ニッサン デュアリス 2.0G
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ニッサンから新発売された小型SUVのデュアリスは、実は欧州では既にキャッシュカイという名で販売されている。生産は日産の英国工場だから、これは立派な欧州車ということになる。 デュアリスのプラットフォームはルノーのCセグメントハッチバックであるメガーヌと共有していて、彼の地では結構な人気車種で売上も好調のようだ。 ラインナップは2WD/4WDがあり、ベースグレードの20Sはそれぞれ195.3/216.3万円、上級グレードの20Gは222.075/243.075万円となる。 今回の試乗車は2WD(FF)の20Gで、20Sに対してキセノンランプ、イモビライザー、オートエアコン、ガラスサンルーフ、17インチアルミホイール等等・・・。 約30万円の価格差は伊達ではない。

全幅1780mm、全高1780mmのエクステリアは結構な腰高にみえるが、スタイル自体は欧州車的で、エクストレイルあたりと比べれば同じ日産車とは思えない程に異なる。 外観上のもう一つの特徴は、バンパーやサイドアンダーカバーが塗装なしの樹脂の素材色そのままなことで、日本のクルマでは考えられないし、一般的な日本のユーザーからみれば、なんともチャチに思うだろう。 600万円もするBMWのX−3だって同様なのだから、この辺は価値観の違いとしておこう。
ドアを開けて、まずは20Gに標準のサンルーフを見上げれば、極めて広いエリアをカバーするから、ちょっとしたオープンカー並みの明るさが得られる。 特に後席からの開放感は抜群で、SUV=レジャーカーと思えば実に有効な装備ではある。

全長4315mmというコンパクトサイズのために、リアシートの足元の余裕は決して十分とはいえない。 救いは出来の良いシートで、これならば4人での長距離走行も現実的となるが、シートバックは意外と立っていて、しかもリクライニングは出来ないから、 これまた一般的な日本人は文句をいうかもしれない。悲しいかな、多くの日本人はシートの出来の良さよりも、使い物にならないリクライニング機構を好むのが現状だ。
リアのラッゲージスペースも決して広くはないが、CセグメントのSUVとしてはコンなものか。


内装は欧州生まれだけあって質素ではあるが、荒い織り目のトリコットを使ったシート表皮や座面の模様など、普通の国産車とは明らかに異なる雰囲気がある。 また、ドアの取っ手やステアリングホイールのセンターパッなどにつや消しのシルバークロームを使用しているも、最近の欧州車の定石に従っているから、欧州車ファンには違和感はないし、国産しか知らなければ斬新に見えるもしれない。 いや、木目“調”パネルやケバケバカーペットなどが無いから、軽よりも安っぽいと感じるのが落ちか。

シートは柔らかめではあるが、シッカリと体全体を支える。この柔らかいがシッカリしたシートは 、同じく日系英国車のアヴェンシスと も似ている。 運転姿勢が高く背筋を伸ばすSUVということもあるが、シートの座面は太股まできちんとサポートするから、長時間でも疲れない。国産低価格車で経験する、尻だけで支えて太股は 宙に浮いているという最悪姿勢に比べれば非常に良く、 英国生まれも伊達じゃ無い。

当日は6月初旬とはいっても初夏の陽気で、当然エアコンのお世話になる状況だったが、この時にデュアリスのエアコンが左右独立の温度設定であることに気が付く。 う〜ん、価格帯を考えれば中々の装備ではあるけれど、その表示は液晶で高級感がないのが残念だ。
ATのセレクターもつや消しシルバークロームとレザー(風樹脂)の組み合せと、これまた最近の欧州車の定番で、パターンもP-R-N-DとDから右に倒してマニュアルモードという、 いわゆるティプトロタイプとなっている。ただし、マニュアルといってもCVTを装着するデュアリスは6速をシミュレートするだけだ。

デュアリスのエンジンは4気筒DOHC、2LのMR20DEで、137ps/5200prm、20.4kgm/4400rpmを発生する。 最近は小型SUVといえども、2.4Lクラスが標準となりつつあるライバルに対して、1420kgのホディを2Lで駆動するデュアリスはアンダーパワーが心配になるが、 加速はまあまあ普通で何より走行中のエンジン音が静か、しかも必要ならアクセルを踏み込めば、CVTとはいっても、やや遅れてキックダウン的に動作するので、以前のCVT程には違和感が無く走れる。そうは言っても、個人的にはもう少しグイグイと加速してもらいたいとも感じるから、ユーザーによっては物足りないかもしれない。 そういう点でも、このクルマは普通の(プレミアムブランドではない)欧州車だから、ユーザーも限定されるだろう。

試乗車にはメーカーオプションのHDDナビ+バックモニター(34.65万円)が装着されていたので、元々コンパクトで車高の高い(見晴らしの良い)デュアリスのバックは実に簡単だった。
ステアリングは特に低速で軽く、速度を上げてもドッシリとはならない。とくにトロイとは言わないが、乗って楽しいクルマではない。 センタリングは強めで今時の最新FFに比べればフィーリングも古臭い。 FF嫌いのB_Otakuも最近の出来の良いFFは素直に認めざるを得ないが、これはイマイチだ。しかし、80km/h程度では静かな巡航が可能で速度感もないから、大人しく巡航するだけのユーザーならば問題にならない。
乗り心地は柔らかくてしなやか、一言でいえば相当に良い点数が与えれるし、デュアリスの最大の良さであるかもしれない。この点では流石にルノーメガーヌとプラットフォームを共用しているとうメリットを感じられる。 ただし、柔らかいサスと重心の高いボディ形状からコーナーリング性能は決して高くはない。少し速めの速度でコーナーに入ろうとすると、その前になにやら不安定な挙動を予感して、どうしても速度を落としてしまう。 とは言っても、デュアリスは200万円代前半のSUVという事を考えれば、このコーナーリング特性だって特別悪いわけではない。 欧州生まれのSUVということで、例えばBMWのX−3などを想像して、それに近い物を求めること自体が無茶なのだから。

デュアリスのタイヤ/ホイールはベースグレードの20Sが6.5J×16スチールホイールにカバー付きでタイヤは215/65R16。 試乗した上級版の20Gが6.5J×17アルミホイールに215/60R17タイヤが組み合わされる。 写真のように、タイヤとボディのホイールハウスとの隙間は広く、まるで本物のクロスカントリー車のようだ。

デュアリスが欧州で生まれた事を示す特徴としては、リアにもディスクブレーキが装着されていることで、このクラスの国産車の多くがリアにドラムブレーキを装着している事に対して、大きく差をつけている。
ブレーキは短いストロークとガッチリした剛性感をもつ、典型的欧州車のフィーリングだ。 いや、欧州車としても剛性の高いガチガチのタイプで、停止中に踏んでみると、短い遊びの後はビクとしないほどにペダル系に剛性がある。 前後に他車がいないのを確認して強い制動を試してみたが、挙動は安定していて、ステアリングを取られるようなことは無かった。ただし、これは直線からの制動だから、もしも旋回制動だったらどうなるかは判らない。 既に述べたように、コーナーリングの安定性がイマイチだから、とても公道で旋回制動を試す気にはなれなかったが、実際の緊急時はそんな事は言っていられないから、デュアリスのアクティブセーフティがどの程度かは一度試してみたいものだ。

聞くところによると、このクルマのターゲットユーザーは団塊世代だとか。ということは、半年程前に発売されたトヨタのブレイドと同じ市場を狙っていることになる。 ブレイドも最初はVWゴルフと真っ向勝負のつもりだったが、世の中、それ程甘くは無かったようだ。このデュアリスはブレイドに比べれば、内外装のセンスや乗り味など、確かにヨーロッパ車的だ。 といっても、ゴルフユーザーがこちらに鞍替えするとは思えない。ディーラーの想定するユーザーはニッサンならセレナ、トヨタならばヴォクシーのオーナーで、今度は少し毛色の変わったクルマが欲しいと思っている層だとか。このクルマは正真正銘の欧州産には違いないが、 ベースとなったルノーメガーヌは、悪い表現かもしれないが所詮は大衆車。社名が“大衆車”でもあるVWが、車名とは裏腹にクルマ自体はコストを掛けた設計になっているのとは違い、メガーヌは普通のクルマだから、元来ゴルフと同列に扱うことに無理がある。 デュアリスはメガーヌに対して、更に重心の高いSUVというハンディがあるのだから過大な期待は禁物だ。しかし、ルノーのブランドで輸入されているメガーヌの2.0グラスルーフは287万円だから、価格的にはデュアリスは買い得ではある。 さて、このクルマの売れ行きはどうなるのだろうか?同じパターンにオペルザフィーラをスバルブランドで発売したトラヴィックがあったが、オペルに対して大変な買い得価格だったにも関らず、大した成功はなかった。 ということで、今後の売れ行き楽しみにしよう。

注記:この試乗記は2007年6月現在の内容です。