VW ニュービートル (2007/2/3)
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このスタイルこそがニュービートルの全て。それにしても半世紀以上前のデザインを基本にしているとは思えない
程に現在にも通用するのは、いかにオリジナルが名作だったかを物語る。 |
フォルクスワーゲン(VW)といえば最近の若者はゴルフを思い浮かべるだろうが、チョット年配者だったらば、当然ながらVWイコールビートルだろう。
ビートルの出で立ちは今更いうまでもなく第二次大戦中にヒットラーが命じて作らせた国民車であり、設計したのはDr.ポルシェだった。
このビートル(というより当時は単にVWといった)は大戦後に西ドイツで生産され、瞬く間に世界の小型車のトップに躍り出たわけで、当時の日本車の性能に比べてVWの先進性はずば抜けていたことになる。
最近、街中では、このビートルのイメージを持った、それでいてオリジナルのビートルとはチョット違うクルマが結構走っている。これも皆さんご存知のニュービートルで、発売当時は一体誰が買うのかなんて不思議だったが、蓋を開けて見れれば結構売れているようだ。このニュービートル、実はオリジナルのリアエンジン(日本流にはRR)に対して、見かけは似ているが中身は全く異なるFF車で、ベースは先代ゴルフ(ゴルフW)だから、ボディ形状から想像するファンカーとは異なり、ある面ではマトモな普通のクルマでもある。
このニュービートルは、それだけ見ていれば、誰が見てもビートルなのだけれど、いざオリジナルのビートル(写真1)と比較すると、結構違いがあるから不思議なもので、ニュービートルのデザイナーが現代風の形の中にオリジナルビートルの特徴を上手く表現しているのに感心する。
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写真1
オリジナルのビートルは空冷、リアエンジン。半世紀以上も作り続けられたので、時代により細かいバリエーションが無数にある。数年前まではメキシコで生産していて、日本にも並行輸入されていたので、
今でも程度の良い空冷ビートルは結構見かける。 |
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写真2
ニュービートルのバリエーションで最も似合うのが、このカブリオレだ。
LZは353万円とコストパフォーマンスは極めて悪いが、その無意味さと非実用的な点こそ、ニュービートルのコンセプトにピッタリだ。 |
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バリエーションとしては廉価版のEZ(231万円)が1.6ℓで、中間グレードが2.0(262万円)、
2.0に豪華装備をほどこしたLZが292万円で、このLZのみLHD(左ハンドル)も選べる。このクラスでワザワザLHDをラインナップするのは「わたくし、右ハンドルは
経験が無いので、怖くて運転できないんですの」とかいう、成金ババア裕福な
ご婦人向けも考えているのだろう。今回の試乗車は上級グレードのLZなので、サンルーフ、レザーシート、アルミホイール等が標準で装備されているが、その割には、何故かエアコンはマニュアルだったりする。
他にカブリオレが60万円高で設定されている。 |

写真3
リアスタイルもオリジナルビートルの雰囲気を出しているが、良く見ればFFだからエンジンの排気フィンなどは無いが、これはこれで完成されてデザインだ。 |
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写真4
オリジナルはリアのボンネットを開ければエンジンが見えたが、ニュービートルはハッチバックとなっている。スタイル優先だから、当然ながらラッゲージスペースは狭い。 |
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写真5
リアスペースはあくまでプラス2程度だから、
大人4人の長距離走行は難しい。 |
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写真6
ドアを開けた眺めは意外と普通のクルマで、外観同様にもっと斬新なものを期待すると裏切られる。試乗車は上級グレードなので、レザーシートが標準となるが、これもまた外観には似合わない。
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試乗車は上級グレードだった事もあり、ドアを開ければ、そこに見える光景はレザーシートと樹脂製フルトリムの内張りという、最近の高級車の一般的なインテリアが目に入る。
オリジナルビートルの事を考えれば、随所に鉄板むき出しの内装だって良さそうなものだが、このクルマはビートルのレプリカではなく、あくまでビートル的なイメージの外観を持った、お洒落なファンカーであることを認識する。
シートに座った第一印象は着座位置が高いことで、もしやシートの位置調整で高すぎるポジションなのかとも考えて、思いっきり下げてみたが、それでも高めなのは間違いない。
確かに、このクルマの外観を見ても結構背が高いから、この着座位置にも納得する。この高い視点ということから想像するのは良好な前方視界だが、残念ながらニュービートルの場合は外観デザイン重視のために、
ボンネットもフェンダーも全く視界には入らない。そして、もう一つの特徴としてはダッシュボードの前後方向が一般的なクルマに比べて長いことがある。
従って、ドライバーはメーターの位置からが遥か遠くにあるフロントスクリーン下端から先は車体の一部は全く見えない状態で運転することになる。
とは言っても、この位置関係は最近のミニバン、例えばエスティマなどもこんな感じだから、慣れれば特に問題はないかもしれない。
シートの出来が良いのでは定評のVWだけあって、試乗車のレザーシートも当然のように出来がいい。ただし、気のせいか他のVWに比べてシート座面は幾分柔らかいような気がした。やはり長距離走行よりも短距離のタウンユースを考えているのだろうか?それとも、極最近のVWのシートは以前程のガチガチではないのだろうか。
今度は正面のメーターに目をやると、大きな速度計はフルスケールが240km/hで何となくハッタリ臭いが、大径であることから視認性は非常に良い。
その速度計内の左下には燃料計が、右下には非常に小さい回転計がついていた。実はここに回転計があるのに気が付いたのは、走り出してから5分以上たってからだった。
まあ、クルマの性格からしても、回転計を見ながら乗るクルマではないが。
そして、正面のメーターから左に視線を移動すれば、そこには何と一輪挿しの花瓶というか花立てがある。ダッシュボードに一輪挿しがあるクルマも他に例がないが、
これもまた、ニュービートルの性格を現している。
ダッシュボート中央に後付の油温計や油圧計を並べている走り屋からみれば信じられない世界だろうが、ダッシュボードに花を挿す人から見れば、
走り屋のクルマも信じられない世界で、まあ、これはお互い様というものだ。
内装が普通のクルマであることは既に触れたが、センタークラスターの質感もよく言えば質実剛健、言い換えれば結構チャチい。
それに加えて、今時珍しいマニュアルエアコンが装着されている。国産車なら最近は低価格車でもオートエアコンなのに、なんて思うユーザーも多いだろう。ニュービートルのエアコンのメーカーは判らないが、
BMWを始めとするドイツ車の最近のオートエアコンが実に良くなったのは、何のことはない、日本製を採用したからのようだ。
高温多湿の日本はエアコンに対する要求が厳しいから良いものが出来易いし、窓を開ければ十分でエアコンなんて無くても我慢できるような天候の欧州は、如何しても開発が遅れ気味になるのだろう。
そういう意味では、高速道路でさえ合法的には100km/hで、一般道では40km/hなんていう世界一の低速走行をしている日本のクルマは、
どう頑張っても欧州車の高速性能に追いつけないのも、コレマタ事実だ。結局、先進国では日本に次いで低速な米国では十分な評価をされても、欧州に持って言ったらマルでダメということになってしまう。
日本のクルマが欧州でも勝負できるようにするためには、第2東名を早急に完成させて、制限速度140km/h。実質速度は180km/h近い状態になれば、
今の日本車では使い物にならないのが良く判るし、その時は走りに金をかけたクルマが正当に評価されるから、日本車のレベルも一気に欧州車に追いつくと思うのだが・・・。
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写真7
外観から想像するとガッカリする、オーソドックスな内装。地味というか、質素なダッシュボートの
デザインは一時代前のドイツ車を思い出す。
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写真8
メーターは大径の速度計がメインで、右下に小さな回転計と左下には燃料計が組み込まれている。左側の黄色い矢印で示しているのは、なんと一輪挿しの花瓶で、標準装備されている。 |
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写真9
ダッシュボードの奥行きは極端に長い。そして、ボンネットは全く視界に入らないし、ボディはキャビンよりも前後フェンダーが出っ張っているが、その外観の割には取り回しは悪くない。 |
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前置きが長くなってしまったので、早速走りだしてみよう。最近は少なくなったT形レバーと直線のパターンという一時代前のATセレクターをDレンジに入れて静かにアクセルを踏めば、2ℓ、116psエンジンは適度なトルク感とともに走り出す。速くはないが、イラつくほどには遅く
もない。このクルマの性格からすれば十分な動力性能だ。ただし、これが廉価グレードのEZの場合は1.6ℓエンジンとなるから、これで十分な動力性能があるのか
と心配になるが、この手の性能は個人の好みもあるので何ともいえない。ノンターボの軽自動車でも十分と思う人もいれば、ポルシェカレラSでさえ物足りなくて、
911ターボに買い換えたなんていう話も聞くから、これはもう、全く基準がないも同然だ。
セレクターの形状からも判るようにニュービートルの4ATは最新のティプトロタイプの5〜6ATからみれば、積極的にキックダウンを誘ったり、マニュアル操作をしたりと
いうユーザーには物足りないだろう。しかし、これまたこのクルマの性格からしたらこれで十分でもある。ATがこれ程に進化したのは、ここ数年で、例えばBMW3シリーズの場合で
いえば、4気筒の318i(現行の320i相当)にティプトロタイプの5ATが付いたのはE46の02モデル、バルブトロニック化された時点で、それ以前は今回のニュービートルと同じT形レバーの4ATが搭載されていた。 |

写真10
オリジナルビートルではトランクスペースとなるフロントには、直列4気筒2ℓ、116psエンジンが搭載されている。
要するに、ゴルフWそのまんまだ。 |
一般にドッシリと重い操舵性のイメージが強いVWのなかで、ニュービートルのステアリングは意外と軽い操舵力で、これもゴルフなどとは多少イメージが異なる。さらに、ゴルフに比べてどう見ても重心が高そうなボディ形状から判るように、ゴルフ的に無類の安定性という訳ではない。このクルマでコーナーを攻めるユーザーはいないだろうが、実際に試乗の際に、VWの試乗では操舵チェックの定番にしている農道も走ってみたが、何となく不安な挙動から、ついついコーナー手前でいつもより多めに減速してしまう。と、いうよりも、クルマ全体から速めの速度でコーナーに突っ込む事に不安を抱くような雰囲気が伝わってくる。やはり、このクルマはゴルフとは違い、ファンション優先のファンカーであることを思い知る。したがって、同じコーナーをゴルフGTIで通過した時とは、コーナーリング速度は正に月とスッポンだった。
このようなニュービートルの特性も悪いことばかりではない。何よりのメリットは思いの外、乗り心地が良い事だ。ベースとなったゴルフWの2ℓ車が車両重量1170kgに対して、ニュービートルは1280kgと100kg以上も重く、それが重厚な乗り心地に感じることと共に、一般にVWの硬いサスセッティングに対して、ニュービートルは例外的に柔らかめのセッティングになっているようだ。例えばパサートV6のように、価格に対する内容が抜群で、賞賛のアラシと
なったのに、唯一の欠点が硬すぎる乗り心地だったから、このニュービートルは例外的とも言える。勿論、その代償がVWとしては、これまた例外的にイマイチなコーナーリングだが、それでも一般的な国産のコンパクトカーと比べれば、決して劣る訳ではない。
次にブレーキはといえば、少なくとも試乗したクルマはベダルストロークが長く剛性感に画けるフィーリングで、少し前の国産車のようだった。ただし、試乗車は走行距離が1200km程度だったから、パッドの当たりが付いていないために、本来のフィーリングが出ていないことも考えれるが、
そうだとしても、当たりが付いた時点で劇的に向上することはないだろう。
だだし、効き自体は悪くはないし操作力(踏力)も軽いから、慣れれば特に気にならないだろう。事実、10分程乗ったら気にならなくなったし、試乗が終って帰宅の為に自分のクルマで走り出す前にブレーキを踏んだ瞬間に、殆ど無いに等しい遊びと、短いストローク、重い操作力に違和感を感じたから、人間の感覚なんて言うのは慣れればどうにでもなりそうだ。 |

写真11
リアにもディスクブレーキが装着されている。しかも廉価グレード(1.6)でも同じというのは流石だ。 |
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写真12
試乗車は上級グレードのためアルミホイールと205/55R16タイヤの組み合わせ。
他のグレードはスチールホイール+キャップとなるが、サイズは全グレードとも同一。 |
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走る、曲がる、止まるというクルマの基本性能でみれば、決して良くはないし、価格という面でも買い得感があるわけでもない。しかし、考え方を変えて、半世紀前のクルマのイメージを現代に再現したお洒落なファンカーだと思えば、外観から想像するより
はず〜っとマトモに走るし、信頼性だって旧型とはいえ世界的な量産車でもあるゴルフがベースだから、それ程の心配は要らないだろう。今回、乗ってみた感想は、まあこんなもんだろうというのと共に、「へぇ〜、結構マトモに走るじゃないか」とも感じたわけで、前回の試乗記プジョー1007とは別な意味で性能云々なんてどうでもいいクルマでもある。
ディーラで聞いた話によれば、ニュービートルの多くが女性ドライバーだそうだ。確かに、男性が運転しても決しておかしくはないが、どちらかと言えばお洒落な女性に似合うことに間違いない。それに、売れ筋グレードは意外にも今回試乗した上級グレードのLZとか。雰囲気を味わうなら廉価版のEZで十分と思うのだが、そこがニュビートルユーザーの現状を物語っている。それなら、ニュービートルに一番似合うグレードはと訊ねられたらば、カブリオレと答えよう。これこそ、お洒落度は抜群だし、多分実際にオープンにしても風は巻き込むだろうし、外からは丸見えと、良いとこなしのようだが、そこが如何にもこのクルマらしいと思うのだが・・・・。
前回のプジョー1007に次いで、「クルマは性能じゃない」シリーズ?の第2弾、ニュービートルはいかがでしたかな?実はポルシェとかBMWのツインターボなんかと比べて、試乗している本人も気楽に楽しめる点では、この手のクルマも中々捨てたものじゃないとも感じている。それに、
ニュービートルのようなクルマは国産車に直接のライバルがいない。バブル時代にはニッサンがパオやフィガロなどというファンカーを発売していたが、最近は気配すらないようだ。さて、次の第3段は、何を選ぼうか。
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