BMW 525i Highline (2008/11/9)

次に走り出す為にATをDレンジに入れるのだが、この時に新5シリーズの最大の特徴である電子式のセレクターを使うことになる。Pの状態からレバー右の解除スイッチを押しながら手前に引くと緑のインジケータが D横で 点灯してDレンジの入ったことを知らせる(写真22@)。
この新型セレクターは従来型のようにレバーの位置が手前に移動していくのではなく、あくまでもスイッチ式で押したり引いたりしても、ポジションの表示が変わるだけでレバーは元に位置に戻る。と、文章で説明すると判り辛いだろが、これは実際に体験してもらうしかない。なお、現行型ではX−5のセレクターも全く同様のタイプを使用している (写真24)。
 


写真22
頭上のPボタンを押すとパーキングに、Pから前に押すとN、さらに押すとR、同様に引いてDとなる。全てが電子式
だが、作動自体は従来の感覚で使える。右端には解除ボタンがあり、使い方も常識どおりで押すとロックが解除
される。


写真23
M5のセレクターが本家のようだ。

 


写真24
5シリーズと殆ど同じニューX−5のセレクタ。

 

走り出した瞬間からBMW独特のスムースさと、微かに聞こえる直列6気筒の排気音が何とも心地良いし、それでいて高級感満点の静けさも両立しているという、久々に5シリーズのステアリングを握ったた瞬間に「そう、これこれ。このフィーリング!」と叫びたくなるような感覚に触れて、やっぱり5シリーズは半端じゃあないと嬉しくなってしまった。いや、試乗は始まったばかりなのに、もう結論に行ってしまうとは・・・・。

試乗前に気がかりだったのは、2.5ℓエンジンがEセグメントの大きなボディに対して役不足ではないか、ということだった。実は3年程前に試乗した525iツーリングはセダンよりも重いワゴンボディということもあるが相対的にパワー不足が目立ってしまい、車格なりの動力性能を得るには530iが必要という結論に達してしまった。
さて、今回はどうかといえば、当時と違い2.5ℓと言えども新型のバルブトロニックエンジンN52型搭載(実は2005年6月 のMCで既に代わっている)により、最高出力は192ps⇒218ps、最大とトルクは245Nm⇒250Nmと何れもアップしている。そして、実際に乗っての印象は低速からのトルク 感は大幅にアップしていて、これなら無理して530iを選ばなくても充分に満足できそうだというレベルに達している。フルスロットルによる加速も重量的に遥かに重い325iと比べても感覚的にはそれ程劣ることはないから、余程の動力性能追求マニアでなければ不満は出ないだろう。その加速感は323iと同程度というところだろうか。

セレクターは全く一新されたが、変速機本体やトルコンの機構は大きく変わってはいないようだ。E60は初期からATの出来自体は悪くないし、当時は先代E39の5速から6速化されたことで制御もきめ細かくなって、特に不満はなかった。それでもE60初期の独特な変速音は格段に静かになったし、キックダウンのレスポンスも多少向上したように感じたが、実はATの制御ロジックには学習機能があるので一概には言えな 。この特徴は最近の電子制御化されたクル マの評価を難しくしているようだ。
次にATレバーを左にコクッと押してマニュアルモードを試してみる。この時にレバーのインジケーターも”M/S”の付近が点灯してSモードに入ったことを知らせる。と共に、当然ながらメーターパネル正面のディスプレイも DSと表示する(写真26 @→A)。 このSモードをセレクトするとシフトアップポイントも上昇し、常に高回転側を使うようになるし、スロットルのレスポンスもわざとらしく向上する。このスロットルの作為的なオーバーレスポンスは前期型と変わらない。しかし、本当の高性能エンジンとは違って、やはり見せかけのハイレスポンスだから、個人的には好きになれない。
今度はマニュアルモードを試してみよう。Sモードから前/後どちらかのレバーを動かすとマニュアルモードとなり中央のディスプレイにはMとギヤ位置が表示される。すなわち、1速ならばM1となる(写真 26 B〜C)。Mモード時のレバーは引いてアップ、押してダウンというレーシングタイプとなっている。それにしても、現在2ペダルのMTモードは各社、各車種によってアップとダウンの操作 方向がバラバラだが、これは何とかしてもらいたいものだ。個人的には現行BMWの引いてアップが体感Gの方向と一致していて良いと思うのだが。
そのMモードのレスポンスはといえば、数年前のティプトロニックのようにタイムラグが大きくてシラケルことはないが、DSGに代表されるツインクラッチタイプと比べれば多少の遅れはあるが、実用的には大きな問題はないし、何よりATの制御ロジックが優秀になっている昨今、Mモード自体の必要性が殆どないこともある。

次に高級車としての大切な特性である乗り心地について触れると、実は走り出した瞬間の第一印象でスムーズさと共に、コツコツというランフラットタイヤ(RFT)独特の硬さと振動も感じていた。その割にはスプリング自体は意外と柔らかいようで、駐車場から表の道路に出る際の歩道の段差で、車が上下にピッチングをするのが感じられた。 ピッチング自体は結構高級車っぽくて不快感はないし、試乗車はハイラインパッケージのために室内の雰囲気は豪華で、 上級BMWのイメージとしてならば柔らかめのサスもピッタリだから、走行中のRFTの突き上げだけが奇異に感じる。まあ、それでも10分も走れば慣れてしまい 、特に感じなくなったから、問題はないだろう。

E60の日本国内発売モデルはアクティブステアリングが標準装備されている。特に初期のモデルでは異常に軽くクイックで、確かにF1並のステアリングギア比で、どんなコーナーでも半回転以内の操舵でクリアできるなど、マニアにとっては実に衝撃的&魅力的な特性だったが、一般のドライバーには幾らなんでも過激すぎるのではと思っていたら、年を重ねる毎にマイルドで自然な特性に変更されてきた。今回の試乗車では、意識しなければ不自然さはそれ程感じなかったが、それでも充分過ぎるくらいクイックなことと、多少の不自然な感覚は残ってはいたが、これは個性ということで納得できる範囲だ。しかし、北米モデルではオプションのこの機構が日本では問答無用で付いてきてしまう。アクティブステアの米国での オプション価格は1400ドルだから、日本でオプション化すれば標準モデルが20万円近く値下げできることになるのだが。

折角の5シリーズということで、今度は高速道路に持ち込んでみた。この時、久々に5シリーズの高速走行を味わったが、ハッキリ言って合法的な100km/hは退屈極まりないし、何があっても事故に至らないんではないか、なんて気持ちになる程に安定しているし、当然速度感もない(写真27)。そして、一番気になる高速道路での525iのパワー不足感は、嬉しいことに殆ど感じなかった。巡航状態からフルスロットルを踏むと、一瞬の間の後にシフトダウンされて、そこからの加速 も実用上充分だった。まあ、530iのようにグイグイと加速して、アッという間にふわわキロに達するような事はないが、合流時の加速などでも不安がない程度の性能は持っている ことを確認できたから、益々525iでも充分と思ってしまった。本来の設計は525iが180km/h程度で巡航するクルマであるのに対して、これが530iならば200km/h超というところだろうか。
それにしても、アルトと5シリーズが同じ100km/h制限なんていう法律が間違っている。まあ、日本はクルマの運転ということに関しては、ドライバーも警察も超後進国であることは間違いない。そういえば最近のニュースで警視庁の警視が飲酒運転の挙句に当て逃げして、結局懲戒免職になったという記事があったが、やっぱり後進国丸出しだねぇ。

今度はワインディング路、という程でもないがコーナーの繋がるコースを走って見る(写真28)と、図体の大きなEセグメントサルーンとしては抜群の操舵感を体験できたのは伊達にBMWのエンブレムを付けている訳ではないようだ。こういう場面ではクイックな操舵特性はアクティブステアリングによる 多少の不自然さなんてどうでも良くなる程に有用だし、殆どニュートラルに近い特性は自分の腕前が上がったかと錯覚を起こすところもBMWらしく、最近見る見るうちに改善されてきた国産の同クラスも、5シリーズに比べれば未だ未だという感じで、やはり本家の敷居は高いようだ。

ブレーキについては初期型と大きく変わるところはなく、BMW独特の軽い踏力と喰い付くような効き味はサルーンとしては実に安心感がある。勿論その代償としてはヤタラとホイールが汚れることと、減りが早くて、しかもパッドだけでなくローターも減るという、結構嫌らしい問題もある。最大の原因はパッドの材質が国産車とは全く 異なることにあるが、だからといって国産パッドに代えれば良いかといえば、そう簡単ではない。要するに国内の信頼できるパッドメーカーは、数が出ない輸入車用のパッドは採算が合わないために、その分野に手を出さないからだ。

新型エンジンのお陰で、2.5ℓでも決して不満の無い動力性能と、初期型では気になった室内のチャチさが見事に解消されて、ドイツ車独特の高級感漂う室内と、抜群のフィーリングでドライバーに帰伏の時を 提供するという、これぞBMWの真髄を味わえる525iには、改めて関心するしかなかった。このクラスは長年の間メルセデスEクラスの独壇場だったが、E60自体の出来の良さと、Eクラスのブレーキシステム欠陥による自滅にも助けられて、今やEクラスに迫る地位を築くことに成功し てしまった。それにしても、あともう少し安かったら、と思うユーザーは多いだろう。総額700万円近いクルマをサラリーマンが自腹で買うのはチョット厳しい。せめてあと150万円安ければ、総額550万円くらいなら、買いやすくなるのだが。そういう意味では、100年1度の大不況といわれる昨今、160円を越えていたユーロは一気に120円以下になっているし、中小企業の業績不振から5シリーズの経費での購入もメッキリ減れば、大幅な値引きも期待できるかもしれない。こんな時に景気に左右され難い業種のサラリーマンや、これぞ親方日の丸の公務員だったら、チャンスと捕らえて、買い得525iにチャレンジするのは如何なものだろうか?
 


写真25
お馴染みのBMWメーターパネル。夜間の照明も独特の品があるし、このオレンジの光が室内ウッドパネルに反射すると、実に都会的な雰囲気を醸しだす。
 

 


写真26
メーターパネル中央のセレクター表示。
@A通常のドライブモード(D)からスポーツモード(DS)
BCマニュアルの1速→2速

 


写真27
高速道路の100km/h巡航は余裕どころか退屈でもある。法さえ許せば180km/h程度が巡航に最適か。

 


写真28
その気になればワインディンもスポーツカー並という表現がピッタリの性能を持っている。Eクラスとは求めるものが違うようだ。
 

 


写真29
525iハイラインの大人しいデザインのホイールと225/50R17タイヤの組み合わせ。
 

 


写真30
キャリパーは3シリーズの上級車と同じようなアルミボディのピンスライドタイプ。

 

と、ここまでは、殆どベタ褒めに近くなってしまったBMW525iだが、ここらでもう一度考え直してみよう。5シリーズがEクラスと対等なステータスを持つ程になったとはいえ、やはり世間の庶民から見たステータスはEクラスに軍配が挙がるのは 今も変わらない。10年前のEクラスに乗っている紳士を見れば「ああ、あの人、良いものを買って長く乗る主義なんだね」と思われるが、5シリーズだと「見栄張って中古のビーエムなんか買って、恥ずかしいね」と思われる。じょ、冗談じゃない!この530は新車で買って今年で8年目なんだと2世代前の5シリーズのオーナーが嘆く事しかり。それにEクラスの場合はベンツ=ヤ○ザという公式が成り立ち、一般庶民は近づきたがらないから 、逆にそれが結構安全だったりする。廉価グレードの、しかもポンコツのW210EクラスにAMGやロリンンザのエンブレムを貼って、車高を下げて、見るからにパチもんっぽいワイドホイールを履いていれば、偽者と知ってもオーナーの素性を考えて見て見ない振りをする。しかし、同じくボロいE34-5シリーズにMのエンブレムやエアロを付けたところで怖くも何ともないし、見るほうからすれば痛いだけ。これは新車でも同じで、AMGの危なさに比べてM5はマニアック過ぎるので、マニア=高度な知識=危険が無い、という 式が成り立ち迫力がイマイチとなってしまう。確かにM5のオーナーって医師や弁護士などの知識階級が結構多いことは事実だが、実のところ、これらの職業の前に”悪徳”と いう冠詞が付 く場合もあるから、決して安全な人たちだけでは無いのだが・・・・・・。 あっ、いけない。今のは撤回。冠詞は”やり手”もしくは”敏腕”ですよね。やり手院長。敏腕弁護士。
あ〜っ、危ねぇ。