は床面に置いて、クラッチ操作の時は 床上の足を手前に引いてから持ち上げ るような操作でやっとペダルを踏むことが出来る。言ってみれば左足のスタンバイ位置はクラッチべダルの下となる。下の写真を見ると床のカーペットの左端にはゴムの滑り止めというか、左足のスペースらしき部分があった。

このように書くと、何やら使い物にならないように感じるかもしれないが、10分程乗った後には全く違和感はなくなっていたから、慣れの問題かもしれない。そういえばその昔、3ペダルが当たり前だったころの多くの車 は左側のスペースが無いし、勿論フートレストなんてあるはずも無く、ドライバーは左足をクラッチペダルの下に置いていたものだった。 さらにこのポジションでも違和感が無いのは、スイフトという実用車ベースのために着座位置が高く、バックレストを立てて膝を直角近くまで 下に曲げるような姿勢で運転するので、フートレストが無くても、それ程実害が無い事も原因だろう。



物凄く軽いクラッチを踏んで、シフトレバーを1速に入れてから、クラッチをミートさせるとクルマは簡単に前進する。クラッチの軽いことに加えてミートポイントも判り 易いので、ATしか乗っていないドライバーでも少し練習すれば難なく使いこなせるようになるだろう。 一般道に出て1速で2/3くらいスロットルを踏むと、意外にも結構活発な加速をする。以前乗った先代のスイフトスポーツはATだったこともあるが、これほど軽快に加速はしなかったにも関わらずエンジンは騒々しかった覚えがある。その後、信号待ちで停車したらヤケに静かなので 、もしやアイドリングストップでも付いているのか、と思ったが回転計の針はしっかりと800rpmくらいを指していた。 とに角、このエンジンのアイドリングは音も振動も極めて少ないから、逆にスポーツエンジンらしくない。 個人的にはある程度の振動があるほうが高性能エンジンを積んでいるような感覚になって好ましいのだが・・・・・。

信号が青になったところで気を良くしてフルスロットルを踏んでみると、街中で使うには強力すぎるくらいの加速で、これなら不満は出ないだろう。その割にはフルスロットルでもミニクーパーSのように横っ飛びすることも無いのは、この手のFFホットハッチとしては丁度良い動力性能であり、これより遅いと物足りないし、速いと安定性が失われるというところを狙っているようだ。 この充分な加速に気を良くして、次の信号でもう一度チャレンジしてみる。青信号で軽いクラッチをミートしたらフルスロットルを踏むと、回転計の針は グングンと上がっていくので、6,000rpm(約45+km/h)で素早くアクセルを戻し一瞬クラッチを切ると同時にシフトレバーを2速に入れる。 スイスポのシフトは結構軽くてダイレクト感もマアマア、ほぼまっさらの新車のこともあり多少の渋さもあるが、素早いシフトを行うのに不満はないし、使い 込んでいけばより迅速なシフト操作ができるだろう。2速に入れてクラッチを繋ぐ直前に僅かにスロットルを開く感じで約3,000rpmくらいにすればショックもなく上手く繋がる。 そのまま、60km/h(2速、4,200rpm)まで加速して3速にシフトアップすると回転数は約3,200rpmくらいで、このまま巡航しても良いくらいだがもう一段シフトアップして4速、2,400rpmくらいが丁度良いところか。

今度は100mくらい前方の信号が赤だったのでゆっくり減速して、30km/hくらいまで落ちたところで先の信号が青になって前方の車が走り始めた。前車との距離は40m程あったのでこれらに追いつく為にシフトダウンをする。ギア位置は4速のままで30km/まで速度が落ちていたので、回転数は1,200回転くらいのために、クラッチを踏んで4速から1速飛ばして2速に入れる。 この時一瞬スロットルペダルを煽ってエンジン回転数を上げて、一瞬後にクラッチをスパッとミートしたら、回転計の針は3,000rpmくらいまで跳ね上がり、その後回転数が落ちるところでクラッチが繋がって、30km/h、2,200rpmくらいで再加速状態となった。このブリッピングが決まる為にはエンジンのレスポンスが良くなければ上手く繋がらないが、スイスポのエンジンはドライバーが長年の経験で養った勘で、こんなものだろうとスロットルを煽ると、丁度よく反応するので 充分に楽しめる。 実は、以前試乗したティーダ1.8G NISMO S‐tuneは速そうな名前の割りに実用エンジンそのままだったから、シフトダウン時に一瞬スロットルペダルを 煽ってもエンジンは回転を上げる気配を全く見せなかった。これではMTで乗る意味が全くない。そして、程度の差こそあれヴィッツ1.5RSもブリッピングが殆ど出来ないくらいにスロットル レスポンスは良くないから、これもわざわざMTにするメリットはあるのだろうか、と疑問に思っていたが、このスイスポならMTで乗る意義は充分にある。

スイスポのステアリングホイールは可也の小径で、操舵力は重すぎず軽すぎずで丁度良い。 この小径ステアリングホイールの影響もあり、レスポンスは極めてクイックで、これぞ軽量級スポーツハッチの真髄と言いたくなるくらい楽しさ満点だ。よくミニクーパーのことをゴーガートのようだと表現されるが、スイスポは本当にゴーカート感覚で、それでいて決して過敏ではないのも嬉しい。 これはもう、どこかワインディング路を探すしかないと思い、少し道が狭いのとゴミゴミしているという難点はあるが、とに角カーブが続く場所に行ってみた。実は殆ど初めてに近 いコースであったことと、道幅が狭く(と、いってもセンターラインはある)見通しも悪いし、その割には案外人通りが多いという条件なので決して無理は出来ないが、それでも常識的な 範囲で目一杯速いコーナーりングを試してみたが、FFとしては最も素直な部類で、しかも全幅が1,695mmの5ナンバーサイズだから、実に取り回しが良い。 というよりも、感覚的には更に車幅が狭いようにすら感じるのはボディ自体はもっと狭くて、5ナンバー一杯というのはあくまでフェンダーの張り出した部分であり、実質の全幅は もっと狭く感じるからだろう。

クルマにも慣れてきたので、今度はもう少し色んなことをやってみる。前方にチョッときつそうなブラインドコーナーが見えてきたので、3速2,000rpm(40km/h弱)から軽くブレーキングしながら、2速にシフトダウンする。この時ブレーキを踏んだ右足を左回転に捻って、踵でチョイとスロットルを踏んでやり、エンジンが一瞬吹け上がったところでクラッチを繋ぐと2,300rpmくらいで繋がり、この時の速度は30km/h強だった。 このままきついコーナーを回ってみるがチョッと減速しすぎたようで、ここは40km/hのままでも余裕だったようだ。スイスポの4輪ディスクブレーキは最近の実用車らしく軽い踏力で良く効くが、こういう運転をするにはちょいと効き過ぎの感はある。それでも慣れれば問題なくH&T (ヒールアンドトウ)が出来るのはオジサンマニアには嬉しいものだ。こんなことを繰り返していると、目一杯のコーナーリングなんて気張らなくても、リズムに乗って余裕で連続コーナーを次々にクリアしていくのも充分に楽しいものだ。 そして、直線では無駄とは知りながらもシフトアップして、つぎのコーナーでシフトダウン、なんていう無意味なことをやりたくなってしまう。

以前、先代スイスポ(AT)に試乗したとき、やたら硬いサスが気になった。スポーツというからには硬くても当然だが、先代スイスポの固さは所謂ガキっぽい硬さで、ストロークの短いガチガチの足回りだった。これに対して今度のモデルは硬めではあるが剛性感のあるボディとしっかりしたダンパー(モンローが付いている) によって、出来の良い欧州車的な乗り味だった。 まったく、ここ10年程でのスズキの進歩には目を見張るものがある。

何やら、前回のインプレッサに引き続いて、べた褒め状態になってしまったが、あれ程感心したインプレッサも操る楽しさから言えば、スイスポの敵ではない (ただし、しなやかな乗り心地はインプが上か)。実際にスイスポのライバルとして戦えるのは、一部の欧州車ではないか、なんて思うほどに国産車では唯一の存在だろう。 まあ前編で述べたように、良いも悪いも1.6LのBセグハッチバックがスイフトのみだから、比較しようもないが。それに、この手のクルマを喜ぶユーザーの絶対数は知れているから、結局スイスポ1車種で日本中の需要を満たしてしまいそうだ。近日中には一足遅れでATのスイスポも発売されるだろうが、このクルマはMTで乗ってこそ意義がある。 しかし、幾らオヤジがMTに乗りたくても、このスイスポを家族で使う下駄代わりというか、買い物などの近場専用車とするには、MTという事実が重く圧し掛かる。 さ〜て皆さん、家族を教育するか、諦めてATにするか。な〜んて悩んでいるのも楽しいものだ。

注記:
この試乗記は2012年1月現在の内容です。
簡易試乗記は本編の試乗記に比べて評価基準を甘くしています。従って簡易試乗記で高評価であっても、本編では並以下である場合も考えられます。