BMW Z4 sDRIVE 35i (2009/8) 後編 ⇒前編


クルマの調子はイマイチだし、おまけに天候も良くないしと、踏んだり蹴ったりのZ4試乗だったが、これでは本当の実力を判断できないと思い、 後日改めて別のクルマ(グレードは同じ sDRIVE35i)に再試乗してみた。以下特に断りがない場合は後日乗ったクルマでのインプレッションを記している。

BMWに限らず最近のスポーツモデルに流行のモード切替がZ4にもついている。名称はダイナミック・ドライビング・コントロールというのだが、コンソール上のスイッチで「ノーマル」、「スポーツ」、「スポーツ+」から選択する (写真17)。この手のモードセレクトは国産車でも結構採用していて、特に高性能で有名なランエボ]やインプレッサSTIなどでも装備している。このようなモードを選択出来る高性能車の場合は、たいてい一番大人しいモードは使い物にならないのが普通で、実際にZ4の「ノーマル」もオートマチックシフトもパドルによるマニュアルシフトも、そしてスロットルレスポンスもこの手のスポーツカーを選ぶユーザーには我慢ならない程にレスポンスが悪い。
そこで今回は躊躇無く最初から「スポーツ」を選択して走り出した。車両重量が1980kgもある7シリーズ(740i)をグイグイと引っ張る3ℓツインターボを、車重1600kgのZ4に載せているのだから、当然ながら低回転域から強烈なトルクを感じさせる。ただし740iの方が エンジンスペックは勝っており、実際に乗ってみてもレスポンスはZ4を上回っていた。まあ740iの話は置いておいて、Z4の加速をライバルと比較すると体感的には08モデル以前の5AT搭載のケイマンSと同等以上という感じがする。とくに、40.8kgmという4L車並のトルクは圧倒的だ。 高回転側も回せばレッドゾーンの始まる7000rpmまでストレス無く回るが、トップエンドではトルクが下がってしまい、寧ろ早めにシフトアップした方がスムースに加速する。実際にトルク特性図をみても5,000rpmまでフラットなトルクは 、それ以降では急激に落ち込んでいく。
先代Z4 3.0も決して遅いクルマではなかったし、新型35iと比較しても自然吸気独特のレスポンスは魅力的だった。これは130iと135iクーペの関係とそっくりなのは、それぞれ同じエンジンを搭載しているから当たり前でもあるが。新3.5iは高回転まで回した時の音は正しくBMWサウンドで、とりわけオープン走行時には排気音がハッキリと聞こえるから、気分も爽快だ。これがクローズド時では大分静かになり、人によってはもう少しエンジン音が室内に侵入しても良いと思うかもしれないし、単なるお洒落なツーリングクーペと思っているのなら適度なスポーティーさで丁度良いだろう。
 


写真16616
BMWらしいメーターだが、右下の油温計がサルーン系とは違う。
 

 


写真17
ATセレクター右のスイッチでモードを選択する。

 


写真18
5シリーズから始まって新7シリーズにも使われた新タイプのATセレクターが使われている。
 

 


写真19
iDRIVEのコントローラも初期のポリシーを捨ててダイヤルの周りにスイッチを並べているのも最近の傾向だ。

 


写真20
ステアリングに付いたMT用のスイッチは押してアップ、引いてダウンとなる。左右とも同じ動きをする。

 


写真21
標準では地味〜な黒いゴムで覆ったペダル類。普通はこのクラスならばアルミ製のカッコ良いヤツを標準にするだろうに。
 

 


写真22
土砂降りの高速道路でも安心して100km/h巡航ができる安定感はBMWならではだが、ステアリングは過敏すぎる傾向がある。
 

 

 

DCTは前回の試乗で感じたような発信時にクラッチが滑るような感覚は無かったし、従来のトルコンATに比べても大きな違和感もなかっ たから、これが本来の性能なのだろう。新Z4のマニュアルによる変速操作はDレンジ(オートマモード)走行時でもステアリングスイッチを操作すれば変速が可能で、その後一定時間操作しないと自動的にDモードに戻るのはポルシェのティプトロニックと同様で、いまや定番的な操作法となっ ている。そして、Mモードに切り替えるにはコンソール上のレバーを左に押して (倒して)Sモードとして、ここから前後にマニュアル操作をするとMモードとなるのは従来からのBMWの伝統に従っているから、BMWオーナーなら全く違和感はない。
ステアリングの裏に生えたパドルスイッチは335iなどと同じで引くとアップで押すとダウンとなり、左右とも同じ動作をする。2ペダルMTのパドルによるマニュアル操作はF1スタイルの右がアップ、左がダウンというのが一般的になっている現在、Z4や335iのようなパターンを採用する意味が判らない。しかも、DCTとはいってもM3はF1スタイルになっている。変則 的といえばポルシェのDCT(PDKと呼ぶ)も同様で、しかもZ4とは動作が逆!すなわち押してアップとなる。もしもあなたがカレラとZ4の両方を所有して、しかも双方ともDCTだったら、おそらくは乗る度に混乱するだろう。 まあ、そういうことは置いておいて、マニュアル時のレスポンスはといえば、スポーツモードで使用する限りは十分なレスポンスだが、ポルシェのPDKに比べると 多少反応が遅いような気もする。と言っても、DCTタイプの2ペダルミッションは実際の使われ方は単なるATとしてだろうから、パドルスイッチの使い心地なんて 、実はどうでもいいのかもしれない。

Z4は外観から見る限りでは異様に長いボンネットを持っているが、実際に運転席に座ってみると、この長いボンネットが目視出来るから意外と普通に運転できる。ただし、コンビニの駐車場に前向き駐車する際は気を付ける必要がある。Z3や先代Z4のオーナーに聞くと、一度や二度はフロントの底を擦って、ヒヤッとしてことがあるそうだ。中には低い歩道が目に入らないで下腹を目一杯凹ませて、タップリと修理代を取られたという話も聞く。この長いボンネットのZ4でのコーナーリングはといえば、そこはBMWのこと、弱アンダーで素直に旋回するのはサルーンと変わらないが、着座位置がサルーンに比べて後方のために、回頭時の感覚が多少独特なのだが、 これも先代に比べればそれ程大げさではい。Z4の3Lツインターボエンジンは最大トルク発生回転数が1500〜5000rpmと広範囲で、5000rpmからは急激に落ち込むことは既に述べたが、この特性ゆえに一般道でのコーナーリングではマニュアルモードで3速に入れっぱなしでOKだ。コーナー手前で減速しても太い低速トルクはクリッピングポイントからトルクを掛けるにもシフトダウンの必用がなく、そのまま右足を徐々に踏み込めば適度なレスポンスでトルクを発生してくれる。まあ、そ れでも2速にシフトダウンして回転を上げて・・・・なんていう操作をしたければそれでも良いだろうが、あまり意味は無さそうだ 。

ブレーキに関してはBMWその物の軽い踏力と食いつきの良いパッドによる多少カックンぎみの特性で、今更言うことは無い。試乗後にホイールを 覗いてみたら、そこに見えるのは片押し(ピンスライド方式)にも関わらずオールアルミの デカくて立派なキャリパーが見える。これは5シリーズの上級モデルや7シリーズ、果てはM3やM5にも使われている。写真26〜27を参照してもらえば判るがZ4 35iとM3のフロントキャリパーは同系統のものだ。ただし、Mの場合はキャリパーが黒く塗装されているのと、ディスクローターが穴あきであることが異なる。リアキャリパーはどちらも見た目にはショボいヤツが付いているが、これは重量配分50:50のBMWとは言っても、制動時の減速度による荷重移動でフロント負荷が大きくなる事による。
 


写真23
直6、3.0ℓツインターボのN54B30Aエンジンは306ps/5,800rpmの最高出力と
40.8kg・m/1,300−5,000rpmの最大トルクを発生する。


写真24
35iのフロントは8J×17ホイールと225/45R17タイヤが標準となる。
 

 


写真25
リアは8.5J×17ホイールと255/40R17タイヤが標準となる。

 


写真26
Z4のフロントは5シリーズの上級車以上と共通のオールアルミの片押しキャリパーが装着されている。

 


写真27
上の写真はM3のキャリパーで、フロントは黒色塗装されているがZ4と同一タイプ。ただし、ドリルド(穴あき)ローター装着という点が異なる。
 

 

Z4のライバルといえばメルセデスSLKとポルシェボクスターということに異論はないだろう。国産のオープン2シーターといえば本家本元のマツダロードスターがあるが、価格的にもスペック的にも同一基準で比較するには無理がある。残るはフェアレディZだが、今現在 では新型のロードスターモデルは未発売である。ということで、下の表のように定番同士の比較となった。
 
    BMW Z4 BMW Z4(旧) Mercedes Benz Porsche
      sDRIVE35i 30si SLK 350 Boxster S
 

車両型式

  LM30 BU30 171458 987MA121

寸法重量乗車定員

全長(m)

4.250 4.100 4.110 4.340

全幅(m)

1,790 1,780 1,810 1.800

全高(m)

1,290 1.285 1,300 1.295

ホイールベース(m)

2.495 2.430 2.415

駆動方式

FR MID
 

最小回転半径(m)

  5.4 4.9 4.9 5.2

車両重量(kg)

  1,600 1,430 1,500 1,420

乗車定員(

  2

エンジン・トランスミッション

エンジン型式

  N54B30A N52B30A 272 -

エンジン種類

  L6 DOHC TURBO L6 DOHC V6 DOHC F6 DOHC

総排気量(cm3)

2,979 2,996 3,497 3,436
 

最高出力(ps/rpm)

306/5,800 265/6,600 305/6,500 310/6,400

最大トルク(kg・m/rpm)

40.8/1,500-5,000 32.1/2,750 36.7/4,900 36.7/5,500

トランスミッション

  7DCT 6AT 7AT 7DCT
 

燃料消費率(km/L)
(10/15モード走行)

9.7 10.2 9.1 8.3
 

パワーウェイトレシオ(kg/ps)

5.2 5.4 4.9 4.6

サスペンション・タイヤ

サスペンション方式

ストラット 3リンク ストラット

セントラルアーム マルチリンク ストラット

タイヤ寸法

  Fr:225/45R17
Rr:255/40R17
225/45R17 Fr:225/45R17
Rr:245/40R17
Fr:235/40ZR18
Rr:265/40ZR18

ブレーキ方式

前/後 Vディスク/Vディスク Vディスク/ディスク Vディスク/Vディスク

価格

車両価格

695.0万円 610.0万円 754.0万円 799.0万円

備考

      6MT:752万円

新型Z4は先代に比べて明らかに高級化していたが、スペックとしては多少寸法が大きくなった他、エンジンのハイパワー化(NAからターボへ)とミッションのDCT化が大きな違いとなる。またボディの剛性感も 充分に改善されているが、その代償は大きさの割りに増えた重量(1430⇒1600kg)だ。この170kgもの重量増加は、大幅なパワーアップ(265⇒306ps)にも関わらず、パワーウェイトレシオが5.4⇒5.2と大した変化はないという結果に終わっている。
高級化とハイパワー化の結果は当然ながら価格の上昇となったが、先代3.0に比べて85万円の差額には、新型エンジン+ツインターボ化とiDRIVEの標準化、それにソフトトップからRHT化が含まれている事を考えれば、決して不当な値上げではなく、むしろ先代より買い得とも思える。それに米国での35iの価格は$51,650で、しかもこれはDCT(+$1,525、標準はMT)、ナビ(+$2,100)など日本仕様と同等にするには$4,000程度の追金が必用だから、概ね$55,000程度となる。これに対してボクスターS(6MT)は$56,700とZ4 35iとほぼ同価格となっているが、国内価格はZ4の695万円に対してボクスターSは752万円と、50万円程割り高になっている。すなわち、今まで米国価格に対してもそれ程違わない良心的値付けと言われていたボクスターよりも、ボッタクリと言われてい るBMWJが輸入するZ4が買い得価格を付けていることになる。BMWとしては本気でZ4で勝負をする気なのだろう。もっともZ4はボクスターSに対して、性能的には辛いものがあるから、国内でのライバルは実質的には2.9のボクスターとなり、価格はPDKで655万円。ただし、何時も言うようにポルシェの価格は本当のスッピンで、これにZ4並みの装備をすれば最低でも50万円はかかるから実質の価格は約700万円となり、Z4 35iとピッタリと一致する。
こうしてみると、新Z4は米国でも随分と強気の値段で、この5.5万ドルというのはM3クーペの$57,850やM3セダンの$54,850に近い価格だ。まあ米国のM3は日本国内仕様に比べれば装備が質素ではあるが、それにしてもM3の国内価格を考えれば、米国でそれに近い価格のZ4の国内価格が買い得であることは一目瞭然だ。あっ、ヤバイ、ヤバイ。またM3オーナーやM3が夢の BMWオーナー達に喧嘩を売るような事を言ってしまった。

さて、ここまで比較してみて、価格的にはボクスター(PDK)がライバルのようだが、クルマの性格や性能は大いに異なるから、本来ならばユーザー層は全く別の筈だが、日本では案外競合する 場合もあるのかもしれない。ポルシェは最近はマイルドになったとは言うものの、Z4に比べればボクスターは遥かにマニアックだし、国産の高性能車(ランエボや32〜34GTR等)からの買い替えも結構あるようだ。 そして、こういうユーザーは他社は全く考えていない指名買いが多いとか。これに対してZ4、特に35iは裕福でオシャレなユーザーが対象だろう。先代Z4 の2.5ならば400万円代の中ごろで買えたから、国産車に乗っていた走り屋オーナーが頑張って買う例もあったが、今回からは2.5ℓ(何故か23iと呼ばれる)でも523万円もするから、ちょっと手を出しにくくなってしまった。

SLKやボクスターと比較するには、チョッとばかり格落ちだった先代に対して、新型Z4は同一クラスのライバルとなった。古典的なロングノーズと近代的な内外装のZ4か、設計時点は多少古いがオーソドックスで伝統を感じさせるSLK か。そして正真正銘ポルシェその物で、しかもレーシングカーばりのドライサンプエンジンをミッドシップに積むボクスターか。どれも夫々の良さがあるから、どれを選んでもオーナーとしては十分な満足を得られるだろう。クルマも総額750〜800万円も出せば、確かに満足感は非常に高い。
しかし、二人乗りのオープンカーを法人の経費で落とすには結構根性が必要だし、実用性には縁遠いクルマを個人で買うには山ノ神の稟議が難航するだろう。そんな訳だから、一番のターゲットユーザーは子育ての終わった熟年夫婦だろうか。老後のフルムーンのドライブには確かに似合う。
でもなぁ、この手の低いクルマって、脊柱管狭窄症の身には乗り降りが辛いよねぇ。