PORSCHE New Carrera S PDK (2008/10/19) 前編 ⇒後編


一見何処が新しいのか判らないのは911の伝統であり、だからこそ今の地位を確保できたともいえる。

クルマ好きのいわゆるマニアが一生に一度は所有したいと思うのがポルシェ。中でもリアエンジンの911シリーズは定番中の定番で、スポーツカーの代名詞というのは誰もが認めるところだろう。しかし、ポルシェというのは常に改良を重ねてくるから、待っていると何時まで 経っても買えないということになる。最良のポルシェは最新のポルシェであるとともに、欲しい(買える)時が買い時でもある。
その911シリーズが今回大きな改良を受けた。先ずは全く新しい直噴エンジンに変わった事が最大の変更点で、ポルシェのような本格的なスポーツカーでエンジンが全く新設計されるなどというのは一大イベントだ。そして、エンジンとともに大切なミッションまでが今回はブランニューとなった。噂の2ペダル、ツインクラッチタイプのミッションでVWのDSGなどと同じタイプが新たに 搭載された。
そこで、先ずは08以前の前期型998とのスペックを比較してみよう。

 表1

    〜08 〜08 09 09
      911 Carrera 911 Carrera S NEW 911 Carrera NEW 911 Carrera S

寸法重量乗車定員

全長(m)

4.425

4.425

4.435

4.435

全幅(m)

 

1.810

1.810

1.810

1.810

全高(m)

 

1.310

1.300

1.300

1.300

ホイールベース(m)

2.350

2.350

2.350

2.350

車両重量(kg)

 

1,480[1,440]

1,500[1,460]

1,490[1,460]

1,500[1,470]

 

乗車定員(

 

4

4

4

4

エンジン・トランスミッション

エンジン種類

 

F6 DOHC

F6 DOHC

F6 DOHC

F6 DOHC

総排気量(cm3)

 

3,595

3,824

3,613

3,799

最高出力(ps/rpm)

325/6,800

355/6,600

345/6,500

385/6,500

最大トルク(N・m/rpm)

370/4,250

400/4,600

390/4,100

420/4,400

トランスミッション

 

5AT[6MT]

5AT[6MT]

7PDK[6MT]

7PDK[6MT]

サスペンション・タイヤ

サスペンション方式

ストラット

ストラット

ストラット

ストラット

マルチリンク

マルチリンク

マルチリンク

マルチリンク

タイヤ寸法

235/40ZR18

235/35ZR19

235/40ZR18

235/35ZR19

265/40ZR18

295/30ZR19

265/40ZR18

295/30ZR19

性能

最高速度(Km/h)

280[285]

285[293]

287[289]

300[302]

0-100km/h加速(秒)

5.5[5.0]

5.3[4.8]

4.7[4.9]

4.5[4.7]

0-100km/h(スポーツクロノ装着時)

-

-

4.5[-]

4.3[-]

 

0-160km/h加速(秒)

12.0[11.0]

11.6[10.7]

10.4[10.7]

9.6[9.9]

 

0-160km/h(スポーツクロノ装着時)

-

-

10.1[-]

9.3[-]

価格

車両価格(\)

AT/PDK

11,600,000

13,310,000

12,370,000

14,120,000

MT

10,970,000

12,980,000

11,620,000

13,370,000

外観寸法が事実上同じなのは、ボディに手を入れていないから当然で、車両重量はMT同士ならば新型の方が10〜20kg軽い。ところが2ペダル同士で比較すると新型はカレラで+10kg、カレラSでは同じとなるから、やはりPDKは従来のティプトロ(トルコンAT)に比べて20kg程重いことになる。では、この手のクルマとしては最も気になる性能はといえば、08モデルまでは2ペダルがトルコンATだったこともあり 0-100km/h 加速ではMTに比べて0.5秒も遅かったが、09モデルではPDKにより寧ろMTより速く、その差は 0-100km/h 加速で0.2秒も速くなった。09モデルはエンジンが全く新しい直噴タイプとなったが、排気量を見ればなるほど08以前に対して全く異なるから、ピストンやクランクシャフトなどの全てが新設計であることが明確だ。それにしても新型のパワーアップは凄まじく、PDKの性能がプラスされることもあり、09カレラ(PDK)が08カレラS(MT)とほぼ同等の性能となっている。やはり、最良のポルシェは最新のポルシェか?
という訳で、スペック上では圧倒的な性能のPDKだが、実際の走りは如何なのだろうか?それでは、実際に走ってみることにしよう。
なお、Carrera Sについては08モデル(AT)を3週間に渡ってテストした詳細な試乗記を既に発表してあるので、今回は変更点のみに的を絞って説明しよう。.
 


写真1
後ろ姿で変わったのはテールランプのLED化によるデザインの変更くらいか。

 


写真2
側面では、例によってホイールのデザインが変更されているが、それ以外に大きな違いは見当たらない。

 

今回の試乗車はCarreraSのPDKだからベース価格は1412万円也。勿論ポルシェのベース価格は本当にベースで、普通はオーナーが好みのオプション装備を選択してオーダーするから結果的には車両価格で1500万円、総額では1600万円を軽く超えるという恐ろしい 事になる。1600万円も余分な金があったら、程度の良い中古マンションでも買う、なんていう意見も出るだろが、いや全くそのとおり。老後はノンビリ余生を送れるようにと半世紀も積み立ててきた年金は、社会保険庁のバカどもが無意味な投資で大損したり、中にはテメエの懐にいれて知らん顔。気が付いてみたら年金の原資なんて我々の老後生活を賄える程は残っていなかったというこの時代、老後に備えて賃貸用にマンションを買っておくほうが遥かに利口な選択だ。それに1600万円あったら、今の不況時代なら 場所によっては2区画買えるかもしれない。
と、まあ、そんな事をいったら、夢も何もあったもんじゃあないし、元々マトモな経済観念ではクルマ道楽なんて出来ない訳で、ケチなことは言わずに素直にニュー911を味わう事にしよう。

先ずは外観上の違いから。写真4のように、フロント両サイドのエアインテイクとその上にあるポジションランプのデザインが変更となった。しかし、このデザインは何やらボクスター/ケイマンに似ているよう な気がする。このため、ニューカレラカブリオレは益々ボクスターに似てしまったようだ。エンジンフードを開けると、これまた 前期型とは全く違うエンジンを眺める事ができる(写真3)。確かに全く新設計といわれるように、同じ部品すら見当たらない程に変わってしまった。


写真3
エンジンは全くの新型だから外観上も全く別物で、同じ形の部品は全く見当たらない。


写真4
フロントエンドの最大の違いはエアーインレットと、その上にあるポジションランプの形状で、新型は何やらボクスター/ケイマン
に似てしまった。

分厚いドアを開けて、そこに見えるのは基本的には従来と変わらない眺めだが、最初に目に付くのはセンタークラスタのパネルが黒くなった事と、ディスプレイが装着されている事だ (今回からナビは標準装備)。シートの形状は全く同じで、座ってみても勿論同じ。更には各操作部分の雰囲気も全く同じだから、997オーナーならば何の違和感もないだろう。勿論、ナビのディスプレイや、イマイチ安っぽかったシルバー塗装から、ブラックになったパネルなどが新鮮ではある(写真9)。

試乗車はLHD(左ハンドル)のために例によってステアリングコラム左にあるキー溝にキーを差込み、ブレーキペダルを踏みながら左手でキーを捻ると、短いクランキングでエンジンは目覚めた。前 期型の場合はゆっくりとし た長いクランキングが何とも特殊なエンジンらしく、初めてのドライバーならば火入れの儀式で既にビビるのだが、新型は普通のクルマのようになってしまった。そしてアイドリングも普通のクルマだった。本来カレラSのアイドリングというのはブルブルと車体全体が震えるという独特の演出があり、更には後ろの方から高級ミシンのようなメカメカしい音が適度に聞こえてくることで、嫌がうえにもドライバーをその気にさせたのだが、新型は振動も僅かだし音も殆ど聞こえない。
 

  
写真5
ダッシュボートは基本的には同一。PDKによるセレクターレバーの変更は当然ながら、それ以外ではエアコン&オーディオ
の操作パネルが変更となっている。ステアリングホイールも底面が多少水平にカットされているが、何の効果があるのかは不明。
 

それでは、いよいよ走り出すことにするが、この先は後編にて。  

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