ニッサン X-TRAIL 25X
※検索エンジン経由でノーフレームの場合はここをクリックしてください。


   

苦戦中のニッサンとしては、ライバルのトヨタ車(RAV4)より売れているという、エース級のX-TRAILがフルモデルチェンジ(FMC)された。これで、今年のニッサンの新型車は10月のスカイラインクーペを残すのみとなった訳だから、このX-TRAILは正に販売現場では生命線的な重要車種でもある。今回の試乗車は最上級車種の25X(253万円)にHDDナビ(30万円)まで付けた豪華版だ。なお、一部の写真は最廉価版の20S(2WD、199.5万円)も紹介 している。

売れ筋車ということもあり、そのスタイルはキープコンセプトで、先代の面影を強く残している。しかし、大きさは全長が45mm、全幅が20mmそして全高が10mm大きくなっている。また、エンジンも先代は2ℓのみだったが、新型では2.5ℓも設定されている。

シートは全グレードに合成皮革を使った防水シートが標準装備されている。このシート表皮はフーガなどでも採用されている日産得意の材質だが、高級感に乏しく、本皮と見間違うユーザーは少ないだろうという代物だ。そうは言っても、これは高級な耐水ビニールシートを思えば腹は立たない。
リアシートは前後方向に狭く、長身のリアパッセンジャーだと、フロントシートのバックレストに膝が当たりそうだ。

リアラッゲージルームは、このクルマの拘った部分のようで、床を2重構造として、引き出しを付けている。それにスペース自体も広いから、積載量に不満はでないだろう。そこで気がついたのが、リアに座ったときの膝の余裕のなさ で、成るほど荷物室を優先したためのしわ寄せだったようだ。 リアシートは写真のように、3:7で折りたためるから、超尺物のレジャー用品を積むのにも便利だ。この荷室の内装は、いかにもプラスチックという感じで、 泥だらけのマウンテンバイクや海水の付いたダイビング用グッズなどを放り込むための実用品と割り切っている。やはり、このクルマは若者のレジャー用途を考えていることに間違いない。

内装色はブラックのみで、センタークラスターやステアリングのスポークにはクロームシルバーが使われている。その雰囲気は欧州車から始まって、最近では国産車も多くが採用しているスポーティーな雰囲気をかもし出している。 が、よく見れば、ダッシュボード上部は硬質樹脂にそれらしいシボを付けただけだが、グローブボックスの蓋には弾性樹脂が使われていた。


   

実用を優先した例としては、ダッシュボード中央の上面には蓋があり、これを開けるとティッシュペーパーが入るスペースが現れる。ただし、これを走行中に開けると、視界の邪魔になる。同じくダッシュボード上面の左右端には、それぞれドリンクホルダがあり、ペットボトルのキャップを置くスペースまである。確かにドリンクホルダーがあっても、ペットボトルの飲料を飲む際にキャップの置き場がなく、走行中にどこかに紛失してまった経験は誰にでもあるから、これは便利だ。

    

新エクストレイルのエンジンは2ℓ、137ps/200N・mと、今回試乗した2.5ℓ、170ps/230N・mの何れも直列4気筒の2種類が設定されている。

エンジンの始動はインテリジェントキーを所持して乗り込み、ステアリングコラム付近の回転スイッチを回す。 これは中級以下の日産車の多くが採用している方式で、上級車のスタートボタンを押す方式に比べて、見かけは兎も角、実用上の問題はない。
エクストレイルのメーターは黒地に白い文字で、国産車としてはシンプルで見易い。中央上部の液晶式の燃料計と水温計は、デュアリスと同様だが、こちらはバックライトが赤く、慣れないと違和感がある。

試乗車の4WDは
@燃費節約の常時2WD
A前後自動配分の4WD
B悪路脱出などに使う前後ロック
の何れかのモードをATセレクター奥のダイヤルで選択できるが、まずは2WDモード(FF)で走行してみる。
乗用車に比べると1530kgという車重は確かに重いが、それでも2.5ℓエンジンを積んでいるのだから、有り余るトルクを期待する。ところが、実際には決して速くは無い。ムラーノと共通のQR25DEエンジン(チューニングは異なりエクストレイルが+7ps)は、実用的なSUVとしては決して遅くはないのだが・・・・・。
同じエンジンのムラーノが時代遅れの4ATを搭載していたのに対して、こちらはCVTを使用している。したがって、普通に流れに乗って走っている場合は、スムースな加速をするが、いざキックダウンでフル加速をすると、回転計の針は3000rpm辺りから徐々に上がるだけで、メリハリは無い。勿論、それなりに速度は上がっているのだが、エンジン音があまり変化しないので、感覚的な加速感に乏しい。しかも今や旧式となった4気筒2.5ℓエンジンはガーガーと煩く、加速フィーリングという面では決して褒められない。まあ、CVTの搭載車に共通した欠点ではあるが、旧式で4気筒としては排気量の大きいエンジン の欠点が、より目立ってしまうようだ。同じ日産製の2.5ℓでも、スカイライン250GTに搭載される最新V6のVQ25HR(225ps)とは、あまりにも性能に差がある。

ステアリングは適度の重さとレスポンスで、実用的なSUVとしては何の文句もない。 前回デュアリスを試した時と同じコーナーを走ってみたが、デュアリスが大して速度を上げないのも関わらず、既に不安定な挙動を見せ始めたのに比べると、エクストレイルはデュアリスより速度を上げても安定したコーナーリングで不安が無い。その代償はデュアリスより乗り心地が硬いことだが、決して不快な程ではないし、エクストレイルの想定ユーザーであるアウトドア派の若者なら、 特に不満は言わない筈だ。

今度は4WDモードで走ってみたが、違いはよく判らなかった。後で調べたら、通常走行時はフロント100%、すなわち只のFF状態だから、前後の速度差を感じない (前後どちらかがスリップしない)限りは違いが判ることはない。
 



エクストレイルのブレーキはデュアリスと同様で4輪ディスクブレーキが奢られている。ディスクブレーキのメリットは水濡れに強いことだ。ドラムブレーキの場合は、一度水が進入するとドラム内のために水分の排出が難しいことと、ブレーキの内部に溜まっている粉状のカスに水が混じって、まるでグリスのようなベタベタの状態でドラムの摺動面とライニングの間に入ってしまい、これが摩擦係数を大きく下げる原因となる。いわゆるウォーターフェードと呼ばれる現象だ。これに対してディスクブレーキはローターの回転する遠心力で水分が飛ばされ、しかもアルミホイールならローターが丸見え状態だから、水分を吹っ飛ばすには極めて都合が良い。エクストレイルのように、アウトドアで海岸や川岸などの水に濡れやすい使われ方を想定する場合には、4輪ディスクブレーキを装着するメリットが大きい。
それで、ブレーキフィーリングはといえば、最近進歩の著しい国産車のブレーキの中でも、エクストレイルの剛性感は飛びぬけていた。最初の遊びストロークから 既に踏力は重く、その先もストロークは短くガッチリとしている。まるで数年前のメルセデスのようなフィーリングだった。これが単なる個体差なのか、全てがこうなのかは今の時点では判らない。

少し前に新規発売されたデュアリスとは価格帯でバッティングするから、エクストレイルとの住み分けは如何なのだろうかと心配になる。実際には、ディアリスでは欧州車的な雰囲気(実際に欧州車であることは間違いない)を重視したり、コーナーリング性能よりも乗り心地を重視したりと、団塊世代を狙っている。これに対してエクストレイルはアウトドアスポーツ好きの若い世代を狙っている。その証拠に前後配分ロック機構で悪路脱出性を持たせたり、乗り心地よりも安定性を重視したり、内装も実用重視で、マウンテンバイクなどの大物を積むために積載性を重視したりと、住み分けを明確にしているのが判る。

今回の試乗で一番気にかかったのは、時代遅れの4気筒エンジンだった。実は、このエクストレイルは欧州で先行発売されていて、しかもディーゼルエンジンが搭載されている。それなら、是非とも日本でも発売してもらいものだ。最新のコモンレールディーゼルならば、ガソリン車を上回る強大なトルクで、悪路も登坂路もグイグイと進んでいく。しかも燃費は良いから、ガソリン屋に払う分をアウトドアスポーツに注ぎ込めるという、エクストレイルのターゲットユーザーからみれば、実に魅力的なクルマになるだろう。
このディーゼル搭載モデルは、もしかすると来年辺りに国内販売を開始する、という噂もあるようだ。嘘か誠か?ガセネタで無い事を祈っていよう。

参考
イギリス仕様のエクストレイルのエンジンは、4気筒、2.2ℓディーゼルにより、最高出力は136hpと、日本国内用の2ℓ以下だが、最大トルクは今回試乗した25Gの230N・mに比べて圧倒的ともいえる314N・mを発生する。

注記:この試乗記は2007年8月現在の内容です。